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第20話 ヒロインは “逆加護” の存在を知る

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

『加護とは、特定分野のスキル取得やその上達、さらには魔法分野の加護を授かっている場合には魔力の消費量にも大きく正の影響を与える天分である。一方でその逆、特定分野のスキル取得やその上達に、大きく負の影響を与える天分はないものと長きに亘って思われてきた』


『そのため、どのようなスキルでも誰でも取得可能、またある程度までは上達可能であり、スキルを取得できない、また上達できないのは本人の怠慢の故であるとされてきた。結果、初歩スキルをも取得できないことを周囲に叱責、指弾、揶揄され、痛ましいことにはそのことを苦にして自ら命を断つ者すらいたであろうことは想像に難くない』


『しかしながら、希少ながらそのような、初歩スキルすら取得できない者もいることを、私は発見した。他ならぬ、私がそうだったのである』


◇◆◇


今わたしは、治癒魔法の恩師であるバインツ侯爵閣下が加護について著された論文を読んでいる。わたしが氷魔法の取得にめちゃくちゃ苦労したこと、氷魔法の発動にあたって莫大な魔力を消費すること、しかしてその結果発動される氷魔法は甚だ威力が貧弱なこと―つまり、致命的なまでに氷魔法に対する適性がないことの説明を、閣下の著作に求めているのだ。


っていうか、閣下ご自身もそうだったのか。閣下って、何がわたしの氷魔法みたいにダメダメだったの?


『ヒーラーとして既に名声を得ていた20年前頃のある日、私は宮廷魔術師団の入団試験を受けた。既にS級高速、所謂S級治癒魔法の高速発動を自家薬籠中の物としていた私は、いかに加護のない他属性の魔法であろうとも、治癒魔法ほどではないにせよ使いこなしてくれん、と今にして思えば思い上がりにも程がある、傲慢千万な自信を持っていたのだ』


閣下って、自家薬籠中って表現お好きだな。…何だって!この論文を書かれたよりも20年前の時点で、閣下はS級治癒魔法の高速発動を自在に使いこなしておられたってことなの!?


…ってか、この論文いつ書かれたもんだよ…閣下が、43歳の時、宮廷魔術師長に就任された時の論文か…ってことは、閣下は23歳の時にはすでにS級治癒魔法の高速発動を自由自在に使いこなしておられたことになるぞ!?


…つくづく、閣下は治癒魔法に関しては化け物だ。


『ところが、宮廷魔術師団の入団試験のための訓練で、私のプライドは木っ端微塵に打ち砕かれた。炎魔法と氷魔法は比較的容易に取得し得、また順調に上達し得たが、風魔法は全く取得できなかったのである。如何に優秀な師に就いても、また粉骨砕身の努力を重ねても、風魔法の発動機序が全く理解できなかったのだ』


『諸賢もご存知の通り、宮廷魔術師団への入団には、最得意な魔法属性においてB級以上かつ、他の魔法属性においてC級以上のランクの呪文を使いこなすことが求められる。私は治癒魔法については言うに及ばず、炎魔法と氷魔法も基準をクリアしていたが、風魔法だけはE級魔法すら発動できなかったのだ』


閣下って、風魔法がダメダメだったんだ…


『当時既に『治癒の導師』と呼ばれ、治癒魔法の第一人者と評されていた私の屈辱をお察し頂きたい。それ以降、口の悪い同僚に『治癒は神だが風はゴミ』などと評され、逆上のあまりその時着けていた手袋を脱ぎそうになった記憶すらある』


誰だよそのクソ野郎!閣下に失礼なことほざきやがって!閣下、手袋投げつけてやって下さい!!わたしだけじゃなくって、ヨハネスさんもお父様も絶対に共闘人になってくれますから!!


『この屈辱はただでは雪がない…そう考えた私は、爾後死に物狂いで風魔法の習得に努め、苦心惨憺たる1週間、ようやくE級風魔法を習得することができた。しかし、苦難の道はそこからだったのである』


1週間って、閣下にしちゃえらい時間かかったな…わたしだって氷魔法の習得に2日で済んだぞ…あ、閣下にはあのギルドの氷魔法の先生みたいに、風魔法を丁寧に教えてくれる人がいなかったんだ…


あの人、氷魔法について、致命的に適性がなかったわたしに氷魔法を習得させてくれたのに、ヨハネスさんにボコされるようなことになっちゃって、本当にごめんなさい…お詫びに、今度強力な治癒魔法をご馳走させてもらいますね。


『風魔法を発動させるために、莫大な魔力を必要とする。それなのに、発動させた風魔法の威力の貧弱さたるや、目を覆わしむるほどだ。さらに救いのないことに、風魔法の上達速度は信じ難いほど遅かった。風魔法を習得してから1年経っても、D級風魔法すら習得できなかったのである』


ということは、わたしも氷魔法の上達はとても期待できないってことか。


『結局、私がC級風魔法を自家薬籠中の物として、宮廷魔術師団に入団することができたのはそれから8年後、31歳の時であった。他の者は皆20代、10代の者すらいた中で私だけ30代である。周囲の目が痛かった』


…はぁ!?何それ!?風魔法っていう激烈極まりない足切り要因を、C級風魔法を使いこなせるまでに上達させたってこと!?…この方は治癒魔法だけじゃない、努力でも化け物だ。あれだ、男アナスタシアだ。いや違う、アナスタシアの方が『女バインツ侯爵閣下』だ。


『実際、今でも風魔法は得意でもなければ好きでもない。むしろ、大嫌いである。若い頃には “風” という単語すら目にしたくなかった。夜中に、寮の自室で “風魔法なんぞ腐って滅んで死んじまえ!” と叫んだことすらある。今にして思えば、汗顔の至りだ。穴を掘って埋まりたい思いである』


この一文を読んで、思わず吹いてしまった。そりゃ大嫌いにもなりますよ、閣下。


『当時は、この風魔法に対する神懸かり的な適性のなさを嘆くのみだったが、意外な、そして甚だ大きな利点もあった。この利点について、私は口を緘する。七転八倒、悪戦苦闘、四苦八苦、苦心惨憺、死に物狂いで得ること叶った裨益である。軽々に教えたくはない。読者諸賢には、ご自身の考えで答えをお導き頂きたい』


…それはもう、ありえないレベルで適性のない属性の魔法をC級に至るまで上達させたんですよ。どれくらい魔力を消費するんですか?どれだけ魔力枯渇ギリギリからの超回復が見込めるんですか?おまけに、閣下のことだからあの青臭くて苦くてまずいポーションをガブ飲みして、無理矢理に魔力を回復させてでも風魔法の精進に励んだんでしょ?そりゃ、胃ガンにもなりますよ。閣下のバカ…


で、結果得られた『裨益』ってのが、人間業とも思えない強大な魔力であり、その結果生まれたのが『治癒の賢者』っていう魔力の化け物なんですね、判ります。


『私は、この特定属性に対する神懸かり的な適性のなさ、大きな負の影響を与える天分を “逆加護” と呼ぶことを提言する。こと魔法に関しては確かに巨大なデメリットを持つ一方、使いようによっては大きな加護ともなりうるためである』


◇◆◇


…何か違うんじゃないか?その思いが、わたしの心をよぎった。


…閣下がそれだけしんどい思いをされて手に入れられたものを、本を読んだだけで掻っ攫うのは卑怯じゃないか?


閣下は、”逆加護” に頼らずとも、S級治癒魔法の高速発動を自在に使いこなしておられた。片や、わたしはA級治癒魔法の高速発動に必要な魔力すら “逆加護” に頼って得ようとしている。そんなことでは、『レオンハルト・フォン・バインツ侯爵の弟子の1人であるエイミー・フォン・ブレイエス』にしかなれないんじゃないか?


閣下が望まれたように、閣下に『エイミー・フォン・ブレイエスの師匠であるレオンハルト・フォン・バインツ侯爵』になって頂く事は絶対に無理なんじゃないか?


その想いに囚われ、最後のセンテンスは頭に入らなかった。


『あるいは、”剣士” のような魔法以外の属性についても、この “逆加護” はあるのであろうか。関係各所と協力して研究することが叶えば、その疑問に答えを得られるかもしれない。そして、もしも “逆加護” が他の属性にも存在したとすれば、それが人間存在の進歩に大きく寄与すると私は確信する。…』

ヒロインの最後の思いに感じるところを持って頂けたら、

応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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