異世界帰りの嫌われヒーロー
『異世界帰りの日本人、戌井 ルカ、15歳』
『魔法の力を操る彼に、人々は期待し、そして――』
モノローグ『――失望した』
〇 成田空港(昼)
ニュースキャスター「今、オーストラリアに密入国していた少年が、成田空港に到着しました。少年は、頭にタオルを掛けられ、腕に手錠をされ、十名以上の警察官に護送されています」
民間人1「日本から出て行け!」
民間人2「帰ってくるな!」
ニュースキャスター「今、少年を出迎えた人々で、空港はすさまじい罵声に包まれています。今、少年の方に何かとんでいきました。あれは、空き缶でしょうか? 一部の人が少年に物を投げつけています!」
警察官「足を止めるな!」
ニュースキャスター「少年は半年前にオーストラリアへ違法に入国し、その後、現地で生活していたことがわかっています」
ルカ「投げたのは、あいつとあいつ、それにそしつ……ちゃんと注意しろよ」
警察官「いいから行け!」
ルカ「……このタオル邪魔だよ」
ニュースキャスター「やばい、タオル落ちた。未成年! 顔は撮らないで!」
警察官「おい、お前……何拾ってんだ?」
ルカ「空き缶だよ。投げた奴に返してやるんだ」
民間人1「あいたっ」
民間人2「ぎゃっ」
民間人3「うわああっ」
ニュースキャスター「スクープ! 撮って! 民間人を襲っています! 少年がっ……戌井ルカが民間人を襲っています――!!!」
○留置所・面会室(昼)
エマ「顔写真に実名まで……少年法って知らないのか、コイツら……」
ルカ「匿名にしても、どうせバレる……」
エマ「うわっ、いつからいたの!?」
ルカ「……」
エマ「キミの弁護を担当する国選弁護士の真田エマです。若いお姉さんでラッキーだったね」
ルカ「……」
エマ「場を和ませようと思ったんだけど、面白くなかった……?」
ルカ「……」
エマ「ところでさ。面会は10分も前から始まってるんだけど、キミが遅れてくるってどういうこと? 何してたの?」
ルカ「……」
○ルカ回想・火事の現場(昼・5分前の出来事)
消防士「どうしましょっか……?」
家主「もう、ここまで燃えちゃったら、全焼させちゃってください……ん?」
ルカ「火を消すから、少し下がれ」
消防士「い、家が凍った!?」
家主「な、なんてことするんだ、オマエ!」
ルカ「燃えてたから消したんだよ」
家主「全焼させないと、保険金が下がるんだよ!」
ルカ「知るか、バカ!」
○留置所・面会室(昼)
ルカ「別になにも……」
警察官2「お、おい。戌井ルカ! 貴様、脱走なんかしてないよな!?」
ルカ「……」
警察官2「貴様が民家を吹き飛ばしたと通報があった……!」
エマ「あの!」
警察官2「……」
エマ「今、弁護人との接見中なんですけど、守秘義務はご存知ですよね」
警察官2「……あとで、話をきくからな!」
警察官2、退室。
エマ「キミ、何してんの……?」
ルカ「……」
エマ「お喋りしてくれないと、お姉さん困るんだけどなぁ……。まあ、いいか。一方的に話すね」
○ルカ回想・火事の現場から少し離れたところにあるマンション一室(昼・5分前)
ルカ、火事の現場になっていた民家を破壊した後、空を飛んで煙に巻かれた高層マンションの一室に窓から入る。
開放された窓のそばに、ベビーベッドが設置され、中で赤ん坊が横になっている。室内には煙が充満しており、煙を吸った赤ん坊は青い顔をしている。
ルカ、風魔法(人差し指を立てて、小さな竜巻を発生させる)で、室内の煙をすべて吸い上げ、竜巻をボール状にして、外に放り出す。
苦しそうにしている子供に手をかざし、回復魔法をかける。赤ん坊の顔色が良くなる。
ルカ、窓から外へ飛んでいく。
○留置所・面会室(昼)
エマ「戌井ルカ、17歳。2年前、異世界から帰った中学生として、いちやく脚光を浴びる。その後、警察官への傷害、ならびに公務執行妨害、銃刀法違反で書類送検。その後も傷害、建造物破壊などの軽犯罪を累計314件。そして、半年前に覚せい剤に関わり、自ら警察署に出頭するも、留置所から脱走。その後、オーストラリアに密入国していたことが発覚し、本国へ送還…………ここまで間違いない?」
ルカ「……」
エマ「ちょっと、それ……お酒!? すみません、誰か来てください!」
警察官3「両手を壁について、その場から動くな!」
エマ「そのお酒を取り上げてください」
警察官3「いきなり読んだかと思えば……はぁ? そんなことで呼ばないでください」
エマ「彼は未成年です。それ、取り上げてください」
警察官3「無茶言わないでください」
エマ「無茶……?」
警察官3「そんなに言うなら、あなたが取りあげればいいじゃないですか」
エマ「……それ、お巡りさんにわたして」
ルカ「嫌だね」
エマ「キミ、そこから自由に出入りしてるんでしょう。そんなところにいないで、こっちに来れば?」
ルカ「……」
ルカ、アクリル板に手を当てる。アクリル板に大きくヒビが入り、次の瞬間砕け散る。テーブルを飛び越えて、エマの隣にルカが立つ。エマ、ルカの方を向く。警察官3、何かを無線に叫ぼうとするが、ルカが手をかざすと床に倒れ、寝息を立てはじめる。
エマ、ルカの酒瓶を握る。
エマ「二十歳になるまで預かっておいてあげる」
エマ、酒瓶を手前にひく。ルカの手が酒瓶をはなさない。エマ、目を細めて酒瓶をテーブルに叩きつける。酒瓶が割れて、中身が床に落ちる。
ルカ「おまっ……」
エマ「ごめんなさい。弁償する。でも、次に買うのは、ジュースにしなさい」
エマ、一万円札をサイフから出して、机に置く。ルカ、魔法の力を開放する(留置所の床や壁に亀裂が走り、渦を巻く炎が天井を吹き飛ばす)。
エマ「まるで子供のかんしゃくね。ぜんぜん、怖くないけど」
ルカ「アンタなんか簡単に消し飛ばせるんだぞ!?」
エマ「だけど、キミはそうしない。わかってるから、全然怖くないよ」
ルカ「なんでそういい切れる!?」
エマ「私が間違ってるなら、とっとと消し飛ばせばいいじゃない」
ルカ「……チッ」
エマ「建物の修復までできるのね。魔法って便利……」
ルカ「要件済ませて、とっとと帰れよ……」
エマ「なら、結論から言うね。キミは刑務所には入らない。私が執行猶予にしてあげる」
ルカ「必要ない……」
エマ「簡単に脱獄できるから? また外国に逃げるの?」
ルカ「……」
エマ「それぞれの犯罪について、理由を聞かせて頂戴。まず、はじめの警察官への傷害、公務執行妨害ならびに銃刀法違反についてね。防犯カメラの映像があるわ」
○防犯カメラの映像・大通り(昼)
暴走したトラックをルカが聖剣で一刀両断する。
トラックの運転手を抱えたルカに、周囲が拍手する中、警察官4が現れる。
警察官4、警棒を片手に、ルカに何かを指示する。
ルカ、聖剣を地面におい数歩後ろに下がる。
警察官4、聖剣を拾い上げる。ルカ、警察官4に向かって、止めるような素振りをしながら、何かを叫ぶ。
聖剣から黒い手が出てきて、警察官4を襲う。ルカ、あわてて警察官4から聖剣を引き剥がす。警察官4、目がバツ印になっている。
ルカ、警察官4に手をかざし、回復魔法をかける。そこに駆けつけた応援の警察官たちが、ルカに銃口を向ける。
○留置所・面会室(昼)
エマ「魔法っていうのが、どういうものかわからないけど、私には剣から出たなにかに襲われた警察官を、キミが助けようとしている風にみえる。違う?」
ルカ「……」
エマ「他の事件についても、同じような裏がとれてるの」
ルカ「覚せい剤……」
エマ「……。そうだね。覚せい剤取締法違反についてだけは、そういった裏はなかった。キミは暴力団の構成員として、覚せい剤の売買に関わった。どうして?」
ルカ「時給が良かったから……」
エマ「悪いことをした話は、しっかりはなしてくれるんだ」
ルカ「……」
エマ「確かに、キミは覚せい剤の売買に手を貸した。じゃあ、なんてキミは……、この暴力団を壊滅させたの?」
ルカ「…………」
○ルカの回想・船着き場(夜)
若頭「今日はこの積み荷だ。行き先は……おい!」
ルカ「コンテナの中身……粉じゃなくて、子供みたいだけど……」
若頭「新商品だ。粉の販売が順調なおかげでな、組で買い取ったんだよ」
ルカ「子供を売るのか?」
若頭「何だ、不満なのか? だが、今更引き返せねぇぞ。俺らが捕まったら、お前もブタ箱行きだよ」
ルカ「どういう意味だ?」
若頭「まさか気づいてなかったのか?」
ルカ「は?」
若頭「はっ、まじかよお前! 俺らが運ばせてた覚せい剤、本気でガラスの粉だと信じてやがったのか?」
ルカ「……」
若頭「もちろん、知らなかったじゃ通らねぇぞ。バカはバカなりに大人の言うことをきいておけばいいんだよ。わかったら、さっさと……わああああっ」
ルカ、若頭を海にぶん投げる。若頭、水平線の向こうまで飛んでいく。
ルカ「バカって言うな、クソが」
○ルカの回想・交番(夜)
女の子「おねえちゃん、どこ……?」
ルカ「……お姉ちゃんも一緒にいたの?」
○ルカの回想・暴力団事務所(夜)
事務所の中は、銃痕や壊れた家具の破片、そして倒れた組員たちが散乱している。その奥で、ルカが組長の胸ぐらをつかんで締め上げている。
ルカ「子供の居場所を全部話せ」
ルカ、様々な場所に子どもたちを迎えに行く。
子どもたちに、女の子の顔を魔法で表示して、見せるが、みんな首を横にふる。途方に暮れて、交番に戻る。ルカに手錠がかけられる。
ルカ、留置所に入れられて驚く。向かいの房から、暴力団の組長が逮捕されたルカを見てニヤリと笑っている。
○留置所・面会室(昼)
ルカ「別に理由なんてない……」
エマ「そう。わかった」
○警察署前(昼)
モノローグ『戌井ルカは、執行猶予になった』
エマ「はい、過去の精算おわり!」
ルカ「別にどうでもいい……」
報道陣1「戌井さん、一言お願いします!」
報道陣2「今回の事件、事実上無罪という判決ですが、被害者に何か伝えたいことは?」
エマ「未成年ですよ!」
エマ「勝手に動くな……ああ、もう! 動くな!」
ルカ「放せっ」
エマ「北に飛んで! はやく!」
ルカ「っ、くそっ!」
エマ「きゃああああああああっ――。ちょ、高い! こんな高い、きいてない!」
ルカ「まとわりつくな!」
エマ「ムリムリムリ! 死ぬ、ムリ――ッ!」
○公園(昼)
エマ「あはっ……すごい体験……。見て、ナミダ凍ってる……」
ルカ「……」
エマ「ぜんぜん、ウケてないし……」
エマ「キミの釈放、もう記事になってる……実名も顔写真もお構いなしか……。この人達、訴える? なんなら私が代行するけど」
ルカ「興味ない……」
エマ「なんで?」
ルカ「この世界じゃ、どうせ嫌われ者だから……」
エマ「嫌われ者でいたくないなら、変わればいいじゃん……」
ルカ「…………」
エマ「変えてあげようか? キミのこと」
ルカ「どういう意味……?」
エマ「キミが人気者になれるように、私がプロデュースしてあげる」
ルカ「弁護士がなんでそこまでする……?」
エマ「言ってなかったっけ? 私、キミに借りがあるんだよ」
ルカ「…………別に、興味ない……」
エマ「そう。わかった。はい」
ルカ「なんだこれ」
エマ「私の名刺。興味がわいたら、いつでも事務所においで」
○公園(夜)
ルカ「……」
不良1「みんなの公園、ホテルにしちゃだめだろう?」
不良2「足折れたんじゃねぇの? やりすぎだって。とりあえず宿泊料払っといたほうがいいよ。こいつ、キレると何するか……おい、やばい。やばいって……」
不良1「何がやばいんだよ……?」
不良1「なんだ、ガキじゃねぇか。おい、ガキ、いくら払えるんだ?」
ルカ「宿泊料、いくらだよ?」
ルカ、不良1をつかんで、収納魔法の穴に放り込む。
不良1「うわっ、うわぁぁああああっ!」
ルカ「そこにある金貨、好きなだけ持っていっていいぞ。日本じゃ使えないけどな」
不良1「出せ! 出してくれぇ!」
不良2「おい、ソイツ離せ!」
ルカ「ナイフか? 危ないもの向けんなよ」
不良2「ひいっ……卑怯だぞ!」
ルカ「卑怯だってことぐらい、言われなくてもわかってるよ」
警察官5「戌井ルカ!? 何をしている貴様!」
ルカ「別に何もしてない」
不良2「そいつが、仲間を襲ったんです!」
ルカ「先に手を出してきたのは、お前らだろうが」
警察官5「黙れ。大人しくしろ。話は署で……」
ルカ「行くかよ、バカ!」
ルカ(俺の話なんか、誰も聞きやしねぇ……)
○さなだ法律事務所(朝)
ルカ「……」
エマ「来てくれてよかった。さぁ、どうぞ」
エマ「キミが来てくれなかったら、せっかく作ったプロデュース計画が、無駄になっちゃうところだったよ」
ルカ「やっぱり、いい……」
エマ「待って! 人気者と嫌われ者なら、キミはどっちでいたい? 気持ちを素直に言えないのは、損だよ。やっても上手くいかないかもしれない。でも、目の前にきっかけがあるなら、それを利用しないのはもったいなよ」
ルカ「……嫌になったら、すぐやめる……」
エマ「うん。それでいい」
○さなだ法律事務所(昼)
エマ「やあ、みんな。今日も会いに来てくれてありがとう! さなだ法律事務所、生配信だよ! うい、ういー☆。今日は特別ゲストに、異世界帰りのスーパーヒーロー、戌井ルカくんが来てくれました! いえーい☆」
ルカ「……い、いえーい……」
エマ「では、最初に大人気☆労働者災害補償保険法、ブラック企業の殺し方のコーナー☆……」
エマ「では、次☆今回は特別企画! ルカくんに、助けてもらおうのコーナー!」
ルカ「は!? 何だ、それ!?」
エマ「ルールを説明します。これから、ルカくんが人助けをします。助け終わったら、証拠写真をSNSにアップして、1,000いいねを獲得するごとに……私が服を1枚、脱ぎます」
パソコンのコメント欄『マジか』『下品』『このチャンネル好きだったのに』『いいぞもっとやれ』
エマ「というわけで、視聴者の皆さんからは、ルカくんに助けてもらいたい依頼を大募集! 依頼はコメント欄に書き込んでね☆。制限時間は1時間」
エマ「よーい、スタート!!!」
○古い日本家屋(昼)
『依頼 近所のゴミ屋敷を掃除してほしい』
家の庭にはゴミが散乱しており、家の中もカビや汚れでひどい状態。老婆が出てきて、ルカにお茶を出してくれる。お茶の湯のみは汚れている。
老婆「すみませんねぇ、年をとると、ゴミを出すのも一苦労で……」
ルカ、収納魔法で庭のゴミを一掃する。その映像がネットにも配信されており、コメント欄に『一瞬じゃん』『おお、すげ』『うちにも来てほしい』などのコメントが流れる。
ルカ、家の中に水魔法をぶちまける。家の中が水浸しになり、老婆、目をむいて驚く。コメント欄に『何してんだ!?』『台無し……』『やっぱコイツ駄目だ』『おばあちゃん、可哀想……』などの文字が流れる。インカム越しにエマがルカに言う。
エマ「ルカくん、丁寧に説明」
ルカ「……えっと……。これは魔法で作った水だから。今からこれに電気を流して、家の中のカビとシロアリを一掃する……」
老婆「シロアリがいるんですか?」
ルカ「いる。あと……この水は、すぐに消せる。電化製品は壊れるだろうから、あとで全部直す……。だから、大丈夫」
ルカ、全ての作業を終える。家はピカピカになっている。老婆、何度もルカに頭を下げる。ルカ、用意されたお茶を飲み干す。コメント欄に『あれ飲むの!?』『汚い』『偉い』『意外と優しい?』などの文字が流れる。
ルカ「ごちそうさま……」
○さなだ法律事務所(昼)
SNSに投稿したルカの写真が、3,000いいねを超える。エマ、スーツのジャケットを脱ぐ。制限時間は10分経過している。撮影を手伝っていたミサキの助手のニイミが声をかける。
ニイミ「大丈夫スか?」
エマ「下は水着だし、このペースなら最大で6枚……予想通りかな」
○竹林(昼)
ルカ、放置竹林の撤去完了の投稿をする。SNSのコメントに『もっと急げ』というコメントがつく。
ルカ「もっと急げってよ。急いだほうがいいのか?」
エマ「視聴者はそのほうが嬉しいかもね」
ルカ「わかった」
○さなだ法律事務所(昼)
エマ「わかったって、何……?」
SNSの画面に、ルカから新規の投稿『高速でパンクした車を直した(0分以内)』、『高速に落ちていた落下物を拾った(0分以内)』
エマ「は……?」
次の投稿がされる。『迷子の犬を見つけた』、『振り込め詐欺の犯人を捕まえた』
エマ「待って、早すぎる!?」
すぐに1000いいねを獲得する。
エマ、ワイシャツを脱ぎキャミソール姿になる。
画面を切り替えてルカの様子を確認する。ルカ、次から次に困っている人のところへ一直線に飛んでいく。
ルカ「パッシブスキル『救済者』の称号」
エマ「何それ!?」
ルカ「困っている人がいたら、なんとなく場所がわかるんだよ」
エマ「そんな能力があるなんて、聞いてない!」
SNSで更に新しい投稿がされる。
ルカ、怒涛の勢いで人助けをしまくる。
慌てたエマ、カメラに映らない位置で、ニイミに靴下を重ね履きさせてもらう。
SNSで投稿が進む。
エマ、ビキニの水着姿に靴下、という状態になる。コメント欄に『水着かよ』と流れる。
エマ、靴下を脱ぎはじめる。『ずるい』『そんなのアリ?』のコメントが流れる。
○豪邸(昼)
豪華な家に覆面マスクをかぶった二人組の強盗が踏み入っている。武装は猟銃。母と子供は手足をテープでぐるぐる巻きにされている。
ルカ、窓ガラスをぶち抜いて、部屋に飛び込んでくる。
ルカ「緊急事態なんで、窓を破った。だけど、あとで直せるから……」
強盗たち、ルカに向けて猟銃を発砲する。
ルカ「モデルガンじゃないのか……。やめろ。服が破れる」
ルカ、服に穴はあいているが、体に傷はついていない。ルカ、強盗1をつかんで、投げる。強盗1、窓ガラスをぶち抜いて外へ飛んでいく。
ルカ「あれも、あとで直すから……」
強盗2、子供を抱えて猟銃をルカに向ける。
強盗2「動くな!」
ルカ「……わかった」
ルカ、両手をあげる。すると、ルカの手のひらから雷(魔法)が飛び出して、強盗2を黒焦げにする。
ルカ「えっと……テープを破くために、刃物を使うけど、刺したりはしないから……」
ルカ、子供と母親を拘束するテープを切る。
二人を開放すると、サイレンの音がきこえて、2人の警察官が踏み込んでくる。警察官、拳銃に手をかけている。警察官たち、ルカに近づいてくる。
警察官6「署で話を聞かせてもらえるだろうか?」
ルカ「別に、悪いことはしてねぇよ……」
警察官6「わかってる。君のお陰で助かった。ありがとう」
○豪邸外(昼)
ルカ、パトカーに案内される。
ルカ「あ、そうだ……」
ルカ、スマホを開いてSNSを起動する。途中で編集を止めていた投稿をネットにアップロードし、さらに今回の『強盗逮捕』の記事をアップロードする。
○さなだ法律事務所(昼)
パソコンの前で、水着姿のエマが頭を抱えている。周囲には大量の靴下が散乱している。制限時間のストップウォッチには、残り3分以上時間が残っている。
エマ「新規の投稿が……2つとも、秒で1万いいね超えよった……」
配信のコメント欄には『やった』『ルカくん超ナイス』『約束は守らないと』などの文字が流れる。
エマ「うぐぐぐぐっ……、わかったよ!」
エマ、水着のブラジャーに手をかける。手を回して、背中紐をほどき、ゆっくりと前カップをめくる。
胸が見えそうになったところで、配信画面が暗転する。黒い画面の左上に、『このアカウントは、使用を停止されました』の文字。
○レストラン(夕方)
エマとルカがテラス席でパスタを食べている。ルカ、通行人の少女に声をかけられ、一緒に写真を撮っている。
少女「ありがとうございました。写真、宝物にします!」
少女、駆け足で去っていく。
エマ「すっかり人気者だね」
ルカ「別に……」
エマ「別にって、嬉しくないの?」
ルカ「人気者になりたかったわけじゃないし。ただ……」
エマ「ただ……?」
ルカ「警察が、話を聞いてくれたのは……嬉しかった……ありがとう……」
エマ「ルカくんがお礼言った!?」
ルカ「くそがっ……」
エマ「これあげる。事務所のカギ。ニイミさんに聞いたよ。公園で寝泊まりしてるんだって? 危ないから、夜は事務所に泊まりなよ」
ルカ「別に危なくないけど……」
エマ「銃で撃たれても、怪我しないんだもんね……ルカくんってどうやったら怪我するの?」
ルカ「2千度ぐらいの炎に焼かれると、熱い」
エマ「鉄だって溶けるわ、そんな温度」
ルカ「……なんでそんなこと、きくんだよ」
エマ「今後もこういう活動をするなら、可能な限り危険は排除してあげたいんだけど、危険の基準が分からなくて」
ルカ「……別に、この世界にあぶないことなんてない……」
エマ「本当に?」
ルカ「……例えばだけど、俺はアルコールに酔う……」
エマ「うん……。え、まさかまだウイスキー持ってるの? 隠れて飲んだりしてないよね!?」
ルカ「……」
エマ「持ってるなら、あとで捨てるんだよ」
ルカ「アルコールで酔うってことは、抵抗力のない毒が、いくつかあるかもしれない」
エマ「毒殺なら、できるってこと?」
ルカ「いや、状態異常になった時点で気づくから、死ぬ前に回復できる……。ただ、回復魔法を使っている間は、魔法を自分の体に当てるために、防御魔法を全部解除するから、その間は、普通の包丁とかでも、ダメージが通る」
エマ「回復の隙にダメージを与えましょうって……マジでゲームのボスキャラみたいだね」
ルカ「…………」
エマ「今、笑った!?」
ルカ「笑ってない」
エマ「ゲームネタがウケるの? そっち系なの!?」
ルカ「笑ってない!」
○さなだ法律事務所(夜)
ルカが事務所に帰ってくる。ドアノブに手をかけたところで、動きを止める。
ルカ(人の気配……?)
ルカ「エマさん?」
机の上に、缶が置いてある。ルカ、スタングレネードを手に取る。
スタングレネード、激しい音とともに発光する。
ルカ「っ……!?」
ルカ、激しい光に、両目を閉じる。自分に手をかざし、回復魔法を発動する。
銃声が「タンッタンッタンッ……」と鳴り響き、ルカの左胸に3箇所、穴があく。
ルカ(回復の隙を……!!)
ルカ、血が溢れ出す胸に触れ、回復魔法をかけるふりをする。「タンッタンッ」という銃声とともに、2発の銃弾が飛来し、ルカの頭に当たる。
潰れた銃弾が床に落る。
口から血を流すルカが、事務所の窓の外にいたヒットマンを睨んで、笑う。
ルカ「回復してると、思っただろっ!?」
ルカ、目にも留まらぬ速さに一瞬で加速する。壁をぶち抜いて外へ移動し、ヒットマンを両手でつかむ。
そして、はるか上空に飛ぶ。
ルカ「痛いだろうが!」
ルカ、ヒットマンを遠くに見える海に向かって投げる。ヒットマン、すごい勢いで飛んでいく。
ルカ、着陸する。ふらつく足取りで事務所の中に歩いていき、倒れる。大量の血が床に流れる。
ルカ(壁直さないと……意識やばい……傷口塞がないと……)
○さなだ法律事務所(昼)
ルカ、目をさます。目の前にニイミの顔がある。
ニイミ「生きてた……」
ルカ(回復……間に合ったのか……)
ニイミ「事務所にきたら、死んでるんでマジビビりました。何があったんですか?」
ルカ「別に……」
ニイミ「いいから話してください。力になれるかもしれねーですから」
ルカ「……」
ニイミ「つまり、命を狙われたってことでいいんですね? そんで、犯人は海にぶん投げたと……。犯人の動機とか聞き出さなくてよかったんですか?」
ルカ「頭に血がのぼって、思いつかなかった」
ニイミ「まあ、別にいいですけど。……よかったら、自分が調べましょうか?」
ルカ「何を?」
ニイミ「だから、犯人の動機ですよ。戌井さんだって、お巡りに身辺調査されるの嫌でしょう?」
ルカ「……」
ニイミ「じゃあ、決まりです。さっそく今から犯人探してきます。ところで、朝、先生が来るまでに、この事務所直せますか?」
ルカ「なんで俺が……」
ニイミ「先生に心配かけるの嫌っしょ?」
ルカ「……」
○さなだ法律事務所(昼)
ルカ、事務所でラーメンを食べていると、撮影に使っているスマホに着信が入る。『着信中 ニイミさん』の文字。電話にでる。
ニイミ『犯人の動機がわかりましたよ。エマさんです』
ルカ「は……?」
ニイミ『エマさんに依頼されて、戌井くんのこと殺しにいったらしいです』
ルカ「ふーん……」
ニイミ『ふーんって、リアクション薄いですね……もしかして、信じてないですか?』
ルカ「別に……」
ニイミ『エマさんの動機もわかってます。彼女、父親が覚せい剤の常習で逮捕されてます。戌井くんのやらかした犯罪のせいす』
ルカ「……」
ニイミ『戌井くん、昨日怪我してましたよね? ……エマさんに、自分の弱点話したりしてないですか?』
ルカ「……」
ニイミ『ざっと調べた感じですけど、他に知りたいことありますか?』
ルカ「別にない……」
ニイミ『1つだけ教えてください。もし、エマさんが戌井くんを殺そうとしたとして、死んであげようとか、怖いこと思いませんよね……?』
ルカ「……」
ニイミ「短気は起こさないでくださいよ」
○暴力団 事務所(昼)
ルカ、かつて自分が壊滅させた暴力団事務所の上位組織を襲撃する。高級な作りの民家の中で、ルカに抵抗した組員が伸びている。頭に怪我をしている組員にパソコンを操作させて、覚せい剤の顧客リストを調べさせる。
検索ワードに『真田』と入力する。『真田 義明』という名前がヒットする。備考欄に『娘 弁護士 金あり』の文字がある。
ルカ「……」
スマホが震える。見ると、SNSのDMに、『エマ』という名前のアカウントから、『下記の場所に来て』というメッセージが入っている。
○廃工場(昼)
ルカ、入り口から入ってくる。
物陰から、銃で武装した男たち(7人)が出てくる。男たち、ルカに銃口を向ける。
エマ「ルカくん……」
ルカ「……」
エマ「そのまま、その人達に、撃たれて……」
ルカ「………………わかった……」
男たち、一斉に発砲する。ルカの体に銃弾が貫通して、倒れる。
エマ、物陰から引きずり出される。覆面をかぶったニイミに首根っこを捕まれ、側頭部に銃口を突きつけられている。
ニイミ「ははっ、マジで死んだ!」
エマ「なんで……だって、ルカくんには銃はきかないって……」
ニイミ「防御魔法といてたんですよ。心拍なーし、瞳孔の反射なーし、クソ野郎の死亡確認いえーい! あざっした。先生は、もう帰っていいですよ」
エマ「ニイミさん……? なんで……」
ニイミ「えっとですね、さっき先生に言わせたセリフ、こいつには銃で撃たれて死んでくれって聞こえてたんですよ。先生もすっきりしたんじゃないですか? お父さんに覚せい剤食わせた犯人が死んでくれて」
エマ「父のことは、ルカくんのせいじゃない……」
ニイミ「萎えること言わないでください。殺しますよ」
エマ「ニイミさんに、何が分かるの……?」
ニイミ「わかりますよ。自分の親も、こいつに覚せい剤食わされて、バカになって診断で」
ニイミ、ルカの体を蹴り飛ばす。
エマ「やめて!」
エマ、ルカに駆け寄って、ルカの体に覆いかぶさる。
エマ「悪いことが起きたら、全部誰かのせいなの……? 確かに、私の親は薬で人が変わったよ。でも、最初に薬に手を出したのは、当の本人でしょう……」
ニイミ「やめてくださいよ。先生……。あんま苛つかせないでください……」
エマ「何もかもこの子におしつけて、被害者面するな!」
ニイミ、エマの額に銃を押し付けて、引き金をひく。
ルカの手が動いて、ニイミの銃口をつかみ、上にそらす。
ニイミ「こいつ、まだ生きて……逃がすな!」
ニイミの掛け声に、男たち一斉に銃を撃つ。ルカ、銃弾よりも先に飛び、廃工場の外に出る。
外に出たところで、エマとルカ、地面に落ちる。
エマ、ルカに肩を貸し、立ち上がらせようとする。ルカ、立ち上がろうとしない。
エマ「立って!」
ルカ「エマさんだけ逃げて……」
エマ「そんなわけ、いかないでしょ!」
ルカ「ごめんなさい……」
エマ「謝るなら、立って歩け!」
ルカ「少しだけ、期待したんだ……。変われるかもしれないって……。だけどさ。やっぱり、やらかしたことはなくならないんだよ……。どんなに頑張ったって、俺が……僕が誰かを傷つけた事実は、絶対に消えてなくならない……」
エマ「いい加減にしろ!」
エマ、ルカを放り投げる。エマ、地面に転がったルカの両肩を挟むようにしてつかむ。
エマ「だから、大人しくこの場で殺されるっていうの!? あんな犯罪集団に、ルカくんの命をくれてやる必要なんてない!」
ルカ「だけど……」
エマ「だけどじゃない! ……確かに、私の父親は薬をやった。人が変わったみたいになって、薬で妹まで売ったよ!」
ルカ「だったら……」
エマ「だけど、売られた妹は帰ってきたんだよ! 薬は売るくせに、子供は売らないなんていう、わけの分かんないばかみたいな倫理観もったやつが! ルカくんが助けてくれたんだ!」
ルカ「……」
ルカ、エマに人身売買の被害者である女の子の面影を感じる。
エマ「だから、ルカくんを助けてあげようと思ったの。法律がわからないなら教えてあげる。間違えたら止めてあげる。悪いことをしたのがなくならないなら、良いことをしたことだってなくならないよ」
ニイミと男たちが追いかけてくる。ルカたちを指差し、発砲する。
エマ、ルカを抱き寄せて銃弾からかばう。
銃弾、エマたちに届かず、ルカの魔法に静止させられ、地面に落ちる。
ルカ「……いいのかな……、そんなので……。本当に、僕は……そんなので許されていいのかな……?」
エマ「少なくとも、私は許したよ……」
ルカ、体の銃痕がふさがっていく。そして立ち上がる。ニイミたち、どよめく。
エマ「さっそくだけど、良いことしようか。あそこにいるの全員、銃刀法違反かつ殺人未遂の現行犯だから」
ルカ、魔法で両手を光らせる。エマ、ルカの後ろに立つ。
エマ「とっ捕まえて、SNSで報告しようぜ☆」
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