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第80話 ヒロインは取り巻き令嬢にボコされる

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

ちっとも文化祭を楽しめず、おまけに柄にもないクズムーブをかますハメに陥ってしまったために落ち込んでしまったわたしの心を慰めてくれたのは、わたしがプロデュースした展示への、アナスタシアとアレンさんの評価であった。


「エイミー様、展示の『内容は』良かったですよ。俺も、治癒魔法を修得してみたくなりました。機会があったら、教えて下さい」


学園の廊下ですれ違った時、アレンさんがこっそり耳打ちしてくれた言葉。


『貴女がプロデュースした展示の内容は、大いに興味を持てるものであった。殊に、両殿下と諸公子をスタッフとしていながらあれだけの展示を作ることができた貴女の力量は、尊敬に値する』


文化祭の日の夜にアナスタシアが寄越してくれた書簡中の一文。彼女はこの書簡で、マーガレットがわたしに示した態度への謝罪もしてくれていた。


お気になさらないで下さいね。マーガレットさんがわたしに対して怒りや憎悪を感じるのは、当たり前のことなんです。


そして、今日は文化祭のあった週の土曜日。ここは、例によって例の如くアルバイト先の冒険者ギルドである。


そこでわたしがやっていたことは…


◇◆◇


「きええええええぇぇぇぇぇぇッ!!」


わたしは猿叫を上げながら、手袋越しに掴んだ丸棒を眼前の棒切れの束に叩き付け続けている。文化祭の準備を始めた頃からストレス発散のために始めた横木打ちは、いつからか冒険者ギルドでのアルバイトのスキマ時間におけるわたしの日課となってしまっていた。


「バカクズ!太子!何を!ウエメセで!ご高説!垂れてやがるッ!」

「お前!何も!作業!して!なかったじゃ!ねぇかッ!!」

「イキリクズ!王子!お前も!いい加減な!糊付け!してんじゃねぇッ!」

「アホクズ!チャラ男!紙を!まっすぐ!貼ることも!できねぇのかッ!」

「糞クズ!メガネ!展示に!難しい!言葉なんか!いらねぇんだよッ!」

「腐れクズ!脳筋!単語の!意味くらい!覚えて!きやがれッ!」


そして、猿叫が途切れた後でもう一度横木打ちを行う時には、猿叫ではなくクズレンジャーどもへの正当な評価…もとい、若様方への罵詈雑言を叫び立てるのが定番となってしまっている。


本来、これは『妖怪おいは恥ずかしか』を生み出した殺魔という人外魔境にて受け継がれてきた剣術の鍛錬である。剣術の鍛錬であるからには、これらの醜い感情を排して行うべきものなのだろうけど…まぁいいや。


よかないかも知れねぇけど、まぁいいや。


◇◆◇


「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁっ、ひぃっ、ひぃっ…」


ものの10分もぶっ続けで横木打ちを続けていると流石に体力が限界に至るものの、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すことができて気分はスッキリした。


これで、ストレス発散はおしまいだ。ここからは、お仕事の時間だ。


何でも、近場のダンジョンでゴブリンのスタンピードが起きて、その討伐のクエストが入ったとヨハネスさんが言っていたから、きっとケガ人も多く出るだろう。だったら、治癒に当たってキッチリした服は却って邪魔になるな。ブラウスとスカートだけ着けておくとすべぇ。


なお、今わたしはフロントに『平常心』の文字が大きくプリントされたTシャツを着て、ショートパンツを穿いている。このTシャツは近所の服屋で買ったものだ。


…え?なんで平常心かって?学園生活を送るために必要なものだから。

…え?趣味悪いって?…返す言葉もございません。


鍛錬場にはわたし以外誰もいない。わざわざ女子更衣室に行くまでもねぇか。わたしはその場で汗を吸ったTシャツを脱ぎ、安タオルで身体を拭いた後でブラウスを身につけた。…まぁ別に他に誰かいてもいいんだけどね。こんな、デコルテの骨と肋骨が浮いた、ひんぬー女の下着姿なんざ誰も見たかぁねぇだろう。


そしてスカートを穿き終えた頃、鍛錬場の外からヨハネスさんの声が聞こえた。


「エイミー様、申し訳ありやせん。ケガ人の治癒を、お願い致しやす」


おいでなすった。さぁ、楽しい治癒の時間だ。わたしは口の両端を吊り上げて舌なめずりをし、ブラウスの袖を捲り上げながら、ヨハネスさんに返事を返した。


「はい、今行きます。ちょっとお待ち下さい」


◇◆◇


最近、わたしの剣技はとみに上達している。理由は言うまでもなく、あのストレス発散だ。わたしの剣技の上達っぷりを確認した剣技担当教師の女騎士様は、「エイミー嬢の治癒魔法は確かにネ申だし、魔法と学業もそれなりに優秀だが他はダメダメだと思っていたが…」と舌を巻いていた。


剣技の授業は、生徒同士の試合によって行われる。言うまでもないが、男女別だ。最も例外が一人いる。アナスタシアである。


彼女は剣技と体術の実力が女子の中ではずば抜けているため、女子と一緒にこの二つの授業を受けるとアナスタシア無双、略してアナムソになってしまう。そこで、彼女は男子生徒と同じカリキュラムでこの二つの授業を受けているのだ。それでも成績がトップクラスで、剣技ではレオ様、体術ではクロード様と互角以上の試合をやっているのを見たことがある。


…信じられるか?レオ様は “騎士” の加護持ちで、クロード様は “拳王” の加護持ちなんだぞ?まぁアナスタシアも “騎士” と “氷魔法” の加護を授かっているが、何で “拳王” の加護を持っている相手に体術で互角以上に戦えるんだよ?


…ごめんなさい、話がズレた。確かにわたしは剣技と体術、礼儀作法実技はダメダメだったのだが、例のストレス発散を始めたら体力がめきめきと増強され、礼儀作法実技以外はまぁ人前に出しても恥ずかしくない程度には上達した。


そして、剣技と体術の授業は生徒同士の試合で行われ、その結果が考査に影響するのだが、わたしは試合での必勝パターンを確立していた。


対手と正対し、教師の「はじめ」という声の後に、すぐに猿叫を上げる。声を荒げられたことのないご令嬢様方は大抵ビビってフリーズするので、その隙に対手が持っている剣を叩き落とすのである。そのために、敢えて細腕には堪える重い剣を両手持ちで使っているのだ。


まるで柔道における『猫騙しから諸手刈り』の如き、絵に描いたような卑怯ムーブである。まるで藤〇だが、これが卑怯なだけに存外有効なのである。お陰で、剣技の成績が『下の中』から『中の上』くらいまで上がってきた。


その剣技の授業で、事件が起こったのである。


◇◆◇


その日の剣技の授業で、わたしはマーガレットと試合することになった。アナスタシアの取り巻き令嬢1号にして、エイミーマジコロがす会会長である。


マーガレットは、相変わらず殺人的な視線をわたしに向けている。その手に持っている剣は、わたしと同様に重量のある両手持ちの剣だ。…あれ?普段マーガレットはレイピアを使ってなかったか?


彼女の青色の瞳は悪意に燃え盛り、こめかみには血管を浮き上がらせて頬はピキピキと音が立つくらいに引き攣って剥き出しにした歯を食いしばっている。美少女が台無しである。そうしているうちに、教師が開始の号令を上げた。


「きええええええぇぇぇぇぇぇッ!!」


わたしが猿叫を上げると同時に、マーガレットがビクッ、とフリーズした。しめた、これで後は対手の剣を叩き落とせば勝ちだ。そう思って、振り上げた剣をマーガレットの持っている剣めがけて振り下ろした瞬間。


マーガレットが俊敏にわたしの左側に避けた。彼女のフリーズは、フェイクだったのだ。アナスタシアが規格外なだけで、マーガレットも基本スペックは高いのである。わたしの渾身の一撃が空ぶって姿勢を崩したところに、彼女の力ずくのバットスイングがわたしの左脇腹を直撃した。「ざまぁ見ろ!柳の下に、泥鰌は一匹しかいないのよ!」という彼女の嘲罵の絶叫と共に。


言うまでもないが、剣技の授業では生徒たちは防具を身につけ、使用する剣は刃を潰してある。授業での試合では対手の剣を叩き落とすか、対手の頭や首、胴体などの急所を覆う防具に剣をクリーンヒットさせるかの、何れかをすれば勝ちとなる。


そのため、この時点で試合結果はマーガレットの勝ち、わたしの負けで終わる筈だった。ところが、バランスを崩した上に左脇腹に痛打を喰らって無様にぶっ倒れたわたしに、マーガレットが追い討ちをかけたのである。


防具を着けた背中に。兜を被った頭部に。マーガレットは、両手持ちの大剣で倒れ転がったわたしを打ち据える一撃ごとに、罵声を浴びせ立てた。


「このっ!悪女!毒婦!奸婦!売女!女狐!淫売!」

「ま、マーガレット嬢!やめるんだ!」


狂乱の体に至ったマーガレットを、慌てて教師が止めにかかる。複数の教師に取り押さえられた彼女は、変わらぬ憎悪の視線をわたしに向け続けていた。


「はっ…離して下さい!この女は、これくらいされて当然のことをしたんです!」

「何をバカなことを言っているんだ!マーガレット嬢、君の行動は、騎士として到底看過し得ぬものだぞ!」


教師の叱責とそれに対するマーガレットの抗弁を、わたしは亀のように丸くなりながら聞いていた。倒れ込んだところに、防具越しとはいえ身体中を打ち据えられたのだからそれなりにダメージはある。よろよろと衝撃と苦痛に耐えて立ち上がったわたしに、教師が声をかけた。


「え、エイミー嬢、大丈夫か?」「だ…大丈夫、です」


複数人がかりで取り押さえられたマーガレットが、怨憎に煮え滾り、怒りに引き攣れた声をわたしに向ける。


「この汚らわしい雌豚が…!この程度で済むと、思わないことね…!」


その声を後に残し、彼女は教師たちに引き摺られるようにして鍛錬場を後にした。

『柔道における卑怯ムーブ』をご存じの方は、

応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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