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042 キリンとの逢引き

「シンディナス様がさらわれてしまったのです!」


 突如現れたカーナさんは、慌てふためきそう言った。

 アワアワと語る内容はこうだ。


 翻訳魔法道具を渡した数日後、キリンのシンディナスさんがいなくなった。同時に翻訳魔法道具もなくなっていて、さらにシンディナスさんのお世話をしていたメイドがいなくなったのだという。


「きっと、あの子、メニーがシンディナス様を連れ去ったんです。よくよく考えればメニーはシンディナス様のお世話をしているとき、目つきが怪しい雰囲気でした。ぼーっとしたり顔を赤らめたり。あれは絶対にシンディナス様の魅力に心を奪われてしまった証拠です。今までは言葉が通じなかったから実行に移さなかったけど、あの魔法道具をお借りしたのが引き金になったに違いありません。あぁ、シンディナス様、いったいいずこに。カーナは心配です……」


 宝石のように煌めく涙がきれいな褐色肌を流れ落ちる様子が、悲しみに暮れる美少女の姿を一層引き立たせている。


「ぐええ」


 でもさぁ、あのキリンならメイドの一人くらい力づくで何とかなるだろ? なぁキッテ?


「だよねぇ。

 カーナさん、あの大きな体なら、女の子くらいどうってことないんじゃないですか?」


「シンディナス様は騎士道精神あふれる立派な方です。たとえ犯罪者でも女性に危害を加えることは断じていたしません。無理にでも背中に乗られれば、振り落としてけがをさせることを選ばないでしょう。あぁ、シンディナス様……」


 そう早口で語り、再び涙を流しながら思い人の姿を脳内で巡らせ始める。


「お嬢様ぁー」


 その時、遠くからメイドさんが呼びかける声が聞こえてきた。

 息を切らせながら必死でアトリエに走りこんできたメイドさんは――


「はぁ、はぁ、シンディナス様を、見かけたとの、情報を、はぁ、得ましたっ!」


 という、キリン(さら)い話の核心につながる情報をもたらしたのだった。


 ◆◆◆


 ――ガガガガガッ


 木製の車輪と舗装された道の石畳が高速で接触しあう音が響き続けている。


 俺たちはメイドさんが得た情報の場所に向かって、カーナさん家の馬車を疾走させているところだ。


「あぁ、シンディナス様、ご無事で……。あの子にいかがわしいことをされていませんように……」


 カーナさんがポツリとつぶやく。

 この切羽詰まった雰囲気の中では誰もそれに応えようとはしない。


「あぁ、もしシンディナス様の唇が奪われてしまっていたら……。初めては私という誓いが無理やりに破られて……。

 これまで一体どれだけの時を重ねてきたことか……。お互いが人間に生まれ変わるまで愛の口づけはしないと誓ったことが裏目に出るだなんて……」


 頭の中であれこれと考えてしまうのだろう。

 その一部が漏れ出てしまっている。


 しかしだけど、キリンに口づけねぇ。あの顔に口をつけるのは結構勇気がいりそうだ。そんなモノ好きがいるんだろうか。

 まあでも、人の好みは千差万別。それに、心が好きとなったら見た目なんか関係ないのかもしれない。ちょうど心を知るための魔法道具はあったのだから。


「お嬢様! シンディナス様と思われる足跡です! 追います!」


 走る馬車。眼下の地面には獣の足跡。

 まだ新しいそれは、馬のように丸くつながったものではなく、先端が割れて二つになっているものだ。前世でのラクダの足の記憶は朧気だけど、偶蹄目っていうやつだったか。


 俺やキッテはともかく、カーナさんやメイドさんは普段からキリン(シンディナスさん)の足跡をよく見ているので見間違いなどしないはずだ。


 激しい揺れを起こしながら走る馬車。

 俺たちの乗ったそれは、道端にぽつんとあった廃屋のようなあばら家の前で止まった。


 なぜなら、それまでずっと一本で続いていた足跡が、ここの前で何度も踏みしめたような、暴れたような形跡へと変わっていたからだ。


 足跡の一部は廃屋の中へと続いている。


 メイドさんが馬車から降り、気配を殺しながら、あばら家の入口へと向かう。

 俺たちは馬車からその様子をうかがう。あばら家の扉は壊れていて開いたままのようだ。


 そしてメイドさんがそっと中を覗き込む……。


「お嬢様!」


 メイドさんが声を上げ中に入った!


 俺たちは急いで馬車を降り、メイドさんが踏み込んだあばら家の中へと駆け込んだ。


「んー、んー」


 そこには、さるぐつわをされ、手足を縛られたメイドの姿があったのだった。

お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 犯人かと思われていたメニーさんが捕えられていたのでしょうか? そうすると、誰がこんなことを? 謎が謎を呼ぶ展開。 すごく続きが気になります。
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