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060 金の棺のチール《勇者様》

 ――金の棺(ゴールドコフィン)


「ひゅーっ、こいつはまた異世界ファンタジーぽい! それでいて美人じゃん!」


「初対面の女性にかける言葉がそれですの?」


 ここは金の棺(ゴールドコフィン)。ジウグンドによってバラバラに飛ばされたうちの一人、クララセント・エバールードと、それに相対するのはレグニアの男。


 しょっぱなから好印象とは言いづらい言葉を投げかけられた彼女は、腰まであるウェーブのかかった金色の髪をふぁさっと左手で払いあげた。


 重力に従って美しい髪は元あったドレスの定位置に戻る。

 青色のドレス。かつてアトリエ認可試験で着ていたドレスもフリルのついたタイプだったが、今着ているドレスはさらに多くのフリルが付いていて、ひらひらでフリフリとなっている。


 対するレグニアの男は彼女より一つ二つ上の年齢で、これまで現れたレグニアのメンバーの中においては若く見える。

 白いスラックスと赤いマント、長袖のシャツに金の装飾がされた赤色の胸当てをつけている。細い目をして常に笑みを浮かべている顔の上には額の中央に青い玉がはめられた金色の鉢がねをしている。姿だけを見ると軽装で儀礼用の姿に近い。


「気を悪くした? この世界に来てから出会った中でもトップクラスに美人だったからさ。素直な気持ちなんだ」


「はぁ……。それで……美人のわたくしのお願いですけど、このまま帰ってくださる?」


「おっと、つれないな。好感度0じゃん。ウケル!」


「開く口があるのなら答えてくださる? わたくしは早くあの子と合流したいの」


「まあそう言わずにさ。ちょっと俺と楽しもうぜ? そうだ、アンタの名前は?」


「はぁ。不躾な男ですわね。人に名前を尋ねるときはまず自分からと教わらなかったのかしら?」


「いいね! そのツンツン具合! 俺、そういうのも好きだよ。いずれやってくるデレへの期待の裏返しってね」


 会話が成り立たない男に冷たい目線を送るクララセント。


「おっと、嫌われたくないから名乗っておくか。俺の名前は相崎涼真(あいざきりょうま)。レグニアではチールって呼ばれてる。それで、アンタの名前は?」


「わたくしはクララセント・エバールード。覚えなくても結構ですわよ」


「へえ、可愛い名前じゃん。貴族? それとも王家の子?

 ああ、俺はさ、日本ってところから来たんだ。知らないだろうけどさ、こことは違う世界さ。どうやら異世界召喚されたようでさ、さあこれから異世界、チート、ハーレムの始まりだってガッツポーズかましたんだよね。

 ところがどっこい。この世界には魔王がいないっていう話じゃないか。あぁ、正確にはこの国はってことだけど。そりゃひどいもんだったよ。スタート地点は森の中。普通は勇者召喚なんて王宮の地下とかでやるよね? なのに回りにはだーれもいない。解説スキルやお供キャラもいないってさ、現地の事情なんてまったく分からないわけじゃん? それでもまあ勇者として召喚されたってのは分かるから、とりあえず王様に会えばなんとかなるだろって会いに行ったらさ、魔王はいないし平和すぎて勇者は必要としていないっていうんだよね。ひどくない?

 ちょっとのお金だけもらってはいサヨナラ。どうなってるんだよってさ。俺は勇者なんだよ? 魔物を倒して無双して女子たちに惚れられてさ、いろいろ楽しんでハーレムが出来上がっていくってのが、異世界の醍醐味だろ?

 まあそんな時さ、どうやら平和なのはこの国に結界が張ってあるからだって知ったんだよね。

 じゃあさ、その結界がなくなったらどうなるかっていうと、世界は再び混沌につつまれて、勇者は必要とされて大モテ。チートで無双して俺つえーして気分は爽快。美人たちと愛をはぐくんでハーレム上等!

 まあそういうわけで、俺はレグニアに協力してるってわけ。それに、話だけ聞くとレグニアって正義側だと思うんだよね。平和を建前に裏から国を支配している悪の錬金術師集団を倒せっていうね。まあそんなわけだからさ、俺たちの邪魔はしないでくれよな」


「はぁ……」


 クララセントはチールの話した内容を全て理解できたわけではなかったが、この男が見た目通り軽薄で適当な男だというのはよくわかった。


「ほらほら。俺は全部話したよ? 胸襟を開いてってやつ?」


「ええ。あなたが自分勝手で最低な男だというのはひしひしと伝わってきましたわ。もうこれ以上会話をしなくてもいいくらいに」


「あれぇ? 素直に話したのに、なんで? 女の子と会うといつも、何を考えてるかわからないって言われるから話したのに。ま、いっか。これもイベントの一つ。突っかかってくるツンデレを倒したら惚れるイベントってやつ? お楽しみはデレた後ってことだな。そういうわけで、二コマ即落ちよろしくね!」


 チールが腰に下げた剣を抜き放ち、構える。

 刃物を見せた。すなわちもう引く意思はないという事。

 降りかかる火の粉は払わなくてはならない。もとよりキッテのためにレグニアは全て倒す気でいた。そのため、クララセントは一言だけ口を開いた。


「来なさい」


 どんな攻撃でも迎え撃つ。彼女の作成した魔法道具ならそれが可能で。それゆえに、その発動の邪魔になるため両手は()けている。


「俺に勝つ気でいるんだ。生意気だなぁ。気の強い女ってどっちかっていうと好きじゃないから、いつもはそうじゃない子を狙うんだけどさ。だけどアンタみたいな強気な女を屈服させるってのも楽しそうだ!」


 にやりと細目が笑う。それは含みのある笑いであり、何を考えているのか分からないと言われる一端となっている。


「俺ってばさ、特に戦いを楽しみたい派じゃないんだよね。だからサクッと屈服してね。風魔法、エアロミサイル」


 チールの周囲に魔力の波が発生したのはクララセントも分かった。だが発動されたはずの魔法は視認できない。

 聞いたことが無い魔法だが風魔法だと言った。風魔法には空気の渦や、大気の刃を飛ばす系統の魔法がある。そこまで考えたときにクララセントの頭に嫌な予感がよぎった。


「はっ!」


 ステップを踏むようにその場を移動すると、後方辺りの何もないところで何かが床にぶつかる音がした。


「ひゅぅ~、初見でそれをかわすんだ!」


「見えない魔法。ですの?」


「あたり。圧縮された空気。不可視の弾丸を相手にぶつける魔法さ」


「相手に手の内をばらすなんて馬鹿ですの?」


「うーん。強者の余裕ってやつ? どうせバレても変わらないでしょ」


「舐められたものですわね」


「じゃあやってみなよ。いくよ。それ、それ!」


 無詠唱。魔法の発動のキーとなる魔法名をも省いている。


 (すぐに発射してこない?)


 先ほどと同じく声に合わせて撃ち込んでくるものだと思っていたがそうではない。

 おそらくは攻撃の効果・効率を上げるために無数の弾を用意しているというのだという事をクララセントは感じ取った。


 一体、彼の周囲には何発の弾が出現しているのだろうか。10か100か。それは発動者にしかわからない。


 わずかに空気が振動する。

 弾が放たれたのだ。


 クララセントはその不可視の弾に対して、先ほどと同様に踊るようにして弾を回避していく。

 

 ぼちゅんぼちゅんと、後方で床や壁に弾がぶつかる音がしている。


 見えないと言ってもそれは視覚だけの話だ。空気が摩擦で奏でる音までは消せていない。

 よく見ると空気が揺らいでいたりするので、完全に不可視ということでもない。

 それらの情報から必要最低限の動きで回避しているのだ。


 舞いの様なその動きはすぐに終わってしまった。

 チールが準備した弾の数が尽きたのか、彼の攻撃が終わったからだ。


「こんな魔法じゃだめか。じゃあ次の――」


「いえ、今度はこちらから行きますわよ」


 セリフの途中でぶった切ってクララセントは攻撃宣言を行う。

 バレエのようにつま先立ちで手を上に伸ばしたままクルクル回るがごとくクララセントがその場で回転を始める。すると遠心力によってドレスのフリルから何かが飛び出してくる。それも1個や2個じゃない。10数個もの数が飛び出して彼女の周囲に浮んだのだ。


 宙を浮遊する金属製のその物体。漏斗(じょうご)のように先端が細くとがった形をしていて後方は膨らんでいる形状。


「おっ、知ってるそれ。ドローンだろ?」


 クララセントはピクリと眉を動かした。

 チールの言うドローンという単語には聞き覚えが無かった。

 もちろんこの世界()の技術ではドローンはなじみのないものだ。クララセント自体この形状の武器を見たこともないし、文献に乗ってもいない。初めて自身で作り上げたものであり、お披露目するのはここが世界初なのだ。

 しかしながら、チール(相崎涼真)はそれに心当たりがあるという。いわゆる異世界転移者による知識チートの一つ。


「寝言は寝ていいなさい。舞え、リークシュカ」


 これから繰り出す攻撃はたとえ知っていた所で防げるものでもない。

 そのため小さな違和感をぬぐって攻撃に転じる。


 先ほどと同じくクララセントがクルクル回り踊りだした。今度は腕の動き、上下に開いたり左右に伸ばしたり、大きな動きとなった踊りに誘われるかのように、彼女の周囲を浮遊していたリークシュカと名付けられたドローンが不規則な軌道を描きながらチールの周囲へと展開する。


「ハチの巣になりなさい!」


 舞い続けるクララセントの言葉に従うかのように、13体のリークシュカが先端から金属製の針を打ち出す。


「うわおっ!」


 初手の針をステップで回避するチール。

 数秒前までチールがいた場所には、太い油性ペンほどの大きさの鉄針が1本撃ち込まれていた。初撃は回避されたもののその隙を見逃さず、別のリークシュカが着地後予想地点へと攻撃をかけるが、手に持った剣で針ははじかれてしまう。さらにその隙を狙って攻撃をくりだすリークシュカ、と13体のリークシュカが流れるように攻撃を続けていく。


一手一手が詰将棋のごとく、一歩間違えれば太い針に串刺しとなってしまう。

 チールはうまくさばき続けてはいるが防戦一方で、じきにボロが出てくるに違いなく、クララセントもそれを狙って攻撃を続けている。


「あっ、やべっ!」


 限界はすぐに訪れた。チールが回避する方向を間違えたのだ。今跳んだ方向は複数のリークシュカが攻撃可能な地点。


「終わりよ!」


 クララセントが激しく腕を動かした舞を見せ、動きに合わせて王手だったリークシュカがとどめの針を放つ。


「ちょ、まっ!」

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