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第23話 ヒロインは亡師のお墓参りをする (後編)

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

ヨハネスさんの墓参りは、果たして一番長かった。この中で、ダントツで付き合いが長いのだから当たり前と言えば当たり前である。


ヨハネスさんは墓石の前にドッカと胡座をかき、持ってきた手提げ袋の中からコップと酒瓶を取り出した。酒瓶の封を切り、コップになみなみと注いで閣下の墓前に置くと、自分は酒瓶をラッパで呷る。


「…っふう、レオン。おめぇたぁ色々あったよな」


◇◆◇


一息で酒瓶を半分ほど飲み干すと、ヨハネスさんは墓石に向かって話しかけた。初めて会った時には閣下が近所の悪ガキどもにいじめられていたこと、それをヨハネスさんが悪ガキども相手に無双して閣下を助けてあげたこと…


「おめぇはしょっちゅうそのことで俺に恩義があるって言ってやがったけどよ、ガキの頃にその恩義とやらはとっくに利子つけて返してもらってたんだぜ。あの後、おめぇは俺に勉強を教えてくれたじゃねぇか。それも何度もよ。物覚えが悪くて、学校の教師連中ですら匙を投げちまった俺を見捨てることなく、俺でも判りやすく興味を持てるように、丁寧に教えてくれてたじゃねぇか」


そう言ってまた酒瓶を呷る。瓶の中の残量に視線がいったのか、今度は二口程度口にした程度で口を離した。


「おかげで、これまで全然判らなかったところが判るようになったんだぜ。…ああ、そうそう。そのすぐ後のテストで、俺がこれまで見たこともねぇ高得点を上げた時のこった。あの落ちこぼれのヨハンがこんないい点数取るわけがねぇって、教師連中は俺の親父やお袋まで呼びつけて不正したんだろって吊し上げやがった」


なにそれムカつく!


「俺が不正なんかしてねぇって何度言っても聞いちゃくれねぇ。これまでがこれまでだから、親父やお袋も俺の言うことを信じちゃくれねぇ。しょうがねぇや、俺はこれまで喧嘩ばかりして、親父やお袋を困らせていた悪ガキだもの。おめぇに、レオンに勉強を教えてもらったから点数が良くなったって言っても、お前みたいな悪ガキがレオンみてぇな優等生と友達なわけがねぇって一蹴されちまった」


…閣下やヨハネスさんが行ってた学校の教師って、クズばっかりじゃないですか?


「そこにおめぇがやってきてくれて、教師連中を言い負かしてくれたんだ。ヨハンは本当に自分が教えたらこれだけ点数が良くなった、子供の自分ができることもできないで、それで貴方達は教師と言えるのか、それでヨハンが不正をしたと疑うのならヨハンのぐるりを取り囲んで同じ内容のテストをやらせてみろ、それで確かにヨハンの学力が上がったことが確認できたら、ヨハンに土下座して謝れって」


閣下、素敵すぎます!抱いて下さい!! (CV : 郷○大輔、6話ぶり2回目)


「おめぇは俺の親父やお袋も諭してくれたよな。親が自分の子供を信じてあげなくっちゃダメだって。俺はあん時、嬉しくって泣いちまったよ。そしたら、おめぇはハンカチを出して『ヨハン、君は誰よりも強いガキ大将なんだから、泣いちゃダメだよ』って言ってくれた」


閣下が格好良すぎて生きてるのが辛いんですけど。


「でも、俺がそのことを言ってもよ、おめぇは絶対に聞き入れようとしやがらなかった。俺に勉強を教えてくれたのも俺の不正冤罪を晴らしてくれたのも、『君の学力を上げられない無能教師どもに吠え面かかせてやりたかっただけだ』って言いやがって、『あいつらは僕の背後にバインツ伯爵家があるのを知っている、子供の僕が大人のあいつらを言い負かすことができたのもそのためだ』って言いやがって」


閣下は、子供の頃からそんなに大人びていらっしゃったんですか?


「『君は君だけの力で僕を助けてくれた、僕は僕以外の力を利用して君を助けた、そんなのは助けたうちに入らない』って、俺が頭悪いから言いくるめようとしやがって、その後もことあるごとに俺の力になろうとしてくれたけど、俺にだって自尊心はあらぁな、おめぇに助けてもらってばかりじゃ男が廃るんだよ!」


閣下のお気持ちも判るけど、ヨハネスさんの気持ちも判る。難しいなぁ。


◇◆◇


「レオン、俺はおめぇに謝らなくちゃならねぇことがある」


え?


「俺がエイミー様のことをおめぇに頼んだ時、おめぇはてめぇの命があと幾許もねぇことを判ってたんだろ?でも、俺に対する義理でエイミー様のことを引き受けてくれた。エイミー様は、おめぇの下で精進なさって、今じゃうちのギルドの押しも押されもしねぇ看板ヒーラーだ。きっと、おめぇもエイミー様のことを将来楽しみに思っていたはずだ」


はい。最後のお別れの時に、そう閣下は仰って下さいました。…いかん、あの時を思い出すと今でも涙が出てくる。お母さんも、ハンカチを目に押しやっていた。


ヨハネスさんは涙声を隠そうともせずに言葉を繋いだ。


「でも、おめぇはエイミー様が大成なさる前におっ()んじまった。きっと心残りだったはずだ。そのことで、エイミー様まで悲しませちまった。おめぇに未練を作っちまって、エイミー様を悲しませちまって、なんて言って謝ったらいいか…!」

「それは違います!」


思わずわたしは、割り込むべからざる会話に割り込んでしまった。驚いた表情のヨハネスさんやお母さんに構うことなく、自分の言いたいことを言ってしまう。


「確かに、わたしは閣下が余命幾許もないと聞いた時にはとても悲しみました。でも、それはヨハネスさんに『悲しませられた』のではなく、ヨハネスさんに『別れをとても悲しんでしまうほど偉大な師匠を紹介してもらった』んです」


ヨハネスさんもお母さんも、目を瞬かせている。


「だから、ヨハネスさんは謝る必要なんか全然ないんです。きっと、閣下もそう仰って下さいます。だから、謝ったりなんかしないで下さい!」


そこまで言って、わたしは割り込んではならない場に割り込んでしまったことを初めて自覚した。


「はッ…!ヨハネスさん、ごめんなさい!」


ヨハネスさんは、穏やかに笑ってみせてくれた。


「いや、エイミー様、その通りでごぜぇやす。きっと、あいつも将来を確信できる弟子を取ることができた、と喜んでいるでしょう」


ヨハネスさんはそうわたしに答えると、もう一度閣下のお墓に向き直った。


「悪かったな、レオン。ちぃと感傷的になって、取り乱しちまった。あ、あとおめぇに言っときてぇことがあった。エイミー様のステータス、ありゃ何でぇ?いくら何でも、偏りすぎだぞ。もうちっと加減とかバランスってもんを考えやがれ」


そこで手に掴んだ酒瓶に気付いたのか、ラッパにしてぐいっ、と飲み干した。


「あぁ、おめぇが発見した “逆加護” な、あれでエイミー様は最近爆発的に魔力を増強させていなさるぜ。おめぇは素晴らしいもんを発見したんだ、パライソで誇りに思えや。あと…ププ…『風魔法なんざ、腐って滅んで死んじまえ』…おめぇらしくねぇけど…すげぇな…どれだけ風魔法が嫌ぇだったんだよ」


閣下の嫌がるところをピンズドで攻めるところは、さすがは幼馴染だ。さぞや、閣下は天国で嫌な顔をしておられることだろう。


「じゃ、また来るぜ。…あ?おめぇ、飲まねぇのか?なら俺がもらうぜ」


ヨハネスさんはそう言って、閣下の墓前にお供えした筈のコップ酒を飲み干した。


…ヨハネスさん、あなたって人は…


◇◆◇


その日の夜、わたしは夢を見た。


【エイミー嬢、昨日は墓参りに来てくれてありがとう】


あなたは…


【 ”逆加護” を活用してくれているようで、嬉しく思う。あれはまさにチートだ。うまく活用して、私を大きく乗り越えてくれたまえ】


か…閣下!


【あと、あなたの魔力水は本当に嬉しいお供えだった。あれほど僅かな期間で、あれほど魔力の強い魔力水を作れるほど成長する素晴らしい弟子を紹介してくれたことを感謝すると、ヨハンに伝えてくれたまえ】


ま、待って下さい!閣下、わたしはまだ閣下に教えて頂きたいこと、教えて頂かねばならないことがたくさんあるんです!


【あともう二つ、ヨハンの奴に伝えてくれたまえ。子供の頃、君に勉強を教えていた時に君が『算術なんざ死んじまえ!』と喚いていたこと、私はよく覚えているとね。それと、人の酒を飲むな、と】


閣下!


【すまないが、もう時間がない。魂に残った魔力では夢にしか、しかもわずかな時間しか干渉できないのだ】


閣下、待って下さい!閣下!!


【また、私の墓に遊びに来てくれたまえ】


◇◆◇


次の日の朝、わたしは見た夢の内容を覚えていなかった。懐かしく、優しい夢であったことだけは覚えているのだが…

悪ガキヨハンと弱虫レオンの友情物語第2弾です。

(・∀・)イイ!!と思って頂けたら、

応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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