072 本当の狙い
――炎の棺
キッテが転送装置を使って全員を救出していき、皆が炎の棺に集まる。
ダーニャはひどい傷を負っていたものの命に別状は無いようで、今クララセント嬢が手当てをして意識を取り戻すのを待っている。
ママは意識を取り戻してこちらも治療中。パパの献身的な治療が光る。
そしてキッテは、まだ合流できていないディクトと、いつの間にか音の棺から姿を消していたバザーお姉ちゃんの姿をモニターで探していたのだが……そこで風の棺での異常を目撃したのだ。
「な、何をしたの、リィンザー!」
レグニアの首領リィンザーとジウグンドが何かをしゃべっているかと思ったら、突然ジウグンドが血を吐いて倒れてしまった。
その様子にキッテは風の棺と通信を繋げてしまったという顛末だ。
『キーティアナ・シャルルベルンか。
何を、と言われると、用済みのジウグンドを始末しただけだ』
「始末だなんて、仲間じゃなかったの?」
『仲間? 弱者など仲間などではない。それよりもだ、お前たちには一杯食わされたよ』
「えっ、何のこと?」
『無の棺のことだ』
「えっと、無の棺がどうかしたの?」
『しらばっくれるな。無の棺が存在しないことなど、当主のお前なら当然知っているだろう』
「も、もちろん知ってたよ! もしかしてずっと無の棺をさがしてたの? 悪党にはお似合いだね」
無の棺が存在しないだって? 俺は初耳だけど……どうやらキッテも初耳のようだな。
『ふん。減らず口を。とはいえ、お前たちの戦力を甘く見ていたのも事実』
「そうよ、みんながあなたたちを倒したんだから」
『まったく情けない奴らだ。こんな小娘どもに敗北するなど、レグニアの面汚しどもめ』
「もう降参しなさい。あなたがどれくらい強いのか知らないけど、もうあなた一人だけなんだから」
『一人ではない』
突如、俺たちが会話している相手であるリィンザーとは違う声が音声に上がってきた。
そして、フッと空間が揺らいだかと思ったら、フードを深く被った人間が現れたのだ。
そいつは俺たちのよく知る――
「レオニード! やっぱり生きていたのね!」
やられた時のあの消え方、おかしいとは思ったんだよな。
さて、リィンザーとレオニードか。リィンザーがどのくらい強いのかはわからないけど、レグニアの首領なんだ。今までの誰よりも強いと考えておくのが普通だろう。
もちろんレオニードも脅威だ。先ほどの偽物ですら俺たちを上回る力を持っていたんだからな。
敵はまだまだやる気十分の一触即発。
そんな混沌とした中に、他の棺からの転移があった。
画面に映る人の姿。
それはどこに行ってたのか分からなかったバザーお姉ちゃんだった。
「おねえちゃん! その棺はだめ、リィンザーとレオニードがいる! 危ないよ、今助けに行くから!」
『いいえ、来なくていいわ』
現れたバザーおねえちゃんがゆっくりとレグニアのやつらのもとへと歩いていくと……、やつらの目前でスッと向きを変えこちらを向いた。
「えっ……どういうこと?」
『ご苦労だった、スージェン』
『はい。地の棺にいたウードゥは始末しました』
「お姉ちゃん何を言って――」
『『『ぐわぁぁぁぁぁぁ!』』』
キッテの言葉をさえぎって、突如叫びというか悲鳴というか断末魔というか、そんな声がモニタから辺りに響き渡った。
その声は他の棺から聞こえたもの。
俺たちが倒して放置していたレグニアの奴らが、急に血を噴き出して……こと切れたのだ。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「えっ、なに? こんどはなんなの!?」
地鳴りと共に棺が振動しだした。
キッテが驚くのも無理はない。俺だって、いや、この炎の棺にいる皆の誰一人として状況をつかめてはいないに違いない。
バザーお姉ちゃん。こと切れたレグニアの奴ら。そしてそして振動。
一体どうなってるんだ!
「ぐええっ!」
その答えを全部持っているんだろ、リィンザー! 答えろっ!
『始まったか……。
お前たちは全ての棺を守り切ったと思っているだろうが、最初から全ての棺を制圧する必要はなかったのだ。
ここ、風の棺のジウグンド。木の棺のパーベック、氷の棺のリューサルマ、地の棺のウードゥ、糸の棺のサンド、そしてそこ炎の棺で死んで見せたイーヴ。その魂がトリガーとなり、術式を書き換える。
そう、これらの棺を線で結ぶと六芒星となる。つまりそれは強大な呪い。
この呪いこそが、お前たちがこの国全体を覆っている悪しき壁、マグナ・ヴィンエッタの術式を書き換えるのだ』
術式を書き換えるだと!?
もしかして認識阻害を無効化する気か!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
刻々と振動が大きくなっていく。
すでに体がよろける程で、戦いでダメージを受けた人たちは立ってはいられないくらいに。
どうやら奴らの言ってることは大ぼらではなく本当のようだ。
このままじゃあキッテたちが、先祖代々シャルルベルン家が守ってきたマグナ・ヴィンエッタが!
「や、やめなさいリィンザー!」
『やかましいわね。キャンキャン喚かないでくれる、キッテ』
「お、おねえちゃん……どうして」
『どうして? あなたには分からないわ。テレッサの後継者となるべくして生まれたあなたにはね』
お読みいただきありがとうございます。
第6話も佳境。次回クライマックスになります!




