071 こちらとあちらの状況
「レオニード……強敵だった! みんなも別々に棺に飛ばされて待ち受けてるレグニアと戦ってるに違いないよ。すぐに助けに行かないと!」
「ぐえっ」
まずは状況確認からだぞキッテ。どこで戦ってるのかわからないと助けにも行けないからな。
「まかせて! って、棺の機能にロックがかかってるー! レグニアの仕業だね。まずはファイアウォールに侵入して――」
そう言ってキッテが棺のコンソールをたたき始めてから結構な時間が経った。
正規のルートでマグナ・ヴィンエッタのコントロールにアクセスすることができないので、セキュリティホールを探しながらようやく侵入し、ここ、炎の棺のコントロール権を掌握できたのだ。
「無事でいてよ、みんな!」
画面に映像が映る。
映像には鋼の棺と表示されていることから、きちんと他の棺を見る機能が回復したということだ。
鋼の棺には誰もいなかった。
戦った跡があったが誰が戦っていたのかは分からない。
他の棺に映像を切り替える。
次は音の棺。
「バザーおねえちゃん! 無事だ! よかった!」
元気そうなので合流は後回しにして、次へ進む。
「ダーニャ! 倒れてる! 助けに行かないと!」
糸の棺ではダーニャともう一人、レグニアと思われる女が倒れていた。
「ぐえっ!」
キッテ、待った! 他の状況も見ないと! ダーニャより状況の悪いところがあるかもしれない。
「分かった、待っててねダーニャ!」
次々と画面を切り替えていく。氷の棺ではジョシュア、金の棺ではクララセント嬢の姿があり、敵と戦って疲労してるようだが無事なようだった。
地の棺は埋まっているため映像が映らず、無の棺には文字通り誰もいなかった。
風の棺では一番最初に戦ったジウグンドがぶっ倒れている姿があるだけ。
そして――
「お母さん!」
最後に映し出された木の棺には、倒れたキッテママとそれを治療しているキッテパパの姿があった。
すべての棺の映像を確認したが、ディクトの姿はどこにもなかった。
カメラに映らない所にいるのか地上に出たのか。これ以上はここからでは分からないため、先にけが人の救出に向かうことにしたのだった。
◆◆◆
――風の棺
激戦を繰り広げて倒れているジウグンドのもとに近づく影が一つ。
倒れて気を失っているように見えたジウグンドだったが、その気配に気づき口を開く。
「リィンザーか。無の棺は見つかったのか?」
「いや……」
その影の正体は反・魔法障壁派レグニアの首領、リィンザー。
顔の左半分を覆うほどに刻まれた認識阻害を回避する紋章に、まず目が引き付けられるだろう。
今回の計画でのリィンザーの役目は10番目の棺である無の棺を制圧すること。
他の棺と違い、レグニアは無の棺の場所を把握できてはいなかった。故に制圧の前に、まずその場所をつかむ必要があったのだ。
そんな彼が他のメンバーの元に姿を現したという事を考えれば、その意味は二つしかない。
成功か失敗か。
そして、リインザーが発した短い一言は失敗を意味しているものだ。
「それならなぜここへ。他の棺の状況が悪いのか?」
「それもある。だが俺がここに来たのはそれだけが目的ではない。
ほら飲んでおけ。秘蔵のポーションだ」
「すまねえ」
放り投げられたガラス瓶をキャッチすると、体を起こしたジウグンドが蓋を開けて中身を飲み干す。
「で、一体どうなってるんだ?」
「ああ。俺が探していた無の棺は、結論から言うと存在しなかった」
「なんだって? 棺の情報はスージェンから聞いたんじゃなかったのか?」
「ああ。だが、シャルルベルンの一族であるスージェンですら欺かれていたということだ。棺は最初から9個しかなかった。それを10個あるように見せかけられていたのだ。すべてはシャルルベルンの奴らに踊らされていたというわけだ。口惜しい」
「じゃあなんだい、10個制圧しないといけなかったところを9個制圧するだけでいいんじゃねえのか?」
「その通りだ。とは言えだ。俺たちは負けすぎた。すでに糸、氷、金、木、炎が奪い返されたのだ」
「おいおい、まじかよ。パーベックの奴ならまだしも、イーヴやサンドが負けたってのか?」
「ああ。それにアルベールの姿も見えない」
「となると、残ってるのはここと地と音だけかよ。
だけどよリィンザー。お前さんがいれば問題ないんじゃないのか?」
「無論、俺ならば造作もない。
それにだ。敗れたとはいえ奴らもレグニアの戦士。相手もただではすまん。そんな手負いを片付けるのに僅かな力も必要ない。
だがなジウグンド。……もはや9個の棺を全て制圧する必要はないのだよ」
「……どういうことだ?」
それなりに頭の回るジウグンドでも、リィンザーの言葉の意味は分からない。
全ての棺を制圧しなくてもマグナ・ヴィンエッタを手に入れられることが分かったのか。はたまた無の棺の存在と同様に、それすらがシャルルベルンの罠だったのか。
回らない頭で考えるよりも、発言者に確認するほうがよい。
だが、リィンザーからの返事が返ってくる前に、ジウグンドは自らの体の異変を感じ取った。
「ぐっ……、こ、これはまさか、リィンザー、貴様、さっきのポーションに……」
それ以上の言葉を発することはできず、呼気のみがジウグンドの口を通り抜けて行く。
程なくしてジウグンドは口から大量の血を吐き出し……白目をむいてその場に倒れたのだった。
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マグナ・ヴィンエッタ編も大詰めです。
一体何が起こっているのか!




