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005 第1話 今より少しだけ未来の話 その5

 キッテのアトリエ。

 その名の通り、キーティアナ・ヘレン・シャルルベルンの工房兼店舗のことだ。この王都では新参であるが、今注目のアトリエである。


 ――チリンチリン


 工房で制作した物を店に並べていく作業をしている時のこと。不意に、入口扉に付けた来客を知らせるベルがその音を鳴らした。


「うーす。キッテいるかー?」


 入口から入ってきた赤毛の少年。少年と言ってもキッテと同じ15歳。

 針金のようにツンツンした髪型で、ツリ目。レザープレートメイルとなめし革の靴、そして腰には剣を下げている。

 正直なところ知らない人が見れば近寄りがたい風貌の少年だ。


「あれ? ディクトじゃない。どうしたの? アトリエに来るなんて珍しいね」


 ガッチャガッチャといくつものガラスの瓶を入れた木箱を運んでいたキッテだったが、突然の珍客の出現に、木箱を棚に置いて仕事を中断する。


「用事だよ、用事。じゃなかったら口うるさいお前の所になんか来るわけないっての」


「用事? 冒険者ギルドの?」


「違うよ。ギルドの仕事のついでだ。ついで」


 キッテに対して悪態をつくこの少年の名前はディクト・マース。キッテの幼馴染で冒険者をやっている。それなりの腕前なので、たまに素材の採取依頼でお世話になっているのだ。


「ふーん? とりあえず座りなよ。お茶でも飲む?」


「いーや、遠慮しとくよ。茶の中に何が入ってるかわからないからな」


「もう、いつもながらに失礼な。何も入れないわよ。茶葉……と、そういえば茶葉以外にも栄養のためにいれてたっけ?」


「ほらみろ! 茶ならリタさんの店で飲むからいい。それよりもだ。ほれ、これを渡してくれってよ」


 ディクトは手に持っている何かをこちらに差し出す。

 筒、のように見えるけど、なんだろうか。


「あのいけ好かない王宮騎士からだ」


「いけ好かない王宮騎士って、ジョシュアさんのことでしょ。ディクトってばいっつもジョシュアさんのこと悪く言うんだから。あんなに素敵な人なのに」


「けっ! あんな優男のどこがいいんだか。ほらよ、渡したからな。俺はもういくぜ」


「あっ、ディクト! 行っちゃった……」


 黒い筒のようなものをカウンターの上に置くと、もう用済みだと言わんばかりに去って行ったのだ。


「もう、せっかちなんだから。それにしてもジョシュアさんからだなんて、いったいなんなんだろう」


 キッテはディクトが置いて行った筒を見る。

 手のひら大よりも少し長めの金属製の丸い筒。先端は(ふた)が付いていて、取り外しが可能となっている。筒本体には王宮で使われている紋章が入っていて、この筒の用途が王宮からのお手紙を入れるものであることを表している。


 くるくるとふたを回転させて外し、筒を逆さまにすると、中からくるくると丸めた紙が出てくる。


「何が書いてあるのかな、と」


 お手紙に目を通していくキッテ。

 俺の位置からでは良く見えないが、この様子だと結構な長文が書かれているはずだ。


「ぐえー」


 何が書いてあるんだ?


「なるほどなるほど、今度、ポーションの大口納品契約の入札会があるんだって。それのお誘いだよ」


 キッテの頭でお手紙の内容が見えないので解説を促してみると、以心伝心なキッテはそれに答えてくれる。


「ぐえー」


 なるほどな。入札会というのは、王宮が物品を調達・購入する際に、物品の品質などの条件を公開して、受注者はその条件についていくらで受注・売却するかを書いた紙を箱の中に入れて、一番値の安かった受注者が契約を受注できるというものだ。


 キッテはまだ王宮の入札会に参加したことはないんだけど、これはチャンスだな。ここで一気に王宮のお得意様になってしまおうぜ!


「物品はポーション1000個だって。これは大仕事になりそうだよ!」


 おう。キッテと俺がいれば大丈夫だ! 俺は錬金術の役には立たないから主にキッテが頑張ることになるんだけどな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 錬金術師といえば某アトリエシリーズですね。 まあ大昔には、鋼の――もありましたが。 でも単なるオマージュではなく、 独自の世界観と雰囲気もあると思います♪
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