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017 噂の不仲爺さんズ

「それでは第2試験を開始します! お次の課題は選択課題だぁぁぁ!」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉーっ!」」」」」


 観客の皆さん、凄い盛り上がりだ。

 それもキッテが陸ワカメを爆発させてから後のテンションがすさまじい。


「気になるお題は~? 下痢の友、腹痛治し! 高級武具の原料、アルマ合金! そして最後は、準規制薬物、惚れ薬だぁぁぁぁぁ!」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉーっ!」」」」」


 なるほど、難易度優しいの腹痛治し、難易度難しいのアルマ合金、そして難易度激ムズの惚れ薬か。


「制限時間は1時間! それでわぁ! 試験っ! かいしぃぃぃ!」


「ぐえっ」


 キッテは薬品系よりも金属系の錬金のほうが得意と言えば得意だ。ここは無難にアルマ合金かな、キッテ?


「え、なに? もちろん惚れ薬一択だよ!」


 キッテは手早く惚れ薬の材料を集めていた。


「ぐえぇ……」


 確かにキッテならやれないことは無いと思うけどさ。

 さっきの試験の事もあるし、安牌をとる方がいいんじゃないだろうか……。


「知ってる? ぐえちゃん。惚れ薬の一番の素材は愛だって、お母さん言ってたんだから」


 うーん。確か、キッテママの作った惚れ薬を飲んでキッテパパは惚れたんだとかいう話だろ? それって元からパパがママに気があっただけのような……。


「愛を込めるのは大得意だよ!」


 ニカッと笑顔を見せてくれる。


 知ってるよ。なんせ小さいころからキッテの事を見てきたからな。

 それに、こうと決めたら絶対に曲げないのも知ってるよ。


「おーっと、あの材料は腹痛治しではありませんね!! 15番キーティアナさん、難易度激ムズ、国も傾くから取扱いはやたらめったら注意が必要の惚れ薬にチャレンジかぁぁぁ!?」


 周囲の観客からどよめきが起こった。

 実は観客たちはただエンターテイメントを見に来ているわけではない。

 アトリエを開設する錬金術師がどれくらいの腕前を持っていて、自分が依頼に行っても信頼できるのか、それを見ている部分もあるのだ。


 なので、先ほどのポーションの時の失態は実は痛手。

 ポーションも作れないのか、という印象を与えてしまうからな。だけどここで惚れ薬を完成させれば一気に評価は逆転するだろう。

 取扱いに注意が必要だけど、市販を禁じられているわけではない。恋多き女子学生たちがこぞって買いに来る人気店間違いなしだ。


 他の受験者は、と。

 どれどれ……大半が腹痛治しだな。作る時間も短くて難易度も簡単。第1試験で点を取っているひとは危ない橋を渡る必要もない。

 おっと、無拍子ブルーフリルお嬢様、もといクララセントちゃんはアルマ合金か。彼女の錬金力(れんきんちから)なら造作もなさそうだ。

 と、思ったけど、溶鉱炉を使うのを止めたぞ。別の材料を集め始めて、もしかしてキッテに対抗して惚れ薬を作る気なのか?


 1時間後。


「完成だよ、ぐえちゃん! シャルルベルン家伝統の惚れ薬!」


 伝統って……それだけ聞くとずっと惚れ薬で伴侶を見つけてきたみたいに聞こえる。ま、まあ深く知らないでおこう。


「ぐえぇ」


 それでキッテ。惚れ薬っていっても、こんな短時間では完全なものはできないだろ。どの程度の効果なんだ?


「何、味見したいの? これは試験のだからまた今度ね」


 うん。まあ味見と称して口に惚れ薬を突っ込まれても困るからそれでいいけどさ。

 効果は判定時のお楽しみにしておくか。


「それではご紹介しましょう! 今日のためにやってきてくれた審査員の方々です!」


 ずらりと並んだ一般市民の方。

 大半の方が腹を抑えている。


「腹痛治し担当の、現在腹痛真っただ中の皆様ぁぁぁぁ!」


「「「わぁぁぁぁぁぁ」」」


「なんでもいい……はやく腹痛治しを……」

「で……出そう」

「トイレ……トイレ……」


 腹痛を維持し続けて息も絶え絶えな人たちだ。


「アルマ合金担当の、ドワーフ鍛冶屋、ゲンゴウ氏!」


「「「わぁぁぁぁぁぁ」」」


 おお、偏屈そうな白髭ドワーフ爺さんだ。アルマ合金担当はあの人だけか。となると残りが?


「惚れ薬担当、子供の頃の怨みは大人まで! 大工のゲーン爺さんと農家のアストーロ爺さんでぇぇぇす!」


「「「わぁぁぁぁぁぁ」」」


「今日も辛気臭い面しやがって!」

「なんじゃとぉ、貴様のそのキンキン来る不愉快な声もなんとかならんもんかのう!」

「「フンッ!」」


 おわー、噂の不仲爺さん達じゃないか。あの人たちをお互いに惚れさせろっていうのか。


「それでは、各自審査員に審査してもらってください!」


 審査開始の合図とほぼ同時。腹痛担当の審査員が受験者の腹痛治しを奪うようにして我先にと飲んでいた。「合格だ!」「きみも合格だ」という声を聴きながら、俺達は不仲爺さんズの元へと向かった。


「おじいちゃんたち、よろしくね!」


 笑顔で爺さんズに挨拶するキッテ。

 そこにクララセント嬢がやってきた。


「クラちゃんも惚れ薬なんだね! お揃いだ」

「人を変な名前で勝手に呼ばないでくださる?」

「じゃあクーラちゃん? 私の事はキッテって呼んでね」

「呼びませんし、呼ばないでくださるかしら」

「そんなぁ」

「あなたに構ってる暇はありませんわ。私は早く合格したいの」


 ツンケンクララセントお嬢様はキッテとの会話もそこそこに、爺さんズの前にずいっと出る。


「おう、嬢ちゃんたち。残念だが0点待ったなしだな」

「そうだぜ、たとえ国が傾くほどの惚れ薬だとしても俺がこいつを好きになるなんてこたぁねえ。どうせならキンキン来る声を出なくする薬でも作ってくれよな」

「なんだとぉ!? お前こそエラの張った不愉快な面が治るように、笑顔を振りまくような薬を作ってもらえよな! まあエロい目つきをしてる不審者がいるって通報されるのが関の山だろうがな!」

「「フンッ!」」


 おいおい、審査が始まらないじゃないか。

 

「お二人が不仲なのはわかりましたが、そんなことは関係なくてよ。わたくしの惚れ薬で一発発情ですわ」

「私だって負けないよ! おじいちゃんたちが仲良くするところ見たいから!」


「ま、仕事はキッチリこなすさ。ほら、惚れ薬とやらを出しな」


「ならわたくしから。こちらよ」


「こ、これは……」


 クララセントお嬢様が差し出した物に爺さん達も言葉を失う。

 出てきたのは何かが白い薄皮に包まれたもの……その形は、餃子そのものだった。


 惚れ薬のレシピは通常は公開されない。それぞれの錬金術師たちが独自で生み出して、独自で保持しているからだ。そのためこのような公開の場で作るとレシピがバレてしまうので普通はやらないのだが、試験ではそこは配慮されていて秘密ルームという囲いの中で作ることが許されている。

 まあそういう訳で、錬金術師の数だけいろんな惚れ薬が存在するという訳なんだが……。


「クラちゃん、それ、おまんじゅう?」

「おまっ! 失礼ですわね、れっきとした惚れ薬ですわよ」

「一人分?」

「そうよ? さあ、丸のみしてくださる? 噛んだら効果が半減しますの」


「金髪の嬢ちゃん、ばか言っちゃいけねぇ。そんなでかいもん丸のみできるかってんだ」

「そうだよクラちゃん。もし丸飲みしないといけないなら、飲みやすいようにしておかなきゃ。こんな風に」


 そういってキッテは自分の調合した惚れ薬を出す。そこには3粒の黒い小さな丸薬。まるで正〇丸を彷彿とさせる。


「へぇ、あなたポーションは作れないくせに結構考えてるのね」

「えへへ、お母さんに教わったから」


 褒められて嬉しいようだ。


「まあ、わたくしにはわたくしの惚れ薬の在り方がありますわ。倍食べなさい」


「「へ?」」


 今なんて? いや、聞き取れたけど理解が追い付かないというのが正しい。

 ほら、爺さんズもあっけにとられた顔をしてる。


「噛んで効果が半減するなら倍の量を投与すればいいじゃない。疑問点も何もないスマートな解決策ですわ」


 ま、まあ確かに。餃子を二個食べると思えばいいのだが、問題は味だな。きっと餃子と違ってクソまずいんだろう。だってなんかぷーんと匂ってくるし。


「さあ召し上がれ。それともわたくしが作った惚れ薬が喉を通らないというのかしら」


 でもなぁ。そう言われてもなぁ。と、爺さんズが無言で連携する。結構仲いいじゃないか。


「煮え切らない老人たちね。いいわ、わたくしが食べさせてあげるわ。光栄に思いなさい」


 そう言うとクララセントお嬢様は片方の爺さんの鼻をつまんで、爺さんが苦しくて口を開けたところに餃子を放り込んで、そのまま口を閉じさせて。それを二人ともに実施した。


 爺さん達が涙目をしながら咀嚼して、喉に流し込む。

 すると――


「お、おう、アスの字、今まで悪かったな」

「あ、ああ、ゲンの字、こっちこそなんだか悪かったな」


「おおーっと、惚れ薬審査で展開があったようです、あの仲が劇悪老人たちがお互いの健闘をたたえ合って握手を交わしています! 未だかつてこんな光景があったでしょうか! 間違いなくお互いに惚れています。見てください、老人たちが年甲斐もなく頬を赤らめております、ほほえましいと言うか、なんというか。これは合格でしょう!」


 外野から大きな歓声が沸く。


 まあ確かに、あの爺さんたちがこんなになるなんてすごいと思うが……ん?

 いつの間にかがっちりと交わしていた握手が指相撲になってないか?


「この、クソジジイ、潔くやられちまえ!」

「なにおぅ、もうろくしたようなジジイに言われたくないわい!」


 二人ともこめかみをピクピクさせて言い争い始めた。

 どうやらお嬢様の惚れ薬の効果が終わったようだな。作成時間が1時間しかないから効果が短いのも仕方ない。本来ならじっくりと時間をかけて作るものだ。


「おじいちゃんたち、ケンカは駄目だよ。次は私の番ね!」


 そう言ってキッテはさっきの正〇丸を三粒筒渡す。


「へん、さっきは不覚を取ったがもうそんなわけにはいかないぜ?」

「ワシには効かないだろうが、お前には効くだろうな」

「なんだと? ほんなら勝負せんかい! 負けた方は腹躍りを披露することな」


 お互いが同時にごくりとキッテの惚れ薬を喉の奥に流し込んだその瞬間――


「「だいちゅき!」」


 爺さん達が目をハートにしてお互いに抱き合った。


「おおっと! 即落ち2コマ劇場か!? あれだけいがみ合っていた二人が恋人のように抱き合って愛を囁き合っているぞぉぉぉ!」


 いったい俺達は何を見せられているのか……。ここは放送自粛で行かせてもらおうとおもう。


「やったねぐえちゃん! おじいちゃんたち仲直りできたよ!」


「ぐえぇ……」


 ヤクの力で無理やりな……。

お読みいただきありがとうございます。

とてもわちゃわちゃしていましたが、作者はこういうのが大好きです!


同じく大好きな方、感想欄に「大好きです」とお書きの上、お送りください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] キッテちゃんの惚れ薬、ちゃんと飲みやすい形にしてあるところに彼女の優しさを感じられました。 お爺さん同士でも効果が抜群な惚れ薬に笑いました。 そして、クララセントさん改めクーラちゃんと…
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