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049 風の棺へ行こう!(遠足ではない)

 俺の名前は「ぐえ」。とある理由で病弱な女の子、キッテと出会ってからずっと彼女を支えてきた(と自負している)相棒の小さな竜だ。


 体も小さく、力も弱い。今回の戦いでも1匹に数えてもらえないおまけ存在なんだけど、耳は良く聞こえるんだよね。


 例えば、さっきダーニャ達が玄関に来た時、パパとバザーおねえちゃんは玄関に来なかったんだけど、実はこんな会話が聞こえてたり。


「バザー。ママに言えないことがあったらパパに言いなさい。ママは前当主だけど、パパは違う。ママと違って親身になって聞いてあげられることもあるはずだから」


「ん。ありがと……」


 とまあ、聞こえなくていいことまで聞こえてしまう。いつもながら「盗み聞きしてすみません」と心の中で謝っておく。言葉に出してもぐえぐえしか言えなくて伝わらないしな。


 さてさて話を戻すが、みんなと合流した後、速やかに戦いの準備を済ませた。

 キッテ、ママ、パパ、バザーお姉ちゃん、ダーニャ、ディクト、ジョシュアさん、で総勢7名。これだけ戦力があれば後れを取ることはないだろう。


「行くよ、みんな!」とキッテが檄を飛ばして目的地へと出発する。

 目的地はシャルルベルン家が聖地とする場所。10の(コフィン)のうちの一つ、風の棺(ウインド・コフィン)だ。


 キッテの故郷トルナ村からさほど離れていない山の中腹にひっそりと開いた穴。そこが風の棺(ウインド・コフィン)への入口だ。


 先頭を行くキッテ。彼女の着ている服の背中にはシャルルベルン家の紋章が存在を主張している。円の中に色とりどりの10の歯車が書かれた模様。それがシャルルベルン家の紋章。そしてそれが刺繍されているのがシャルルベルン家当主の装束だ。

 出発の際にママから渡されたもので、歴代の当主が有事の際に身に着けた由緒あるものだという。

 白い法被(はっぴ)のような上着であり、通常の衣服の上から身に着けることができる。手首のあたりは外側に広がっていくデザインとなっており、着物の袖にも似たその中にはいろいろなものを仕込めそうだ。そうしておけばわざわざカバンから錬金アイテムを取り出さなくても投擲できるってわけだ。


 装束をはためかせながら歩くキッテ。

 装束は大人用法被の(たけ)で作られているため、当主になりたての15歳&同年代よりも少しだけ背が低いキッテにとっては履いているミニスカートを超えて膝くらいまで丈がある。

 今は装束に着られている感じがするけど、いつかは成長して着こなす姿を見せてくれるだろう。


 なんてことをしみじみと思っているうちに風の棺(ウインド・コフィン)への入口が見えてきた。 


 ん? 入口の前に誰かがいる。

 まさか、レグニアか? すでに 風の棺(ウインド・コフィン)は制圧されてしまったというのか?


 目を凝らして相手の姿を見る。

 相手はどうやら女性のようで……ウェーブがかかった金髪は腰まで伸びていて、この山の中には似つかわしくない青色フリルドレスを着ている。あの人物は……まさか。


「クラちゃん!」


「はあっ、はあっ、はあっ、え、ええ、き、奇遇ね、こんな、ところで、はあっ、会う、なんて」


 そこに待っていたのはクララセント・エバールード嬢だった。

 少し前、アトリエ認可試験を受けたときに協力してゴルンバスの輝卵殻を手に入れて、お互い無事に合格した錬金術師仲間だ。

 でも彼女は遠く離れた港町フェルフェンにアトリエを構えていたはずだ。

 それに、すんごい息が上がってるな。全力疾走した後か?


「もしかして、助けに来てくれたの?」


「い、いいえ、違うわ。はあっ、はあっ。たまたま、通りかかったの。はあっ、はあっ、でも、何か困っているというのなら、もちろん力になるわよ」


 こんな山の中で、しかもアトリエがある街とは違う場所で通りがかっただけとは無理がある。

 あれ? あそこ。山肌の横に何かの残骸がある。ううーん。よく見たらゴルンバスの時に使った天駆流星舟(ティックルーコラット)に似ているぞ。


 もしかして、あれを使ってここまで飛んで(墜落して)きたのか。

 だとしたらまあ……息も上がるわなぁ。


「ありがとうクラちゃん!」


 キッテがぴょいんと抱き着きに行ったけど、ディクトと同じくひらりと回避されてしまった。


 なんで避けるのさ、と不満げなキッテに、危ないですからね、とクララセント嬢は返していた。


 ◆◆◆


 クララセント嬢を加えて俺たち8人の一行は洞窟の中へと進む。


 入口は自然洞窟に見えたが中は人工物。壁や天井は金属で覆われていて階段も規則正しい段差で作られている。まるで船の中のようなイメージを受ける。

 進むたびに前方の明かりが自動的についていく様子もあって、この世界の実情とはかけ離れた光景だ。


「しっかし、すげーな。まさかキッテん()がこんなすげーことしてたなんて知らなかったぜ」


「ごめんね、秘密にしてて。でも言っても信じてもらえないからさ」


 冒険者であるディクトは頻繁に秘境やらなんやらに言ってるはずであるが、さすがにこの景色は珍しいのかキョロキョロとしている。


 マグナ・ヴィンエッタによる認識阻害。それはもちろんディクト達にも及んでいる。なので一時的に認識阻害を回避できる秘薬を飲んでもらって、事情を説明したのだ。本当はずっと効果のあるものがあればいいのだが、そういう都合のいいものはない。

 ちなみに、シャルルベルンの一族(テレッサの子孫)であるバザー姉ちゃんには秘薬は必要ない。シャルルベルン家の人々は遺伝子情報に阻害をはじく情報が記載されているため、お役目を果たすのに問題はないのだ。


「昔ちょっと試してみたくって、ディクトに外の本を見せたことあるんだよね。でも全然分かってくれなくってさ」


「まじかよ」


「うん。あのあとお母さんにものすっごく怒られた」


「うへえ」


 確かあれはキッテママが記載を修正するために集めてた本の一冊だったな。

 250年前の戦乱で多くの書物が失われたけど、僅かに残ったものもある。それらの外についての記載を修正するのもシャルルベルン家の仕事の一つなのだ。

 個人宅にあるような書籍はなかなか修正ってわけにはいかないんだけどな。

 まあ仮に外についての記載を見たところで認識阻害によって理解できないんだけど、何かのはずみでっていう事はあるからな。


 そんなこんなと言いながら、進んだ先には鉄の扉があった。

 装飾は施されていない武骨なデザインで、大きな鉄板2枚が道を塞いでいる印象だ。


 キッテは扉の前の壁に不自然に開いている穴に指を突っ込むと――


開錠(アクアス)


 静かな声でそう言った。

 これで扉が開くのだとママは言う。


 教えどおりゴゴゴゴゴという大きな音を立てて2枚の鉄板は左右に開いていった。


 どうやらまだ先があるらしく、俺たちは先ほどと似たような通路と階段を進んでいった。


 ◆◆◆


「ここが風の棺(ウインド・コフィン)の中央部よ」


 ママがそう言った場所は、ホールのような広さがあり、その一角に壁いっぱいに広がるくらい大きなモニターと何かを入力するようなコンソールがあった。


 モニタはチカチカと点滅を繰り返しており、壊れているのか、緊急事態を示しているのか、とにかくせわしなく光っている。


「誰も、いない?」


 キッテが足を踏み出そうとしたその時――


「待ちたまえキッテ。暗がりに誰かいる」


 ジョシュアさんが腕でキッテの歩みを制したのだ。

 慌ててキッテは後ろへと下がる。


「出てきなさい! 気配を隠して不意打ちを狙うつもりだったのだろうが、この王宮騎士ジョシュア・ノルクロスを欺くことはできなかったな」


 ホールの奥に向かって声を放つと、闇の部分がゆらりと揺らいだ。


「ふぁぁ~、なにバカでかい声を出してるんだよ。こちとら寝起きなんだぜ」


 闇から現れたのは一人の男。中年というほどではないが30代くらいで、その体は筋骨隆々。俺たちの中の誰よりもでかい。短髪の黒髪と剃るのがめんどくさかったのだろう無精ひげ。

 鎧のようなものは身に着けておらず、タンクトップのようなシャツを着て、白のズボンをはいている。

 男はあくびをしながらボリボリと頭をかいて、無警戒にこちらへの距離を詰めてくる。


 スピードを出すための格好のため、格闘家だろうか、と思ったのは間違いだった。

 近づいてい来る男の背中には盾と思われる巨大な金属の板があったのだ。


「レグニア!」


「そうだよお嬢ちゃん。俺はレグニアのジウグンド。まあレグニアでは一番の新入りなんでジウグンドってわけだ」

お読みいただきありがとうございます。

準備に長々と時間がかかってしまいましたが、とうとう敵の登場です!

一番の新入りだという貫禄を感じさせる男。

どんな激しい戦いが待ち受けているのか。

次回もお楽しみに!

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