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093 終焉へのカウントダウン その3

「そ、そうだ。ヘレンの言う通りだ」


「カリノス! いつまで呆けてるんだ。お前がそんなでどうする! お前はリヴニスの翼の知将だろ! 頭を回せ! 策を練るのに時間が必要ならあたしたちが稼いでやる! そうだろみんな!」


「おおお! その通りだ!」


「お、おまえら……」


「カリノス、お前一番年下の癖に普段から偉そうなんだよ。ただ偉そうにしてるだけじゃないってのを見せてみろ!」


「ええい、誰が偉そうだ! 偉そうなんじゃなくて、俺は偉いんだ! 行くぞ、リヴニスの翼! 俺の指示に従え!」


「「「うおぉぉぉぉ!」」」


 乱戦が始まる。


「どりゃぁぁぁぁぁ!」


 押し寄せる敵に対し、強烈な蹴りを食らわせていくヘレン。どんな大型で頑強な盾を持った兵士であっても関係ない。彼女の一蹴りが大人の男を吹っ飛ばし、進行に風穴を開ける。


 無論一対一で戦っているわけではない。蹴りを繰り出している中も、左右から光り輝く刃が振り下ろされるし、褐色の肌を貫こうと槍が付きこまれる。

 それを見事なステップで回避したヘレンは足元で回転するように足払いをかけて周りの兵士をすっころばせる。

 だが敵兵は、それがどうしたと言わんばかりに、倒れた兵士の上を踏みつけて向かってくるのであった。


 死を恐れない行軍のアースザイン。それは神に身も心も捧げているシーヴルも同じ。

 そんな圧に屈するわけにはいかないと、ヘレンは奮闘する。


 だが、リヴニスの翼にはヘレンのように突出した戦力は他にはいない。アースザインの集団戦術とシーヴルの秘術による戦いに、リヴニスの翼は圧倒されている。


「ぐああっ!」


 悲鳴が上がった。


「グモン!」


 蛇の頭を持つ魔物に腕を噛みつかれている。


「このっ!」


 何とか手に持った剣を蛇の目に突き立て反撃を行い、噛みつきから逃げ出したが、彼の腕は今にも千切れそうになってしまっている。


「ぐうっ、う、腕が。これじゃあもう戦えねえ……。

 お前ら! 俺は先に行くが、追いかけてくるなよなっ!」


 最後を悟ったグモンは、残された力を振り絞って一人で魔物どもの集団へと突っ込み、全力を持って剣を振り下ろす。


「グモーーーン!」


 剣は彼の願い通りゴブリンの頭をぶち割った。

 だが……その後、彼の体を何本もの石槍が貫いた。


「よくもグモンを!」


「ラベ! だめよ! 隊列を維持して!」


 仲間をやられた怒りで飛び出したラベ。

 そもそもリヴニスの翼は押し込まれる側であり、互いに背を預けながらなんとかしのいでいたにすぎない。それを崩すとどうなるか。


「がっ……」


 好機を見逃すことなくシーヴル僧兵の昆がラベの喉を撃ち抜いた。


「ラベ! きゃぁぁぁぁ!」


 ラベが倒れて背中の守りを失ったニーヤに僧兵たちが群がった。


「ラベっ! ニーヤ!」


 助けに行きたくても助けに行けない。いかに強いヘレンでも次々に襲い来る敵を何とかさばくので精一杯であり、仲間が倒れていく姿を見ることしかできないのだ。


 冷静に敵の攻撃をよけながら戦っていたスマールドは崖上からの大岩につぶされてしまった。

 毛むくじゃらでおおらかなマルも、内気だけどレイピアの腕はすごかった女性のリーカも、二人とも敵の手にかかってやられてしまった。


 切り札だったカリノスも崖上からの毒矢に撃たれて、地に伏してしまっている。


 もはや戦いにならなかった。

 次々に仲間は倒れ、包囲は狭まってくる。


「うおぉぉぉぉぉ!」


 残された力で反撃を試みるヘレン。突き出された槍をつかみ、力任せに放り投げ、圧殺しようと襲ってくる巨大な盾を膝蹴りで吹っ飛ばし、振り下ろされた刃が自身に届く前に相手の顎を蹴り上げて粉砕する。


 だがいつまでもそれが続くわけでもなく、ヘレンの体には切り傷が積み重なっていく。


 敵を蹴り飛ばして、その足で地を踏んで……と思った所でヘレンの体がぐらりと揺れる。


 (しまった!)


 疲労が蓄積し続けた足が着地に耐えられなかったのだ。


 すぐさまもう片方の足で地面を踏み抜いて立て直そうとするヘレン。

 だが、行動に余計な1テンポが追加されるということは、攻撃する隙を与えるということ。


 ヘレンを取り囲む兵士の剣が首を狙ってくる。


「させるかぁぁ!」


 それを無理やり力技で捌いたヘレン。

 だが、それがヘレンを後手に回らせることになり、次々と敵の攻撃が降り注いでいく。


 そしてヘレンにも限界が訪れる。

 死角から狙う刃。それに気づかないヘレン。


「ヘレンっ!!!」


 背後の声に反射的に振り向いたヘレン。

 そこには、襲ってきた刃を体で受けてヘレンを守ったカリノスの姿があった。


「カリノスっっっ!」


 残された力で周囲に群がっていた敵を吹っ飛ばす。

 そして、倒れたカリノスを抱き寄せた。


「ごほっ……、ぶじ、だったか……。この、おれの、子を、うんで……もらわないと……いけない、からな……」


「カリノス! しゃべるな! 傷が!」


「なにか……いった、か? もう、みみも、きこえない……」


「カリノス! カリノス!」


「あぁ、さいごに……おまえの、かおが……みれて、……よか、った……」


 そこでカリノスの言葉は途切れた。

 心臓の鼓動と共に。


「ああぁ。あぁぁぁ……」


 どうしてこんなことに。なぜこんな仕打ちをうけるのか。自分たちが何かしたのか。生きていくことが何故こんなにつらいのか。ヘレンの心の中に多くの気持ちが混じり溢れ、声にはならなかった。


 涙。


 トルナ氏族が滅ぼされたとき沢山泣いた。それからはもう泣かないと誓った。だけどそんな思いとは裏腹に涙が流れ出していた。

 倒れた仲間。再び迫ってくる血も涙もない敵。


 この惨状はここだけではなくやがてリヴニスの地全土で起こる。


「かみさま……」


 もはや(すが)るものは神しかなかった。

 これまで見たこともないし助けてくれたこともない、普段は思い出すこともなく話に聞いたことがある程度の存在。

 ヘレンの口から、ポツリとその言葉が漏れたのだ。


 その時、曇天だった空に一筋の光が差した。

 薄暗い暗雲の立ち込める世界に一縷の希望を示すかのような光。


 その光は雲を割るように伸び、まるでレースのカーテンが開かれるかのように雲と雲の境目を広げていく。


 そしてその隙間から太陽のような光り輝く存在が姿を現した。

 まばゆく輝くその姿は一匹の竜。


 うつろな目でその姿を眺めるヘレン。


 現れた金色に光る竜は口を開けると炎を噴き、彼女の頭上の魔物たちを焼き払う。

 間を置かず、背中から放たれた幾千本の光が、目の前にいたすべての敵を貫き通したのだった。






お読みいただきありがとうございます。

ここで第8話は終了となります。


絶体絶命のヘレンの前に現れた金色の竜はいったい何者なのか。

引き続き楽しみにお待ちいただけると幸いです。


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