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第16話 ヒロインはギルド長と治癒の賢者の友情物語を聞く

最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。

現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。

完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。

食堂で大号泣したせいか、何とか気分は落ち着いた。


王立魔法病院の特別室の前に着き、扉をノックする。ヨハネスさんが出てくれた。


「ヨハネスさん、閣下とのお話は済みましたか?」

「へい、エイミー様、お気を使って下さって、ありがとうごぜぇやした」


特別室の奥に入ると、レオンハルト・フォン・バインツ閣下が死病に冒され、ガリガリに痩せ果てた病躯をベッドの上に横たえておられる。その姿を見ると、また涙が出てきた。


「エイミー嬢、ヨハン、今日は私を見舞いに来てくれてありがとう。エイミー嬢、あなたを私の最後の弟子とし得たことを本当に嬉しく思う。ヨハン、これで君に対する恩義を返し切れたかな?」


ヨハネスさんはその厳つい顔を顰め、逞しい手を振った。


「またおめぇは、あんなもんをいつまでも恩義に感じやがって…。ありゃあ、俺がやりてぇからやったこった。おめぇが恩義に感じるこっちゃねぇよ。こっちこそ、先々代の宮廷魔術師長でいらっしゃる王立魔法病院名誉院長閣下に頼むようなこっちゃねぇことをやってもらって、感謝の言葉もねぇよ」

「君の依頼なら、私は万難を排してでも成し遂げるべく努力し、そして必ず達成する。これは、私が己に課した誓いだ」


神に誓うような敬虔な閣下のお言葉に、ヨハネスさんは粗野な返事を返した。


「はぁ、レオン…おめぇはな、いちいち言うことが大袈裟なんだよ…じゃぁな」


その「じゃぁな」に、どれほど重い意味が込められているのだろうか。わたしには想像もつかない。


「ああ。先に行っている。ヨハン、エイミー嬢のためにもなるべく遅く来いよ」


そう閣下はヨハネスさんに仰ると、わたしに視線を向けられた。


「エイミー嬢、あなたが『レオンハルト・フォン・バインツの弟子』と呼ばれるのではなく、私が『エイミー・フォン・ブレイエスの師匠』と呼ばれる未来を、私は心から願っている。泉下にいる私に、ぜひその光景を見せてくれたまえ」


わたしはあほだが、閣下がその言葉の中にどのような意思を込められたか、それを読み取れないほどのあほではない。


眼鏡を外し、執拗に潤んでくる目をゴシゴシと擦って、わたしは腰を120度ほどまで折って最敬礼した。もう、下手なカーテシーなんぞより、こっちの方がいい。


「閣下、今までご指南頂き、本当にありがとうございました!」


わたしの渾身のお礼に、閣下は痩せ細った拳を振り上げることで応えて下さった。


◇◆◇


冒険者ギルドに帰る馬車の中で、ヨハネスさんは話してくれた。


「エイミー様。閣下…レオンの野郎とあっしは、幼馴染だったんでさぁ」


わたしは驚いた。名門貴族の当主と荒くれの冒険者が幼馴染?


「レオンの親父―先々代のバインツ伯爵閣下は、”炎魔法” の加護をお持ちの、本当に優秀な魔導士でいらっしゃったんですが、その…エイミー様の前ですから…何と言いやすか…」


あぁ、要は閣下のお父上は下半身に節操のないタイプの男だった、ということですね。でもって、平民の娘を孕ませて、結果『治癒の賢者』が生まれた、と。この世界では、珍しくもないことなのだろう。


何せ、わたしもそうだったし。…まぁ、わたしの場合は両親の仲が良好だから、その中では恵まれている方だろう…良好すぎるという点を除けば。


「…その、まぁ、そういう事情でレオンの奴が生まれたんでさ」


ヨハネスさん、そんなに言葉を濁さなくてもいいですよ。今のわたしはアラフィフのおっさんです。閣下のお父上が海綿体脳の槍珍だったって、はっきり言って下さっても大丈夫ですよ。


◇◆◇


「レオンはガキの頃は病弱で体も小さくて、おまけに先々代バインツ伯爵閣下の庇護があったもんだから結構裕福な暮らしをしてやして、しかも後々に宮廷魔術師長になったぐれぇだから勉強もすげぇできて、そんだもんでしょっちゅういじめられていたんでさ」


判る。金持ちのくせに体が小さくて、しかも勉強ができる奴ってのは、判りやすいいじめのターゲットだ。


「でも、あっしは昔からいじめってぇもんが大ッ嫌ぇだったもんで、あいつをいじめていた奴らを毎回ボコボコにしてたんでさ。あいつが1発叩かれたら、あっしはあいつを叩いた奴を5発ぐらい殴っていやした。あっしはガキの頃から体も他の奴より一回りデカくて、一対一のケンカなら負けたことがねぇ、ってのが自慢の悪ガキでしたからね」


ヨハネスさん、素敵です!抱いて下さい!! (CV : 若〇規夫)


「で、あいつはそのことをめちゃくちゃ恩義に思ってくれてたんでさ。そうこうしてる間に、バインツ伯爵家のご本家の若様やお嬢様が軒並み流行病(はやりやまい)で死んじまいなすって、あいつがバインツ伯爵家に引き取られて、跡取りになったって寸法でさ」


どこかで聞いた話だなぁ…あ、わたしと同じだ。わたしはまだブレイエス男爵家の庶出子の扱いだけどね。お父様の先妻様が亡くなったことのほとぼりがまだ覚めていなくて、お母さんがまだブレイエス男爵家の正式な令夫人になっていないから。


「で、あいつとあいつのおっ()さんは先代のバインツ伯爵閣下の奥方様に随分いじめられて苦労したみてぇですが、その後 “癒し” の加護を授けられていたのが判って、それでヒーラーとしてすげぇ鍛錬して、宮廷魔術師長にまでなったんでさ」


ヨハネスさんはあっさり言ってるけど、閣下はもうそれこそ死に物狂いの鍛錬を続けてこられたんだろうな。悪役令嬢アナスタシアが、カールハインツ王太子の婚約者になってから続けてきたものよりも遥かに過酷な精進を。


「で、宮廷魔術師長になったときに、当時このギルドで冒険者やってたあっしを尋ねてきて、『ヨハン、昔の恩義を返したい。私が君や君の家族、君の仲間たちの力になれるようなことがあったら、何でも言ってきてくれ。私は万難を排してでも君の依頼を成し遂げよう』って言ってくれたんです。おかげで、あいつが魔術師長をやってた頃は、宮廷魔術師団はうちのギルドに本当に良くしてくれやした」


ものすげぇ規模の恩返しだな。


「あっしがギルド長になった頃に、あいつは王立魔法病院の院長になりやして、またそのおかげで王立魔法病院はうちのギルドに本当によくしてくれてやした。それでもあいつは『まだあのときに君にかけてもらった恩義を返し切れていない』ってほざきやがって、そのことでケンカになっちまったこともありやす」


ヨハネスさんも閣下も、何やってるんですか。


◇◆◇


ヨハネスさんは鼻をずずっ、と啜り上げ、潤んでいるに違いない目を擦った。そしてわたしの方に顔を向け、怖くなるほど真剣な目をしてわたしに言った。


「エイミー様、あいつを超えるぐれぇの、この国有史以来のヒーラーになって下さいよ。それこそがあいつの、レオンの願いです」


ヨハネスさんの視線を、わたしは眼鏡越しに真っ直ぐに受け止めた。絶対に、この視線に気圧されてはならない。


閣下の、そして閣下の親友のヨハネスさんの想いは、とてつもなく重いものだ。だが、それらがどれほど重いものであっても決して逃げずに受け止めて、閣下を超えるヒーラーになるくらいの、死に物狂いの努力を続けなくてはならない。近日中に閣下が(おもむ)かれる場所で、いつか閣下とお会いしたときに、閣下に胸を張って自分の人生を報告することができるように。


◇◆◇


その3日後、新聞に閣下の訃報が掲載された。本当に、あれから3ヶ月どころか、1ヶ月も生きることができなかった。享年67。


セントラーレン王家は、閣下のヒーラーとしての、また宮廷魔術師長としての功績を嘉し、閣下一代に限り『侯爵』の称号を与えることを公表した。本来侯爵とはセントラーレン王家と姻戚関係を結んだ伯爵家に与えられる爵位であり、閣下のご実家であるバインツ伯爵家は王家と姻戚関係を結んだことはないため、これは異例中の異例の措置である。


爾来(じらい)、『バインツ侯爵閣下』とはレオンハルト・フォン・バインツ閣下お一人のことを指す固有名詞となる。だから、これからはわたしも閣下のことを『バインツ侯爵閣下』と呼ばせて頂く。


閣下、今は、わたしは閣下の弟子として、恥ずかしくないだけの鍛錬を続けて参ります。そして、いずれ閣下がお望み下さったように、閣下が「エイミー・フォン・ブレイエスの師匠であったレオンハルト・フォン・バインツ侯爵」と呼ばれるだけの、それだけのヒーラーになってみせます!どうか、ご照覧下さいね!


◇◆◇


…それにしても、バインツってどっかで聞いたことある姓のような…

ギルド長と治癒の賢者の友情物語に(・∀・)イイ!!と思って頂けたら、

応援を宜しくお願い致します。


また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、

本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。


厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも

頂きたく、心よりお願い申し上げます。

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