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第34話 ヒロインは最大最悪の死亡フラグを立てる (後編)

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

「これは…いかん!エイミー・フォン・ブレイエス嬢!!」


魔法実習の授業で、自業自得の火傷を負ったバカ太子を診ていたアナスタシアが、急に険しい顔をしてわたしを呼んだ。は?なんでわたし?


「は、はい!ただいま参ります!」


わたしは慌ててアナスタシアとバカ太子の元に駆け寄った。


「殿下の火傷だが、酷い重傷だ。これでは私の手に余る。確か、お前は治癒魔法に秀でていると言っていたな。その力で、殿下を治癒して差し上げてくれ」


えー…正直やりたくない。それに、このバカ太子、それだけあなたが尽くしても最終的には恩を仇で返しますよ。このまま死なせたっていいんじゃないですか?


…とは言えない。言いたいけど。ものすげぇ言いたいけど!


それに、どれほどのクソバカアホンダラであろうとも、目の前の重傷者を治癒しないというのはヒーラーとしての沽券に関わる。そんなことをしたら、いずれわたしが泉下に赴いた時に、バインツ侯爵閣下に顔向けできなくなってしまう。…はぁ、これが『シナリオの強制力』って奴か?全くもって忌々しい!


「承知致しました。やらせて頂きます。アナスタシア様、お願いがございますが宜しゅうございますか?」「何だ?」


アナスタシアの怪訝そうな声に、わたしは眼鏡越しの強い視線を向けた。


「わたしは先のお昼の長休みで、治癒魔法の鍛錬に励んでおりましたため、魔力が万全ではありません。殿下を治癒し申し上げている途中で魔力が枯渇したらことなので、魔力回復用のポーションのご用意をお願い致します」


魔力水ならなおいいんだけどね。ポーションまずいもん。


「あ、ああ。判った。手の空いている者は、医務室に行って魔力回復用のポーションを取ってきてくれ!」


アナスタシアが他の生徒に指示を出す間に、わたしはバカ太子に向き直った。


◇◆◇


…これはひどい。炎魔法の暴走によって火球の蹂躙に晒された顔と上半身は酷く焼け爛れ、白く変色している部位もある。高熱によって損傷を受けた皮膚は火球の爆発時に爆風で引き剥がされ、同様に高熱で損傷を受けた皮下組織が剥き出しになっていた。はっきり言って、めちゃくちゃグロい。わたしほどのグロ耐性の持ち主をも引かせるとは。バカ太子、ただものではない。バカだけど。


酷い火傷じゃのう、殿下もピ〇でやられたんか?


バカ太子の上半身部を直方体状の魔力障壁で覆い、痛覚遮断と診断、さらには浄化と消毒を進める。就中、浄化と消毒は特に念入りに行なった。火傷で怖いのは雑菌による感染である。それを防ぐために広範な患部を魔力障壁で覆ったのだ。無論、魔力障壁の内部もわたし自身の手にも浄化と消毒は念入りに施してある。


診断の結果、果たしてS級治癒魔法を使う必要があることが判った。A級治癒魔法の高速発動でも命は救えるが、火傷の痕が確実に残ってしまう。


確立したてホヤホヤだが、それでもギルドカードのステータスによればS級だとお墨付きを頂いている。わたしは、さっき確立したばかりのオリジナル治癒魔法を発動することにした。


浄化消毒済みの魔力障壁内部に治癒能力未発動状態のE級治癒魔法を大量に発動し、それを一個一個ピンポン玉大の魔力障壁の殻で包む。この程度のこと、呼吸をするのと同じくらい簡単、かつ迅速に行える作業だ。


30秒にも満たぬ時間で魔力障壁の内部がE級ピンポン球で満タンになったことを確認すると、わたしはA級治癒魔法を高速発動し、魔力最大出力で魔力障壁内部に爆発的に展開させた。その途端!


魔力障壁内部は強大極まりない癒しのオーラで包まれ、眩いばかりの光が溢れてとても正視できない。やがて、無数のE級ピンポン玉が持つ触媒効果によって爆轟的に増大したA級治癒魔法の治癒力と魔力がバカ太子の火傷を完治させてなお飽き足らず、バカ太子を覆っている魔力障壁を浸食し始め、魔力障壁に僅かにヒビが入った。そのヒビは僅かずつながら拡大し…


ぴっ…ぴしっ…ぱきん!


とうとう魔力障壁が破れ、余剰の治癒力が辺り一面を包み込む。それは、この季節の薫風のようにその場にいた者たちの心身を癒した。


◇◆◇


いつしか、眩いばかりにバカ太子を覆っていた光は既にかき消え、意識を失ったままのバカ太子が横たわっている。上半身部の衣服は無惨に焼け落ちてしまったが、剥き出しの胸部と腹部、それに顔は傷ひとつない。かなり酷く焼け爛れていたが、何とか痕も残さずに完治させることができたようだ。


「な…治った…のか?」


アナスタシアがおずおずと、といった風情で聞く。あ、ごめんなさい。いたのに気付かなかった。そんな喋り方、あなたには似つかわしくないですよ。


「…おそらくは」


答えるわたしも言葉少ない。流石に疲れた。


…っていうか、バカ太子、細身だと思っていたけど存外にいい体格してるのな。バカだけど。腹筋なんかしっかり割れてるし、相当鍛えたんだろうな。バカだけど。


「ふぅっ」


わたしは顔を上げ、いつしか額に浮いていた汗を制服の袖で拭った。魔力は…かなり消耗している。枯渇による気絶卒倒を心配するレベルではないが、もう一回やれとか言われたら手持ちの魔力では多分無理。横にポーションか、魔力水を置いておく必要がある。


「うっ…うう…」


あ、バカ太子、目を覚ましやがった。このまま寝ててもよかったのに。


「お…俺は…確か、B級が暴走して…」

「殿下、目を覚まされましたか。このエイミー・フォン・ブレイエス嬢が、殿下を治癒魔法にて治癒致してくれました」


アナスタシアが、わたしをバカ太子に紹介した。ごめんなさい、マヂありがた迷惑なんで、勘弁して下さい。


「そうか…エイミー嬢、ありがとう」

「王太子殿下にお答え申し上げます。卑賎の身に対し親しいお声がけのみならずお礼のお言葉まで賜り、恐懼に耐えません。なれど、傷ついた人を癒すはヒーラーたる身の宿命、ましてやその方が王太子殿下とあっては、寧ろその癒しに携わること叶うは無上の光栄にございます」


相変わらず上達しないカーテシーを施しながら、わたしは敬語過剰で自分でも何を言っているか判らない言葉を発した。なお、上の文章を翻訳すると、「お前に礼を言われても嬉しくなんかねぇよ」である。


「それに、此度わたくしが王太子殿下の火傷をお癒し申し上げたるは、アナスタシア様のご依頼を賜ってのことにございます。どうか、お礼でしたらアナスタシア様に仰せ下さいますよう、お願い申し上げます」


アナスタシアの名前を出した途端、バカ太子の顔が不快げに歪んだ。


「…アナスタシアッ!…お前、俺に恩でも売るつもりか!?」


何でそうなんねん!?お前本当にバカだな!?


「いえ、そのようなつもりはありません。失礼致しました」


氷のような無表情で謝罪の言葉を述べるアナスタシアに対し、バカ太子は舌打ちをくれて立ち上がる。その様子を見ながら、わたしは (…糞ったれのバカ太子が、治癒を失敗(しく)ったふりして一生モンの火傷痕でも残してやりゃぁよかった…) なぞと、ヒーラーにあるまじきことを考えていた。


すっかりと忘れ去られていた体の先生が、慌てて締めようとする。


「は、はい、このように、魔法を扱うにあたって魔力の制御は非常に重要です。それでは、皆さんこれからしっかりと訓練していって下さい。では解散」


いや、そうじゃないでしょ?あなたがするべきは、ガキ丸出しの対抗心で自業自得の大火傷を負ったバカ太子をちゃんと注意すること、それ以前にバカ太子の火傷の治癒の処置を取ることでしょうが?何でアナスタシアがそれをやってるんだよ?


もう、バカ太子はどうしようもない。授業をめちゃくちゃにしたことと、自分の炎魔法の暴走で周囲を危険に晒したことへの謝罪もなく、その暴走を止めてくれたアナスタシアへの感謝の言葉もないくせに、なんでわたしにだけ感謝しやがるんだよ?もうほんと、救いようがねぇな。


…この調子だと、アナスタシアの真価をバカ太子に認めさせて、愛情はなくとも敬意や誠意を抱かせるっていう手、通称『恋のキューピッド作戦』は使えそうにねぇな。おめでとうバカ太子、お前は一生バカ太子で決定だ。


…まぁ、何を言ってもしょうがないかもしれない。所詮、これはゆるゆるでご都合主義の乙女ゲーの中のイベントだ。救い難いことに現実ではあるけどな。けっ!


「エイミー・フォン・ブレイエス嬢、感謝する。ありがとう」


わたしの胸糞悪い気分を癒してくれたのは、アナスタシアのその言葉だった。

『〇カでやられた殿下』は、現実にいらっしゃいます。

そのお方をご存じの方は、応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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