074 第6.5話 間話
「ぐえちゃん……できたよ」
両目に大きなクマを飼ったキッテがこちらにやってくる。その手には金属の輪っかのようなものが握られている。
「右手出して。つけてあげる」
キッテに言われるがままに俺は右手を差し出す。
するとキッテは手に持った輪っかを俺の右手に通す。
「うん、ピッタリだね……」
そこでキッテの言葉は止まる。
次の言葉を待っていた俺は不意に、泣きそうな顔になったキッテに抱きしめられた。
「ごめんねぐえちゃん。危ない目に合わせちゃって。もう二度とあんな目には合わせないから。私がきっと守るから……。
でも、絶対だって断言できない……。だから……。
もし、万が一、私の手の届かないところで危ない目にあったらこれを使って。私が作った魔法道具なら、自信をもってぐえちゃんを守ってくれるって言えるから……」
弱々しい声。いつもの元気なキッテの様子からは想像できない。
俺はそんなキッテの体に手を回す。
背中をさすってあげたかったが、抱きしめられている上に俺の短い手ではそこまで届かない。手の届く場所であるわき腹をさするのもためらわれるので、キッテの頬に手を伸ばした。
本当は頬も届かないんだけど、キッテは俺の気持ちを察して体勢を変えて、頬を預けてくれた。
「ぐえちゃんの手、すべすべだ」
手は可動部分がたくさんあるため、鱗も細かいものがびっしりと生えている。それがすべすべさを生み出しているのだが、キッテが喜んでくれるなら嬉しいものだ。
なだめるように、励ますように、安心するように、ゆっくりと頬をなでる。
撫でながら俺はキッテの事を思う。
今までにも俺が危険な目にあったことは何度もあった。それでも今回、俺がレグニアのレオニードに腕をバッサリやられたことはキッテにとってすごくショックだったらしく、俺の身を守るための魔法道具を何日も徹夜して作ってくれたのだ。
大風の腕輪。一瞬だけどものすごい風を起こして相手を吹っ飛ばすことができる魔法道具だ。威力が強すぎて使いどころが難しいが、護身用としては十二分の性能を持っている。
しばらく頬をさすっていると、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
ずっと寝てなかったから限界が来たのだろう。
ちょうどベッドの上だ。俺が体をずらしてキッテの腕の中から抜け出すと、キッテはベッドの上に寝る形になる。
起こすのも忍びないので、帽子だけをそっと取って布団をかけてあげる。
しばらくゆっくりと眠ってほしい。
ここ数日大変だったからな。
超神級守護結界機構での戦いが終わった後のこと。棺で倒れていたレグニアのメンバーはまだ息があり、キッテのポーションによって命を取り留めた。
ダーニャが戦った鞭おば(サンド)、ジョシュアさんが戦ったシスコン(リューサルマ)、パパとママが戦った薬物筋肉(パーベック)、一番最初に戦った盾のやつ(ジウグンド)の4人だ。彼ら彼女らは一足先に、ジョシュアさんが王宮へと連行することになった。牢屋に入れられて取り調べられる予定だ。
それと、リィンザーとバザーお姉ちゃんの会話で気になった地の棺を調べたところ、埋まっているはずの棺は半ば掘り起こされていて、近くに血まみれの女ドワーフが倒れていたのだ。
あの時の会話によると彼女はウードゥという名前で、彼女もリィンザーの野望の犠牲となったに違いない。
彼女は他のメンバーよりもダメージがひどく、ポーションだけでは完治せずに重症のため、王宮救護隊に来てもらうことになった。
完治して取り調べを受けるのは当分先の事になるだろう。
ジョシュアさんが王都に出発した後。クララセント嬢ともお別れした。
どうやら戦ったレグニアのやつに大切なものを奪われたようで、地の果てでも追って取り返す必要があるのだという。
役に立てばということで、キッテは【お姉ちゃん波数測定器】をクララセント嬢に渡した。きっと彼女ならさらに改良を加えて、見事に盗人レグニアを捕まえて見せるはずだ。
それ以外にも多くの問題を残した。
まず、連れ去られたディクト。
マグナ・ヴィンエッタに残された映像によると、ディクトはレグニアに倒された後に連れ去られてしまった。
相手との会話が連れ去られた場所のヒントになるかもしれなかったが、マグナ・ヴィンエッタの調子があれなので映像から音声は消えてしまっていたのだ。
そして裏切ったバザーお姉ちゃんとレグニアの残党。
ディクトを含めて彼女たちの探索は王宮騎士団で行ってくれるとの事だ。俺たちが個人でできる事なんてたかが知れているので、警察機構が協力してくれるのは心強い。
それに、テレッサから言われたリビルジェン・メタルジアの作成だ。
まだ少しも手を付けられていないが難しい予感がひしひしとする。
そんなこんなで簡単な打ち合わせを終えた後。
パパもママもダーニャも怪我をしたのでしばらくはトルナ村で療養。キッテと俺はキッテのアトリエへと戻ってきたというわけだ。
おれは小さく「ぐええ」と鳴く。
お疲れ様、キッテ。
俺は今回もほとんど役に立たなくて、キッテに心配かけただけだったけど、それでもずっと一緒にいることはできるからな。
俺は寝息を立てているキッテの頭を優しくなでると、その横で体を丸くした。
お読みいただきありがとうございます。
最初は第7話の先頭に入れようと思っていたお話ですが、こんな形で間に挟むことにしました。
次回、第7話 生ける金属を作り出せ! にご期待ください。




