081 キッテの日記
――私はキーティアナ・ヘレン・シャルルベルン。皆からキッテって呼ばれてます。今日から【不死鳥の灰】を探すため旅に出るので、その記録として日記をつけようと思います。
――1日目 旅の準備を終えて出発。図書館で調べた文献に載っていたナグイ島っていう島を目指します。まずは船に乗るために港町フェルフェンへ移動。乗合馬車にのってしゅっぱーつ。
――2日目 まだ乗合馬車の途中。明日にはフェルフェンにつく予定なんだけど、馬車は揺れるし狭いから大変。ご飯は自分で用意しないといけないから大変でもあるけど、周りのおじさんたちと交換っこするといろんな種類の干物とか漬物とか食べれるから楽しくもある。商人のおじさんが持ってたキョンドってのの肉は好きな味がしたから、今度買ってみようと思う。
――3日目 ようやくフェルフェンに到着。乗合馬車よさらばー。せっかくなのでクラちゃんのアトリエに寄って見たけどお留守だった。今頃地の果てまでレグニアを探してるんだろうなぁ。船の手配をする前に食料の補充。キョンドの肉を買ってみた。ぐえちゃんはそれほど興味がないみたい。おいしいのに。ナグイ島は絶海の孤島。大型船の定期便なんて出てないので、個別で契約をしないといけないの。費用がかさむなって思ってたら、どうやら冒険者の集団がナグイ島を目指しているらしくて、一緒に乗せてもらうことになった。だから予想してたよりも船賃が安くなってラッキー。節約は大事だね。出発は明日。今日はお布団で寝られる最後の日。堪能しておこうっと。
――4日目 中型の船で大海原へ! 相乗りの冒険者の皆さんも不死鳥を探してるんだって。冒険者ギルドにあった依頼を見てきたらしい。私たちも 回復薬取扱認可協会 で似たような依頼を見つけてたんだ。あるお金持ちが不死鳥の血を探してるらしい。胡散臭すぎだけど、載っていた情報と図書館の文献の情報を合わせると結構正確な生息地が分かったから案外本物なのかもしれないね。なんて余裕な事書いてるけど、本当は船の揺れで気持ち悪い。日記なんて書いてないで横になれって心配してくれるぐえちゃんだけど、ぐえちゃんは浮かんでいるから揺れなくてうらやましいなぁ。
――5日目 お昼を過ぎたあたりでナグイ島に上陸できた。揺れてないはずなのに地面が揺れてて大変だった。冒険者の皆さんは鍛えてるからか、すぐにもジャングルに入って行った。私はちょっと休憩してから出発。船が小さくなっていって、見えなくなっちゃった。今度来るのは4日後。それまでに不死鳥の灰を見つけないとね。水と食料はマジカルバッグに入っている(ものはアトリエの倉庫にあるんだよ)から大丈夫。なので、まずは冒険の拠点を作らないと。ジャングルに入って少し開けた場所を発見。ここをキャンプ地とする!
――6日目 本格的な探検を始める。我々は荷物を背負いジャングルの奥地へ。戦いの音がしたから様子を見に行ったら冒険者の人たちがハーピーと戦ってた。よりにもよってハーピーかぁ、と思ったことも書いておく。ハーピーは王国法で保護種に指定されているからよっぽどのことがないと戦ったらだめなんだけど、ハーピーは縄張り意識が強いから侵入者に対して執拗に襲ってくるんだよね。飛べるから空から襲ってくるし、冒険者の人たちも手を焼いてた。一応戦ったらダメなんだと伝えてみたけど「ばっきゃろう、俺たちはハーピーを狩りに来たんだよ、正当防衛、正当防衛ぎゃははは」と言ってた。おそらく闇ルートで取引するつもりなんだと思う。そんな悪を許せるはずがないから、ハーピーがやられちゃいそうだったら助太刀に入ろうかと思ってたんだけど、よかったのか悪かったのか悪の冒険者たちの腕前は今一つで、ハーピーは乱獲されるどころか、悪党たちが乱獲される始末。そしてハーピーのターゲットにはただの目撃者で関係ないはずの私も入ってた! 多勢に無勢の中、バラバラの方向に逃げ出して、その途中でマジカルバッグを取られちゃった! この日記と身の回り品はどうにか持ってるけど、食料と水がない! 死んじゃう!
――7日目 水! 食料! 無いと死んじゃう! 不死鳥の事は置いといて必死に探した。昨日の悪の輩じゃない正義の冒険者の人たちもハーピーに持ち物を奪われたらしく、必死に食料を探してた。何人かは浜に戻って釣りをして食料確保をするんだって。水は善の冒険者さんたちが水源となる川を見つけててなんとかなるけど、食料は別だ。狩りをしてお肉をゲットしようと思ったんだけど、ハーピーの縄張りを避けていたのもあって収穫は無し。今日は水だけだよぉ。
――8日目 浜で釣りをしている善の冒険者さんも釣果は芳しくないらしいと聞いたので、今日も食料を求めてジャングルへ。果物とか見つけたい。そう思って徘徊していると、行き倒れを見つけた。このまえハーピーを襲っていた悪の冒険者たちだ。どうやらキノコを食べて力尽きた様子。周囲に生えているおいしそうなキノコ。毒キノコなんだね。倒れたまま死なれても目覚めが悪いから毒消しを投与。さすがに命を救ってもらっておいて不義理なことをするほど悪い人たちでもなくって、借りは必ず返すと言って去って行った。と言うわけで毒キノコを食べました。毒消しと一緒に。気づいてしまったのだ。毒キノコはたくさん生えてるので、毒消しがあったら食糧問題は解決なのではと。塩焼きが一番おいしかった。もちろん海水をかけて焼いただけ。
――9日目 拠点を毒キノコランドと水源に違い場所に移す。何とか生活できそうなので、今後の事を考える。今日か明日、帰りの船はやってくる。でもこのまま帰るわけにはいかない。不死鳥の灰のふの字も見つけてないこともさることながら、マジカルバッグを取り返さないといけない。浜辺の善の冒険者さんたちにはそう伝えて、フェルフェンに帰ってから4日後に船をよこしてくれるようにお願いしておいた。私のためだけのチャーター船になるから出費が痛いけど、そんなことも言ってられないよね!
――10日目 奪われたマジカルバッグ奪還のためにハーピーの集落を探さないといけない。集落を見つけたとしてもハーピーに見つかったら前回の二の舞なので、こっそり忍び込むのだ。そのための準備を行った。大切なのは姿と匂い。この二つを何とかごまかして集落に潜入するのだ。姿は葉っぱとか材料が多いからそれほど作業時間はかからないけど、匂いのほうは別。日々水浴びはしてるんだけど、それでもね。だから匂い消しを作るために時間を使った。今日はそれだけ。
――11日目 ハーピーの集落を見つけた。作戦実行だ。ハーピーの集落は木の上にあった。葉っぱでカモフラージュした私がよじよじと木を登っていると不自然すぎる。そこでぐえちゃん作戦に切り替えた。ぐえちゃんの姿を隠すほどの大きな葉っぱ。それがさらに高い木から落ちてきたように見せかけて、物資を保管しているらしい倉庫木に侵入してもらう。作成は大成功。見張りのハーピーにはちょっと怪しまれたけど、ぐえちゃんは無事に侵入して、マジカルバッグを奪還。大きな葉っぱと一緒に地面に落下して、私のところまで戻ってきてくれた。ありがとうぐえちゃん! 大活躍だったよ!
――12日目 マジカルバッグが戻ってきたことで、水と食料その他もろもろの問題は全部解決。これで不死鳥探しに専念できる。そう意気込んでみたものの、成果は全くなかった。不死鳥が住んでいるっていう竜のアギトってどこにあるのー?
――13日目 帰りの船が来るまで今日を入れて2日。そろそろ帰るか延長かを考えないといけない。竜のうろこを欲すれば竜の巣に踏み入れよ、っていう故事のごとく、危険を冒さなければ大きな成果は得られない。そう意気込んでいたら、はぐれハーピーに襲われた! ピンチはチャンス。餌付けして情報を得ることに成功。ハーピーは知能もあって会話もできる。だから闇マーケットで狙われるんだよね。はぐれハーピーによると、不死鳥は洞窟を進んだ先の山頂にいるらしい。地元民の情報は貴重だよね!
――13日目 帰りの船が来たけど、乗って帰らないことを伝えた。今持ち合わせは無いし、ツケで払うからまた4日後来て欲しいって伝えたら、怒鳴り散らされてもう来ないっていわれちゃった。こうなったら自分で帰るしかない。まあなんとかなると思う。偉大なるご先祖様の知識の集大成、テレッサ大百科があるんだから! と言うわけで準備をして洞窟に潜る。結構深い洞窟だけど危険な生き物はいなかった。先は長そうなので洞窟内泊。
――14日目 暗くて時間の経過が分からないのが洞窟の中。頼りになるのは腹時計、って言いたいところだけど、先日の食糧難の時から腹時計は狂ってしまってる。でも普通に時計を持ってるから大丈夫。足場の悪いところとか狭いところとか全身を使って登るから大変。あとどれくらい先がゴールなのか分からないので再び洞窟内泊。
――15日目 やっと洞窟を抜けた! 太陽の光最高! ここが竜のアギトに違いないよ!
日記はここで終わっている。
お読みいただきありがとうございます。
日記の中につづられた大冒険! それだけで10万字とかになりそうな勢いなので、実は日記の形を借りた文字数削減なのでした。
次回は普通にセリフがありますので、お楽しみに!




