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越後の虎  作者: 立道智之
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第六天魔王信長 後編

武田軍と織田、徳川連合軍が睨み合いを始めて数日目のある夜、軒猿は突然、この晩作戦が展開されることを知らされた。

闇夜に応じて巣鳶ヶ山の武田軍を急襲して壊滅させ占拠、逆に設楽原の武田軍を長篠城、巣鳶ヶ山、そして設楽原の織田、徳川連合軍で包囲する作戦であった。家康の重臣の酒井忠次が提案した作戦で、実は数日前にこの作戦は提案されたいたのだが信長が却下し、中止になっていた作戦であった。

噂だと武田に情報が漏れるのを防ぐため一旦中止し、今回急遽実行することになったという。

この作戦は流れを一気に織田、徳川連合軍に引き寄せようという作戦であった。

徳川方の伊賀忍者の報告によると巣鳶ヶ山には武田軍が殆どおらず、逆に巣鳶ヶ山を織田、徳川連合軍で占拠すれば反対に武田軍を包囲することになり、普通に考えれば退路を押さえられるために武田軍は甲斐に大人しく撤退するであろうとの目論見であった。


巣鳶ヶ山の武田軍襲撃部隊は織田からは軒猿が属していた金森長近ら信長の直近の与力の部隊と徳川の重臣酒井忠次の部隊の合同軍3千が鉄砲隊500を引き連れてあたることになった。金森も酒井も戦慣れした兵が多く双方信長、家康の信頼が厚い武将だったので選らばれたのである。


夜半、金森、酒井隊は設楽原を密かに出発すると、豊川を渡り、船着山方面に密かに用意された回り道を使い巣鳶ヶ山の武田軍の砦の背後に密かに素早く回りこんだのである。巣鳶ヶ山の武田軍はまさか背後から襲われるなど思ってもおらず、あっという間に砦への織田、徳川連合軍の侵入を許し、巣鳶ヶ山にあった武田軍の砦はすべて兵力で勝る織田、徳川連合軍によって落とされた。通常戦法と違い、山の裾を一気に登って直ぐに攻撃をかけるという難しい作戦であったがこれを見事やりのけ、明け方には巣鳶ヶ山の武田軍を全て追い払い、この時の戦闘で武田側は高坂弾正昌信の長男の高澄や山本勘助の長男の勘蔵、今回上野から参加していた和田成繁、三枝守友などが戦死する大損害を受けるのである。


早朝になり、巣鳶ヶ山の武田軍が織田、徳川軍の別働隊の急襲を受け壊滅したという衝撃的な知らせをを聞き、勝頼もすぐに決断を迫られた。

巣鳶ヶ山の武田軍が壊滅した時点でも甲斐へ戻るための北側は空いていたので武田軍はまだ甲斐に撤退することが出来たが、巣鳶ヶ山を攻撃した酒井隊が勢いに乗って北側まで侵入を開始したため、武田軍は逆に織田、徳川連合に囲まれて退路もままならない危険な状況に置かれていた。


勝頼は刻々と入ってくる戦況の状況を聞きながらどうするか迷っていた。

長篠城攻略を諦めて北側の少数の酒井隊を突破して甲斐に撤退するか、巣鳶ヶ山に部隊を回しているため、若干手薄になっている織田、徳川本隊をこの機会に一気に叩くか、先に昨晩奇襲を行った巣鳶ヶ山の部隊を叩くかである。


酒井隊を突破して甲斐に撤退するのは一番安全であったが、信長の前で後退することは父、信玄の思いに適わぬものであった。ここで後退してもいずれ再度、織田、徳川軍と対峙する必要があり、ここで戦わず逃げれば自分を見くびり、甲斐内で信長に内通する者が必ず現れ、逆に今後の戦いが不利になると勝頼は考えたのである。

巣鳶ヶ山の部隊を叩くのは下から山に登るという極めて難しい作戦で、また武田軍の自慢の騎馬隊による突破、突撃力が充分に発揮できず苦しい作戦になることは必須であった。

残りは真正面の織田、徳川軍本隊を直接叩くことである。

数の上では武田軍の倍以上の戦力で新兵器鉄砲を数多く揃え、浅井、朝倉氏を撃破してきた強敵であるが、鉄砲は威力はあったが運用が難しく当時の鉄砲は連射が出来ず、二発目の発射まで時間がかかった。織田、徳川の連合軍の鉄砲隊は防御用の柵で守りを固めているが応急に作られた柵で決して頑丈な物には見えず騎馬隊で突破するのは容易く見えた。

しかも巣鳶ヶ山方面の部隊にも展開しているの倍以上の戦力差では無いとの報告も入っていた。

ここで信長を打ち破れば三河、尾張まで一気に進撃でき、信玄の達成できなかった偉業を達成でき、父を超え、武田の家名を世間に轟かし、自分をもみな信玄の後継者として伯が付くであろうと考えたのである。

しかもこの日は雨が降っていた。雨では鉄砲隊は使えない事が多く、威力も著しく低下する聞いており絶好の機会かと考えたのである。

勝頼はしばらく考えこんでいたが

「甲斐の兵士は最強である・・」

勝頼はつぶやき、そして目をかっと開くと

「敵は巣鳶ヶ山の勝利で油断しているに違いない・・本隊の兵力も少ないはずだ・・しかも今は雨で鉄砲が使えんはずだ!突撃せよ!全軍狙いは設楽原の織田、徳川本隊!遠江、三河はみなの土地ぞ!」

勝頼は命令を下したのである。

武田四天王と呼ばれる山県昌景、馬場信春、内藤昌豊ら信玄時代からの生え抜きの重臣らも実は本音ではどうしたらよいか迷っていた。

忍者の不透の報告では確かに織田、徳川連合軍は鉄砲隊が自慢ではあったが信長自信は本陣でふんぞり帰っているような男ではなく、自らの危険も省みず前線に立つ武道派で織田軍は全体はともかく信長直近の旗本たちは腕利きが多く油断ならないと報告が入っていたからである。


しかし確かに今日のように雨が降っていれば信長自慢の鉄砲が使えず武田自慢の騎馬隊や一兵の戦力では最強と誉れ高い甲斐の兵士がその力を充分に発揮できる可能性は充分にあった。

兵力では武田軍は劣っていても質で勝てる可能性は充分にあったのである。

ここは武田軍も勝頼に賭けてみたのである。武田軍は全軍、設楽原に陣を構える織田、徳川本陣に攻撃を開始した。


織田軍の兵士の予想に反して武田軍は設楽原の織田、徳川本陣に突進してきた。

織田、徳川連合軍は柵の奥で皆迫り来る武田の騎馬隊に恐怖していた。


「・・来やがったな・・!」

信長は突撃してくる武田兵を睨みながら呟くと信長の命令よりも前に先に

「鉄砲隊!構えろ!点火!」

滝川一益が指示を出すと伝令兵が次々と声を出し、準備を指示した。


しかし両軍対峙し、作戦は始ったばかりであったが実は武田軍も同じ恐怖の感覚を持っていた。

彼らは鉄砲に恐怖したのではなく、天候に恐怖したのである。

「なんでここは晴れてるんだ!?」

馬場信春が驚きと焦りが混じったような声を思わず絞り出した。

武田の本陣を出たときは雨であった。雨であれば織田、徳川軍は鉄砲が使えないのでこちらにも勝機はあった。

しかし、本陣では雨が降っていたのに、設楽原に来ると雨が止んで、晴れていたのである。天気が良ければ鉄砲がその威力を発揮する。逆に武田にとっては危機であった。

「本隊に知らせましょうか?」

馬場隊の兵士が不安そうに勝頼本隊に連絡を取ろうとしたが

「今更・・無理じゃろ・・!」

事実、武田軍は次々と全部隊、織田、徳川軍に向けて各部隊突撃しようとしていたのである。

「・・雨がやんでいるではないか!」

しかし信春以外の他の武将も同じ驚きの声を各自上げていた。

この天候の悪戯は武田家にとっての不幸になるのである。


勝頼も本陣を出るときは雨が降っていたのに設楽原に来てみたら雨が止んでいたのに驚いた。しかし今更後退や作戦変更も難しかった。

背中を見せて逃げれば、織田、徳川連合軍に追撃される可能性が高いからである。前に行くしか無いと勝頼は悟ったのである。

勝頼は覚悟を決めると

「ひるむな!」

勝頼が大声を出した。

「鉄砲は二発目まで時間がかかる!その隙に叩け!行くぞ!つっこめ!」

武田の騎馬隊は勝頼のその言葉を聞くと、猛然と織田、徳川連合軍に突撃を開始した。


巣鳶ヶ山の山上では既に戦闘が終わったため占領した武田の砦から軒猿は設楽原の戦いの様子をじっくりと見ることができた。

それは軒猿だけではなく、ここにいた人間全員にとって初めて見る恐るべき光景であった。


柵の向こうでどんどん距離を縮めてくる武田の騎馬隊に織田、徳川連合軍の兵士はみな恐怖に怯え、構えている鉄砲が震えているのもわかるほどであった。

騎馬隊が有効射程の100mと言う極めて近くまで入り馬の息の音が聞こえる距離になったときようやく滝川一益の手が上がった。

「撃てー!!」

伝令兵の掛け声と同時に織田、徳川連合軍の最前列の千丁の鉄砲が大轟音とともに火を噴いた。

鉄砲の煙で一瞬辺りは真っ白になったが煙は晴れると次の瞬間、武田軍の最前列でこちらに突っ込んできた騎馬武者や足軽はみな倒れていたのである。

「信じられんわ・・!」

鉄砲を撃った織田の足軽自身が思わず驚きの声をあげてしまった。


「ひるむな!今が好機!第ニ波!第二発まで時間がある!」

勝頼がすぐに再度突撃命令を出した。

「味方の屍を越えろ!好機じゃ!」

内藤昌豊もすぐに前線の部隊に再度突撃命令を出した。

倒れた武田の騎馬武者の向こうから新手が突撃をかけてきた。


織田軍は伝令は直ぐに命令を出した。

「第一列後退!第二列構え!」

最初に撃った兵士は皆最後尾に戻り弾を込める準備を始めた。第二列目の足軽が直ぐに構えて突撃してくる武田軍に狙いを定めた。

「撃てー!!」

伝令兵が大声を出すと再度織田の千丁の鉄砲が大音響と共に火を噴いてあたりを一瞬煙で真っ白にすると再度煙が晴れると前以上に武田兵の遺体が当たりに転がっていた。


「予想外に短い間隔じゃないか!新型の鉄砲か!?」

山県は思わず声を裏返して驚きの声をあげた。


信長はばたばたと倒れていく武田兵を見ながら甲高い声で笑っていた。

信長はこの時は圧倒的な勝利を確信したのである。

「銃をよこせ!」

信長自ら銃を持った。

「俺は第六天魔王なり・・俺に逆らう者は・・みなこうなるのよ!」

信長は雄叫びを上げた。


武田軍は大混乱に陥っていたが、至近距離に双方あったため織田、徳川軍の動きがすぐにわかり、鉄砲隊が交代しながら銃を撃っていることを悟ると、すぐに対応すべく作戦をすぐに立てた。

「弓を用意しろ!鉄砲もだ!こっちにもあるだろうが!持ってこい!狙撃しろ!急げ!」

武田の知将、真田幸隆の後を継いだ信綱がすぐに状況を悟り対抗しえる奇策を行った。

「味方の援護の間に柵に取り付くぞ!馬は捨てて勝手に走らせろ!前方の盾、囮だ!馬をどんどん走らせ!」

馬が鉄砲の音に怯えて言うことを聞かなくなり混乱を起こしていたので馬を諦め、人足で突撃するのである。馬は勝手に最前線を走らせて織田、徳川の鉄砲隊の気を逸らすための最後の死に行く任務を混乱しながら行うだけである。


武田軍は三波の捨て身の攻撃を行った後、直ぐに無人の騎馬を織田の柵に向かわせた。

馬は鉄砲の音で大混乱に陥り、訳も解らず柵まで突っ込んだり柵の周囲をぐるぐる回り、銃弾を受けて倒れていった。


織田の三段構えも計算上ではうまくいくはずであったが、足軽兵の緊張や武田軍の大混乱に陥り狂ったように訳も解らず走りまわる馬に気をとられて無駄玉を撃つようになり、また千丁の鉄砲の煙で見通しが悪くなっており、設楽原の状況が良く解らなくなっていた。


「ワシが行く!みなついて来い!」

信綱が前線に突撃した

「弓隊!鉄砲隊!狙え!奴らは煙と騎馬でこっちに気付いておらん!」

信綱の弟の昌輝も命令を出した。

弓兵や鉄砲隊は煙の範囲内で武田兵や馬の屍の影に低く隠れ反撃を開始した。

「ぐわあ!!」

「ぎゃっ!!」

織田、徳川軍の足軽兵が次々と煙の奥から放たれる武田軍の弓や銃撃を受けて声を上げながら倒れた。

無我夢中で鉄砲の弾の補充に専念していたので、まさか武田軍からの鉄砲や弓での反撃を予想しておらず最前列一重目の柵の部隊は大混乱になった。

それを確認すると

「お先に!ワシらを越えて行ってくださいませ!」

土屋昌次の部隊が再度捨て身の攻撃を行うと火を噴くことが出来た鉄砲の反撃をここでも受け、かなりの兵士が倒されたがそれでも昌次らの生き残った部隊が力ずくで一気に一重目に取り付き織田の鉄砲隊に武田軍は襲い掛かった。

「土屋隊の一部が一重目の柵に到達!」

真田兵が大声を上げた。


「ようし!援護続けろ!行くぞ!真田の名前を轟かしてくれる!」

信綱は最前列の一重目の織田、徳川連合軍が混乱に陥っているのを確認すると突撃を緩行した。

土屋隊に続き勇猛と評判の真田隊も柵に取り付いた。

接近戦になれば武田軍も全く引けをとらない。


武田軍は柵に取り付くと鉄砲は得意でも太刀討ちは苦手な織田、徳川連合軍を圧倒、一重目を突破して、二重目に向かおうとていた。織田、徳川連合軍の鉄砲隊も鉄砲を諦めて槍や刀の接近戦に切り替えたが完全に押され、二重目でもあちこち太刀打ちが始っていた。耐えられない部隊は三重目の柵に後退を始めようとしていた。

「いける!本隊に連絡!援軍を!我らは中央突破する!両翼もその隙に突破するよう!」

信綱は手ごたえを感じ、弟の昌輝に命じて直ぐに勝頼本隊の救援を求めた。

また息子の信興、信光兄弟に両翼、左翼の山県、右翼の内藤、馬場へ援護の依頼と戦法の伝授に向かわせた。

鶴翼の陣の形態で中央で時間を稼ぎ可能であれば突破、その間両翼の部隊で更に周囲を突破、少数で大軍を破る古今東西、有名な戦法であった。


「やるではないか!さすがよ!」

武田軍の予想外の手ごたえ、反撃に信長は怒りではなく喜びで半狂乱であった。


しかしここで信長は恐るべし命令を下したのである。

「三重目!撃て!」

信長の周囲の三重目の足軽鉄砲隊は仰天した。まだ前列二重目の柵で味方の足軽兵が押されてはいるが戦っており、こちらに完全には後退していなかった。

「お待ちください!まだ味方がいます!後退が終わるまでお待ちを!それかこちらから援軍を!」

佐久間信盛が慌てて信長に進言したが

「たわけぇ!」

信長が魔王のような形相で言った。

「後退してくる連中を待っていたら武田の連中も調子に乗って来るであろうが!援軍を送って奴らを槍や刀で本当に追い払えるんか?!できんだろうが!奴らが来るのを待って本隊まで全滅させるんか!貴様!」

信長は恐ろしい形相のまま信盛を怒鳴りつけた。

しかし信長の言っている事は真実であった。接近戦、太刀打ちでは明らかに織田、徳川軍は武田軍に押されていたのである。信盛は反論できず黙ってしまった。

「味方に構わず撃て!」

滝川一益が状況を確認し命令を下すと三重目の鉄砲隊が大轟音と共に火を噴いた。

「なっ!俺達は味方だろオ!!」

織田、徳川連合軍の二重目で戦っていた足軽は予想外に味方、背後から撃たれてばたばた倒れていった。

「何!!味方も撃つんか!!気狂いか!!」

信長の予想外の行動に信綱も思わず声を裏返してしまった。

この信長の行動は武田にとっても予想外の結末を迎えることになる。

中央の信綱の援護に向かっていた武田信廉や穴山信君の部隊は前線で再度織田、徳川の鉄砲隊が火を噴き始めたのを見て不利と勝手に悟り、信綱の救援を諦め、無断で後退を始めていたのである。

勝頼本隊は護衛が心持たないため前進できず中途半端に停止を余儀なくされ、中央で奮戦する真田隊の救援もおぼつかなくなっていた。

信廉や信君が援護になかなか来ないので信綱も苛立っていたが彼らが勝手に後退したと聞き信綱は更に仰天した。

自分達が突破されれば、両翼の味方の部隊も逆に押し切られてしまう。

事実両翼の部隊はこちらもなんとか第一重の柵に取り付き、太刀打ちを始め、まさにこれからまわり込み反撃しようとしている最中であった。

全てを悟った信綱は

「引くな!絶対に引くな!両翼の部隊が崩すまで待て!」

大声で命令を出すと

「この柵で迎え撃つ!ワシらの得意の護衛戦じゃ!」

信綱らは織田、徳川連合軍から奪った柵を盾に激しく最後の抵抗をしていた。

「両翼が突破するまで・・持ってくれ!」

信綱は両翼の部隊が突破するの祈るように待つのみである。


武田軍が二重目の柵に取り付き必死に抵抗してたたため、戦前が膠着を始めていたが、信廉や信君の部隊が後退を始め、勝頼の部隊が足止めされ取り残されていると信長は聞くと

「・・よし・・」

信長は機会を悟ったように先ほどの興奮が嘘のようになりを潜めて静かに言った。

「全軍前進!まずは武田の中央の部隊を踏み潰せ!」

織田、徳川連合軍は前進を開始したのである。信長自ら危険を翔りみず騎馬に跨り、欧州製の鉄砲の弾を弾くと言われる南蛮製の素材を使い、南蛮鎧を真似た特注の派手な銀色の甲冑を光せ、真っ赤なマントをたなびかせながら進撃を開始した。

信綱の部隊は著しく消耗し戦力が低下していた。信綱の中央の部隊は援護が受けられないためほぼ絶望的な状況になりつつあった。


織田側が造った第二重柵で必死に粘る信綱の前に織田、徳川連合軍の大軍が徐々に向かって来た。

「みんなよくやった!真田の兵士の武勇は後の世まで語り継がれるであろう!」

信綱は最後に味方を励ました。

しかし多勢に無勢、信綱らの真田隊は激しく抵抗するもついに織田、徳川連合軍に突破され信綱、弟の弟昌輝、息子の信興、信光兄弟は相次いで討ち死にし、部隊も壊滅。中央の真田隊の壊滅、突破により、両翼の山県隊、内藤、馬場隊も後退が難しくなり徐々に切り崩され始めて武田軍は総崩れになっていった。

「おのれ!よくも!」

左翼の山県は中央の土屋、真田隊の全滅を聞き、慌てて後退を始めるも途中で織田、徳川軍の鉄砲隊の掃射を受けて山県自身も狙撃を受けて討ち死に、右翼の内藤、馬場も大慌てで孤立する勝頼の本隊と合流すべく後退を開始した。


巣鳶ヶ山の部隊は戦いの様子を半ば唖然と見ていたが金森が我を取り戻したかのように

「よし!武田は後退するようだ!我が隊はこれより武田軍の退路に展開、迎えつつ本隊と挟み撃ちにして武田軍を殲滅する!行くぞ!」

「長篠城の部隊も外に展開させろ!武田兵を一人も甲斐に帰すな!」

酒井忠次が命令を下した。

巣鳶ヶ山の部隊は山を降りると甲斐に後退すべく設楽原から撤退してきた武田軍と大乱戦になった。


勝頼本隊は信豊、信君らが勝手に先に退却し、味方部隊の損傷も激しく、中央隊が壊滅した後、両翼の部隊も壊滅、更には巣鳶ヶ山を奇襲した部隊に阻まれて撤退もままならない状況に追い込まれ、勝頼を守るため、内藤、馬場、原昌胤親子と名将が相次いで戦死、甲斐軍は初めてとも言える大敗北、大打撃を喫したのである。


武田軍は鉄砲による大混乱から崩れて実弾の餌食になり、なんとか得意の接近戦まで持ち込むも、味方の連携不足から崩れて壊滅状態で甲斐本国に撤退したのである。

武田側は1万5千というほぼ壊滅の状態で多数の武将を失ったことで、今後の戦にも多大な支障が出るようになるのである。


一方信長も武田軍に勝利したとは言えその表情は険しかった。

もう少し楽に勝てるかと思ったら予想外に反撃を受けてこちらも6千近い大損害をだしたからである。


「おのれ!オレにここまで楯突くとは!甲斐本国に行ったら残っている連中の首も片っ端から刎ねてやるわ!特に勝頼の首は京都で晒してやるわ!」

信長は甲高い声で怒りを露にしていた。


春日山城では帰還した織田、徳川軍に紛れ込んでいた軒猿からの武田軍が長篠で信長、鉄砲隊に完敗したその話に一同衝撃を受けていた。

北条にも今回の戦の様子は伝えられたようで、北条側もこれ以降信長には一目置いているようで氏政も信長と好を通じようと盛んに使者を送っているとの情報が入ってきていた。


長篠での武田軍壊滅的敗北の知らせを聞いて、越後の牽制のため海津城にいた高坂弾正昌信は着替えの甲冑を持って出迎え、引き上げてきた甲斐兵に惨めな敗戦の思いをさせないよう繕ったという。

高坂弾正はこの後、すぐに再度謙信に使者を送り、越後との同盟を再度画策すべく奔走するのである。


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