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062 命の次に大切な事

 クララセントの体が宙を舞った。

 何が起こったのか。最後に視界から得た情報によってクララセントは答を得ていた。


 (不可視の攻撃……)


 一定間隔の剣の攻撃に目と感覚を慣れさせておいて、それに不可視の攻撃を混ぜ込んできたのだ。


 ドンッと背中から床に落ちる。

 攻撃のダメージにより手足が動かない。


 (手加減されていた……。その気になれば剣だけでわたくしを倒すことも可能だった。それをわざわざ死なない程度の不可視の攻撃に切り替えた……)


 「俺の勝ちだな。じゃあアンタを拘束させてもらうぜ? 負けたんだから文句は言わないよな」


 足のほうでチールが何かを言っている。痛みで良く聞こえないがろくでもないことに違いない。クララセントは痛みに押し負けずに思考を回す。


 ガチッと奥歯を噛む。そこには緊急用のポーションが仕込まれている。手足も動かせない時の絶体絶命時に使用するもの。僅かな量のためそれほど効果もなく、治癒速度も遅いが、腕が動かせるようになれば治療用のポーションを使うことができる。


 緊急ポーションの効果によって僅かに回復したクララセントはぐぐぐ、と体を起こす。

 その視界には金属の鎖の先に動物用の首輪が付いたものを自慢げに振り回すチールの姿があった。


 カツカツカツと歩を進めてくるチール。

 クララセントは逃げようにも体が満足に動かない。


「まだそんな目ができるんだ。いい加減にデレなよ。力の差は分かっただろ?」


「ご冗談を。たとえ武器が無かったとしてもこの口で嚙みちぎってさしあげますわ」


 虚勢に過ぎない。万全な状態でも勝てるかは怪しい力量差で今や攻撃方法を失った上に体も満足に動かない。


「やってみなよ。だんだんアンタの事が可愛く見えてきたよ。おれってSなのかもな。さあ、観念しな、っ!?」


「えっ!?」


 チールとクララセント。二人して素っ頓狂な声を上げたワケ。それは――


 近づいていたチールが急に足を滑らせて倒れこんだのだ。


「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 行きつく先は、クララセントのスカートの中。

 チールの頭はすっぽりとその中へと入ってしまったのだ。


「いやっ! 変態ッ!! けだものっ!!!」


「なんだっ! ちょっと、痛い! どうなってるんだ!?」


 突然の事にチールの頭は状況について行けていない。

 目の前は暗くて何も見えない。ただ、顔が柔らかなものに当たったなと思った後、後頭部にガンガンと痛みが襲ってくるのだ。


「野蛮人! 下種!! 女の敵!!!」


 悲鳴とともに浴びせられる罵声。クララセントは一刻も早く害悪を叩き出そうと、あらんかぎりの力でチールに打撃を与えている。


 チールはその痛みから逃げるようにもがいた。

 目の前が真っ暗であり今自分がどんな状態かは分からないこともあり、必死になって腕を振り回すと、何か引っかかるものに手がかかった。


 そこに力を入れて体を起こそうとしたのだが――


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


 一層大きな金切り声が(コフィン)内に響いた。


「よしっ、脱出できた……。えっ?」


 何とか暗い場所から抜け出し、顔を上げた時の事だった。

 チールの視界には二つのたわわな双丘があった。


 必死にスカートの中から脱出しようとしたチールの手に引っかかったのは、クララセントのドレスの胸元。胸の谷間が見えるほど首の部分が開いた胸元に手がかかって、体勢を起こすためにそれをぐっと引っ張った結果、クララセントの秘匿された部分がまろび出てしまったのだ。


「へぇぇぇぇぇんたぁぁぁぁぁい!!」


 左腕で双丘を隠し、右腕で渾身の右ストレートが放たれる。

 状況を理解していないチールはそのクリティカルな一撃を顎にもらった。


 チールの視界が暗転する。


 (これ、もしかしてあのスキル……)


 スカウターが途中で壊れてしまったため、クララセントはチールのスキルのすべてを見ることができてはいないのだが、当の本人は知っている。

 そのスキルとは『ラッキースケベLv10』。本人の意図せず破廉恥な結果を引き起こすスキルだ。

 どういった経緯かしらないが、彼が『超絶幸運』と共に所持していたチートスキルの一つ。


 (実際発動したのは初めてだけど、ハズレスキルじゃん……)

 

 沈み行く意識。

 だが、それは痛みによって現実に引き戻された。


「このっ! けだもの! へんたい! 悪漢! ゲス!」


 破廉恥さに我を忘れたクララセントが女子とは思えない力で顔面を殴りつけているのだ。


「消す、消す! 今の記憶がなくなるまで殴り続ける!」


「ちょ、ちょっと、まって、まって!」


「まだ意識がある! 足りない! まだ足りない!」


「ぐげっ、ぶげっ!」


 チールはクララセントにマウントを取られて、サンドバックのように殴り続けられる。それも両手で。


「し、死ぬ! リ、瞬間移動呪文(リバディオ)!」


 呪文を唱えた瞬間、ふっとチールの体が消え、クララセントの怒りの拳は空を切ったのだった。


「ふーっ、ふーっ……ふーーーっ」


 心と呼吸を落ち着ける。


 (逃がしてしまいましたか。ですが……地の果てまで追いかけて記憶を消してやりますわ。婚姻前の乙女の柔肌を見たことを後悔することね。いえ、後悔した記憶すら押し流して一発で消し去る幻痛秘薬の効果、身をもって体験させてあげますわ。絶対の絶対の絶対の絶対の、ぜーーーーーーったいに!)


 命の次の次に大切な目標ができた。

 だけどそれは今ではない。今は命の次に大切なあの子を助ける時なのだから。

お読みいただきありがとうございます。

また一人、チートスキルの犠牲者が。

さてさて、我らが主人公ぐえちゃんの名前は本当に出てきませんね。かろうじてヒロインのキッテの名が上がるくらい。読者様は二人の事を覚えているのか!

次回は糸の棺での攻防をお伝えします!

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