082 女の子に飢えてそうな感じ
ふいーっ。ようやく外か。さすがに二日半も洞窟の中に居たら時間感覚も目もおかしくなってくるというものだ。
洞窟を抜けるとそこは山の頂上付近だった。火山なのか、草木は茂っておらず岩石ばかりの荒れた場所。眺めは良く、島を一望できる。
「あっ、鳥の巣あるよ、ぐえちゃん!」
早速キッテの観察眼が貴重な情報を取得する。
大きな岩の影に木の枝で作られた巣を発見したのだ。でもその巣は空であり、現在使われている様子には見えない。
そのような巣があちらこちらにある。産卵場所ではある、もしくはあったのだろうが、巣には鳥の気配が無い。
「不死鳥いないのかな」
周囲の調査を兼ねてぐるりと不死鳥探索を行う。もちろんこっそりと気配を消してだ。不死鳥がいた場合に驚かせて逃げられてしまってはどうしようもないからな。
この竜のアギトと呼ばれる場所はそれほど広い場所ではないようで、ものの5分もあれば一周できてしまう程度の広さだ。
いくつもの空の巣を見つけて、期待が諦めに変わっていく。そんな中――
「ぐえちゃん、あれ」
キッテが小声で伝えてきた先を見ると、そこには一羽の鳥が巣の中で休んでいたのだ。
緑色の羽をもち、黒いくちばしの先だけ赤くなっている鳥。
「ミドリシッポノハネハエカワリチョウ、別名が不死鳥だね」
あれが不死鳥ねぇ。火属性で体が燃えてるわけじゃないんだな。
「実在するのか怪しかったけど、いるとなればぐっと灰の信ぴょう性も高くなるね」
そう。このミドリシッポノハネハエカワリチョウは幻の鳥。
ここ数十年見たという記録が残っていないものだ。図書館で見つけた100年くらい前の古い文献に書かれた絵を頼りにしてたけど、記載内容は正しかったというわけだ。
となると、記載されていた灰の取得方法も信ぴょう性が高いな。だけど、一羽しかいないぞ、キッテ。
「うーん、そうだよねぇ。
【不死鳥の灰の取得方法は、ミドリシッポノハネハエカワリチョウのオスがメスにフラれた時に真っ白になって燃え尽き、その灰の中から再び幼体となって復活し、その個体が成長することでまた求愛行為を行う習性を利用したもの。
オスがメスにフラれた時しか灰は生成されないため入手難易度が高いと思われがちだが、オスに復活習性があることを遺伝子に刻まれているメスは少しでも気に入らない部分があればオスをフルので高確率での入手が可能である。】
って書いてあったよね」
習性とはいえオスにとっては厳しい世界だな。メスの理想、高すぎっ!? ってなりそうだ。
話は逸れたが、今一羽しかいない。そしてあれがメスであれば、別のオスがやってくるのを待たなくてはいけないのだが――
「あ、ぐえちゃん、あの子オスだよ。尻尾の先のほうにオスだけにある赤色模様があるから」
おお、なるほど。でも結局はメスがいないとフラれないんじゃないか?
「そこは頭脳派の出番だよ」
目を輝かせたキッテががっしりと俺の体をつかんだ。
ちょっと、キッテ? 何をしようっていうの? あーっ!
………………
…………
……
数分後、布やら何やらいろいろを体に巻かれた俺の姿があった。
「ぐええ……」
で、この所業の説明をお願いしたいのだが?
「もちろん、ぐえちゃん不死鳥ギャル化作戦だよ。不死鳥のメスに扮したぐえちゃんがあの子を惚れさせた後にフルの」
とても頭脳派が考えた作戦名とは思えない。
そもそも緑色の布を巻いたくらいでミドリシッポノハネハエカワリチョウのメスに見えるとは思えない。巻いた布の隙間から赤い鱗が見えている部分は、くちばしの色に似ているのかもしれないけど……。
あと、仮にメスに見えたとしても求婚されるかもわからないだろ。
「大丈夫。あの子、女の子に飢えてそうな感じがするから」
ひどい風評被害! 男の子を姿形だけでそんな風に評価するのやめたげて!
「さあぐえちゃん、きちんと完ぺきに完膚無きまでにコテンパンにフッてくるんだよ! しゅっぱーつ!」
「ぐええええ」
もはや問答無用と言わんばかりに頭脳派プレイヤーによって、俺は不死鳥の元へと投げられた。
自動浮遊している俺は地面にこそ落下しなかったものの、体勢を立て直したのは不死鳥の彼の目の前。
「ぐ、ぐええ?」
は、ハロー?
って、俺も気が動転している。
ほら、相手も目を丸くしてるじゃないか。土台無理な作戦だったんだよ。俺は竜だぞ。鳥類とは種族が違う。人間で言ったらキリンにトキメケって言ってるようなもんだ。あ、でもその組み合わせはすでにトキメイテる人たちがいたんだっけ。(第5話参照)
「クエーっ!」
うおっ、びっくりした! トリ君が急に甲高い鳴き声を上げたかと思ったら後ろのしっぽの羽を開いてきた。その様子はまるでクジャクの様だが、まさか成功してる!?
「クエッ、クエッ、クエッ、クエエエエエーッ!」
おいっ、ちょっと、近い! なんだよ!
クジャクポーズのままのトリ君に近寄られて、彼からすごい熱気と圧を感じる。これが必死な男子の求愛!
だけど必死すぎて、俺が女の子だったとしてもすぐにノーを突き付けてしまうぞこれは。
あ、ちょっとまて、ワサワサするんじゃない。布がずれ落ちてしまうだろ。あーっ!
巻いていた布がすぽっと俺の体から脱げ落ちてしまった。
「ぐええ」
ア、ドモ、コンニチハ。ワタシ、トリジャナクテドラゴン。ゴメンネ。
「ク、ク、ク、ク、ク、ク、クエエエエエエエーッ!」
お怒りになったトリ君は全身の羽を逆立ててファイナルクジャクモードに突入した。マジ怖い!
「ぐえっ」
いや、本当にごめん。そしたら俺はこれで。
一応謝って颯爽とその場を去ってキッテの元に戻ろうとした俺。
「クエーッ!」
しかしまわりこまれた。
本当にごめんって。悪気はなかったんだ。あそこにいる人間の主がですね、無理やり女装、いやメス装させてですね。
「クエクエクエクエクエッ!」
尻を振り始めたぞ。あれ? これ、求愛のダンス? まさか俺の事ドラゴンだって分かってやってる?
「ぐえっ?」
「クエエクエエクエエ!」
言葉は通じないが想いは伝わってくる。こいつ、俺の事ドラゴンで、しかも男だって分かって求愛してきてんぞ!? そういう趣味なの? それともメスにフラれすぎて男でもいいやってなったの!?
「ぐえっ、ぐえええええっ!」
だめっ、だめっ! 俺は男の子。それに鳥類の方々と一緒になる趣味はないのっ!
「クエッ!!!!!」
あ、目を見開いたまま硬直してしまった。
今までの挙動がウソみたいにピクリとも動かないぞ?
もしかしてこれ、条件達成した?
俺の予想は当たっていて、トリ君は突如青白い炎に包まれてその体を燃やし尽くした。
そしてその燃えカスの中から、勢いよく何かが飛び上がったかと思うと、小さく甲高い鳴き声で一鳴きして大空へと飛び去ってしまった。
「やったねぐえちゃん! さすがの頭脳プレーだったよ!」
後に残ったのはトリ君の燃えた灰と、俺のモヤモヤした心だった。
お読みいただきありがとうございます。
頭脳派プレイヤーのキッテと献身的に補佐する相棒のぐえちゃんの相性抜群コンビ!
インテリジェントなストラテジーで【不死鳥の灰】をゲットだぜ!




