磯端健成は、ハーレムを作りたい。
僕には、自慢のお兄ちゃんがいます。
大成兄ちゃんは、「ゼランティア大陸」という異世界に転生して、勇者として名を馳せ、そして日本に生還したんです。
僕は、毎晩お兄ちゃんから、「ゼランティア大陸」の話を聞いて、
なんか・・・思ってたんと違うなーとは思い始めてますが、
それでも僕も、お兄ちゃんの意思を継ぎたいな!と思ってます。
「にいちゃん!!にいちゃん!!」
「はいーなんですかー?」
「俺はもう決めた!ゼランティア大陸に行く!行かねば俺の人生先に進めねえんだ!!」
「何やら追い詰められてるね。」
「いや!もう何も聞かないで!?ただ行き方だけ教えて!?俺をブレさせないで!?」
「なんでそんなに行きたいの?」
「だから!!それをやめて!!」
「じゃあ!それもやめて!」
「・・・何!?」
「ゼランティア大陸に行きたいていうの、やめて!」
「なんでだよ!」
「にいちゃん気づいたんです!やっぱり日本が一番だって!今は胸を張って言えます!」
「モテたいの!!!」
[異世界の真実、兄が語る現実]
「・・・モテたい?」
「そー!異世界転生した人はね!もれなくモテるんだ!俺もハーレムを築きたい!!」
「あー・・・そうきましたかー。」
「勇者ってなんだか、モテるんだ!俺は一度しかない青春を、異世界で過ごしたい!異世界でモテまくって、人間としての高みに行きたい!
わかってる皆まで言うな!動機は不純だ!でも俺は正直でいたい!」
「年頃の少年の素直な心ですね。いいと思いますよ?
性欲が強い方が長生きするというデータが存在しております。性欲が強い方が人生幾らか得するんだと思いますよ?」
「そんな先の話じゃない!今!モテたい!!」
「まあでも・・・やめた方がいいんじゃない?」
[異世界の真実、兄が語る現実]
「始まったよー。これが嫌だったんだよー・・・。」
「いや、これはお兄ちゃの話を聞いておいた方がいいよ。ほんと。」
「なんだよ。勇者になったからって、モテるとは限らないとか、そういう理屈か?」
「いえ、そんなこと言いませんよ?モテますよ?転生者は。転校生がモテるのと同じロジックです。
実際、私も向こうでモテましたもの。」
「そうなの!?」
「モテましたよー。パーティーが女性ばかりだったので。」
「じゃあなんで反対するんだよ!」
「これなんだけどねー・・・。なんだろ・・・。
これ現実の話なんだけどさ、『マトモな大人ほど、自分のモテ期を語りたがらない』ってあるじゃない?」
「知らんよ!」
「いや実際そうなんだよ。現実では。例えば酒の席でもマトモな大人ほど『武勇伝』は語るんだよ。でも、『モテ期自慢』はしないんだよ。
これ、どうしてなんだろう、ってお兄ちゃんはずっと考えてね。それで一つの仮説に行き着いたんだ。」
「何さ?」
「『いい思い出じゃないから』説。」
[異世界の真実、兄が語る現実]
「は?」
「ケンちゃん。恋ってのはね、『好かれてるから楽しい』わけじゃないんだよ。『恋』自体が楽しいのよ・・・。」
「それは兄ちゃんだけじゃないの?」
「では質問です。ホストと、その客。楽しそうなのはどっち。」
「わかんない!」
「まあ、ケンちゃんには早すぎたか。お兄ちゃんはモテて初めて、ホストの仕事の大変さを知ったよ。」
「なんで?」
「これは、お兄ちゃんが現代の日本に生まれたからかもしれないんだけど。
結局さ、何人に好かれようとも、こちらが選べるのは一人なんだよね。」
「俺は全員愛すよ!」
「まあ、ケンちゃんには早すぎたか。例えば、ケンちゃんのことを好きなAさんがいます。一方で、ケンちゃんのことが好きなUさんがいます。」
「Bさんじゃないの?」
「いんだよそこは。二人はどちらともケンちゃんが大好きです。モテてるとはこう言うことです。さて、ケンちゃんはどう思う?」
「嬉しい!テンション上がる!」
「だけど、ケンちゃんは最終的に一人を選ばなないといけない、もしくは両方を捨てるという選択をしなければならないわけだ。
さて、ケンちゃんはどう思う?」
「俺は二人とも好きになる!」
「それはケンちゃんの一方通行の感情だね。なぜならAさんもUさんもケンちゃんを独り占めしたいからです。
恋とはつまりデスゲームなわけでね・・・。
仮にケンちゃんがそう言うスタンスだとそうだなあ・・・。AさんもUさんも、病んでいくだろうなあ・・・。
はっきりしないケンちゃんの態度に碧碧します。そしてーどんどんやつれていきます。
ボリューミーだった胸もお尻もぺったんこになっていき、比例して手とか足とかがむくんで太くなっていくんだね。
さらに顔色も悪くなるよ。青くなったり黄色くなったり。ケンちゃんのせいだね。
そして何かにつけてすぐ泣くようになるよ。怒るようになるよ。ケンちゃんのせいだね。
そして奇行に走るよ。自分を痛めつけてみたり、独り言が多くなったり、民家の壺割ってみたり・・・ケンちゃんのせいだね!!」
「やめて!!!もーやめて!!!俺はそんな人愛せない!!」
「でもアリッサもユウコさんもケンちゃんを愛してます!楽しいね!ケンちゃん!!」
「楽しくない!!Uさんってユウコさんだったの!?」
「そこに!新しく加わったパーティーYさんが現れます。」
「Yさん!そっちがユウコさんじゃないの!?」
「いいえ彼女はワインレッドさんです!」
「ワインレッドさん!」
「Yさんもケンちゃんが好きです。
・・・しかも3人目に入ってくるメンバーってのは大体がダークエルフさんであるとか、ドラグニートさんであるとか、特殊な経歴をお持ちなんだ。
そんなメンバーを愛せますか!?」
「俺は人種差別なんかしない!」
「向こうはする!」
「!!?じゃあ俺はYさんを諦める・・・」
「そうじゃないんだよ。例えばダークエルフさんなんて寿命が3000年とかが相場ですよ。
ケンちゃんの時間軸なんてダークエルフさんにとっては一瞬みたいなもんです。
そんな方に愛されてごらんなさい!?話も合わねえわ!気も使うわ!そもそも人間扱いなんてされませんからね!?
向こうからしたら子供、いや下手したら・・・虫と会話してるようなものなんですから。そもそも文化間の違いのすり合わせなんて不可能に近いですよ!?」
「愛があれば大丈夫さ!!」
「その通り!!!」
「!!?!?どっちの側なんだお前の意見は!!」
「それでは、今日の本題です!すったもんだがあり、数々の血の修羅場があり、ついにケンちゃんは3人のうちから一人を選んで、その人と結ばれました!」
「やったあ!」
「でも残念!!・・・その先に待っているのは別れです。」
「なんで!?日本に帰らないといけないから!?」
「違います。普通に、お別れの時が来るからです。」
「なんでさ!」
「いいですか?そもそも、『恋人』と、『結婚相手』は違いますからね?」
「どんな違いが・・・?」
「もちろん例外もあるでしょうが、私の持論です。
それは『趣味』と『仕事』ほどの差が発生すると言うことです。
例外というのは、稀に趣味が仕事になるような羨ましい方もいますよね?そのくらい、珍しいということです。」
「・・・つまり結婚すると言うことは時給が発生すると言うことですか・・・?」
「逆です!・・・私が言いたいのはね。結婚相手とはつまり、『その人と50年一緒にいられるか?』と言う基準だと思ってます。」
「・・・逆?」
「だってそうですよ?人生100年だとしても、その大半を一緒に過ごすのは・・・」
「にいちゃん!!今はいい!そう言うのは、いい!!話がずれている!!」
「つまり、どう足掻いてもケンちゃんはワインレッドさんとは結婚できません!」
「その人限定ですか!」
「ではまとめ!!・・・ 異世界ハーレムは、ケンちゃんにはまだ早い!!」
「・・・ ・・・たいせーバカヤロウ!!たいせー!!」
弟の健成は、兄の大成に肩パンをした。健成は論理が行き詰まるとこの癖が出る。
「ソロパーティーで冒険をする覚悟が決まったら、また話をしにきなさい。お兄ちゃん、想像だけで三不粘作るから。」