067 炎の棺のイーヴ
今話からしばらくは初のヒロイン視点でお送りします。(キッテは本作のヒロインです)
光が収まると、誰も棺の中にはいなかった。
全員一丸となって戦ってようやく倒したレグニアの最初の敵、ジウグンド。
あの人が棺の転送機能を使ったのだと感づいた。
「ぐええ」
私の横にはぐえちゃんがいる。ただそれだけで心強い。
ぐえちゃんはどうやら他のみんなが消えたんだと思ってるみたい。
「違うよぐえちゃん。みんなが飛ばされたんじゃなくって、私たちが飛ばされたんだ!」
「ぐえっ!」
きょろきょろとあたりを見回すぐえちゃん。どうやらさっきまでいた棺と違うってことに気が付いたみたい。
動きの一つ一つがとってもキュートで可愛い。そんなことを思っている場合じゃないんだけど、でも、ぐえちゃんが愛らしいので仕方がない。
「ほう。ジウグンドが敗れるとはな」
「誰っ!」
だれもいなかったはずの真後ろから声が聞こえた。
私とぐえちゃんは同時に振り向くと、そこには灰緑色のローブを着てフードを深くかぶった男の人がいたのだ。
すごく怪しい姿。私は悪人ですって言っているような……姿は本性を映すっていうけど、それを地で行くような怪しさだぁ。
「お前がキーティアナか。ようこそ炎の棺へ。私はレグニアのイーヴ。いや、お前たちにはレオニードと言ったほうがいいかな?」
「れ、レオニード!」
驚いて声が裏返っちゃった。
その名前を忘れることはなかったけど、まさか今ここで聞くとは思ってもみなかったから。
「ぐえっ! ぐえっ!」
ぐえちゃんが威嚇してる。というよりは、正体を探っている感じかな。
私はずっと気になっていて聞きたかったことを口にする。
「どうしてあの人をカエルにしたの! そんな必要なかったのに!」
「あの人? 誰の事だ?」
「あの、えっと……、惚れ薬でダーニャを操ってた人!」
とっさの事だったから名前をど忘れしちゃった!
なんていう名前だっけ、えっと、えっと!
「惚れ薬……。ああ、グラントのことか」
「そ、そうよ!」
「ぐえっ!?」
ぐえちゃんが目を見開いて私のほうを見た。もしかして、違う!?
「ち、違う人!」
「アイツじゃないとなると……あぁ、カイゼルの事か」
私はぐえちゃんのほうを見る。ぐえちゃんはぶんぶんと縦に振っている。
「そ、そうよ! カイゼル! 悪いことをしてたけど、カエルになんてすることなかった!」
「これは心外なことを。私はお前たちの手伝いをしてやったんだ。礼は言われてもそしりを受ける筋合いはないと思うが?」
「手伝い?」
「そうさ。この壁の中では外の事はご法度。
それがお前たちが人々に敷いているルールだ。人々の精神と記憶に干渉してな。
そんな中でタブーを犯したんだ。奴だって殺されなかっただけありがたいと思っているはずだ」
「ルールだなんて、私たちは、そんな――」
「そんなつもりじゃない、とでも言うつもりか? お前たちのやっていることは支配と変わらない。その気になれば壁の中の人間を一人残らず殺すことも可能だ。それが支配でなくてなんだというんだ」
「み、みんなを守るためだから!」
「誰がそう望んだ? 確かに250年前の愚民どもは目の前の死という危機を回避するために、お前たちの提案を受け入れた。だが、その危険を認識していた一部の賢人たちは反対したはずだ。
しかしながら、お前たちはその声を無視した。大多数の正義と言う名のもとに」
「だけど、平和になった! それから250年もの間、戦争は無くなったんだよ?」
「まやかしの平和だ。それは人々が本当に望んでいた幸せとは異なる」
「ううーっ! 勝手なことばかり言わないで! 文句が言いたかったら悪の組織らしく力づくできなさいよ! 問答は無用だよ! 私はキーティアナ・ヘレン・シャルルベルン! シャルルベルン家の当主なんだから!」
「ぐえっ、ぐえっ!」
ぐえちゃんの目線が痛い! また論破されてるって思ってるよ!
でも、悪党っていうのは口も回るし、ずるがしこいんだから。いつの間にか術中にはめられてる可能性もあるから、問答無用も正しいはずなのっ!
「フッ……。こんな小娘が当主だというんだから、我々の目的達成も容易かろう」
「だれが小娘よっ! 私はちょっっっと同年代の子よりも背が低いだけなんだからっ!」
「フッ……」
鼻で笑われたっ!
このーっ! 痛い目見せて謝らせてやるんだから!
「ワームホールフープっ!」
カバンの中から取り出したのは細長い金属が円形になった輪っか。
この魔法道具は発動すると円形の内側に虚無の空間を作り出すの。
投げて使うもので、投げると輪っかが巨大になって、落下した地面を落とし穴に変えるのだ。
輪投げには自信がある。
輪っかをイーヴの頭上に向かって投げると、瞬時に円が大きく広がって床に落下する。
漆黒の穴が完成し、そこにレオニードが引きずり込まれる、と思った瞬間のこと――
「飛べ、フライングブーツ」
レオニードの靴から光の羽が生えてきて、それがぶわりと羽ばたくと空に浮かび上がり、ふわふわと宙に浮きだしたのだ。
「逃がさないよ、茂み丸っ!」
続けてカバンから取り出したのは、急成長するツタの植物の種と栄養剤を一緒にしたような魔法道具。相手をからめとって身動きできなくする効果がある。その名も茂み丸。
それを3つ手に取ってイーヴに向けて投げつける。
投げつけると言っても相手にぶつけて使うものじゃない。
だから放った茂み丸は手前の床に落ちたり、落とし穴のま漆黒に消えて行ったりしたものもあるんだけど……それは作戦なの!
ほら、床に落ちたものからツタがにょきにょきと生えて爆発的に育っていくよ。漆黒の穴に落ちたものからですらツタが伸びて、レオニードをからめとろうと襲い掛かる!
「疑似太陽」
すかさずレオニードが何かを懐から取り出すと、明後日の方向へと放り投げた。
するとそれが眩いほどの光を放ち始めて……レオニードを狙っていたツタは、あろうことかその光に向かって進むように成長していき、役目を果たさなくなってしまった。
「だったら代わりにそれを利用しちゃうんだから!」
それが太陽だというのならこうするよ!
三度投擲したのは特殊なガラス製のレンズの魔法道具。疑似太陽とレオニードの間に正確に投げ込んでバッチリ。
その心はもちろん、魔法道具が疑似太陽の光を収束して打ち出すことで、レオニードを焼き尽くすのだ!
投げたレンズが光を集めてレオニードへと打ち出すまでに数秒もかからない。
これで決まって欲しい!
そう思っていたけど、レオニードが動いたのを私は見逃さなかった。
「リフレクションウォール」
「!!」
それを見た瞬間、心臓がドキリと跳ねる。
お読みいただきありがとうございます。
久しぶりの登場の我らが主人公ぐえちゃん。そしてその主(飼い主)でありヒロインのキッテ。
繰り広げられる戦いの中、キッテは何を感じたのか!
文字数の都合上途中で話を切ってしまったのですが、次回をお楽しみに!




