105 MGI
「伯爵! MGIが現れました! 至急非難を!」
「ば、ばかな! どこからだ!」
「それが! 空からです! この屋敷もすでに取り囲まれています! 至急非難を!」
「ぐっ! くそっ! わしはチューチューン伯爵だぞ! おい! 地下から逃げるぞ! いくら奴らでも追ってはこられまい」
「伯爵! ため込んだ財宝はどうされますか!」
「持てるだけ持ってこい!」
――ドウッ
アースザイン帝国オウ領。そこの領主の館に攻め入ったのは10個の歯車の紋章を持つ軍団。どこからともなく現れて人々を襲い、そして去っていく。その軍団の名前はMGI。
赤い鎧で全身を固めた人型の兵士。男なのか女なのか、そもそも人間なのか分からないそれは、屋敷の壁をぶち破って内部へと侵入してきた。
「お、お前ら! 何が望みだ! 金か? 金ならいくらでもやる! どうだ、この黄金像。わしが汗水たらして働いて得た逸品だ。こいつをやろう。だから見逃してくれい!」
彼が汗水たらして不正を働き弱者から搾取して得た金銀財宝。それを日夜眺めるのが趣味であるチューチューン伯であるが、それよりも何よりも大切なのは命。
命があれば財宝など、何度でも弱者たちから絞り上げられる。
「…………」
だが、呼びかけに応じることは無い。
兜で表情が隠されているためはっきりと見ることはできないが、現れた時と変わらない無機質な表情を浮かべているに違いない。
「頼む! そ、そうだ、これだけじゃ足りないのだな、もっとやろう! 地下にいくらでもある。それだけあれば何でも思うがままだ!」
何とかこの場を乗り切らなくてはならない。もう少しすれば精鋭の重騎士がやってくる。
そうしたらそいつらをおとりに逃げ出せばいい。
「アークカウンター値2500」
「は? なにって?」
赤い鎧を着こんだ兵士。すなわち錬金術兵ASが音声を発した。
「排除実行」
手に持った筒のようなものを伯爵に向ける。
伯爵は悟った。これは脅しではない。
あの見たことのない物が自らの命を奪うための物であろうことを、これまでずるがしこく培ってきた直感が教えてくれる。
「ま、まて、今なら、ここの領主にしてや――」
伯爵の言葉はそこで止まってかき消える。
「ああっ、伯爵が光の粒に!」
ASが手に持った筒から光線が放たれる。
その攻撃によって伯爵は光となって、空へと消えた。
死体も残らずに、元々そこには誰も居なかったかのようになんの痕跡も残さずに。
「そんな、伯爵……」
主の消失に呆然とする側近。
「アークカウンター値750」
「へっ?」
どうやらASの次の標的は横にいた側近のようだ。
無機質な表情のまま、筒の向きを側近へと合わせる。
――ガチャン
「大丈夫ですか伯爵!」
頼みの重騎士がやってきた。その数10名。
「お、遅いぞ。こいつを倒せ! 伯爵のお部屋から排除するんだ!」
やってきた重騎士は側近に言われるがままASを取り囲む。
肝心の伯爵の姿が見えないが、側近もまた護衛対象であることには間違いない。
――ドゥン
音と共に、壁にさらなる穴が開く。
「ば、ばかなっ!」
轟音と共に現れたのは、同様のAS。それが5体。
「アークカウンター値、68、154、97」
「アークカウンター値、362、228、85……」
それぞれが謎の値を呟いて。
「や、やれっ!」
理解できない恐怖に駆られる側近。目の前で主を失ったところであることがその恐怖に拍車をかけ、少しでも早くその恐怖を取り除こうとした。
伯爵の側近の号令で重騎士団が襲い掛かるも――
「ぎゃあっ!」
「ぐぶっ!」
「そ、そんな……」
あるものは剣に切り裂かれ、あるものは槍に貫かれ、あるものは銃のようなもので撃ち抜かれて、そして等しく光の粒となって消え去っていく。
「あ、あああ……」
ただ一人の重騎士を除いて。
AS達は、腰を抜かして床にへたり込んだその男を置いて、屋敷の外へと姿を消したのだった。
◆◆◆
これはただ一つの事例に過ぎない。
MGIが確認されてから、すでにいくらかの時間が経っている。同様の事例はリヴニスの地に蔓延る魔物達にも、海洋国家シーヴル本国でも、そして激動を生き抜いてきたリヴニスの民にも起こっていた……。
お読みいただきありがとうございます。