第10話 ヒロインは魔力の増強に努める
最終話まで書き終えたことに伴い、章設定を行いました。
現行の物語を本編とし、最終話以降におまけ・後日談を付け加えていく予定です。
完結後も引き続きご愛読のほど、宜しくお願い致します。
わたしが中学校を飛び級で卒業してから2週間ほどして、わたしの王立高等学園の受験資格取得と学科試験免除の連絡がブレイエス男爵邸に届けられた。
え?一人称が変わってるって?こまけぇこたぁ (ry
わたしもよく判らないが、このように一人称が変わった理由は、前世からこの乙女ゲーの世界に転生してエイミーの中の人になった『俺の精神』が、『エイミーの身体』に影響を受けたためではないか、わたしはそう考えている。
「魂が器に影響を与えるのは無論のことだけど、魂が器に影響を受けることもあるんだお。おっおっおっww」
かつて、魂と器―即ち肉体―との研究で名を遺した賢者の言である。
以前からその兆候は見られたが、それが覿面に現われたのは中学校を卒業してから数日後、わたしの女性としての人生に重要なイベントが起きてからだった。
◇◆◇
中学校卒業後2~3日ごろから、下腹部が張り、また重苦しい痛みが続いていた。また、十分寝ていたはずなのにやたらと眠いことがあったり、理由もなくイライラしたり気力や集中力が続かずぼーっとしてしまうこともあった。原因が判らないことが、さらにイライラに拍車をかけた。
「エイミー様、そんなこともありまさぁね。そんな時は無理をしねぇでゆっくり休むのが一番でさ。今日の鍛錬は休みにして、また元気になってからやりやしょう」
わたしの治癒魔法の師匠である冒険者ギルド長のヨハネスさんはそう言って、その日の治癒魔法の鍛錬を休みにしてくれた。申し訳ない。
なお、中学校を卒業してからはヨハネスさんの都合がつく日は毎日治癒魔法の鍛錬をつけてもらっている。卒業以前は土曜日と日曜日だけだったが、卒業して中学校に行く必要がなくなったため毎日訓練をつけてもらえるようになったので、ヨハネスさんにお願いしてそのようにしてもらうことにしたのだ。
そうして間もない時期になって、このザマである。本当に申し訳ない。
自己嫌悪と体調不良で落ち込んでいたある日、何の気なしにトイレに行って下着を下すと―下着が赤黒く汚れていた。
「ひッ…!何これッ…!」
一瞬蒼ざめたが、わたしは前世からグロ耐性とスカ耐性が天元突破している。すぐに冷静になることができた。そして冷静になると、何がどうしてこうなったのか理解できたのである。
「あ、そっか…」
要するに、わたしは病気でもない限り月に一度起こる、女性特有の体調不良を発症 (病気ではないわけだから、その表現も変だが) したのである。そして、これがエイミー・フォン・ブレイエスとしての人生最初の女性特有の体調不良であり、『エイミーの肉体』が『俺の精神』に決定的な影響を与える一打となったようだ。
それ以来、わたしの一人称は『俺』から『わたし』に、お母さんの呼び方は『母親』から『お母さん』に、お父様の呼び方は『父親』から『お父様』に変わったというわけだ。
◇◆◇
もともとわたしの正体はアラフィフのおっさんである。女性特有の体調不良について、知識としては知っていた。まさか自分で経験することになるとは思ってもみなかったため、そうなってしまったときは多少面食らったが、冷静に対処することができればどうということはない。
とまれ、わたしは対処法をお母さんに教えてもらうことにした。
◇◆◇
お母さんは、お父様の居室にいた。お父様の居室の扉のノッカーを叩くと、それに応えるようにお父様の声がした。
「何かな」「お父様、エイミーです。お母さんはいますか?」
お母さんの優しい声がそれに応える。
「いるわよ。エイミー、入ってちょうだい」
部屋に入ると、お父様もお母さんもわたしに慈しむような視線を向けてくれている。しかし、メイド服を着用したお母さんは本当に綺麗だ。背筋もピシッと伸びて、ものすごく頼りがいのある雰囲気である。
「エイミー、どうしたの?」
「お母さん、お父様、わたし初潮がきちゃったみたいです」
次の瞬間、お父様とお母さんは目と口で顔の中に3つのOをこさえた。
「な、な、何だって!?エイミー、大丈夫なのか!?」
「そ、そ、そ、そうよ!どうしてそんなに冷静でいられるのよ!?」
わたしは頭を両手の後ろに遣り、眼鏡越しの視線をお父様の居室の天井に向けた。
「だって、慌ててもしょうがないもの。でもこのままにしておくわけにもいかないから、対処したいの。お母さん、対処方法を教えて下さい」
お父様は腕を組んで、納得したように何度も頷いた。
「そうか。エイミーは実に冷静沈着だな。エイミーの精神がこれほど強く育ったのは、シュザンナの功績だ。シュザンナよ、やはり君は素晴らしい女性だ」
「いいえ、このエイミーの精神的な強さは、ジークフリード様譲りですわ。ジークフリード様は、私などにはもったいない殿方でございます」
「…シュザンナ…」「…ジークフリード様…」
だああああぁぁぁっ!!娘に初潮がきたっていうのに、2人だけの世界を構築してるんじゃねぇ!!さっさと対処法を教えてくれぇッ!!
◇◆◇
「そういうことだったんでござんすかい。そいつぁ、災難でしたね。ご婦人方も大変だ。まぁ、事情が判って安心致しやした」
「ご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい。もう大丈夫なので、びしびし鍛えて下さいね」
ヨハネスさんはニコニコ笑っている。わたしは、ここ最近碌に治癒魔法の鍛錬ができなかったことを詫び、今後も変わらぬ指導を依頼した。
「そうですかい。それじゃぁ、さっそくとっ始めやしょう」
◇◆◇
それから、わたしはひたすら魔力の増強に励んだ。現在では、わたしはC級治癒魔法の通常発動まで自在に操ることができ、それの高速発動機序とB級治癒魔法の通常発動機序もマスターしているが、それらを発動させることができるだけの魔力がまだない。そこで、現時点では魔力の増強に努めているのだ。
魔力の増強にはいろいろと手法があるが、魔導士やヒーラーの卵の定番手法は、魔力が枯渇しかけるまで魔法を発動し続けるという手法である。
要は筋トレと同じで魔力が枯渇しかけたあとの超回復を狙うものであり、基礎的な魔力の増強を目的とするものだ。もっとも、これをやりすぎると本当に魔力が枯渇して心身を損ない、最悪死ぬことすらあるので注意が必要である。
他には、手っ取り早く魔力の増強を図る手段として魔石を体内に取り込むというものがある。魔石とは、魔物を倒したときに入手できるものであり、また冒険者ギルドなどでお金を払って手に入れることもできる。
魔石を体内に取り込む方法はどんなものでもいい。細かく砕いて水に溶かしたものを飲んでもいいし、注射器によって静脈注射してもいい。そういう趣味があるのなら、水色の師匠がお好みの薬のように、直腸から吸収させても大丈夫だ。
ならば、わたしのようなヒーラーの卵が魔石を体内に取り込めば、しんどくて危険もある魔力枯渇ギリギリからの超回復など行わなくても簡単に魔力の増強が図れるではないか、と思われるがそうは問屋が卸さない。
脆弱な魔力の持ち主が魔石を体内に取り込むと、魔石に含まれた魔力を取り込んだ者が制御しきれず、暴走して心身に致命的なダメージを与えるのだ。
従って、魔石を体内に取り込むことによって魔力を高めるには、もともとある程度高い魔力を持つ必要があるのだ。その基準となるレベルは、ヒーラーで言えばC級治癒魔法の高速発動と、B級治癒魔法の発動が可能なレベルである。ちょうど、今のわたしが目指しているレベルだ。
従って、ヒーラーや魔術師の卵は、しんどくても多少危なくても、魔力枯渇ギリギリからの超回復によって魔力を高めるしかないのだ。ゲームの中ではそんな設定はなかったが、現実化してしまえばチートは消える。残念である。
余談ではあるが、魔石についても説明させて頂きたい。魔石は、魔力の増強だけでなく魔道具の材料としても貴重な素材である。むしろ、そちらとしての需要が大きいかもしれない。
わたしが前世でこの世界を舞台にしていた乙女ゲーをプレイしていたときには、魔石は課金によって手に入れられるものであった。無論、魔物とのバトルによって手に入れることはできるが、この乙女ゲーのラスボスである暗黒騎士アナスタシアを、魔物から得られる魔石だけで打倒するためには気が遠くなるほど魔物を倒さなくてはならない。
暗黒騎士アナスタシアを打倒するためには、課金を前提とするほど魔石を大量に入手する必要があるのだ。もとより、わたしが前世でこの乙女ゲーをプレイしていたときには、見たいスチルをゲットするために必要な課金は絶無だったからその辺の事情はこの上なくどうでもいい。
え?前世のわたしが見たかったスチルはどんなものだったかって?
お願いですそれを聞かないで下さい。それを思い起こすたんびに、わたしは後悔と自己嫌悪と、何よりもアナスタシアに対する罪悪感で首に縄をかけてぶら下がりたくなるんです。
「女性特有の体調不良に戸惑うのは、TSモノの定番やな」と
思われた方、応援を宜しくお願い致します。
また、ブックマークといいね評価、また星の評価を下さった皆様には、
本当にありがたく、心よりお礼申し上げます。
厚かましいお願いではありますが、感想やレビューも
頂きたく、心よりお願い申し上げます。