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050 一番新入りのジウグンド

「レグニア!」


「そうだよお嬢ちゃん。俺はレグニアのジウグンド。まあレグニアでは一番の新入りなんでジウグンドってわけだ」


「新入り? もしかしてその紋章、レグニアの序列なの? リィンザーよりちっちゃいし」


 ムキムキな彼の腕にはリィンザーの顔にあったのと似たような紋章が刻まれている。


 リィンザーの顔にあった紋章は顔の左半分を覆うほどの大きさで複雑な模様をしていた。でもジウグンドのものはそれよりは小さく模様も簡易なものだ。

 キッテの言う通り、大きく複雑なほうが序列が高いという推測は成り立つ。


「ふぁぁ~、目ざといねお嬢ちゃん。だがハズレだ。これは認識阻害を回避するための紋章さ。俺たちレグニアの証でもある」


「じゃあ紋章があったら黒ってことね。そんな重要な情報を漏らすなんて、やっぱり下っ端だね」


 序列を表してはいなかったか。

 でもなるほどね。今までどうやってレグニアが認識阻害を回避しているのかは分かっていなかったけど、そういうことだったのか。


「俺は新入りじゃああるが、下っ端じゃあねえよ。まあ、やりあえばすぐにわかることさ」


「確かにムキムキで強そうだけど、一人で私たちに勝つつもりなの?」


「ふぁぁ~、まあそう急くなよ。お前らが全然こねえから寝ちまってよ。だけどよ、この床冷たいわ固いわでなかなか寝れなかったんだわ。ようやく寝れたかと思った頃に、お前らが来るだろ? 眠いわけよ」


「そっちが勝手に攻めてきたんでしょ!」


「それであなた、寝るくらい余裕があったのならすでに風の棺(ウインド・コフィン)は制圧されたと思っていいのかしら?」


 キッテが相手の話術に翻弄されそうなのでママが割って入ってきた。


「おうともよ。じきに他の(コフィン)の制圧も終わる。そうすれば中央の棺(マザー・コフィン)への道が開くってわけよ」


「そんなことはさせないよ!」


 マグナ・ヴィンエッタの中枢である中央の棺(マザー・コフィン)。そこに至ればマグナ・ヴィンエッタのすべてを手にすることができる。そしてそこに至るには10ある(コフィン)の全てで承認される必要がある。つまりは10の(コフィン)を全て押さえられたら俺たちの負けになるのだ。

 元々シャルルベルン家側は全ての(コフィン)で承認された状態だったので、ここ風の棺(ウインド・コフィン)から中央の棺(マザー・コフィン)へ行くことができた。でも今は違う。いくつか分からないけど、複数の(コフィン)で承認が取り消されているはずだ。なので俺たちも再度10個の(コフィン)を取り返す必要があるのだ。


「知ってるさ。だからお前らは来た。いいぜ、ぶつけてこいよ。お前たちが先に進むためにはこの俺を倒すしかない。だがな、それは無理ってもんだ。この俺が相手なんだからな」


 ニヤリと笑みを浮かべるジウグンド。

 この人数差で怖気づかないとなると自分の戦闘力に相当の自信を持っているはずだ。


「思いあがった人ですね。ですが、犯罪者とはいえ正当に扱う必要があります。ここは私が行きましょう」


 ジョシュアさんが前へと進み出て剣を抜く。

 ガシャリと鎧の擦れる音がし、戦闘態勢に入った。


「王宮騎士ジョシュア・ノルクロスか。それなりの腕なんだろうが、やめときな。お前じゃ俺の相手はつとまらねえ。悪いことは言わん。全員でかかってこいよ。そのほうが手間も省ける」


「戯言を! 私の剣を見てもなお同じ言葉が出てくるかな!」


 金色のロン毛がたなびく。

 ジョシュアは重い鎧を身に着けながらも一足飛びに距離を詰め、下から上へと鋭く剣を振るう。


 ――ギィィィン


 並の悪党ならこれで勝負がついていただろう。

 だが、この男、並ではなかった。

 あの一瞬の間に、背中に背負っていた重そうな盾を持ち出し、ジョシュアさんの斬撃を防いだのだ。


 ――ガンッ


 初撃を防がれたジョシュアさんだったが、逸らされた突進の勢いを殺さずに盾へと蹴りをくれ、その反動でジウグンドと距離を取った。


「その大きな盾を軽々と扱うとは。見た目通りの力はあるようですね。ですが、これはどうかな!」


 再び間合いを詰め剣を振るう。今度は威力重視ではなく、速度と手数重視。

 右から左から、上から下から、無数の剣戟がジウグンドに襲いかかる。


「だから時間の無駄だよ」


 目にもとまらぬ早業のはずだ。現に俺の目にはジョシュアさんの剣筋は全く見えてはいない。だが、ジウグンドは器用に盾を動かしてその全てを防いでいる。


「くっ! これならどうだ!」


 防御のために振り回される盾が受ける慣性の動きを読んだのだろう。その隙をついて刺突を繰り出すが――


「ぐあっ!」


 慣性を力でねじ伏せられた盾の先端を胸部に食らってしまい、ジョシュアさんが吹っ飛ばされたのだ。


「ジョシュアさん!」


 よろよろと立ち上がろうとするジョシュアに駆け寄るキッテ。

 普段であれば危険だから下がっていなさい、って言うだろうが今はその言葉も出てこない。これは相当相手の腕前が高いということだ。


「悪いが一緒にやらせてもらうぜ」


「やるッスよ!」


 赤髪ツリ目冒険者のディクトと、力自慢の運送屋ダーニャが前に出る。


 二人は幼馴染同士。

 言葉を交わすこと無く、アイコンタクトを取っただけで左右から同時に襲い掛かる。


「同じことだ」


 左右同時と言っても攻撃にはわずかなラグが含まれる。それはほんの僅かな時間。幼馴染であるためインパクトの瞬間も限りなく合わさっているのだが、それでも0にはできていない。

 ジウグンドはまず盾をダーニャのほうへと向け、拳による一撃の衝撃を盾へと伝わらせる。

 自らと同じく武器を持たぬ徒手空拳の使い手としてダーニャの怪力を推測していたのだろう。拳の一撃の反動を利用して盾をディクト側へと持っていき、難なく斬撃を防いで見せた。


「くっ!」

「まだッスよ!」


 二人が再度踏み込んでいく。


「みんなで攻撃するよ!」


 バサリと当主装束を翻して、キッテは号令をかける。

 この男は全員で当たらなければ倒せないという判断。

 うん。決断が早くて良しだキッテ。


「それでいいさ。どうせ束になっても俺にはかなわねえ。だったら早く終わるほうがいいだろ? リィンザーからは時間稼ぎをしろって言われてるんだが、全員倒しちまえば同じことだ」


 ディクトとダーニャ、二人がかりの攻撃をさばきながらも余裕の表情で答えるジウグンド。


「いくよ!」


 キッテの掛け声とともに、一丸となって攻撃を開始する。

 掛け声とともにキッテの投擲した筒には火薬が詰まっていて、衝撃を受けると爆発する仕組みだ。火縄のついた時限式だと盾ではじき返されたりする可能性があるためだ。

 また、火力は押さえたものになっている。爆発の被害が皆に及ばないようにだ。


 火薬筒が敵に接触する瞬間、前衛の3人はバックステップで少し距離を取る。

 そして爆発による火薬の煙が上がっている中、総攻撃が始まる。

 ディクトとジョシュアは剣を。ダーニャは拳を。後列からはパパ、ママ、バザーお姉ちゃん、クララセント嬢がそれぞれ射撃魔法道具でジウグンドを撃つ!


「ははは、無駄だ無駄だ!」


 大きな鉄の板が音を立てて縦横無尽に移動する。

 爆弾も、斬撃も、拳撃も、弾丸も、すべてが盾に飲み込まれていく。

 5秒、10秒、20秒、秒数にすると他愛もない時間だが、それはまるで永遠のようにも感じた。

 皆がどんな攻撃を繰り出してもすべてが防がれ、はじかれていく。


 だが、永遠かと思われた時間は突如終わりを告げる。

 連撃を出し続けた手が僅かに止まるその時を見逃さず、大きな盾が前衛達を襲い……圧倒的な質量に吹き飛ばされる形で、ダーニャ達は逆に攻撃の道具となって後衛の5人へと突っ込んで行った。


「な、なんてやつだ、こんなやつがいたなんて」


 クララセント嬢のほうに吹っ飛ばされたディクト。

 なんとか同士討ちは避けたが盾で受けたダメージはかなりのもののようで、すかさずクララセント嬢がポーションを頭からぶっかけている。


「相手にならんな。つまらん。つまらんぞ。俺の心を満たしてくれるような強いやつ。結局この国にはそんな奴はいないってわけだ。

 だが他の国ならどうだ? まだ見ぬ好敵手がわんさかいるに違いない。この狭い国と違ってな!」


「それが、あなたが超神級守護結界機構(マグナ・ヴィンエッタ)を破壊する理由なの?」


「ああそうさ。俺は心躍る戦いがしたいのさ! 知ってるか? その感覚を。一度味わったら病みつきになる。あの命のやり取りをするひりついて冷たい感覚、それでいて熱くてどこまでも行けるような、そんな感覚さ!」


「そんなの知らないよ。あなただって知ってるの? 決まり切ったレシピから外れて未知の調合をしてみてすごい効果が出るときのこと!」


「あんだって? 知るかよ。俺は肉体派なんだ」


「私だって頭脳派だから! だからね、そんな勝手な理由で超神級守護結界機構(マグナ・ヴィンエッタ)を壊そうなんて許さないんだから!」


「何言ってやがる。俺からしたらお前らのほうが許されないぜ。勝手に壁を作って俺の自由を制限しているんだからなぁ」


「自由には責任がつきまとうんですぅ~! べーだ!」


 言い負かされたようだ。


「おいおいキッテ、当主が論破されてどうすんだよ」


「されてない! 悪の戯言に耳を貸さないだけなんだから!」


「痴話げんかは結構だが、結局のところ力で決めるしかないんだわ。この壁で(お前らが)自由を奪っている(している)ようにな」


「言われなくても! 頭脳派らしく話は後で聞いてあげるよ!」


 頭脳派とはいったい。


「だけどよキッテ、あいつの盾をなんとかしねーと攻撃は通んねえぜ?」


 俺もディクトと同じ意見だ。どんなに速く攻撃しても何方向から攻撃しても、あの盾はかいくぐれずジウグンドには届いていない。


「あの盾を奪い取れたらいいんだけど、あのムキムキじゃあ全員で引っ張っても負けちゃいそうだし。あ、そうだ! いい作戦が思いついたよ」


 一抹の不安はあるものの、他の人から打開策が出てくる感じでもない。

 でもキッテなら何かをやってくれる。みんなそんな顔をしている。


「おじさん、ちょっと待っててね」


「ったくよお。おじさんじゃねえ。俺はまだ若いんだ」


 ぶつぶつ言いながらも作戦タイムを許してくれるようだ。

 まあ向こうも足止めが目的なんだから時間をかけてくれるのなら都合がいいってことなんだろう。


「お母さん、あれ持ってる? そうそう、これこれ、これをね、ああしてこうして、どうこうして……」


 という円陣を組んでの作戦タイム。

 もちろんジウグンドの奴に聞こえないようにしている。


「おっけー。それじゃあいくよ」


 作戦会議終了。全員がジウグンドへと向き直る。


「こいよ。どんな手を使ってもこの俺は倒せんがな」


「頭脳の力見せてあげるんだから!」

お読みいただきありがとうございます!

新入り(下っ端ではない)の癖に圧倒的な強さを誇るジウグンド氏。

ムキムキの肉体に対抗できるのはやっぱり頭脳!

次回、キッテの頭脳が炸裂する! はず。

お楽しみに!

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