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033 私に良い考えがある!

「わ、分かりました! 私だって偉大なご先祖様の子孫!

 キーティアナ・ヘレン・シャルルベルンなんだからっ!」


 ずももももと、カバンから何かを取り出していく。

 明らかにカバンの容積を超えたそれは、子供の身長程度の長さと太さのある筒状のもので……キッテはその筒を肩の上に乗せて片膝を地面に付けて体勢を整え構える。


「ご先祖様の事を知ってるんだったら、どんなに凄い錬金術師だったか知ってるよね。これはその物凄い知識の一つなんだから。ご先祖様の力、思い知って!

 穿(うが)てッ! 攻城兵器級破城槌(バル・バラルク)!!」


 砲塔から放たれるのは金属の槍。その先端は二手に分かれて半円状になっている。

 実はこれは槍ではなく、さすまた(・・・・)なのだ!


 ――ドゴウッッッッッ


 謎仮面お姉さんのカードによって行動を封じられていたクァルンのどてっぱらにさすまたが激突し、その勢いのまま壁へと突き刺さり、クァルンは(はりつけ)となる。


 本来なら槍というか大きな杭を打ち出して物理パワーによって扉や門をぶち破る魔法道具(マジックアイテム)だ。

 でもキッテはそれを対人というかアトリエに入って来る盗人対策に改造していた。最近、巷では錬金術レシピの盗難が流行っているからな。

 だけど……ちょっと対人で使うには威力が強すぎるかもな、キッテ。


 ――グオォォォォォォン


 戒めから脱出するために、さすまたの下でジタバタと悪あがきをしていたクァルンだったが……一吠え遠吠えをかますと、壁に深々と刺さっているさすまたに牙を立てて食いつき、顎の力で壁から抜き去ろうとしている。


 そう簡単に抜けるものではなく、クァルンは相当の力を入れているはずだ。でも、しなやかさと優雅さを持ったその姿からはそんな様子は見て取れない。

 その代わりに何やら周囲に見えない力場が発生し、洞窟自体が振動している。


「あわわわわわ!」


 振動は次第に大きくなり、ある一点に達した時、その音は止んだ。


 ――カラン、カランカラン


 抜き去られたさすまたがクァルンの口から離れて床で音を立てる。


「ぐえっ、ぐえっ!」


 キッテ、ぼーっとしてるんじゃない、逃げるんだ!


 棒立ちになっているキッテ。そして、タシッタシッとキッテに向かって歩を進めるクァルン。


 キッテ!


 俺は動かないキッテの前に躍り出て、短い手を大きく広げてこれ以上は行かせないと言う姿勢を見せる。


 瞬間、天地が逆になり回転しだした。


「ぐえちゃん!」

 

 キッテが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 何が起こったのかは理解できない。推測だけどクァルンの物理攻撃で俺は地面に叩き落とされたのだろう。


 痛みは無いけど体が全く動かない。あるのは冷たい地面の感覚。

 キッテの腕がそんな俺を抱きかかえてくれる。


 キッテが目の前のクァルンを見上げてキッとにらみつける。

 そんなキッテを見下ろすクァルン。


 クァルンは何も言葉を発さずにふさふさの尻尾を前に出すと、顔を傾けて尻尾を口で咥える。


 僅かな時間の後、スッと尻尾が後ろへ戻って行く。

 そして、クァルンは口を地面に付くほどに下げると、タンッと跳躍して上部の穴へと消えていった。


 なんだったんだ。


「クァルンの尻尾の毛……」


 キッテの視線の先には数本の銀色に輝く毛が落ちていた。

 それは先ほどクァルンの口が下がった場所。


「私の事、ご先祖様の子孫だって認めてくれたのかな……」


 ああ。きっとそうだ。あの毛はその証なんだろう。


「ぐえちゃん、大丈夫? あのふわっふわの尻尾にはたかれて凄い回転してたよ?」


 なぬー? 尻尾に……。俺って本当にひ弱だなぁ……。


 キッテはぺたぺたと俺の体を触って触診して俺の無事を確認して。

 続いて、ダウンしていたディクトの応急処置を始める。

 いつのまにか仮面の女性はいなくなっていた。


 ◆◆◆


「それで、俺が不覚にも気を失ってる間に、怪しいお姉さんが助けてくれた、と」


「うん」


「これがその証拠ってわけか」


 表にはデフォルメされた可愛い猫の絵が描いてあるカード。

 そして裏には――


「テレッサのアトリエ。レギーネの町3番街ダント地区。って書いてあるな。テレッサってキッテのご先祖様だろ?」


 あの仮面の耳長女性が投げていたカード。それは紛れもなくアトリエカードだった。

 ディクトが持っているのは彼女が投げた3枚のうちの1枚。残り2枚は冷気を受けていて粉々になって失われていたのだ。


「うん。レギーネなんていう町の名前聞いたこと無いし、そもそもご先祖様がアトリエを開いていたなんて知らないし」


「別人じゃないのか? 百年以上も前の話なんだろ。その頃のカードがボロボロにならずに残ってるわけないぜ」


「そうなのかなぁ。でもあのお姉さんは怪しかったけどご先祖様の事を知ってるようだったし、クァルンもあのお姉さんの事を知ってるみたいだったし……」


 キッテはあの女性の事を初めて見たのかもしれないが、実は俺は以前にも会った事がある。

 一番古い記憶は俺とキッテが出会った頃、キッテが大樹の前で倒れてしまった時に助けてくれた時だ。素性は怪しいが信頼できる人物だと俺は見ている。


「まあ今度その女に会った時に聞いてみな。それよりも今は素材の話だ。結局デュークガストの霧は手に入らなかったな」


「うん。でも大丈夫。これがあるから」


 キッテは瓶の中に入った煌めく毛をディクトに見せる。


「その毛が材料になるのか?」


「んーん? 交換するの! 回復薬取扱認可協会(アトモス)は冒険者ギルドみたいなこともやっててね、集めた素材を交換するための掲示板があるの」


「じゃあそこで交換依頼するのか?」


「ちがうよ」


「おいっ! じゃあ今の話はなんだったんだよ!」


「ディクトに錬金術師の事をもっと知ってもらおうと思ってね」


「なんだそれ……」


「アトモスの掲示板じゃあ交換に時間がかかるし、惚れ薬の素材を知られたくないから使えないんだよね」


「じゃあどうするんだよ」


「私に良い考えがある!」


「お……俺はここらで帰らせてもらう!」


「だめだよディクト。きちんと治療しないと」


「大丈夫、おれ頑丈だし。アードン先生のところで見てもらうから!」


 アードン先生というのは王都の町医者だ。

 最近は助手のロムーザさんがポーションの買い付けにアトリエまで来てくれたりする。


「まだ何も言ってないじゃない」


「いい、言わなくていい。お前の言いたいことは察しがつく。トルナ村に帰っておじさんとおばさんに交換してもらうってんだろ?」


「さすがディクト。幼馴染だから以心伝心だね! でも逃がさないよ!」


 逃走を試みるほど元気になったディクトに捕獲用の蜘蛛糸玉を投げつける。

 無残にもディクトは蜘蛛糸が絡みついてぐるぐる巻きになり、逃走は防がれたのだった。


「私のせいでケガしたんだからしっかりと治療するからね!」


 にっこりと笑顔を見せるキッテに、ディクトは観念した様子だった。

お読みいただきありがとうございます。

色々と謎は残りましたが、惚れ薬を作るのが目的です!

次回もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仮面のお姉さんは前にも出てきたお姉さんだったんですね。 ちゃっかりクァルンの尻尾の毛を手に入れていたキッテちゃん。 そしてディクトを捕まえて回復させようとするところが可愛すぎました。 …
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