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085 第7.5話 間話 衛藤鷹取の日常

「ううーん」


 混濁する頭の中。徐々に覚醒する意識。そして……目を開ける。


 薄く開いた目には見慣れた天井が映る。


 今日は何曜日だ……。


 未だ目覚めていない頭を回転させる。


 昨日が日曜日だったので今日は月曜日だ。仕事に行かなくてはならないからいつまでも寝てるわけにはいかない。


 枕元のスマホを見るともう6時半。時間的には急がなくては遅刻しそうな時間だ。


 まだ寝ていたいと反抗する体を無理やりに起こす。


「ん? 俺の部屋、こんなに広かったか?」


 いつも見慣れた部屋。ワンルームのその部屋は多少散らかっている。お世辞にも広い部屋だとは言い難いはずなのに、俺はなぜか広さを感じた。


 ◆◆◆


「おはようございます」


 あの後、ぼーっとした時間を過ごしたせいで遅刻しかけたが、なんとか始業に間に合って出社できた。


「おーす、鷹取(たかとり)。今日も気合入れていくぞ」


 挨拶を返してくれたのは俺の上司である進尾紀美子(しんおきみこ)さん。

 イケイケドンドンで仕事を進める凄腕の人だ。その手腕を見習おうと俺も日々奮闘している。


「うっす! 今日もご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」


「そんなことを言うなんて、珍しいこともあるもんだ。なら一つ指導してやろうかねぇ。さっさと席に座んな」


「うっす!」


「お前ら! 2分後、新規プロジェクトの打ち合わせから始めるぞ」


 遅刻寸前であることを思い出して急いで席に向かう俺の後ろから、進尾さんの声が響くのだった。


 ◆◆◆


「ふいーっ、やっとできたぜ」


 俺は先週から進めていた資料の作成をやり終えて、大きく伸びをする。

 今はいくつものプロジェクトが同時並行で走っている。効率よく仕事をこなさなければ納期に間に合わず先方の信頼もガタ落ちするどころか契約解除や損害賠償請求もあり得る。


「課長、資料できました」


 出来上がった資料を持って進尾さんの元へと向かった俺だったが、タイミングを誤ったことに気づいた。


「あ、食事中すみません」


 いつの間にか昼時になっていたのだ。


「いや、構わん。見せてみろ」


 小さなパックの牛乳のストローを吸いながら、進尾さんは俺の資料を受け取ると、目を通し始めた。


 キャリアウーマンらしく整ったデスク。そこには一枚の写真が飾られていた。


「娘さん、大きくなりましたね」


 中学生くらいの女の子が進尾さんと一緒に映っている写真。笑顔でピースを決めている辺り、反抗期とは縁遠そうな様子だ。


「ん? 可愛いだろ。本当に可愛いんだぞ」


「ええ、分かります。うちにもそれくらいの子が……いて……?」


「鷹取、一人暮らしだろ? 親戚の子でも預かったのか?」


「そうですよね………。あはは、疲れてるのかな?」


「飯食って(りき)つけろ。ほら、これは見ておくからさっさと行ってこい」


 そうして進尾さんにバンバンと尻を叩かれて食事へと送り出されたのだった。


 ◆◆◆


「ふいーっ、やっとできたぜ」


 夜のこと。

 今日なんど同じセリフを言ったのかは覚えていないが、ようやく仕事がひと段落した。

 辺りを見渡すと、まだちらほらパソコンに明かりがともっている机がある。定時という名の時間ははるか前に過ぎ去って、空腹すらも置き去りにしてしまうような時間。


 俺は立ち上がると明るい席の一つに向かった。


「課長、まだ帰らないんですか?」


 いつもの通り進尾さんが仕事を続けていた。


「おーう、もうちょっとで新しい案件にメドがつきそうなんだ」


「娘さんが悲しみますよ」


「そうなんだよなぁ」


「俺が代わりにやりますよ」


「そうですよ課長、できる部下のこの僕に任せてくださいよ。いつまでもひよっことは言わせませんよ。ね、衛藤(えとう)先輩」


 俺と進尾さんの話を聞きつけて、後輩の蔵元(くらもと)が会話に割り込んできた。


「馬鹿言うな。部下に仕事を押し付けて帰る上司がいるか」


「そう言うと思いました。でも手伝いはさせてもらいますよ。さっさと終わらせて帰りましょう」


 そう言って進尾さんと俺と蔵元で仕事を割り振って、ちゃっちゃと仕事を終わらす。


 そうして、終電間際の電車で帰宅した俺。


「ふいーっ、今日もたくさん働いたな。お疲れ様! なあ……、……?」


 ん? 今、俺、誰に話しかけようとしたんだ? 疲れてるのか?


 ワンルームに一人暮らしなのに、まるでいつもしていたかのように、流れるように誰かに話しかけようとした俺。

 独り言はそれなりにする方だけど、空想の相手に話しかけるというヤバイ趣味は持っていない。


 脳内審議の結果、疲れているからだという事に結論付けて早く寝ることにした。

 体調管理は社会人の基本だからな。

お読みいただきありがとうございます。

日本のとある県、とある会社に勤める、衛藤鷹取氏の姿でした。

氏は真面目で正義感が強く、仕事も十二分にこなす人材で。……。


というわけで、いつの間にこの話はヒューマンドラマになったのだ! とお思いのかた。

次話はきちんと異世界の話に戻りますので、展開に遅れないようにお願いしますね!

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