異世界に召喚されたけど人柱って嘘だろ?!
俺は今日も日課の散歩をしていた……はずだった。
だが気づけば俺は、超絶美人な女性に見下ろされている。
思わず唾を飲み込む。
ゴクリ。
「こ、これは一体どういう状況だぁ(イケボ(自称))。」
「………………………。」
とりあえず落ち着け18歳不登校の俺!まずはさっきまでのことを思い出そう。確か、いつものマイフェイバリットコースのウォーキング中にストレンジなライトにフラッシュされたんだよな。
「ま、まさか俺ってば…アナザーな世界にサモンされちゃった……ってコト!?」
はっ!しまった、ついこのシチュに興奮して思わず某◯ー語出ちゃった。これ親は笑ってくれるけど、同年代は冷たい視線の槍で突き刺してくるんだよな。怖や怖や。
「ゴホン…!失礼ですが勇者さま、陛下の御前ですのでまずは落ち着いて服を着てください。」
え、服って。ああそうか、喜びのあまりまた自分でも気づかないうちに脱いでしまったようだ。これは恥ずかしい。
やれやれ、中学の席替えで隣の席が好きな子になったとき以来の失態だぜ。
「で、では気を取り直して。ゴホン…。異世界より参られし異邦の勇者よ、我がストア王国へようこそいらっしゃいました。こちらの王座に座られる方こそ、ストア国13代国王、ナニーシャ・ロンドール・ストア女王陛下でございます!!」
ヒュ〜、おっさん力入ってるな。でも俺には分かるぜ、あんたのその昂りの理由が。だって、勇者様だからな。世界を救ってくれるメシアが来たらそりゃそうなるわ。
任せろ、異世界ものは嫌というほど読み込んできたし、俺の脳にはすでに救国のロードマップがもうできてる。すでに世界を救ったと言っても過言じゃあない。
とりあえずここは謁見の間だ。ならばすることは一つ。
俺は片膝をつきこの美女へ敬意を示す。
「召喚に応じ参上した。あなたがわたしのマスターか?」
そう言って女王の顔を見つめる。(イケメンフェイス(自称))
「………………………。」
おかしい、沈黙する美女のきれいな視線が冷たい!痛い!
周りの神官だか文官だかの人たちも首を傾げて頭にハテナが浮かんでいる様子。
またもや選択を間違えたようだ。これはあれだ、高校入学してすぐの自己紹介の時のあの空気感だ。あの時も宇宙人とか未来人とか話たら皆んな苦笑いだったな。やれやれだぜ。
「あっ。え、えと。異世界から来ました、タナカです…。よ、よろしくお願いします。」
「な、なるほど。勇者タナカ様ですね。この度はあなた様に私たちの国、人類国の敵である魔王を討伐して頂くために召喚いたしました。いきなりのことで混乱されているかもしれませんがまずは私共の話を聞いてください。」
「あ、はい。分かりました。」
くっ…出だしで大きく失敗してしまった。だがやはり、俺は魔王を倒すために召喚されたらしい。そうとなれば、これから判明するだろう俺のチートスキルを使って魔王を討伐してしまえば、初めのこの印象も覆せるってものよ。
もしかすると、女王様と結婚ルートの可能性もあるな。
「……カ様?勇者タナカ様、聞いてらっしゃましたか?」
「え、ああいやすみません。もう一度お願いします。」
「ではもう一度説明しますので今度はよく聞いてくださいね。かつて大陸の東を亜人族が、西側を人間族が支配し度々この二種族は国境沿いで争ってきました。しかし200年ほど前に北にある【帰らずの山脈】を超えたその先で魔界へ繋がるゲートが発生し魔族が大陸に押し寄せてきたのです。それから少しずつではありますが魔族は南下し始め我々や亜人族の領地に侵攻し、今や大陸の3割は魔族に支配されました。このままではいずれ人間族は魔族どもに滅ぼされてしまいます。ですので私たちは異世界よりタナカ様を召喚したのです。」
王道ハイファンタジーきたー!!
よし次は落ち着いてカッコよくいこう。
「ふむ。あなた方の事情は理解しました。つまりあなた方は私に魔王の討伐を命じるのですね。良いでしょう、この勇者タナカが魔王を討ち滅ぼしてくれよう!」
やべー、とうとう言っちまったぜ〜。これは流石に勇者すぎ。しかも聞いた限りじゃ、200年あって大陸の3割しか支配できてないってことは、かなり弱い魔王の可能性が高い。ソースはこれまで読んだラノベ。皆んなもっと強かったぞ。
「おおー!さすが勇者様だ!!」
「彼こそが真の勇者であろう」
「初めは頭のおかしいやつかと思ったが見直したぞ!」
「魔王をぶっ倒してくれ!」
ちょま、皆んな褒めすぎなんだが。頑張ってポーカーフェイスを気取ってはいるが今にも笑みが溢れてしまいそうだ。なんだこの気持ちは!
こう内から力が湧き上がってくるような、今ならなんでもできる気がしてくる。
「ゴホン!!静粛に!」
おお!このおっさんすごいな。咳払いだけで盛り上がる周りの人間を黙らせた。ただ者では無さそうだ。よし、これからはゴホンのおっさんと呼ぼう。この人とはなんだか長い付き合いになりそうだ。
「では次に、タナカ様の各種スキル、ステータス、適正属性の確認に移りたいと思います。魔法鑑定結晶をここに!」
謁見の間の扉が開き、侍女らしき人が布に包まれた石のような結晶のようなものを運んでくる。
これはあれだ。俺の勇者としてのチートな能力が露見して周りが騒ぎだ祭りだ状態になるあのパターンだ。困ったな、一体こういう時どういう顔すれば良いのか分からないぞ。
とりあえずクールに澄ました感じでいよう。めっちゃドキドキしてきた。これから俺の異世界無双伝説の幕開けだ!
「ゴホン。準備が整いました。タナカ様こちらへ。そうです、そしてこの結晶に片手をかざしてください。さすれば世界を渡った時に女神リーナ様から頂いたはずのご加護とスキルの恩恵が覚醒し、その他ステータスも視覚化されるようになります。」
女神リーナ?誰だ、召喚された時にそんな神に何か貰った覚えはないんだが。あれか、自動で貰えるタイプなのかな。まあいい、さあ俺のチート能力はどんなだ!
「あれ………?」
結晶に手をかざした瞬間、特に何も起こらなかった。思ってたのと違う。こういうのって常人の何倍もの光が溢れたりしてみんなから驚嘆の声が聞こえてくるやつじゃないの。どうなのゴホンのおっさん。
「そ、そんなバカな。まさかこんなことが……!!」
え、なになに。驚いてるけど、逆に光でなさすぎてすごいとかかな。
「鑑定士!鑑定士はいるかー!!」
「ははっ、ここに。」
なんか鑑定士出てきたんですけど。
「今すぐタナカ様のステータス・スキルを鑑定してくれ。もしかすると…」
メガネにローブを身につけた、いかにも優秀そうな若者が俺に杖を向け鑑定を始めた。
「そんな、バカな!!」
「どうした、鑑定士殿。ステータスはどうだった?」
そうそう、どうしたんだい。そんなに大声あげちゃって。あ、やっぱ俺のチート強すぎた感じ?
「その、宰相殿。言いにくいのですが、タナカ様には女神の加護はおろか、スキルの一つも保有しておりません。そしてステータスの方も見ましたが、一般人と同等かそれ以下の数値です!」
「「「「「えぇ〜〜〜〜〜!!!」」」」
「え、いや。いやいやいや。そんなわけないだろ、出鱈目言うなよ。そんなわけないよ、勇者だよ?召喚されたんだよ、秘めた力とかあるでしょ。」
「いえ、タナカ様。私の鑑定結果に狂いも間違いもございません。あなたは何の力もなければ加護もない、ただの一般人以下です。」
「お、俺が、一般人以下…?嘘だ!!だって俺は勇者だって…おいあんた、宰相だっけ?どうなってるんですか?!」
「い、いや、私も驚いているというか。」
「これじゃあ魔王なんて倒せるわけないだろ。」
謁見の間にいた全員が混乱していた。騒ぐもの、認めたくないもの、絶望するもの。無理もないのかもしれない。魔王への切り札として莫大な資源と費用をかけて行った勇者召喚であったのだ。
だがしかし、ただ1人。玉座に座り、なお落ち着いたままの人物がいた。
そしてその人物は宰相を近くに呼び、何かを宰相に耳打ちし、また玉座へと深く腰を下ろす。
「ゴホン、皆さま落ち着きください。」
さすがゴホン宰相、こんな中でも全員の注目を一点に集めた。
そして宰相がいう言葉に俺は耳を疑うことになる。
「ただいま女王陛下より命が下された。これよりタナカ殿のエネルギーを利用し、真の勇者の再召喚を行う。騎士団に命ず、タナカ殿を拘束しろ!」
俺は抵抗することすら許されず、あっさりと騎士団に捕えられた。それもそのはず、本当に俺は一般人以下の力しかなかったのだ。
「すまない、タナカ殿。あなたは勇者ではなかった。手違いとはいえ、召喚してしまったことには謝罪をしよう。そして、感謝する。この国を救うためにも何としても勇者が必要なのだ。どうかそのための人柱になってくれ。これも間接的ではあるが、れっきとした救国の勤めであり、勇者と同等の名誉が与えられるだろう。ありがとう。筆頭宮廷魔法士キンドル、頼む。」
「あいわかった。詠唱を開始する。タナカ殿、恨んでくれていいぞ。すまない。」
「え、ちょっと。待って。勝手に謝られて勝手に感謝されても困るんだけど!だったらもといた世界に帰してくれよ、俺はもう要らないんだろ!」
「すまない。それはできない。あなたは能力こそ皆無だが、保有するエネルギーは勇者のそれと変わらないはずだ。頼む、殺されてくれ。」
「嘘だろ。おい、詠唱を止めろ!くそ、俺の伝説は?勇者としての未来は?女王と結婚は?嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー」
意識が薄れてゆく。
どうしてこうなったんだ…
ああ、そういえば最後まであの女王と会話できなかった…な……………