表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/108

041 キッテのお姉ちゃん

 キッテのお姉ちゃん、バザーお姉ちゃんはキッテよりも10歳年上。

 本名はバルザック・シャルルベルン。天才と言われたほどの錬金術の才能の持ち主だったけど、俺とキッテが出会う前のキッテが4歳のころ、吟遊詩人になるんだと言って家を出て行ってしまったのだ。


「ただいまー。あれ? お父さんもお母さんもいないんだ。まあいいか」


 あれから王都を出発して2日ばかり。キッテの実家があるトルナ村にやってきた。


 日帰りできない距離なので、俺たちがブツを取りに行って後日渡す、という話をしたのだが、その時間も惜しいから一緒に行くと言われた。愛の前には時間ですら障害となるのだ。


 カーナさんは本当に貴族令嬢だったらしく、こっそりお忍びでアトリエにやってきていたところをメイドに見つかってしまい、家に連れ戻そうとするメイド共々カーナさん家の馬車でトルナ村にやってきた。

 キリンのにーちゃんは馬車に乗れないので徒歩(四足歩行)だったが、カーナさんは馬車の中にいるよりも愛する人と一緒にいたいと、キリンのにーちゃんにまたがって乗っている時間がほとんどだった。


 両親不在中の実家玄関のカギを開けて家の中に入る。

 残念ながらキリンのにーちゃんが全長の関係上入ることができないので、カーナさんも一緒に外で待機だ。


 実家の地下の一室。バザーお姉ちゃんが家を出ていくまでにいろいろなものを作成していった名残がそこにある。

 その数々は、まるでキッテのアトリエを見ているかのようだ。

 キッテが物心ついたころ、すでにバザーお姉ちゃんは王都の学校で下宿生活をしていたため、一緒に過ごした期間はほとんどないらしい。

 そのあとすぐに家を出て行ってしまったらしいから、兄弟という実感はなかなか無かったはずだ。


 そんな中、キッテが成長して錬金術を学び始めたことで、このバザーお姉ちゃんの部屋の存在を知った。

 百聞は一見に如かずというように、バザーお姉ちゃんが残していった奇抜な魔法道具たちはキッテに大きな影響を与えたのだ。


「あった、これこれ。生き物の言葉を翻訳する魔法道具!」


 そんなガラクタ(奇抜な魔法道具)の山の中から、キッテは目的のものを見つけ出す。

 見た目としては、イベント会場の警備員が持っている拡声器のようにメガホン状の形をしている。


 壊れてないかなー、といいながらそれを外に持ち出して、ミミズに向けると、『土、うめぇ、うめっ、うめっ!』、花に向けると『太陽の光だいしゅき!』という人間の言葉がメガホンの後部から発せられた。


 一同がおぉ~と驚いているところを、「じゃあシンディナスさんで試してみましょうか」とキッテが言い、翻訳魔法道具をカーナさんに手渡す。


「そ、それではシンディナス様、いきますよ……」


 おっかなびっくりとした様子で魔法道具をキリンに向け、ごくりと唾をのむカーナさん。

 カチリと手元のスイッチを押すと――


『あぁ、カーナ様、お美しい。その驚きを隠しきれない目も、不安げに少し曲がった唇も、その魔法道具が私を傷つけまいかと思案する表情も、どれもこれもが美しい』


 そんな声が聞こえてきたと思ったら、カーナさんはワナワナと震えて、口元を押さえて――


「シンディナス様っ!」


 魔法道具を放りだしてキリンのにーちゃんに抱き着きにいってしまった。

 空中で弧を描く魔法道具をキッテがあわあわとしながらもキャッチして、カーナさんの代わりに再びキリンに狙いを定める。


『あぁ、カーナ様、そんなに密着されると困ります。年頃の娘がはしたないですよ。私が騎士とはいえ、そんなことをされると我慢しかねます故』


 などという言葉は俺たちだけに聞こえていた。


 ――カチリ


 ほほえましい? 姿を見ていた俺の耳に再びスイッチを押した音が聞こえた。

 それはキッテが俺に向けて翻訳魔法道具を作動させた音。


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 だけど、翻訳魔法道具は一向に何も伝えない。


「うーん、やっぱりぐえちゃんの声は聞こえないね。前もそうだったけど」


 そうなのだ。以前も試したが俺の声は聞こえなかった。

 ドラゴンの翻訳機能は入っていないのかもしれないな。


 そんなこんなで動作確認をして、キリンのにーちゃんの声がちゃんと聞こえる事が分かったため、翻訳魔法道具はレンタルという形で破格で貸し出すことにして。

 言葉が分かるようになってこれまで以上にイチャイチャしだした人間(カーナさん)キリン(にーちゃん)を見送った。


「カーナさん、恋する乙女っていう感じで素敵だったよね。どんな障害にも負けないぞっていう一途な感じがシンディナスさんの事が大好きだってこっちまで伝わってきて。シンディナスさんだってよくよく見てるとカーナさんの動きをかばったり、危なそうなポジションの時は自分の大きな体を盾にする位置に移動したりしててさ。

 お話では、カーナさんが虫だった時でもシンディナスさんは愛してくれたって言ってたじゃない。どんな姿になっても二人の愛は不滅だなんて、愛って偉大なんだねっ!」


 などと顔を赤らめながら愛について話していたキッテ。

 私もいつか燃え上がる大人の恋をしたい! などと言っていたが、そういうことを言っている辺りまだまだ子供なんだなと思った。


 ◆◆◆


 数日後の事。


「シャルルベルン様! 大変なんです! シンディナス様をお見掛けしませんでしたか!?」


 血相を変えた黒髪褐色美人のカーナさんがアトリエに現れたのだった。

お読みいただきありがとうございます!


生お姉ちゃんと会えると思った読者様は残念でしたすみません、話の都合上回想となりました!

一体、生お姉ちゃんは今どこに!

それよりも、本編としてはキリンは一体どこに!


次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] キッテのお姉さん!!! バザーお姉さまが作ったアイテムがお家にあったとは。 そしてキリンさん。 言葉が通じたあと、思うところがあったのでしょうか? 続きが気になります。 あと、お姉…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ