磯端大成は、打ち切りになった漫画の最終回のような手紙を残す。
ケンちゃんへ
ケンちゃんがこれを読んでいる頃には、お兄ちゃんは日本にはいないことでしょう。
お兄ちゃんは、止むを得ない事情につき、再びゼランティア大陸に行かねばならなくなりました。
正直、気乗りしません。しかし、一宿一飯の恩ということでお兄ちゃんは、今一度異世界と向き合ってみることにしました。
考えてみれば、ケンちゃんとの会話を通じて、お兄ちゃんは「異端」という言葉がおこがましいほどの、「ひねくれ者」だったのだと思います。
おそらく私は、考え方がズレてるんだなあ、と思います。
正直に言います。
私にとって異世界は、「行く場所」ではなく、「嫌いな奴を送り込む場所」でした。
そこで彼や彼女が成り上がろうが、勇者になろうが、モテまくろうが、私と接点のない場所にずっと居てくれたらいいや。そんな思考でした。
だから、ケンちゃんと会話がいまいち噛み合わないのは仕方がないことで、その責任はこちら側にあるんだなと思います。
あと、こんな思考だからお兄ちゃんには友達ができないんだな、とも冷静になった今思うようになりました。
ひどい世の中です。
突然疫病が蔓延したと思ったら、それの治療薬のことで飯の元を稼ごうとするのが、悪魔ではなく同じ人間。
政治家の不祥事に声を上げても、特別何もするわけでもない社会。(ところで選挙には行きましたか?お兄ちゃんはちゃんと、期日前投票を済ませましたよ。)
インターネットの功績でSNSの普及、動画や小説や音楽の投稿に対するハードルが低くなり、世界中の人の声が世界中に発信できるようになりましたが、それは逆に、
「身近な人の話を聞かなくなる」という弊害をもたらしました。
とても寂しい世の中だと思います。
ここではない何処かに行ってしまいたい。そんな気持ちもなんとなく理解できる気がします。
この世とは関係ない場所で、勇者になって悪漢を斬りまくりたい。異性とロマンスを育みたい。現世とは違う生活を送りたい。
私はケンちゃんの言ってきた言葉にことごとく、異を唱えてきましたが、全く気持ちがわからないではないのです。
ただ、「希望と絶望は常に同席している」がお兄ちゃんの心情です。
転生しようが、現世を全うしようが、不安や不満が無くなった人間なんているのでしょうか?
ところでお兄ちゃんは、以前話したノルドランド王国の国王になることになりました。
前国王崩御につき、まだ幼く病弱な王子に代わって私が王になります。そして、病弱な王子のパパになります。
・・・ ・・・なんだかこれはこれで物語が始まりそうな予感がしますね。
お兄ちゃんは異世界にて、主に、ノルドランド王国にて、ケンちゃんを見守っています。
・・・一応、別紙にて、ゼランティア大陸の行き方を記したものを残しておきますが、くれぐれもお越しの際は熟考を重ねてお越しください。
大陸で、ケンちゃんが「来ない」ことを、祈っています。
絶対来るなよ?絶対だぞ?
愚兄より。