表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/108

021 のどかな世界に蔓延る悪

 道中、ダダーラのおっさんが仕掛けた罠らしきものがいくつかあったが、キッテとクララセント嬢は協力してそれを撃退していって。


 そして山頂に到着した。


「あっ、クラちゃん、あれが巨大鳥(ゴルンバス)の巣かな!」


「そのようですわね」


 思ったよりゴルンバスの巣は簡単に見つかった。問題はその巣がある場所なのだが……。


 山頂の地形は丸く平らで開けているが、中央に向かって窪んでいる。ちょうど火山の火口のような感じだ。

 火口はかなり深い所まで窪んでいて、はるか下の方に水があるのが見える。雨が溜まった火口湖なんだろう。


 そして問題なのは、火口の中央上空に僅かながらにある陸地。火口の中央には一本の尖った針のように岩が突き出ていて、テーブルの支柱のようになっている。その先端が空中にあるわずかな地面を支えている構造だ。

 つまりこの山頂は逆ドーナツのような形状をしていて、その中央にある島に巨大鳥(ゴルンバス)の巣を見つけたのだ。


「……」


 二人とも次の言葉が出ない。

 あそこにたどり着く方法を考えているのだろうが、それがとても難しいという事実に直面しているんだろう。


 中央部まで目測で200mはある。走ってジャンプして届く距離ではない。

 俺が飛んで行って取って来る事が出来るかと言うとそうでもなく、上空には強い風が吹いているので俺も風に流されてどこかへ飛ばされてしまうだろう。


 他の巣を探すという選択肢はない。確認されているゴルンバスのつがいは一組だけ。他のカップルの存在を信じて探し回ってもいいが、おそらく可能性は低いだろう。


「知ってたの……?」


 沈黙を破るかのようにクララセント嬢が呟いた。


「えっ?」


「あなたではありませんわ。そこの男に言っているのです」


 静かで冷たい声。


「ええ。もちろん調査済みです」


 ダダーラのおっさんが答える。


「この依頼は無効よ」


「どうしてですか? あの中央にあるじゃないですか。素材が」


「そ、それは…そうですけど」


「素材が存在しないのならまだしも、存在するのに採取できないというのは理由にならないでしょうに」


「……」


 さすがのクララセント嬢も正論に言葉が出ない。


「お嬢様、方法が無い事もありませんよ?」


「なんですって?」


「ここに一人分だけ、輝卵殻があります」


 ダダーラのおっさんが懐から光り輝く殻を取り出した。


「お嬢様がこの試験を辞退してくださるのなら、この輝卵殻をお渡ししましょう。言っている意味はわかりますよね」


「えっと……どういうこと?」


 まったく事情を知らないキッテは話について行けていない。急に現れた輝卵殻の存在に、頭の上でハテナマークがいくつも浮かび上がっているようだ。


「ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまって」


「クラちゃん? 巻き込んだって?」


「わたくしはエバールード家の娘。お父様はわたくしが錬金術師になるのを快く思っていないの。錬金術師なんかやめて家のために、政略結婚のために嫁ぐ駒として私を使いたいと思っているの。だから、わたくしがこの試験に落ちるようにあの手この手で手を回していて……。おかしいと思わなかったかしら。わたくしとあなたのペアだけ依頼の内容が難しかったのを」


「そんな……」


「だからごめんなさい。わたくしとあなたがペアにならなければ、あなたを巻き添えにすることもなかった。わたくしは試験を辞退するわ。だからあなただけは輝卵殻を持っていって」


「だめだよ! そんなの間違ってる!」


「でも、こうするしかないのよ。分かって」


「分かる訳ない! クラちゃんの家がどうなっているのかだって、今までどんな邪魔をされたのかなんて分からない! でもね、私にだって分かることがあるの! クラちゃんは本気で錬金術の勉強をしてる! 解毒剤食べたから分かるの! 私も錬金術師だから!」


「っ! それでもっ! それならなおの事、あなただけでも!」


「二人で合格するって約束した!」


「それは……」


「二人で合格するって約束したから! 絶対にあきらめないよ! 約束だけじゃない。錬金術師は困っている人を助けるのが仕事なんだから!」


「っ!」


「んーん……。錬金術師だからじゃない! 友達が困っているのに助けないなんてあり得ないんだからっ!!」


 ぱあっと辺りが眩しく光る。

 その光の元はキッテのカバンから溢れ出していた。


「な、なんなんだ、この光は!」


 まばゆい光にダダーラのおっさんは怯んでいる。


 煌々と輝く光の正体。キッテのカバンの中から一冊の本が浮かび上がって来る。


「ご先祖様の本!」


 数々の英知が書き記されたというご先祖様の本(テレッサ大百科)。それが眩しく光り輝きながら開き、ひとりでにペラペラとページがめくられていく。


 そしてとあるページでピタリと止まり、開いたまますーっとキッテの前に降りてきた。


天駆(ティックルー)……流星舟コラット……。これ、もしかして……」


 これまで白紙で何も書いていなかったページに浮かび上がった内容。


「クラちゃん、これ見て!」


 クララセント嬢が内容をのぞき込む。


「これは……空飛ぶ船?」


「うん、そうだよ! これが出来ればあそこまで行けるよ!」

お読みいただきありがとうございます!


大百科が示した答え。その名前に聞き覚えのある方は、立派なセレンUKマスターです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間を見捨てないキッテちゃんの覚悟にうるうるしてしまいました。 そして、テレッサ大百科が光った。 空飛ぶ船を二人で錬金するのかな? 楽しみです。 [一言] ダダーラのおっさんみたいに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ