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第2話 ヒロインは贖罪のために悪役令嬢を救うことを決意する

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

乙女ゲーム『マジコイ (くどいようだが、これは通称である) 』の悪役令嬢たるアナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレットは、かつての病んでいた俺に言わせれば、俺の嫌いなタイプの女性の性向を完璧に満たしていた。大事なことだからもう一度言うが、「容姿端麗、頭脳明晰、身体能力抜群、血統高貴、しかしてそれらの長所を全部台無しにするほどどうしようもなく性格が悪い」という奴である。


容姿端麗、頭脳明晰、身体能力抜群については説明の余地はあるまい。血統については、彼女はセントラーレン王国でも指折りの名門貴族、ラムズレット公爵家のお嬢様であり、この乙女ゲーの攻略対象キャラの一人でもあるカールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン王太子の婚約者である。


最後の要素、性格の悪さについてだが、ゲームの中の攻略対象キャラのいずれを攻略していても、アナスタシアは攻略対象キャラとヒロインがいちゃついている場所にしゃしゃり出てきては説教するのだ。


その説教の内容に曰く、

「身分の差と礼節を弁えろ」

「式典や食事のマナーがなっていない」

「娼婦でもあるまいに、婚約者のいる異性に近づくとはどういう了見か」

「貴族や王家の人間は、民草の納める税によって生きている。そのことを自覚して、民草のため、国のために責務を果たすべく自らを高める努力を絶えず続けろ。学校はそのための場所であり、恋愛ごっこを楽しむ場所ではない」etc、etc…


ぐうの音も出ないほどのド正論である。しかしその後に、

「お前のご両親はそのようなこともお前に教育なさらなかったのか」

「斯様な、礼儀作法も貴族の何たるかも弁えぬ女と席を同じくなさるとは嘆かわしい。そのようなことでこの国の国王 (柱石) が務まるとお思いか」

などと、そのゲーム中随一の美貌に冷たい軽蔑の色すら浮かべていちいち言わでもの嫌味を飛ばすのである。


この言動が、このゲームのプレイヤーのヘイトを一身に集めたといっても過言ではない。そのカタルシスが爆発するのが、王城で行われた高等学園の学年度末パーティーにて、カールハインツがアナスタシアに対し婚約破棄を宣告する、所謂『断罪イベント』である。


「いちいち下らぬ理屈を捏ね回し、王族に対してすら侮辱的な言辞を弄した」

「徒党を組み、気に入らぬ学生に対し寄って集って数多の嫌がらせを行った」

「挙句の果てには、その学生に対して階段の踊り場から突き落とすといった殺人未遂行為すら行った」


これらの理由によってカールハインツはアナスタシアを断罪し、斯様な性根の腐り果てた女には王妃の資格はない、と婚約破棄を宣告するのだ。あと、言うまでもないが上述の『学生』とは、ヒロインであるエイミー・フォン・ブレイエスである。


そして、カールハインツの取り巻きでもある他の攻略対象キャラがそうだそうだと囃し立て、アナスタシアを一方的に非難し断罪するのだ。それらの非難の中には、全くの事実無根のものやただの誹謗中傷すらあったが、それはこの際措く。


そして、その非難や誹謗中傷に対し、怒りが自制心を超えてアナスタシアはエイミーに対して手袋を投げつけ、決闘を申し込む。その決闘に当たり、カールハインツや他の攻略対象キャラが代理人となって立候補するのだ。


いくら何でも王太子に対し決闘を申し込むものなどおらず、アナスタシアは自ら戦うハメに陥る。


その結果、多勢に無勢、しかも主君筋に当たるカールハインツに対してまともに攻撃することができなかったアナスタシアは一敗地に塗れ、そのまま学園を追放されることとなった。


学園を退学させられて、地方の修道院に送られる予定であったアナスタシアはその道中で賊に襲われ、そのまま行方不明となる。そこからのアナスタシアの破滅っぷりは悲惨を極めるのだが、それは後述させて頂くとしてその後のゲームのシナリオについて話させて頂く。


◇◆◇


アナスタシアが追放されただけなら悪役令嬢がいなくなってめでたしめでたしだが、ここから話はすさまじくシリアスになる。


まず、セントラーレン王国屈指の名門貴族たるラムズレット公爵家の令嬢が社交界から放逐されたことによって宮廷内のパワーバランスが崩れ、内乱が勃発する。


そしてその内乱による混乱に乗じた敵国エスト帝国の侵攻を受け、王都ルールデンは帝国軍に占領されて破壊され尽くし、略奪され尽くして瓦礫の山と化してしまう。その際に、住民たちは皆殺しにされてしまうのだ。


かくて帝国の魔手によって蹂躙され尽くしたルールデンからヒロインたるエイミーと攻略対象キャラは逃げ出し、王都の奪還と王国の再興を目指して奮闘する、というのがこのゲームの後半部分のシナリオだ。


そして、王都奪還のための戦いのクライマックスで、行方不明になっていたアナスタシアが再登場するのだ。


◇◆◇


修道院に送られる途中で賊の襲撃を受けたアナスタシアはそのままならず者どもの慰み者にされた挙句エスト帝国に奴隷として売り飛ばされ、しかも自分を襲撃し、凌辱した賊どもが実は王太子とその取り巻きの差し金であったこと、更には実家であるラムズレット公爵家が内乱に巻き込まれて滅亡したことを聞かされて絶望のあまり精神崩壊してしまう。


驚き呆れるべきことに、アナスタシアが賊どもに輪姦されるスチルすらあった。これじゃぁ、乙女ゲーじゃなくって鬼畜凌辱系エロゲじゃねぇか…


話がずれたが、精神崩壊したアナスタシアはエスト帝国から魔剣を与えられ、その魔剣に精神を支配されて暗黒騎士となり、帝国軍の尖兵として王都ルールデンに侵攻してくる。王都が壊滅し、そこの住民が鏖殺されるのはそのときだ。


その闇堕ちした暗黒騎士アナスタシアを、平和を願う慈愛の心で聖女の力に目覚めたヒロインと攻略対象キャラが力を合わせて打倒し、そして結ばれてハッピーエンドとなるのだ。


言うなれば、アナスタシアはこの乙女ゲーのラスボスであるとも言えるだろう。


◇◆◇


プレイしていた当時は気にもかけなかったが、精神的に落ち着いた今にして思えば本ッ当に酷すぎるシナリオだ。このゲームそのものが、アナスタシアに対するヘイト創作であると言っても過言ではない。『公式が病気』『公式が末期』という言葉があるが、このゲームはそれを通り越して『公式がご臨終』だ。


この乙女ゲーを俺に教えてくれた人が「悪役令嬢のアナスタシアって、本当に性格の悪い女なんですよ」と言っていた。糞上司のパワハラで病んでいたときには確かにそう思っていたが、今では胸を張って言える。


それは断じて違う!


アナスタシアがカールハインツ王太子と婚約したのは彼女が8歳の時だが、それ以来彼女は王妃として、また国母として相応しい女性となるべく懸命かつ不断の努力を重ねてきた。


名門貴族の令嬢、また王太子妃・王妃、そして国母たるに相応しい教養と立ち居振る舞いを身につけるため、礼儀作法、学問、体術、剣技、魔法、芸術などのありとあらゆる分野において強烈な―否、震度の基準を当てはめて言うのであれば激烈な努力を続け、そしてその優れた才能を開花させたのだ。


アナスタシアは、性格が悪いのではない。他人に対してもそうだが、誰よりも自分に対して厳しすぎるだけなのだ。


それほど過酷な努力を続けてきたオチがこれでは、いくら何でも酷すぎる。いくら何でもあんまりだ。アナスタシアがかわいそうすぎる。


そんなことにも気付かず、プレイしていて「悪役令嬢ざまぁww」なぞと草を生やしていた当時の自分をマックパワーで殴りたい。助走つけて。素手でなくバールのようなもので。


◇◆◇


あの乙女ゲーのスチルを再確認して以来、強烈な後悔と自己嫌悪、そしてそれ以上にかつてのプレイヤーとしてアナスタシアに対する罪悪感にずっと苛まれて塞ぎ込んでいたのだが、こうしてヒロインであるエイミーに転生できたのはある意味望外の僥倖であった。


アナスタシアに直接謝るわけにはいかない。先方だって訳が判らないだろう。


だが、贖罪の意思を行動で示すことはできる。それは、彼女をこの糞ふざけたヘイトシナリオから守り、救って幸せになってもらうことだ。


ただのモブキャラだったら困難を極めるだろうが、今の俺はこの世界のヒロインだ。多分何とかなるだろう。


…何とかなる…よね?

精神の健康のため、ヘイト創作のやりすぎには注意しましょう。


ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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