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第18話 ヒロインは魔力の増強のためスキルを増やす

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

魔力増強で行き詰まりを感じていたわたしは、亡師であるバインツ侯爵閣下が遺された蔵書の中に魔力増強についての書籍があるかどうかを調べ、見事にその書籍のありかを突き止めた。


その際に、ちょっとしたハプニングがあってわたしは右手を骨折するハメに陥ったが、残念ながらB級治癒魔法の高速発動で事なきを得る程度のケガだったため、魔力増強の定番手法である『魔力枯渇ギリギリからの超回復』には使えなかった。まさに骨折り損のくたびれ儲けだ。糞ったれの畜生が。ケッ!


あ、前にそれやってヨハネスさんに叱られたんだった。大事なことだから二度言いました。


それはそれと、早速わたしは閣下の蔵書を読み、効果的な魔力増強法の確立に乗り出した。え?閣下が開発された魔力増強法をそのままなぞればいいだろって?そんな工夫のないことをした日には、閣下に夢枕に立たれてド叱られるわ。そもそも、閣下は判らないことを聞いたら答えをそのまま教えて下さるような方ではない。


案の定、というか期待通り、というか、魔力増強法をそのまま書いたような論述は、閣下が遺された書籍の中にはなかった。


◇◆◇


数多の書籍を読み耽っているうちに、以下2つの文章がわたしの興味を引いた。


『加護がスキルの獲得やその上達に正の影響を与えることは言を俟たないが、魔力の消費にあっても正の影響を与えることが判明した。私の経験上、加護を授けられた分野の魔法と、授けられていない分野の魔法では、同程度のクラスの魔法であっても魔力の消費量が違うのである』


『私は神のお導きを頂いて “癒し” の加護を授けられたが、天使の守護をも頂いて氷魔法、炎魔法、風魔法のスキルを得ることができた。そこで、”癒し” の加護が正の影響を与える治癒魔法と他のジャンルの魔法について、同ランクの魔法をそれぞれ発動してみたところ、他のジャンルの魔法は発動に当たって治癒魔法の、少なくとも5割増し、ひどい時には100倍以上の魔力を消費することが判ったのである』


文章の内容から判るように、これは閣下ご自身の著作である。閣下は、この莫大な蔵書の3割弱しか読んでおられない。残りの7割強は、閣下が執筆されたものだ。


閣下は当代随一のヒーラーであられたと同時に、古今屈指の魔法学者でもあられた。閣下が提唱された魔法学の理論は魔法学の発展に多大な貢献を為している。没後ながら、一代限りで侯爵号を授与されたのも頷ける。わたしの前世の日本でいえは、学者でありながら大勲位菊花大綬章を没後叙勲されるようなものである。


一瞬、現在伯爵家のバインツ家が侯爵家に陞爵したら閣下の称号はどうなるんだろ、という疑問が頭を掠めた。だがそんなことはどうでもいい。大事なのは、上の2つの記述である。


『加護を授けられた属性の魔法は、そうでない属性の魔法よりも発動に必要な魔力が少なく済む。その差は、酷いときには実に100倍以上にも及ぶ』


閣下の2つの論述を合わせると、上の記述になる。


今のわたしの魔力ステータスはAマイナスである。これは、初等治癒魔法であるE級治癒魔法であれば実に1000回発動してようやく枯渇するほどの魔力であり、まあまあ強大だ。


だが、わたしにとっての、その発動に必要な魔力が治癒魔法のそれの100倍に至る分野の魔法を見つけたとしたら―たった10回その分野の初等魔法を発動しただけでわたしの魔力は枯渇に至る。あんまりやりたくはないけど、まずいポーションを傍に置いて飲みながらそれを繰り返したら、さらに効果は増強される。魔力枯渇ギリギリからの超回復を狙うにはうってつけの方法である。おまけに、所詮は初等魔法に過ぎないため、A級治癒魔法の発動ほど心身を消耗しない。


では、わたしにとってのそういう分野の魔法を見つけたらいいのだ。


よっしゃ!道が見えてきたぜ!!


◇◆◇


そういうわけで、わたしはギルドで暇している冒険者の中で、魔法系のスキルを持っている人に当たって炎魔法、氷魔法、風魔法の主要3魔法分野の初歩魔法を教えてもらった。


「いつも俺たちのケガを治癒して下さってるエイミー様にお願いされちまっては、嫌とは言えませんや」


皆さん、そう言って教えてくれた。本当にありがたい。


炎魔法と風魔法は、比較的容易にスキルを取得できた。…といっても、治癒魔法とは比較にならんくらい苦労させられたが。あとで発動してみたところ、炎魔法は治癒魔法の7倍程度、風魔法は治癒魔法の5倍程度の魔力を消費していた。この程度では、わたしの魔力を容易には枯渇させられない。どうやら、わたしにとって大きく魔力を消費するのは氷魔法のようだ。


…本ッ当に苦労させられたのは、まさにその氷魔法であった。


わたしに氷魔法を教えてくれた人は、本当に丁寧に説明してくれた。それなのに、発動機序が全然理解できないのである。彼が何度も何度も丁寧に説明してくれるのにちっとも理解できないわたしに対し、苛立ちを募らせているのが滲み出ていた。自分が情けなくて悔しくて、それ以上に悲しくて、何よりも教えてくれる人に申し訳なくて、最後の方はボロボロ涙を流してしまった。


途中から「だーかーらー…」と苛立ちをあからさまに示していたその人は、わたしがボロボロ泣き出したのを見て、これ以上ないほどに狼狽してしまった。


「あ、あのっ、エイミー様、これは…」


彼が弁明するよりも先に、ちっとも理解できない私が悪いことを説明し、謝ろうとした。だがそうする前に。


「あーあ、エイミー様を泣かせちまった」

「お前、人生オワタな」

「確実に、ブレイエス男爵様に手袋投げつけられるぜ」

「でもって、男爵様の共闘者にギルド長が立つんだ」

「俺たちゃ、お前の共闘者には立たねぇよ」

「お前の不始末だ。お前の命で贖えや」


周囲の冒険者たちが、そうやって囃し立てる。とうとう、わたしに氷魔法を教えてくれていた人は、わたしの前に跪くだけでは飽き足らずギルドのロビーの石畳にガンガン額を叩きつけて懸命な謝罪を繰り返した。


「え、エイミー様、本当にごめんなさい、すいません!いつもケガを治して頂いてるのに、氷魔法を覚えられないくらいでイラついてしまって、本当にごめんなさい!この通りです、どうか許して下さい!ギルド長やブレイエス男爵様にも、内密にお願いします!!」


とうとう彼の額が破け、辺りに血が飛び散り出した。流石にエキセントリックな状況に周囲の冒険者たちが顔を見合わせたとき、泣いていたわたしはさすがに我に返って「やめて下さいッ!」と叫んだ。


「そんなこと、やめて下さい。ちっとも覚えられないわたしが悪いんです。あなたは悪くないです。覚えが悪くて、本当にごめんなさい」


そう言って、痛覚遮断と診断、また浄化と消毒を施した上で彼に治癒魔法を施した。よほど酷く額をぶつけたと見て、傷の具合はかなり酷い。痕を残さないようにするためには、C級治癒魔法の通常発動が必要だ。


わたしは彼に対するお詫びの意も込めて、C級治癒魔法を高速発動した。これなら傷の治りも早い上に痕は絶対に残らない。ついでに強く打った頭の中身を確認しようと思って、改良した診断魔法を施した。


この診断魔法は、通常の診断魔法とは異なり、体の内部、脳や臓器の様子を見る魔法である。バインツ侯爵閣下が薨去された原因がステージIVの胃ガンだったので、さまざまな病気や疾患の早期発見に役立てばと思って改良した。何らかの異常があれば、そこが赤く光るようになっている。尤も赤く光るだけで、どのような異常かは判らない。


彼の頭の中には光る場所はなかったので、安心した。しかし、肝ノ臓の部分が光っている。お酒は控えた方がいいですよ。


「はい、終わりました。覚えが悪くて、本当にごめんなさい」

「あ、ありがとうございました!あんなひどい仕打ちをした俺の、それも自業自得のケガを治癒して下さるなんて、エイミー様は素晴らしい女性です!聖女様です!氷魔法なんか、覚える必要なんて全然ないです!!」


聖女なんかじゃありません。氷魔法の初歩も碌に覚えられないポンコツです。


「ありがとうございます。でも、普通にやってたら魔力がちっとも枯渇しないで、超回復からの魔力増強ができないから、氷魔法をどうしても覚えたいんです。ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ないんですけど、もう少し付き合って下さい」


わたしがそう言って頭を下げると、彼はもう一度土下座した。


「あ、ありがとうございます!もう絶対にイラついたりしません!」

「おうおう、吐いた唾飲み込むなよ」

「お前がもう一度エイミー様を泣かせやがったら、俺がブレイエス男爵様とギルド長にチクってやるからな」

「ぜ、絶対にそんなことしねぇよ!」


また狼狽して反論する彼の様子がおかしくて、わたしは笑いをこらえるのに苦労させられた。…なぜ笑いをこらえたかって?わたしのせいで他の冒険者に散々揶揄(からか)われたんだぞ。笑ったりしたら失礼じゃねぇか。


◇◆◇


結局わたしはその日だけでは足りず、次の日の帰るギリギリの時間になってようやく氷魔法のスキルを取得できた。丁寧に、しかも根気強く教えてくれた彼には、感謝してもしきれない。なお、氷魔法を発動してみたところ、魔力消費量は治癒魔法の実に140倍にも達していた。これは、氷魔法を7回発動したら魔力が枯渇に瀕するほどの数字である。


おまけに、それほどの苦労をして、それほどの魔力を消費してようやっと出せた氷は、ありえないくらい貧弱ですぐに溶けてしまった。ギルドの皆さんはそれでも我が事のように喜んでくれたが、なんか恥ずかしい。穴掘って埋まりたい。


◇◆◇


…わたしが氷魔法だけ極端に物覚えが悪かった理由については、後述させて頂く。

女の子を泣かせたらダメだよね、と思って頂けたら

応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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