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016 第1試験の始まり始まり

 受付を済ませて一安心。

 なんせ、現代日本みたいに『事前受付あり、しかもオンライン可』ではなく、試験当日現地受付、遅刻者は許しませんで! の仕組みだからだ。


 案の定、受付時間が締め切られた後に遅刻してきた男子が膝から崩れ落ちていた。

 なんであと5分早く家を出なかったのかと問い詰めたいところだが、彼には彼の事情があったのだろう。


 受付が終わってグラウンドに横一列に並ばされる。

 受験者一同の前には朝礼台が置かれていて、今まさに回復薬取扱認可協会(アトモス)の偉い人の話が始まる、というところだ。


 仏頂面のおっさんが朝礼台の上に上がり、受験者たちを一瞥する。


 こういうのは、だいたいつまらない話を数分して去っていく。様式美というやつだ。

 想定通りおっさんは偉そうな態度で偉そうな話をして戻って行った。


 次に朝礼台に上がったのは若い女性。


「受験者のみんなー! アトリエを持ちたいかー!」


「「「「「おーっ!!」」」」」


「いい返事だーっ! もういっちょ! あとりえをー、持ちたいかーーーっ!!!」


「「「「「おおーーーーーーっっ!!!」」」」」


「観客のみんなー! 新人が一喜一憂する姿、喜びと悔しさの涙が見たいかーーーっ!!」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおーーーーーーーっっっっっ!!!!!」」」」」」」」」


「さーて、会場のボルテージは最高潮だぁぁ、私は司会進行のジェニファー。よろしく!」


 大歓声が巻き起こる。

 聞きしに勝るお祭り騒ぎだ。


「すごいねぐえちゃん! さすが大都会だね!」


 キッテも大興奮している。緊張していないのは良い事だ。まあキッテはあまり緊張することの無い子だからその点は心配していないけどな。


「それでは早速第1試験を開始します! 第1試験はポーション作成です!」


 ふむ。定石どおり第1試験はポーション作成だな。過去の試験の傾向から、アトリエ認可試験の問題は毎年行われている問題とそうでないものがあるのだ。


「ポーション作成は錬金術師の基本中の基本。これをおろそかにしてはアトリエ経営は成り立たない! さぁ、見せて見ろ、おのれの内の錬金力(れんきんちから)を!」


 そして試験の準備が始まる。

 受験者たち一人一人に用意された調合台。その上には簡易錬金窯、ふいご、ヤットコ、フラスコ、メスシリンダー、上皿天秤、アルコールランプなどの道具がずらりと並んでいる。

 ポーションの材料である蒸留水、アルファ反応剤、ナズ菜も用意されているが、何を作らせる気なのか、タータンフロッグ(カエル)の干物やダークジャイバット(蝙蝠)の翼、通称ミックスジュースと呼ばれるイエロースライムなど、いろいろな素材が用意されている。


「制限時間は15分! それでわぁ! 試験っ! かいしぃぃぃ!」


「ぐええぇ」


 さあキッテ、日ごろの勉強の成果を見せてやろうぜ。


「がんばるよ!」


 初心者錬金術師でも作れるほどポーションの作り方は簡単だ。

 材料は蒸留水、アルファ反応剤、ナズ菜。これらを規定の割合で混合するのだ。

 規定の割合は蒸留水10:アルファ反応剤1:ナズ菜3。この割合が最も効果が出ると言われている黄金比率だ。


 だけどまあ市販のポーションはその比率でないものも多々ある。コストの問題であるとか使用期限の問題であるとか、その他いろいろな理由でアトリエごとにポーションの効果も違ってくる。


「ふんふふんふふ~ん」


 キッテが慣れた手つきで素材の分量を量っていく。

 蒸留水をフラスコの中に入れて、ナズ菜を投入。それをアルコールランプで加熱する。

 温度調節は大切で、およそ50℃~60℃。ナズ菜の成分を弱火で煮だすようにすると蒸留水がわずかに白く濁っていく。その後火を止めてアルファ反応剤を入れれば反応が起こって、一気に緑色になって完成というわけだ。


 キッテが火にかけ始めたので俺は他の参加者の様子を見てくることにしよう。

 ちなみに、答えが決まっている試験なので人の様子を見てもカンニングにはならない。

 使い魔を持ってる受験者は、すでに俺と同じように他の人の様子を窺っているしな。


 ふよふよと浮かびながら様子を見る。もちろんどの受験者も問題なくポーション作成をこなしている。

 おや、あれは……。


 先ほど出会った青フリルドレスお嬢様じゃないか。

 うおっ! なんか飛んできた!

 ノーモーションで小皿を投げられた。どうやら近づくなという警告のようだ。

 おっかないので近づかないでおこう。


 さて、そろそろ終わりかな。

 と言う所でキッテの元に戻る。


「ぐえちゃんおかえり! じゃじゃーん! キッテ特製ポーション!」


 キッテが作成したポーションを見せてくれる。

 うんうん。鮮やかな緑色だ。いつもとちょっと色が違う気がするけど、いつも使っている素材じゃなくて用意された素材だからだろう。


「終了っっっっっっっ! それでは審査に移りたいと思います!」


 15分の制限時間が終わる。


「それでは、受験番号1番のバーミライトさん、ポーションを持ってこちらへ」


 黒いローブの青年(バーミライトさん)が前に出る。

 彼の前には黒い物体がある。黒色のスライムのような風貌だが、特徴的なのはスライム的な胴体ではない。風になびくようにうねうねとしたワカメのようなものが胴体からいくつも空に向かって伸びているのだ。


 あれは陸ワカメ。やたらとポーションに反応する生き物で、ポーションの効果によってワカメの長さが長くなると言う分かりやすい特徴がある。


「さあ、ポーションをかけてください!」


 バーミライトさんがワカメにポーションをぶっかけると――


「伸びる、伸びるぞ、さあ、どこまで伸びるか、いくか、行くか、どこまで行くかぁぁぁ!」


「おぉぉ、すごいねぐえちゃん。陸ワカメ初めて見たよ。あんなに伸びるんだ」


 確かに、うねうねしながらもぐんぐんと伸びるのは見てて面白い。

 観客の声援もそれを裏付けている。


「さあ、結果は、185センチです! いいところまで行きましたが、並みの結果でした! 点数は185点です」


 ふーむ、あれで並みなのか。

 他の人はどうかな。


 何人かがワカメにポーションをかけていくが、だいたい似たり寄ったり。

 そんな中で。


「おおっ! これは、伸びる、伸びるぞ! まだ伸びる、どこまで行くのか、果てしない空への挑戦か! 6番、クララセントさん、結果は325センチです! これは試験レコードじゃないでしょうか! 素晴らしい!」


 あの青フリルノーモーション小皿投擲お嬢様、かなりの錬金力(れんきんちから)の持ち主だったのか。


「あの子、クララセントって言うんだ。凄いね!」


 キッテが興奮した声を出している。

 お友達(予定)の子が凄い記録を出したのが嬉しいのだろう。


 そしてキッテの番が来た。


「15番、キーティアナさん、お願いします」


 コールによってキッテと俺は前に行く。

 目の前には取り換えられた陸ワカメ。


「いっくよー! おおきくなーれ!」


 キッテは緑色の液体を陸ワカメに向けてぶっかけた。

 もぞもぞ、もぞもぞ、と陸ワカメが伸びる様子を見せ始め――


「おおっと、これはどうしたことだ!? 陸ワカメが、膨らんだぞぉぉぉ!?」


 な、なんだ?

 ぐいぐいと伸びるはずのワカメはゆらゆらと風に揺れたまま変わらず、黒いスライムのような本体がだんだんと膨らみ始めて――


 ――パンッ


 空気を入れ過ぎた風船のように大きくなって弾け飛んでしまった。


「こ、これはどういうことだっ! おっと、もの言いです! 審判衆からもの言いがつきました!」


 周りを囲んでいた4人の審判衆が集まって協議し始めた。 


「えー、ただ今の結果、ポーションの味が気に食わなかったため陸ワカメが破裂したとみなして、0点となります」


「えぇぇぇ、そんなのないよー! ちょっと栄養価を高めようと思っただけなのに!」


 な、に!?


「ぐえええ、ぐええええ、ぐええええええっ!?」


 ポーションに何を入れたんだよキッテ!


「だってさ、せっかく素材が用意してあるんだよ? それも栄養満点のギラトンサウルスのキモが。でもそのまま入れたら苦みが強くなるかなって思ったから、隠し味にデュラミントをちょっとだけ入れてみたの」


「おーっと、15番キーティアナさん、ポーションにいろいろ突っ込んだと自白しましたぁ! 残念ながらこれはポーション効能チェック試験なので、0点となります!」


「がーん! ちゃんと味見したのに」


 うーん、まあ作ってしまったものは仕方ない。他の試験で点数を稼げばきちんと合格できるから、次の試験に切り替えて行こうぜ。


 ぐえちゃーん、といいながら俺の腹の鱗に顔を擦り付けているキッテの頭を撫でながら慰めた。

お読みいただきありがとうございます。

第1試験のポーション作成で早速失敗したキッテ。波乱のアトリエ認可試験はまだまだ続く!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 予想通り、余計なものを入れてしまったキッテちゃんがかわいすぎました。 でも、まさか0点になるとはおもいませんでした。 お友達候補のクララセントちゃんとこの後どうやって仲良くなるのか楽しみ…
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