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第69話 ヒロインは書いてもいないレポートの共著者になる

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

始業式の日、わたしは寝坊してメイドさんにド叱られながら朝の準備を進めていた。寝坊してしまった理由は言うまでもない。この夏休み最後の1日を、今生の別れの如く惜しんで夜更かししていたためである。


「エイミー様、もうお時間がありませんから残りのお話は学園からお帰りあってからさせて頂きます!では、行ってらっしゃいませ!」

「は、はい!行って参ります!今朝は、本当にごめんなさい!!」


碌に朝食を摂ることも叶わず、辛うじて身支度だけ整えて寮の自室を飛び出す。今から全速力で走れば、ギリ自由研究のレポートの提出期限に間に合う。わたしは、前世と当世の双方を併せた60年近くの人生の中でも最も懸命に手足を動かした。


◇◆◇


肺ノ腑の中の空気はすっからかんになり、心ノ臓が凄まじい勢いで拍動している。わたしは講堂前のレポート提出場でぜぇぜぇはぁはぁと肩で息をしながら、ようようの思いで自由研究のレポートを鞄から出して受付の先生に差し出した。


受付の先生は、ザマス眼鏡をかけた魔法理論の担当教諭である。宮廷魔術師団にも所属していたことがあるらしく、おまけに魔力増強を専門としていたということで、わたしはこの先生には目をかけて貰っていた。理由は、わたしが学園の生徒の中でただ1人S級の魔力を持っていたためである。


「ひっ…ひぃっ…はぁはぁっ…エイミー…フォン…ブレイエス…です。えっ…ぜぇっ…レポート…を、はぁっ、はぁぁっ…提出しに…参りました」

「あら、エイミー・フォン・ブレイエス嬢、貴女がこんなにギリギリにレポートを提出することになるとは、正直意外ですね。…まぁ、時間には間に合っているのでよろしいですわ。お預かりします」


ザマス眼鏡をかけてるからって、口調までザマス口調にはならないのな…そんなことを考えながら、わたしは奄々たる気息を整えていた。…と、先生の「あら?」という声が聞こえる。何か変なところ、不備でもあったかな?現役の宮廷魔術師でもあるカッパーヴァルト様にがっつり添削して頂いたから、それはないと思うけど…


「エイミー・フォン・ブレイエス嬢、貴女のレポートはもう提出されていますわ」


…はい?


「ほら、ご覧あそばせ。王太子殿下が首席著者となっておられるこのレポートです。共著者として貴女の名前が掲載されていますわよ」


…本当だ。カール様が首席著者、クロード様が次席著者で以下、アナスタシア、オスカー様、マルクス様、レオ様、わたしの順に名前が並んでいて、最後にアレンさんの名前が載っている。


何で?どゆこと?カール様のレポートに、わたしの名前を入れないで欲しいってアナスタシアに頼んだはずだよね?


ちょうどその時。わたしの耳に、始業式の開始5分前を告げる鐘の音が響いた。


「エイミー・フォン・ブレイエス嬢、そろそろ始業式が始まりますわ。レポートの件は後でお聞きしますから、講堂の中にお入りあそばせ」

「は、はい。では、レポートの件はまた後で」


先生にそう返事して、わたしは倉皇と講堂に入った。


◇◆◇


「やぁ、エイミー。夏休みの間は、君に会えなくて寂しかったよ」


始業式が終わり、教室に戻ったところで早速カール様がわたしに声をかけて下さった。…ありがたいことなのだ。うぜぇ、などと思ってはいけない。


「カール様ぁ、エイミーもぉ、カール様にお会いできなくて寂しかったですぅ」


わたしも可愛ぶりっ子で応える。我ながらマヂキメぇ、などと思ってはいけない。それに、わたしはカール様にお聞きしなくてはならないことがあるのだ。


「カール様ぁ、カール様のレポートのことなんですけどぉ…」


不審げにわたしを見たカール様に、わたしは朝疑問に思ったことを問うた。


「俺のレポート?それがどうしたんだ?」

「アナスタシア様に、わたしの名前を共著者に入れないで欲しいってお願いしたんですぅ。でも、今日確認したらわたしの名前がカール様のレポートの共著者に入ってて、おかしいなって思ったんですぅ…」


けっ、と吐きつけるように、カール様は口元をお歪めになられた。醜い面しやがって…違う違う!そのようなお顔もお美しいの!


「あぁ、昨日あの女がレポートを見せに来てな、そこにエイミーの名前が載っていないからどういうことか問い詰めてやった」


カール様のお顔がますます歪む。つくづく醜悪な…だから違うって!カール様は、そんなお顔をなさっていても美しいの!大事な事だから、何度でも言うぞ!


…嘘っぱちだけどな!!


「エイミー、安心してくれ。あいつには、必ず君の名前を載せるようにきつく言っておいてやったからな」

「あの女、そうやって君に嫌がらせをしようとしていたんだ」

「本当に、見下げ果てた性根ですね」


クロード様がカール様と同様に口の端を歪めながら、そしてマルクス様が眼鏡を直しながら会話に割り込む。アナスタシアの悪口となると途端に生き生きするその姿は…端正なの!そういうことにしとくの!


「あ、あのぉ…本当に、わたしはカール様のレポートに名前を載せないで頂きたいって、アナスタシア様にお願いしたんですぅ。だって、カール様のレポートに何も貢献してないわたしが名前を載せて頂くのは申し訳ないと思って…」


これ以上アナスタシアの悪口を若様方から聞かされると、胸糞悪く…否、話が進まないので話を進めるために事情を説明した。書いてもいないレポートの共著者に名前を載せるなんて、良心云々以前にわたしという人間のプライドの問題だ。


◇◆◇


「そのようなこと、気にしなくたって構わないよ。僕ら全員、全くあのレポートには関与していないんだから」「ああ、俺もそうだな」「私もです」

「俺もだな。カールが何もしなくていいって言ってくれたから」


…はああぁぁいいぃぃッ!?じゃぁそのレポートは、全部で8人いる共著者のうち、5人が全く作成に関与していない代物だったってか!?…いや待てよ…カール様はさっき、「昨日アナスタシアがレポートを見せに来た」って言ってたな…となると、でもまさかそんなことは…!


「…あ、あのぉ、カール様ぁ、レポートの作成にはぁ、カール様も関与なさったんですよね?カール様も何もなさってないなんて、そんなことないですよね?」


カール様は、腕を組んで胸を張ってお答えになられた。


「ああ、勿論だ。レポートを受け取って、あの護衛役兼案内役をやっていた平民からレポートの内容について説明を受けたぞ」

「…せ、説明を受けたって、それだけですかぁ?」

「あぁ。だがその平民がな、話がやたらと長くてな。聞いている途中でうんざりしたから、『俺がすぐ判るように3分で説明しろ』って言ってやったんだ」


ドヤ顔で言い放つカール様。そのお姿を目の当たりにし、危うくその場に崩れ落ちそうになるのを必死で堪えながら、わたしは懸命に自分に言い聞かせていた。カール様はこの国の王太子殿下でいらっしゃるんだ、だから臣下の有能な者に仕事を任せて、その成果を得たっておかしくはないんだ!


クロード様や諸公子様方だって同様なんだ、だから罷り間違っても、「自分がやるべき仕事を人に押し付けた挙句その成果だけ横取りしやがって、おまけにわたしまで同罪にしやがって、人として恥ずかしくねぇのかこのクズレンジャーどもが!」なんて思っちゃいけないんだ!もうちょっとおねんねしててくれ、わたしの真っ当な感覚と羞恥心と良心!!


理性を総動員して何とか気を静めて、可愛ぶりっ子の表情を回復させた上でわたしはカール様に笑いかけた。


「カール様ぁ、そういうことだったらぁ、ありがたくレポートの共著者にならせて頂きますぅ。ありがとうございますぅ」


その途端に、カール様の秀麗で精悍なお顔が笑う形に崩れた。だらしなくヘラヘラしやがって…違う!そういうところに、カール様の魅力があるの!


クロード殿下や他の諸公子様方も、同様にお顔を笑ませておられる。…皆様方も、そういうところがお可愛いの!「何をヘラヘラ笑ってやがる、このクズどもが!」なんて、絶対に思っちゃダメなの!!


…結果、わたしが独自に作成したレポートも、それを添削指導して下さったカッパーヴァルト様のご協力も無に帰することとなっちまった。わたしのことはまぁ比較的どうでもいいが、カッパーヴァルト様には本当に申し訳ない。


◇◆◇


その日は始業式だけであったため、学園での授業はなく午前中のうちに寮の自室に戻ることができた。半ドンよりももっと早い時間である。


部屋に入り、「ただいま戻りました」とメイドさんに伝えると、わたしを迎えたのは彼女の美しいカーテシーと鋭い眼光。


「エイミー様、お帰りなさいませ。今朝のことですが…」


それから昼食までのたっぷり1時間強、わたしは今朝やらかしちまった寝坊についてみっちりとメイドさんにお説教を食らったのであった。…ごめんなさい、もう二度と夜更かしはしません。


そして、漸くお説教から解放されて昼食を摂ったわたしは、今冒険者ギルドに向かう馬車の中にいる。その日は始業式だけで終わることが判っていたので、お昼からアルバイトを入れさせて欲しい旨をヨハネスさんに伝えていたのだ。


他には誰もいない馬車の中で、わたしは物思いに耽っていた。当初は、純粋にアナスタシアに対する仕打ちについてカール様に対し嫌悪感を抱いていただけだったが、こうして行動を共にするようになってみるとつくづく思い知らされる。カール様に、王太子の資格は全くない。


そのことはアナスタシアから散々聞かされていたが、こうしてカール様の行動を目の当たりにして、その認識は絶対に崩れないほど強固なものになった。セントラーレン王国のためにも、そしてセントラーレンの国民のためにも、一刻も早くカール様を廃太子しなくてはならない。


無論、その前にアナスタシアとカール様の婚約をブッ潰しておく必要があるが…

原作でもそうでしたが、「なんぼ何でも若様方、

人としてアレすぎね?」と思いました。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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