第8話 ヒロインは治癒魔法の鍛錬と勉強に精を出す
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
冒険者ギルドに登録して、”癒し” の加護を授けられていたことを確認した俺は、平日には中学校に行って勉強し、土曜日と日曜日にはギルド長のヨハネスさんに治癒魔法を教えてもらうという、忙しくも充実した毎日を過ごしていた。
治癒魔法の発動機序について、以下に簡単な説明を加えさせて頂く。
治癒魔法を発動するために必要とする詠唱呪文は以下の一つだけである。「マナよ、万物の根源たるマナよ。汝、治癒の力となりて触れたる者の傷病を癒せ」
この呪文を詠唱する前の発動機序とブチ込む魔力量の差異によって、治癒魔法の治癒力が異なってくる。それらについては後述させて頂く。
治癒魔法は体の新陳代謝を活性化して負傷した部位を治療するため、痛覚を遮断していないと傷の具合にもよるものの、強い疼痛を発する。そこでまず治癒する部位の痛覚を遮断し、痛みを感じないようにするのだ。麻酔のようなものである。
ちなみに、痛覚遮断魔法は治癒魔法群の中でもド初歩のもので、”癒し” の加護がなくても容易に取得でき、発動するまでの時間も長くかかっても10秒程度、熟練の術師であれば1秒もかからず発動できる。痛覚遮断魔法は、戦闘時に負傷したときの痛み止めや、手術時の部分麻酔にも使われている。
そしてその上で、診断魔法を発動して傷の具合を確認するのだ。これも痛覚遮断魔法と同様に容易に取得でき、発動するまでの時間も短い。なお、痛覚遮断魔法を使わずに診断魔法を使うとやっぱり強い疼痛を発する。負傷部位の神経が刺激されるためらしい。
なお、これらの痛覚遮断魔法と診断魔法は呪文無詠唱で発動できる。治癒関連魔法については、他にも呪文無詠唱で発動できるものがある。
そこで傷の具合を診断した上で傷の具合によってE級からS級までの6段階の治癒魔法を発動させ、患者の負傷を癒すのだ。なお、他の属性の魔法、氷魔法や炎魔法、風魔法も同様にE級からS級まで6段階ある。
それぞれの魔法分野において、B級魔法までは加護がなくても取得できる (但し、加護なしにB級魔法を取得しようとすると、アナスタシアがカールハインツ王太子と婚約してから続けていたもののような、想像を絶する努力を要する) が、S級魔法は加護がなければ取得することはできない。ただし、”賢者” の加護があれば、全属性の魔法についてA級魔法まで、また任意の一属性の魔法についてS級魔法を取得することができる。
S級治癒魔法に至っては絶大な治癒力を示し、ことに熟練の術師が扱うS級治癒魔法ともなると、即死でなければ致命傷ですら後遺症なしに治癒することさえ可能である。しかし、当然ながら莫大な魔力を消費し、発動するための時間も長くかかる。その時間を縮める、つまり高速発動のためには、さらに絶大とも言うべき魔力が必要になる。
なお、この高速発動は治癒魔法のみが有する特性であり、通常よりも早く治癒魔法を発動できるものの、通常発動よりも大きな魔力の消費が必要な発動機序である。高速発動は、C級からS級までの4段階ある。
◇◆◇
この世界を舞台とした乙女ゲー『マジコイ』のラスボスである暗黒騎士アナスタシアを倒すためには、メインヒーラーであるエイミーが上述のS級治癒魔法を秒単位で高速発動できるレベルで、しかも戦闘の最初から最後まで延々と唱え続け、おまけにそれで魔力が枯渇しない程度までに―即ち極限までに―エイミーの魔力を高める必要がある。
暗黒騎士アナスタシアは物理・魔法のいずれの攻撃力も非常に高く、物理攻撃力においては後衛の物理防御力が低い3人、エイミーや弓使いのチャラ男、また魔術師の眼鏡君であれば一撃でヌッ殺せるほどであり、魔法攻撃力においては前衛の魔法防御力が低い2人、脳筋騎士や隣国の王子であるイキリグラップラーを一撃で瀕死の状態に追いやることができるほどである。暗黒騎士アナスタシアの攻撃を食らっても一撃では倒されないのは、物理・魔法防御力ともに秀でたカールハインツ王太子くらいのものだ。
暗黒騎士アナスタシアを倒すためにはただエイミーの魔力を極限まで高めるだけでは足らず、エイミーが最終決戦の際に身につける “慈愛の聖女” の加護の力によってアナスタシアが持つ魔剣の力を弱め、更にはカールハインツ王太子の物理・魔法防御力を彼の加護の1つである “英雄” によって極限まで高めた上で彼を『盾』にし、アナスタシアの攻撃を彼一人に集中させた上で他の攻略対象キャラによってアナスタシアのあほみたいに糞高いHPを削り尽くす必要があるのだ。
なお、カールハインツ王太子の加護の1つである “英雄” とは、味方に強力なバフをかける魔法に対する加護である。ラスボスである暗黒騎士アナスタシアとの最終決戦のときには、一度バフをかけるだけで味方の能力値を2倍にするほどまで跳ね上げることができるほどの成長を見せるのだ。
俺がこのゲームをやっていた目的はクリアではなかったので俺は暗黒騎士アナスタシアを倒していない。ここで書いたのは、ゲームの攻略wikiで手に入れた知識だ。
え?俺がこのゲームをやってた目的?
お願いだからそれは聞かんとってくれ。それを思い起こすたんびに、俺は後悔と自己嫌悪とアナスタシアに対する罪悪感で死にたくなる。
とまれ、悪役令嬢アナスタシアがこの乙女ゲーのプレイヤーのヘイトをなぜ一身に集めたかについては、前半の恋愛シミュレーションモードにおける言わでもの嫌味だけでなく、この最終決戦における狂気じみた強さにもその理由を求めることができるだろう。
え?弓使いのチャラ男と魔術師の眼鏡君と脳筋騎士とイキリグラップラーの名前?忘れた。なんぼ攻略対象キャラだろうと、男の名前なんざいちいち覚えてねぇよ。
◇◆◇
何か話がずれまくったが、とりあえず俺はヨハネスさんの指導を受けて治癒魔法の実力をめきめきと上げていた。今ではD級治癒魔法までなら自在に発動することができ、C級治癒魔法の発動機序まで身につけている。もっとも、C級治癒魔法を発動できるほどの魔力はまだないためC級治癒魔法を使うことはできない。
「さすがに “癒し” の加護をお持ちなだけのこたぁござんすね。この調子で精進なすったら、エイミー様はこの国随一のヒーラーになりなさることもできやすぜ」
ヨハネスさんが俺の治癒魔法の上達について褒めてくれた。素直に嬉しい。
「ありがとうございます。ヨハネスさんが、上手に指導して下さったおかげです」
俺がお礼を言うと、ヨハネスさんは相好を崩した。
「これでC級治癒魔法まで使えるようになりなすったら、あっしがエイミー様にお教えすることがなくなっちまいまさぁ。そうなったら、あっしの伝手を使って、”癒し” の加護をお持ちの治癒魔法術師を紹介させて頂きやす」
「あ、ありがとうございます。ぜひお願いします!」
ヨハネスさんが使えるのはC級治癒魔法までであり、俺がC級治癒魔法を使えるようになったら師匠であるヨハネスさんと『治癒魔法では』並ぶことができたことになる。もっとも、彼は本職のヒーラーではないためそこで師匠に並んだ、なぞと思い上がったことを言うつもりはさらさらない。
本職のヒーラーについて精進することが叶えば、より高度な治癒魔法を身につけることができるだろう。そのために、まず魔力を高めなくてはならない。
◇◆◇
治癒魔法と魔力の増強に精進する一方で、中学校での勉強もおさおさ怠りなく進めていた。中学校のカリキュラムも順調に進み、あと半年も経てば全カリキュラムを消化して中学校の卒業資格取得のための試験を受けることができる。
そんなある日、中学校の掲示板に貼り出されている通達文を確認し、俺は素っ頓狂な叫び声を挙げた。
「ええぇぇっ!またわたし、先を越されちゃったの!?」
通達文には、こう書かれている。
《以下の者、成績優秀につき本中学校の卒業資格を取得したことを通達する。
名前 :アレン
卒業資格検定試験結果 :500点満点
学校長》
◇◆◇
件の天才君だ。彼は飛び級制度を活用し、中学校の卒業資格取得試験を受けて合格したのだ。それも、全教科満点という試験結果で。
彼は、俺に先んじること5ヶ月で小学校の卒業資格を取得し、中学校に入学した。そして、俺が中学校の卒業資格取得試験の受験資格を得るためには、あと少なくとも半年はかかる。
つまり、俺は彼との差を縮めるどころか、さらに差をつけられてしまったと言えるだろう。そう考え、俺は眼鏡の奥の瞳を悔し気に顰めた。
悔しいのもあるが、素直に称賛する気持ちもある。世の中、上には上がいるのだ。
「エイミー様、いかがなさいましたか?…ああ、アレン君ですね」
きょぬー眼鏡のヒルデガルド先生が、俺に声をかけてくれた。
「先週試験を受けたんですよ。全教科満点なんて、本当に素晴らしいですね」
「本当ですね。アレンさんって、すごい人です。つくづく尊敬します。でも…」
俺は頬を膨らませて言葉を繋いだ。
「悔しいってのもあります。また差をつけられちゃったみたいで」
ヒルデガルド先生はくすっと笑った。
「エイミー様も十分素晴らしいですよ。天才児同士、アレン君とはこれから縁があるかも知れませんね」
縁があるとしたら、これほどあらまほしいこともない。彼は素晴らしい男だ。それほどの男と縁を結ぶことができたら、大きな財産になるだろう。
「先生、わたしもアレンさんに負けないように頑張ります。これからも、勉強を教えて下さい。宜しくお願いします!」
俺がそう言って勢いよく頭を下げると、先生は優しく微笑んでくれた。
「やっぱりラスボスは強くなくちゃね」と
思って頂けたら、応援を宜しくお願い致します。
また、ブックマークといいね評価、それと星の評価を下さった皆様には、
本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。
厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも
頂きたく、心よりお願い申し上げます。