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越後の虎  作者: 立道智之
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勅旨

宇佐美定満と面会してから一ヶ月ほどたったある日 朝廷の勅旨が越後に来るとの情報が入った。朝廷は戦国時代に入ってから金銭に困窮し 現代風に言えば勅旨なる部隊が官位などの押し売りで全国を回っていた。公家は武士によってその生活基盤を蝕まれていったのだがそれでも朝廷の権威は一応健在であった。

大名によっては歓迎しない者もいたが越後のように権威に敏感な地域は勅旨を歓迎して受け入れた。普段は怠惰な晴景もこの日ばかりは珍しく色々細かく指図して彼らを接待すべく動き回っていた。

景虎も都に憧れを抱いていたのでこの日は珍しく兄の言うことを良く効き あれやこれやと動き回っていた。

景虎はそれを見て兄が公家に生まれていればどんなに良かっただろうと思った。

いや、自分も武家の家に生まれず公家の家に生まれていればもっと違っていたかもしれない、兄との軋轢もなく大好きな書物などに囲まれてもっと幸せだったかもしれないなどあらぬ想像などしていた。


しかしこの勅旨の来場は景虎にたちに思わぬ副産物をもたらした。勅旨が来ているというので今まで帰参しなかった国人衆が挨拶がてらに春日山城にやってきたのである。

しかしすぐに全面的に喜べない問題が起きた。


最後までの立場をはっきりさせていなかった揚北衆の大物 中条藤資が勅旨の挨拶のついでに帰参に来たのである。中条は 父為景の代ではいろいろあったようだが最後は為景に尽くしてくれたという。しかし晴景への帰参は拒否した。景虎に帰参しに来たのだから当然、何を言うかと。中条は50近く 年の割には元気で快活 物事をはっきり言う男であった。もちろん景虎にも遠慮なしに物をずけずけと言う。はたから見れば単なる無礼者であったが景虎は自分も物の言い方がなっていない人間と認識していたのでそれは気に留めなった。晴景への帰参拒否の件は閉口したが頑として聞いてくれなかったので景虎もそれ以上はあきらめることにした。


宇佐美もほどなくやって来た、しかも柿崎景家を連れてきていた。柿崎は噂どおりの体の大きないかにも武勇に優れた大男であった。

宇佐美から少し時間をとってもらえないかとのことで柿崎と話をすることにした。

景虎の南三の丸の小さな屋敷で話は始められた。


柿崎は挨拶の後 深々と頭を下げて話を切り出した。

「実は・・私の妻が黒田の娘でして・・」

大男らしからぬ 話し方であったが気持ちは景虎には痛いほど分かった。

宇佐美の取り計らいが功をなし 柿崎帰参の件は既に晴景に報告されていた。

処遇については晴景はすでに決めており景虎にも指示を出していた。

晴景は柿崎の帰参は許したが妻とは離別して黒田家に戻すように指示を出していた、


柿崎は愛妻家と有名だった。別離するのが忍びないのは当然ながら

黒滝城に戻したら今回の戦に巻き込まれて危険でもあった、もちろん自分は景虎陣営なので

出兵命令がでたら出兵するが自分の手で妻の実家 もしくは妻に傷をつけるのがどうしても出来ないとのことだった。


そこで厚かましい代案ではあったが妻は黒田家に戻すが自分の出兵は今回は見逃してもらえないかとのことだった。

黒田陣営にも絶対に参加しないとのことであった。


景虎は兄の晴景の判断が必要なので即答は避けた。

しかし宇佐美と柿崎は

「我々は景虎様に帰参したので景虎様がお許し頂けませんでしょうか」

とこちらも一歩も引かなかった。

要は宇佐美も柿崎も中条と同じく景虎に帰参したのであって晴景に帰参したつもりはない 点を強調していた。守護代に帰参しないで守護代の弟にのみ帰参する、彼らは一種の含みの意味を持たせていたのであったが景虎は意識してそれを見ない振りをした。自分にはその気はないし、晴景からすれば翻意を持っていると疑われても仕方が無かったからである。 しかし宇佐美と柿崎 もちろん中条も今後を考えてどうしても味方にしておきたかった。

晴景に帰参しない点は難点であったが 自分に帰参するのであれば後はどうにかなるであろうと 景虎の甘さでもあるが そのように判断し 結局景虎は了承した。しかも景虎の優しさから来る私情が入ってしまい、晴景が命令していた柿崎の妻の離別も必要なし、今まで通り仲良く暮らすが良いと答えてしまった。 


晴景には事後でこれらの件の報告しようと思ったが景虎も負い目を少し感じていたようで気は重かった。


結局景虎はこの2件の報告を晴景になかなかあげることが出来なかったため景虎は後で大問題を起こすことになる。



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