101 定住と農耕が可能になった
「今日からお世話になります、ズオン氏族そろってお役に立って見せましょう」
放浪を続けていた氏族が、またまた合流してくれた。
あれ以来、リヴニスの翼は力を増していき、敵を撃退しながら精力的にリヴニスの地の警戒を続けていった。それによって噂を聞きつけた氏族たちが庇護を求めて合流してくるようになったのだ。
大所帯になると問題になるのが食料だ。リヴニスの人々は基本的に小さな人数単位で放浪しているので、獣の群れや自生している木の実を見つけるだけで事足りていた。
だけど大所帯になってくるとそうはいかない。見つけた獣は狩りつくされ、木の実は取りつくされる。それでも食料が足りない状況になってくるからだ。
それではまずいので、定住生活と農耕をすることにした。
これまでリヴニスの地でそれができなかった理由は敵がやってきたら逃げるしかなかったからで、今のリヴニスの翼であれば襲ってくる敵を返り討ちにするだけの能力がある。
定住と農耕を行っていることによって生活の安定感が増して、さらに多くの氏族がやってくることとなっているのだ。
農耕のための苗や種やらは俺が提供した。この機体に積まれていた【未開惑星農耕キット、3日であなたも大地主】というどんな状況を想定しているのかよくわからないものがあったからだ。
みんなには栄養価が高く栽培が簡単なマロ芋や、土と水があれば育って魔法薬の材料にもなるアカブの実などを作ってもらっている。
俺は俺で彼らの邪魔にならないように集落から離れたところでその様子をうかがっている。慣れてない人たちにおびえられても困るからね。
それに今後も彼らは自分たちの力で生活していかなくてはならない。もちろん生活を守る戦いもそれに含まれる。
俺の力をおいそれと振るうわけにはいかないのだ。
『リヴニスの地は要石。分割されてはいけません。もし分割されたとしたら、この世界に天災級の災害が頻発するようになって、やがて世界は滅んでしまいます』
と言うAIさんによると、俺が送り込まれた理由の一つがリヴニスの地の守護。リヴニスの民を失ってバランスが崩れると要石が崩壊するため、俺を遣わしたのだという。
ただ、俺の派遣は荒療治にあたる。リヴニスの民を守って現状維持をするままでは緩やかに滅びに向かうらしく、この地を統一して統治する必要があるということで、それはこの地に住まう人間たちの手で行う必要がある。神の力、この体(機体)で直接力を行使することは要石に影響を及ぼしてしまい、逆に滅びに近づいてしまうらしい。だから荒療治。
最初に一度力を使った時に身に染みて分かった。この力はむやみに使うべきじゃないって。危うく大量殺人者になるところだったし、使うとしてもこのように――
「あなたが神様ですね。これからお世話になります」
合流したズオン氏族の長老だ。一人で俺のところまで挨拶に来たのだ。
「ああ。よろしくたのむ」
俺は寝そべったまま、威厳のある態度で返事をした。
使うとしても、このようにお飾りでとどめるべきだろう。
カンカンカンと木の杭を打ち込む音が響いている。ざくっざくっと鍬で地面を耕している音がする。
集落として成長し始めたのだ。
◆◆◆
「ううっ、あんたぁ、なんで死んじまったんだよぉ!」
亡骸の前で泣き崩れるご婦人。それも複数名。
彼女たちは、リヴニスの地にいる氏族を助けに行くために出陣した夫の妻。
リヴニスの地は広く、点在する氏族たちはまだまだ無数にいて敵からの攻撃を受けている。そんな一つの氏族からの救援要請が届いたので、出立した戦士たち。
リヴニスの翼が力をつけてきたとはいえ、ノーダメージで無双できる程強いわけではない。ガチガチの軍隊であるアースザイン、不思議な力を使うシーヴル、悪意を振りまく存在の魔物たちと戦えば、少なからずとも犠牲が出てしまう。
平和のためだといって見て見ぬふりをするわけにもいかない。
散っていった戦士たちは手厚く葬ることになっている。
悲しみの中、葬儀が終わり、各人が住んでいるテントの明かりも消されて夜が更ける。
俺はその様子を確認して、静かに体を伏せて目を閉じる。
最近体が重い。
それに頻繁に眠くなるのだ。
『その原因は、リヴニスの要石を維持するために当機の力をそちらに割り振っているからです』
とAIさんの回答があった。
まあ眠くなるくらいで維持できるのなら問題ないだろう。そもそも俺がこの力をフルに使って動くことなんてないんだし……。
そんなことを考えながら俺は夢の世界へと落ちて行った。
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