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036 人の事は言えないね

「それで頭がふらふらーってなって、いつの間にか逆らえなくなってたッス」


 最初は普通の配達依頼だった。食料を調達してあの洞窟に届ける依頼。

 そこから依頼の内容は増えて行き、洞窟からの荷物を中間業者に運ぶ依頼や、指定された品を直接仕入れて中間業者に渡す依頼などを行って。そして先日の密輸事件、モルゲンサンドワームの無免許配送に至る。


 その時点ですでにおかしかったダーニャだったが、キッテに怒られてさすがに駄目だと思ってあの男に問い詰めに行った際に、まずは一杯と飲み物を差し出されて、それに口をつけた後から頭の中がピンク色のお花畑になって一層おかしくなってしまったと言う事だった。


「びっくりしたよ。ダーニャがそんな凄いセクシーな格好してるんだから」


 ちらちらとダーニャの胸元を見ているキッテ。

 今のダーニャの上半身は先ほどの情事の前にパーカーを脱ぎ捨てているため、ビキニ水着にそっくりなものしか身に着けていない。

 発育が良く、体つきもがっしりとしたダーニャはそれに比例してビキニが覆う部分もしっかりとした主張をしている。

 キッテはそれが気になって恥ずかしいようなのだ。


「うえぇぇぇっ!? な、なんッスかこの紐みたいな服!」


 どうやら今ごろ気づいたようだ。

 急いでパーカーを着ると、しっかりと前を閉じてしまった。

 だけど短すぎるホットパンツの下半身はどうにもならない。キッテの服を貸そうにもサイズが違い過ぎて入らないしな。うちのキッテはちょっとだけ背が低めのお子様体型だから。


「乙女の心をもてあそばれたッス! 惚れ薬で無理やりだなんて最低ッス!」


「あ、悪だね! 間違いないね!」


 歯切れが悪いな。自分も人の事言えないって思ってる顔だ。


「じゃ、じゃあ、悪事を止めに――」

「キッテとのラブを見せつけに行くッス。NTRッス!」


「え、えぬてぃーあーる?」

「NTRっていうのはッスね、むぐっ!」


 こらこらダーニャ、純粋なキッテに何を教えようとしてるんだ。

 俺はその解説が始まる前にダーニャの口を塞いだのだった。


 ◆◆◆


 ダーニャの話によると、その男、カイゼルは何か良からぬことを企んでいるらしい。ただの密輸だけではない。共犯者には流通禁止素材を受け取ったお抱えの錬金術師がいて、何か良からぬものを作っているらしい。残念ながらその何かというのと、たくらみの内容は分からないが、叩けば証拠はいくらでも出てくるだろう。


 そういう訳でカイゼルのいる洞窟に行き、正気に(惚れ薬でスキを)戻った(上書きされた)ダーニャが何食わぬ顔をして悪事の証拠をつかむと言う寸法だ。


「ねえダーニャ、どうして私がダーニャの膝の上に座ってるの?」


 いつもと同じ。ベヒーモスのノルクが引くベヒーモス車の御者台。

 ガタゴトと揺られながら道を進む途中でキッテが疑問を口にした。


「離れたく無いッス」

「横でもいいのでは?」

「いやッス。キッテの温もりを感じていたいッス」

「ぬくもり!? そう言われると恥ずかしいよ!?」

「誰も見て無いッスよ」

「いや、見てるよ!? ディクトが!」

「はいはい俺は石です。ごゆっくりどうぞ」


 ベヒーモス車の荷台に寝っ転がっているディクト。

 忙しいだのなんだのと言いながら、なんやかんや理由をつけて心配だから一緒について来てくれている。


「石からの許可もらえたッス」

「ダメダメ! 石じゃないから! しゃべる石なんか無いから!」

「キッテはあたしのこと嫌いッスか?」

「えっ? 嫌いじゃないよ」

「じゃあ好きっすか?」

「えっ?」

「やっぱり嫌いなんッスね」

「えっと、好き。好きだよ!」

「じゃあ問題無いッス」


 なんか既視感を覚えるやり取り。少し前にも同じ光景を見たような?

 この後結局キッテが折れるんだろう。うまい事手玉に取られている感じがする。

 あ、言った傍から、ダーニャが両手でキッテのことをぎゅーっと抱きしめてる。


「ダーニャ、たづなたづな!」


 ワタワタと慌てるキッテと、キッテの慌てように渋々ハグを止めて、手放した手綱を再び握りしめるダーニャ。


「もう、危ないからダメだよ!」


「分かったッス。危なくなくなったらするッス」


「ううーん、そういうことじゃないんだけど……」


 膝の上から解放されたキッテ。

 火照った顔を覚まそうと不意に荷台に視線を向けると……その存在に気づいてしまった。


「あっ、石、じゃなくてディクト。み、見て、た?」


「見てねえけどずっと聞こえてたよ。お熱いこって」


「ばかっ!」


「冗談はさておき、ダーニャはいつまであの状態なんだよ」


「悪党を殲滅するまでは、また惚れ薬を投与されるかもしれないからね。しかたなしだよ。この状態なら大丈夫だから。そんじょそこらの惚れ薬なんかには負けないよ。特に悪の惚れ薬なんかには!」


「まあ、お前が責任もって面倒見ろよ? 俺は知らないぜ?」


「分かってるよ。そもそも今のダーニャから見たディクトは石だから」


「それもひでー話だ。幼馴染なのによ」


「拗ねないでよ。ダーニャとディクトをくっつけても良かったんだからね」


「おいおい、その話は――」

「でも、それだと私が石になるから、やっぱりダーメ!」


「キッテ、石に向かって独り言を言ってないで構って欲しいッス」


 騒がしい幼馴染たちのやり取りをよそに、ガタゴトとベヒーモス車は山道を進むのであった。

お読みいただきありがとうございます!

前回に引き続き甘い?らぶらぶシーンでした。(本編の進みが遅い!

次話から猛加速する予定ですので、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回に引き続きご褒美回で最高でした(^^) 空気を読んで石になってるディクトくんもよかったです。
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