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034 ご両親にご挨拶イベント

「ディクト君、久しぶり。キッテとは仲良くやってる?」


「ええぼちぼちと」


 何を言ってもキッテは聞いてはくれないと諦めモードのディクトだったが、道中何度も無言でこっそりと逃走を試みていた。だが、頭脳派のキッテの前にあえなくお縄について、二人の故郷トルナ村にあるキッテの実家にやってきていた。


 懐かしの、って言うほどキッテが実家を出てから時間が経ったわけではないが、懐かしのシャルルベルン家の食卓テーブルに座って、ディクトはキッテママの質問に答えながら出されたお茶を飲んでいるところだ。


「そうじゃないわよ、いい感じなのかって聞いてるの」


 ――ぶーっ!


 うわ、汚い。ディクトが飲んでいたお茶を噴き出したぞ。


「おれはこんなチンチクリンは好みじゃないですよ」


 そして何事も無かったかのようにふるまってそう答えた。


「チンチクリン? ディクト君、親の前で娘の悪口を言うなんて、悪い子になったわね」


「ほう、ディクト君、うちの娘がチンチクリンだって?」


 ここまで黙って話を聞いていたパパが参戦してくる。


「い、いえ、違う人の話してました。こんなに可愛くて美人でレディーな子は他に知りませんよ、アハハハ」


「ふへえ、ディクトほめ過ぎだよ」


 なにやら、にやけ顔のキッテ。


「ほめてねえ」


 トーンを落とした声でディクトが答える。

 会話としては褒めていたが、そこには突っ込むまい。


「それで、今日はどうしたの?」


 というママの問いかけに、かくかくしかじか、とキッテが説明する。


「なるほど。惚れ薬の材料ね」


「うん。私のクァルンの尻尾の毛と交換してほしいの。これだけで全部の素材と交換してもおつりがくるよね?」


「だめよ」


「えっ、なんで?」


「釣り合わないわ。クァルンの尻尾の毛なんかとじゃ交換しないわよ。クァルンの毛じゃなくて、キッテはキレギナム草を出してちょうだい」


「キレギナム草を!? って、そこらへんに生えてる雑草じゃない! だめだよ! 甘やかさないで! 私はもう一人前の錬金術師なんだから!」


「だってねぇパパ」


「ああそうだなママ。キッテはいつまでたっても私たちの娘なんだから」


「だめっ! そんなんだったらもう二度と口をきいたあげないよ?」


「それはこまる」

「ええ、それはこまるわね。あ、そうだキッテ、ケーキを焼いたのよ」


「わーい、食べる食べる」


 見事な話題転換。キッテは話題がぶつ切りにされたことなんて気づきもしない。


「おいしー。って、危うく懐柔されるところだったよ!」


 あ、さすがに気付いたようだ。

 ぽっぺたの辺りにクリーム付けたままだけど。


「はいこれ。尻尾の毛。もう勝手にもらっていくからね。ついでに錬金(がま)、借りるから」


 ケーキを食べきり、ママにクァルンの毛の入った瓶を押し付けると食卓を後にして。階段を上がった二階にあるママの錬金部屋へと足を運ぶ。

 小さい頃のキッテはこの階段をなんとかよじ登ろうとしてたっけな。月日が経つの早いもんだ。


 素材の種類ごとに綺麗に並べらた棚。どこに何があるのか一目瞭然で、ママの性格と錬金術師としての能力が垣間見える。キッテはそれらにはわき目も振らず、部屋の中にどっしりと構えた錬金(がま)の前に立つ。

 コリンの実、ケイラン、龍頭枝、ワールワールの髭を入れて鍋料理のように煮込んでいき、とろみがついたら火を止めてかき混ぜながら冷ましていく。

 しゃもじを抜いて角が立つくらいの柔らかさになれば、それをスプーンですくってナザミの木の皮を平らに伸ばしたものの上に塗っていき、液体と皮がなじんだら完成。


 それを持って階下に降り、キッテの部屋に入る。

 部屋ではディクトが暇を持て余してぼーっとしていた。


「お待たせディクト」


「おせーよ! 女の部屋で一人待ってるなんて退屈で死にそうだぜ」


「病人だからベッドで寝ててくれても良かったのに」


「ば、ばっか! そんな事出来るかよ」


「そう? はい、じゃあこっち着て、服脱いで」


 キッテはディクトを丸椅子に座らせて、着ているものを脱がせる。脱がせるというのは語弊があって、ディクトは自分で脱いだのだけど。


「じゃあ貼っていくね。出来立てだから冷たくないけど、傷にしみたり痛かったりしたら言ってね」


「おう」


 先ほどキッテが作っていたのは貼り付けタイプの傷薬(ポーション)。打ち身、捻挫、打撲などにより効果を発揮するタイプのものだ。それを背中に、横腹にと貼り付けていく。


「ディクト、男の子の体になったねぇ」


「そうだろ。強くなりたいからな」


 俺もキッテも普段は男の子の裸など見る機会はない。昔はよくディクトの裸を見ていた気がするけどな。

 その頃と比べてディクトはたくましくなった。がっしりとした体つきに、スリムだけど筋肉質になっている。


「どうしてそんなに強くなりたいの?」


「男なら最強を目指すもんだ」


「ふうん?」


「それに、お前を――」


 ――ドタン!


 音と共にドアが開いて、パパとママが部屋の中に倒れこんできた。


「なにしてるのよ!」


 まあ言わずともドアに耳を当てて盗み聞きしてて、ドアが開いてしまって支えを失った二人が倒れこんできた、というのは分かる。


「えっと、ちょっと廊下でパパと踊ってたら足をもつれさせちゃって」

「そうそう、どうもターンが苦手でねぇ」


「むーっ! 出て行って!!」


 頬を膨らせて怒りを表して、キッテはパパとママを部屋から追い出す。そしてしっかりと食卓に戻った事を確認してドアを閉めた。


「騒がしくてごめんね」


「いや、もうおじさんたちには慣れたぜ。なんせ昔からだからな」


「あはは、昔からごめんね。はい終わり」


 クァルンから受けた傷の上にあらかた張り薬(ハリポーション)を張り終えて。改めて凄い相手だったな、というのを実感する。


「ありがとな」


「どういたしまして」


 小さく礼を言うディクトに、キッテは薬品を片付けながらそう答えた。


 ディクトの治療を終えて、改めて惚れ薬の素材を物色しにママの錬金部屋に入ってる時の事。  

 俺のドラゴンイヤーがママとディクトの会話を拾った。


『ディクト君、これ、ほとぼりが冷めたらキッテに渡して欲しいの。きっとあの子の力になってくれるわ』


『なんで俺が』


『私から渡すとキッテは素直に受け取らないでしょ? だからね、ディクト君にしか頼めないのよ』


『はぁぁ、わかりましたよ』


『キッテをよろしくね』


『まあ、俺が見てる範囲でなら』


「ねえぐえちゃん」


 とと……あちらに集中しすぎたか。どうしたんだキッテ?


「こっちとこっち、どっちが新鮮かな。匂い嗅いでみて」


 どれどれ、うーん、こっちかな。


「ありがと」


 などと言いながら惚れ薬の素材を集めていくのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ディクト君はキッテのご両親が苦手。つかみどころのない二人を図り切れていないのでは、という推察が成り立ちます。

次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] キッテの両親はキッテちゃんのことを心配していますが、一人の錬金術師として認めているんだなというのが伝わってきました。 そして、ディクトくんとのやりとりがとてもよくてほっこりしました。
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