第7話 ヒロインは “癒し” の加護に目覚める
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
冒険者ギルド長のヨハネスさんを母親と俺に紹介した後で、男爵は続けた。
「ヨハネスさんは、私の父親の代からお世話になっていてね。私の父親は戦場で功績を挙げて男爵に封ぜられたが、元々は冒険者だったんだよ。私も子供の頃から父親に冒険者ギルドに入れられて、ヨハネスさんに鍛えてもらったもんだ」
なるほど。それで、男爵もガタイがいいのか。俺は納得した。
「とんでもありませんや。あっしらこそ、先代の男爵様やお坊ちゃん、おっと、当代の男爵様にはお世話になっておりやす」
「ヨハネスさん、四十がらみの中年男に対してお坊ちゃんはよして下さいよ」
男爵が苦笑してヨハネスさんを嗜めると、ヨハネスさんも苦笑でこれに応えた。
「申し訳ありやせん、つい昔の癖が出ちまって。…さ、準備ができやしたぜ」
ヨハネスさんは2枚のカードと針を俺たちの前に差し出した。
「奥方様にお嬢様、このギルドカードに血を垂らして下さい。ああ、一度針を使ったら、一度あっしに戻して下さい」
まず母親が針を指に刺し、ギルドカードに流れた血を垂らした。その後で母親が針をヨハネスさんに戻すと、ヨハネスさんは指先から小さな炎を出して針先を炙った。どうやら、ヨハネスさんは炎魔法のスキルがあるらしい。
「こうしねぇと、針を刺したところから毒が入って死んじまうこともあるもんで…さ、お嬢様もお願いしやす」
指先に針を刺す。ちくっと痛い。針を離すと、ぷっくりと血が出てきたのでそれをカードに垂らす。すると、カードが一瞬光った。
「お疲れ様でございやした。これで登録完了です。ギルドカードを紛失しちまったら、再発行に金がかかるんでご注意下さい。あと、ギルドカードは財布の代わりにもなりやす。ギルドカードをタッチさせるだけで、金のやり取りができやすんで」
かくて、俺ことエイミーと母親は無事に冒険者として登録された。ランクは母親がFランク、俺がGランクである。冒険者のランクは12歳以上であればFランクから始まって最高ランクはSランクとなる。
「先代の男爵様はAランクでいらっしゃいやしたね。あっしもAランクだったんですが、寄る年波には勝てねぇで引退して、今はギルドの連中の世話役をやっておりやす。お坊ちゃん…おっといけねぇ、男爵様はBランクでいらっしゃいやしたね。早くAランクにお上がんなせぇよ」
その揶揄うようなヨハネスさんの言葉を受け、男爵は少し渋い顔をした。
俺はGランクとなっているが、これは12歳未満の子供は一括でそう決められているためだ。さあ、早速ステータスを確認してみよう。まずは母親だ。
◇◆◇
名前 : シュザンナ
ランク : F
年齢 : 27
加護 :
スキル :
居住地 : ルールデン
所持金 : 120,503
レベル : 1
体力 : E
魔力 : F
実績 :
今更気づいたが、母親は27歳だった。まだまだ若いな。結構美人さんだし。
…待てよ!?ということは、母親は17歳でエイミーを産んだってことになるのか!?ってなると、男爵は母親が16歳のときに手をつけたことになるぞ!?
…おさわりまんこちらです!!
錯乱し、脳内に意味不明の絶叫を上げた俺を顧みることなく、母親と男爵、それにヨハネスさんは母親のステータスを確認していた。
「やっぱり、私には加護は与えられなかったんですね」
母親は苦笑している。ヨハネスさんが、慰めるような声を出した。
「まぁ、加護を授かって生まれてくる人間の方が珍しいんでさ。お気になさらねぇで下さい。それに、奥方様は、あまり冒険とかなさるタチじゃござんせんからね。ギルドカードは身分証明書としても使えるんで、奥方様のように冒険者に登録するだけしてランクを上げねぇ、って人も結構いるんでさ」
その会話を聞きながら、ようやく俺は混乱から立ち直った。中世ヨーロッパを準えたこの世界では、平均寿命が短いから結婚や出産の適齢期が早いのだ。前世の感覚でいると、とんだ落とし穴にハマることになる。源氏物語の主人公も、確か若紫が12歳か13歳のときに手をつけてたしな。それも強姦同然に。前世の基準では、どこに出しても恥ずかしい性犯罪だ。
「では、お嬢様のステータスを確認してみやしょう。お嬢様、ちょいとギルドカードを貸して下さい」
ヨハネスさんにそう言われ、気を取り直して俺はギルドカードを差し出した。
カードを受け取り、何の気なしに俺のステータスを見ていたヨハネスさんが、一瞬息を呑んだ。何度も確かめるように目を瞬かせてステータスを睨みつけ、間違いないのを確認する。そして、異変を感じ取って険しい顔になっている男爵と母親に呻くような声を向けた。
「男爵様、奥方様…お嬢様は、とんでもねぇ加護を授けられていなさりやすぜ」
◇◆◇
名前 : エイミー・フォン・ブレイエス
ランク : G
年齢 : 10
加護 : 癒し
スキル :
居住地 : ルールデン
所持金 : 3,059
これが俺のステータスだ。12歳未満だと、レベルや体力、魔力、実績のステータスは出てこないのな。
「 ”癒し” の加護ってぇと、相当レアな加護ですぜ。先代の男爵様は “剣士” の加護を持っていなさりやしたが、 “剣士” の加護ってのは、結構ポピュラーな加護なんでさ。あっしも持っているし、男爵様も持っていなさるんじゃねぇですかい?」
ヨハネスさんに話を振られて、男爵は頷いた。
「ええ、確かに持っておりますが…私も、これまで “癒し” の加護を持っている人には出会ったことがありません」
ヨハネスさんと男爵が会話している横で、母親は驚喜して俺を抱きしめている。
「エイミー、あなた素晴らしい加護を神様に頂いたのよ!これも、ジークフリード様の血統のなせる業だわ!」
「いや、違うぞシュザンナ。これは、エイミーの珠のような心根を神様が嘉して下さったんだ。そして、そのような清らかで美しい心を持つようにエイミーを育ててくれたのは君だ。この、エイミーに授けられた “癒し” の加護は、君の功績だ」
「…ジークフリード様…」「…シュザンナ…」
あ、あの2人、また2人だけの世界に逝っちまった。うわ、とうとう抱きしめ合っちまったよ。それでもって、2人の顔と顔が近づいて、唇が…
「あー、オホン。男爵様と奥方様がラヴラヴなのは大いに結構でござんすがね、話を前に進めてぇんでさ。戻ってきて下さいよ」
ヨハネスさんにツッコミを喰らって、抱きしめ合っていた男爵と母親は弾かれたように離れた。つぅか、娘だけじゃなくってお客さんの前でそういうことをするのはやめろ下さいお願いします。
気まずそうな2人に揶揄うような一瞥を送った後で、ヨハネスさんは俺に訝るような視線を向ける。
「それにしても、かなりレアな加護を授かっていなさることが判ったってぇのに、お嬢様はあまり驚くでも嬉しそうでもござんせんねぇ」
うん。知ってたから。とは言えない。
「あ…ごめんなさい。わたしがそんな凄い加護を授けて頂いてたなんて、全然実感が湧かなくて…」
そう俺が答えると、ヨハネスさんは穏やかに笑った。確かに穏やかな笑いだが、厳ついのは変わらない。
「実感が湧かねぇってのも、無理はござんせんやね。あっしも、治癒魔法の心得は多少ごぜぇやす。もしお嬢様さえよかったら、あっしが治癒魔法の初歩からお教え致しやしょうが、よござんすかい?」
それはありがたい。本職ではないとはいえ、元Aランク冒険者に物事を教えて貰うのがどれだけ貴重な機会であるかはよく判る。こっちからお願いしたいくらいだ。
「ありがとうございます!ヨハネスさん、よろしくお願いします!」
嬉しさのあまり、つい声が大きくなる。穏やかで厳つい笑いを絶やさず、ヨハネスさんは言葉を継いだ。
「お嬢様は中学校に通っていなさるってぇこったから、休みの日にお教えすることに致しやしょう。土曜日と日曜日に2時間程度ずつでよござんすかい?」
「それでお願いします!ヨハネスさん、わたし頑張ります!」
「あ、それと男爵様からお聞き致しやしたが、お嬢様は成績優秀でいなさるとか」
俺の代わりに男爵がその言葉に答えた。
「そうなんです、ヨハネスさん。エイミーは中学校で、飛び級での卒業と王立高等学園への推薦枠の取得を狙っているんです」
それを聞いたヨハネスさんは豪快に笑った。
「そいつぁ剛毅でござんすねぇ。でも飛び級で卒業なすったら、王立高等学園に入学するまで間が空いちまうんじゃねぇですかい?王立高等学園は、飛び級での入学は認めていねぇって話でしたぜ」
そう、その通り。最初の予定では、中学校を飛び級で卒業した後に冒険者ギルドに入る予定だった。思いがけず、予定よりも早く冒険者ギルドに入ることができたのは望外の僥倖と言うべきだろう。
「だったら、お嬢様が中学校を飛び級で卒業なすったら、うちのギルドで働いて頂きてぇんでさ。ここんところ恒常的に治癒魔法を使える奴が不足気味でしてね、お嬢様にウチに来て頂いて、”癒し” の加護付きの治癒魔法を活用して頂けたら、こんなにありがてぇこたぁござんせんよ」
渡りに大船団がやってきたような大幸運だ。治癒魔法を身に付け、実践でその実力を高める機会を与えてもらえるのだ。上手くすれば、他のスキルを身につけさせてもらえるかもしれない。こんな大幸運、逃したらバチが当たる。
「ありがとうございます!わたしからもお願いです、ぜひそうさせて下さい!」
つくづく俺は恵まれている。最初の予定より、大幅に状況を進めることができるのだ。この幸運を生かし、絶対にアナスタシアを救ってみせる!!
「上手く今年の大河ドラマに話を合わせやがったな」と
お思い頂けたら、応援を宜しくお願い致します。
また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、
本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。
厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも
頂きたく、心よりお願い申し上げます。