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第73話 ヒロインは町人Aとの共闘を約束する

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

「やっぱりあほだわたしはあああぁぁぁッ!!」

「え…エイミー様!?いきなり、どうなさったんですか!?」


いきなり頭を抱え込んで、部屋の天井を仰いで絶叫したわたしの姿に、アレンさんが驚愕の声を発した。それと同時に、『治癒室』のドアが凄まじい勢いでドンドンと叩かれる。びくっ、と身を震わせたわたしとアレンさんの鼓膜を痛打したのは、ヨハネスさんの室外からの大声であった。


「エイミー様!エイミー様、如何なさいやした!!?」


思わず、わたしはアレンさんと顔を見合わせた。ヨハネスさんが常駐しているギルド長室とこの『治癒室』は、結構離れている。わたしが大声を上げても、そうそうその声はギルド長室には届かない筈だ。


ドアを開けると、そこにはヨハネスさんが凄まじい形相で仁王立ちしていた。


「あ…ヨハネスさん、ごめんなさい。大事なことを忘れていたことをついさっき思い出して、それで大声を上げてしまったんです」


ヨハネスさんはそれには答えず、わたしの姿とアレンさんの姿をじっくりと見回した。わたしの学園指定の制服姿にもアレンさんのそれにも一糸の乱れもないのを確認すると、安心したように大きな溜息を吐く。


「…申し訳ござんせん…いきなりエイミー様の大声が聞こえたから、何事かあったかと思いやして…まさかたぁ思いやしたが、アレン坊の奴が不埒な所業に及びやがったんじゃねぇかと…」


そのヨハネスさんの姿を見るわたしの眼鏡越しの視線は、微妙にジト付いていた自覚がある。…まさかとは思いますけど、この『治癒室』の前でずっと張ってたんじゃないでしょうね、ヨハネスさん?


「…ここで大声を出しても、ギルド長室には声は届かないですよね…」

「…あ、い、いや…ちょうど、この辺りを通りかかったんでさ…」


ヨハネスさんは気の毒なことに、嘘を吐いたら目線が泳ぐ癖がある。そのときも、ヨハネスさんの目線は見事なバタフライ泳法を見せていた。


…ますますジト付いたわたしの視線に窮したヨハネスさんを救ったのは、アレンさんの苦笑混じりの言葉だった。


「ギルド長さんは、エイミー様のことがご心配なんですよ。ギルド長さん、遠慮なくこのお部屋の前に張り付いていて下さい。俺は全く構いませんから」

「あ、そ、そうかい。アレン坊、済まねぇな。俺も経験があるんだけどよ、おめぇくらいの年頃の男のサカリってのは、ほんとどうしようもねぇ代物だからな。…いや、おめぇを信頼してねぇ訳じゃねぇんだけどよ…」


…ヨハネスさん、その発言は思春期の少女の前で飛ばすには余裕でアウトだと思うんですが…と思いきや、アレンさんが爽やかな笑顔で投下した爆弾はヨハネスさんの失言を余裕ですっ飛ばしてしまった。


「ギルド長さんがご心配なさるのもしょうがないですよ。エイミー様は、この通りとてつもない美少女でいらっしゃるから」


ぼんっ!!


そ、そそういうことを、い、イケメンスマイルで言うのはやめて下さい!!


…っていうか、何でわたしはそう言われて顔に血を集中させてるんだよ!?わたしの中の人は、アラフィフのおっさんじゃなかったのか!?『俺の精神』は、『エイミーの肉体』に完全に浸食されちまったのか!?


◇◆◇


…その5分ほど後、わたしは『お花畑』で顔を洗っていた。アレンさんにあんなことを言われた結果、わたしの顔は完熟トマトみたいになってしまったようで、そのことをヨハネスさんに揶揄われてしまった。事そこに至って、漸くアレンさんも自分が何を言ったか悟ったようで、彼も顔を完熟トマトにしてしまった。


こんなのでは冷静に会話なぞできない、ということで2人して顔を洗って頭を冷やしていた次第である。わたしもアレンさんも血が上った頭を冷やすべく、わたしは『お花畑』で、アレンさんは『お手洗い場』で顔を洗っていた、ということだ。


わたしとアレンさんが『治癒室』の前で待ち合わせたとき、ヨハネスさんは『治癒室』の前でその厳つい顔をニヤつかせていた。


「エイミー様、どうやらアレン坊には女誑しの素養がありやすぜ。誑し込まれねぇようにお気を付けなさいやし」


…はい、天然であんなこと言うくらいだから、本気で口説きにかかられたらかなり危険なことは判ってます。充分に、注意しておきます。


次にヨハネスさんはアレンさんに向き直り、声にドスを効かせた。


「…アレン坊、判ってると思うがエイミー様を口説いたりするんじゃねぇぞ」

「そ、そんなことしませんよ…あ、で、でも、それは、エイミー様が魅力的じゃないってことじゃなくって…」


ヨハネスさんに詰められ、さりとて変な答え方をしたらわたしが気分を害さないかとしどろもどろになってしまったアレンさんがおかしくて、わたしは笑いを堪えるのに苦労させられるハメに陥ってしまった。


◇◆◇


「…とにかく、王都がエスト帝国軍の手によって破壊し尽くされてしまわないように、悪役令嬢の追放を阻止しようと俺は思ったんです」


アレンさんは、丁寧に判りやすく目的を説明してくれた。


話が再開した当初はアレンさんもわたしもどこかぎこちなかったものの、いつしかスムースに話を進めることができるようになっていた。え?何でぎこちなかったかって?ヨハネスさんに揶揄われたせいで、互いに妙に意識しちまったせいである。


…それはともかくとして、わたしは納得した。それなら、アレンさんがわたしに悪感情を抱くのもしょうがない、というよりも当然だわ。わたしがカール様たちといちゃつくことで、クラス内の雰囲気がまるで宮廷内の政治闘争のような、最悪なものになってしまったわけか。その結果、ゲームのシナリオ通りにアナスタシアが追放されてしまうことを、アレンさんは恐れたんだな。


これはわたしの落ち度だ。アナスタシアのためと思って行動していたけど、その副作用を全然勘案してなかった。これは、小さからざる反省事項だ。わたしは椅子から立ち上がり、アレンさんに向かって頭を下げた。


「え、エイミー様…!何を…」

「アレンさん、ごめんなさい。もう少し考えて行動するべきでした」

「そ、それはもういいんです!エイミー様が、悪役令嬢の救済を考えて行動しておられることはよく判りましたから、頭を上げて下さい…!」


アレンさんが、あわあわと狼狽しつつも小声でそう言ってくれたので、ご厚意に甘えさせてもらうことにした。席に着くと、わたしのひそやかな胸の中にジワリと暖かいものが生まれてくるのを感じる。


アレンさんが理解してくれたことに、わたしは心からの安堵を覚えていた。


◇◆◇


「では、わたしは引き続き攻略対象とベタベタいちゃついていればいいんですね」


和解が成ったアレンさんとわたしは、今後どのように行動するかについて相談していた。目標は同一。ならば、それぞれが為せることを為せばいい。


「そうですね。悪役令嬢のお墨付きももらっているんだったら、問題ないと思います。決闘での悪役令嬢の代理人は、俺が担当しますね」


決闘?あぁ、婚約破棄イベントの後でそんなのがあったなぁ…あれ?でも、あの学年度末パーティーで悪役令嬢たるアナスタシアが決闘を申し込むのは、ヒロインたるエイミーに対してだった筈だ。今や彼女とエイミーであるわたしは同心しているため、その可能性はない筈だが…


「シナリオの強制力を甘く見てはいけませんよ。現に、エイミー様は王太子を治癒なさったし、攻略対象たちとフラグを立てておられるじゃないですか」


…一言もなかった。確かにその通りである。でも、わたしはアナスタシアに手袋を投げつけられるようなことをするつもりは更々ないし、アナスタシアだってわたしに手袋を投げ付けるところまで理性を飛ばすこともないだろう。


「エイミー様が何もなさらなくても、王太子以外の攻略対象が悪役令嬢を侮辱したら決闘騒ぎになりますよ。それで堪忍袋の緒を切った悪役令嬢が決闘を申し込んだら、他の4人の攻略対象が代理人…いや、共闘者として申し込むんです」

「成程…その可能性もありますね」


だとしたら、かなり厄介なことになる。クズレン…もとい、カール様やクロード様、それに諸公子様方は、わたしたちの学年ではアナスタシアを除けば最強のクインテットだ。ゲーム中では、王太子と公爵家令嬢という身分差もあり、さしものアナスタシアもこの5人に手も足も出ずに叩きのめされた。


その懸念をアレンさんに言うと、彼は事もなげに笑った。


「そこは、史上最年少Cランク冒険者を信頼して下さい。俺に秘策あり、です」

「でも、認めたくないけどあの5人は確かに強いですよ。アレンさんは確かに学業は優秀で風魔法も強力なものを持っていらっしゃるけど、剣技や体術はそれほど優秀じゃなかったですよね?…ごめんなさい、剣技や体術がダメダメなわたしが言えた口じゃないんですけど」


アレンさんはそのわたしの言葉に、悪い笑みを浮かべた。


「そうですね…じゃぁ、ちょっと種明かしをさせて頂きますね」


アレンさんはそう言うとあらぬ方を指差し、いきなり「あっ!」と小さく、しかし鋭い声を出した。咄嗟に、わたしの意識がそちらに向かう。しかして、そこにはバインツ侯爵閣下の蔵書が満載された本棚しかなかった。


「何ですかアレンさん、何もなかったですよ!?…あ、あれ?…アレンさん?」


逸らされた意識を、アレンさんが座っているはずの椅子に向け直すと…そこにいる筈のアレンさんがいなかった。ギョッとしてぐるりを見回すが、そんなに広い筈もない『治癒室』のどこにも、アレンさんの姿はなかったのである。


「あ…あれ?アレンさん?…どこに行ったんですか?…アレンさん!?」

ギルド長の姿に、岡田あーみんの代表作を

思い出して頂けたら、応援を宜しくお願い致します。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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