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越後の虎  作者: 立道智之
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川中島前夜

当作品は第4次川中島の戦いは甲陽軍鑑説ではなく遭遇説を採用しております。ご了承ください。

翌日陣内では普段のように評定が始まった。

昨日の出来事が嘘のように今まで通り何事も無かったように集合していた。

昨日の出来事など無かったかのよう無表情にみな座っていた。

しばらくして政虎が黙って入ってきた。

昨日と違い普段通りの表情で落ち着いていたが少し気分が落ち込んでいるようであった。

政虎は少し考えた後、静かに口を開いた。

「・・藤景と繁長は私の前に出てもらえないだろうか・・・・」

昨日までの政虎らしくない言い回しであった。

皆一瞬驚いたような顔をしてお互いを見合わせた。

長尾藤景、本庄繁長は無表情に政虎の前に出たが目線は下に向けたままであった。

「・・昨日の件はすまなかった・・反省している・・申し訳ない・・」

政虎が切り出した。

「・・私も気がついたら32になった・・体はどんどん年をとるのに心がついていかない・・正直苦しい・・みなにも嫌な思いをさせていると思うが・・許してほしい・・」

政虎は神妙に話し出した。皆の前で本音で話すなど久しぶりだった。

昨晩はゆっくりいろいろ考えた。

ここ数年は強がってばかりで越後の現実を忘れていたような気がした。

政虎は越後の守護大名ではあるが、強権的な支配者ではなく、現実は緩やかな領主連合に過ぎず、それをより強固な関係にするため長尾を捨て、上杉になり、更には関東管領までになったのだがそれはあくまでも権威的なもので越後国内における政虎の実態はあまり変わっていないと言う現実である。

「今回の作戦は練り直す・・少し軍を動かして信玄に意思表示をしよう・・何か希望があれば思うように述べてほしい・・」

政虎は今回は久々に皆の意見を聞いてみようと思った。


越後衆の希望は簡単で明確であった。

政虎の心労も頂点に達していたが兵士も将校もそれは同じであった。

それを少しでも和らげるために信玄への明確な意思表示と采配を見せて味方を落ち着かせる必要があった。

信玄への意思表示は戦うつもりが無いのであれば自主的、もしくはこちらから多少ごり押してでも海津城、さらには甲斐へ後退させることであった。

政虎の采配を見せなければ越後衆はついてこない。政虎の本当の魅力でもある優れた采配を振舞い越後衆を安心させることを要求したのである。

政虎は了承した。


替佐城に甲斐軍が入るのを確認すると政虎は部隊の移動を命じた。

南方の善光寺近くの葛山城に本陣は移動、本隊も善光寺近くの横山城に移動させて荷駄隊も善光寺の裏側の旭山城と大峰山城に固定した。


信玄にも越後軍の動きはすぐに伝えられた。


信玄にとっては予想外の動きであった。飯山城にばかり軍を向けると思っていたら南進して来たからである。

「飯山城を放り出す気か・・?」

内藤昌豊が驚きの声をあげた。

「いや・・こっちが北に行くなら・・あっちは南に行くつもりじゃろう・・警告じゃろう・・」

山本勘助はすぐに察したようであった。

「それにしても善光寺を盾に使うとはな・・」

山県昌景が呆れ気味に言ったが

「犀川を掘代わりに使うんでしょう・・」

真田幸隆が慎重に言った。

「もしかしたら犀川を渡って北国街道を押さえようとしているのかもしれん・・面倒だな・・補給に支障がでる・・」

信繁も冷静に読んでいた。

「政虎が約束を守らず我々の邪魔をしたら・・飯山城を一気に叩きますかな・・?・・思ったより向こうの兵力は少ないようですがな・・」

飯富虎昌が信玄に冗談とも本気とも取れない発言をしたが信玄は大きく首を左右に振って拒否した。


「それにしても・・全く・・政虎らしいわ・・」

信玄は感心しながらも面倒そうにぼそっとつぶやいた。


政虎は直江景綱を中心とする荷駄隊を善光寺周辺に固定したまま更に南進の準備の命令を下した。荷駄隊を固定したのはあまり戦力にならない部隊を危険にさらさないためである。またもしものときは善光寺を盾に、更には流れの早い犀川を堀のように使えるので防御にも適していた。


政虎の信玄に対する牽制の動きにもかかわらず替佐城に甲斐軍はへばりついたままであった。

すると越後軍は再度動きを見せた。

今度は信玄が腰を抜かす番になった。


信玄の元に驚くべき情報がもたらされた。

海津城の南の斎場山の尾根伝いの妻女山に越後軍が少数布陣しいると言う。

いつの間にか犀川を渡り北国街道を南進して川中島のはるか南方まで進み、甲斐軍の横山城や広田砦のすぐ傍を難なく通りそのまま妻女山に入ったと言う。

信玄は可能な限り北進してみて黙っている政虎の反応を見てみようと思ったら今度は政虎が川中島の最南端部まで軍を送って来たのである。


「北国街道沿いの横田城や広田砦、斎場山峰伝いの天城城の部隊は何をしてたか・・」

信玄は舌を巻きながらも自軍の失態に呆れ気味に言った。

越後軍は信玄や甲斐軍の気づかぬ間に北国街道を一気に南下し信玄の背後に廻ったのである。

「・・さすが政虎ですな・・」

甲斐軍でも勘助は一人感心していたが。


政虎は闇夜に紛れて少数の100人程度の部隊を派遣しひとまず妻女山に陣を作り様子を見たのである。地の利に詳しい信濃衆や軒猿を中心とした部隊でここを拠点に海津城の偵察も兼ねていた。


信玄はそれでも相変わらず飯山城の前の替佐城から部隊を引かなかった。

信玄も少し意地になったのである。


しかし信玄にさらに嫌な情報が入ってきた。

妻女山の部隊は単なる囮と信玄は考えていたのだが追加で部隊が続々と増強され妻女山に入りきらない部隊が隣の斎場山にまでも布陣を始めているとの情報が入りだしたのである。

横田城や広田砦の守備隊からも昼間から堂々と越後兵が北国街道を北から南にせわしく移動しておりどうしたらよいかとの連絡がしきりに海津城の本陣に入り始めていた。

斎場山および妻女山にはもはや囮の部隊ではなく一つの大部隊とも言える規模の兵力が集まりつつあった。


信玄にとっては妻女山周辺は海津城の背中で更には甲斐への帰路途中にもあたり、越後軍に布陣されるのは退路を絶たれるようで気分の良い物ではなく大きな圧迫にもなりつつあった。


信玄は信繁や勘助を呼んだ。二人の意見を聞くためである。

信玄は政虎を一応信用していた。

理由は北国街道沿いにあり越後軍に邪魔な横田城や広田砦を襲うそぶりを全く見せなかったからである。

ただ越後軍があまりにもせわしく兵を動かすので政虎が本当に約束を守るかどうかについて信玄も少し不安を感じたのである。

信繁や勘助も政虎が色々動いてはいるが信玄の考えと同じで横田城や広田砦を襲うそぶりを見せないことから戦う気が無いのではと判断をしていた。

政虎が単に信玄の北進に抗議する意味で正反対の南進で対抗しようとしているのではないかと考えていたのである。

そのため二人は解決策として替佐城から部隊を引くことを主張したのである。

甲斐軍が替佐城から撤退すれば越後軍も妻女山から再度犀川以北の善光寺方面に戻るはずと考えたのである。

信玄も信繁や勘助が同じ意見だったので安堵したが今度は別の問題が頭をもたげていた。

政虎と戦おうとした素振りを北条氏康に見せることである。

既に川中島に来て一週間が経とうとしていたが

「ワシらも向こうもつらいだろうが・・もう少しだけ粘ろう・・あと1週間だけじゃ・・素振りが大事じゃ・・越後軍には絶対にちょっかい出すなよ・・」

信玄は信繁や勘助だけではなく自分にも言い聞かせるように言った。


政虎は今までの沈黙が嘘のように次から次へと信玄に対して手を打ってきた。

替佐城の守備隊から信玄の元に飯山城に上田長尾や三条長尾の部隊が入り兵力を増強しているとの情報が入ってきた。越後軍に対抗するため兵力の補充を求める連絡が入ってきたのである。

横田城からも村上義清ら信濃衆の部隊が南進して斎場山方面に向かい更に妻女山の目の前を流れる千曲川には渡しがあったがどうも越後軍が斎場山への物資の補給を円滑に行うために橋を架けているようだとの連絡も入ってきていた。

横田城の部隊からも越後軍に好き勝手にやらせないために兵力の補充を促す声が信玄の元に届いていた。

海津城の部隊からも背後の斎場山に甲斐軍が苦手な村上義清ら信濃衆が入ったことに不安の声が出ていた。


甲斐兵の不満や不安が増す中で それとは裏腹に信玄は一人落ち着き払い、感心しながら独り言を漏らした。

「さすが政虎じゃ・・ワシに圧力をかけるとはな・・」

「それにしても・・確かにたいした奴ですが・・しかし・・」

信玄の独り言を聞いた息子の義信が何かを続けようとしたが

「・・振り回すつもりが振り回されるワシらは心底面白くありませんな・・全く・・」

飯富が正直に不満そうな義信の本音を代弁した。そして

「・・政虎は兵力を北の替佐城と南の斎場山に大きく振り分けてます・・本陣の葛山城は荷駄隊ばかりでろくな戦力がいないと思われますがな・・兵力を分散し主力のいない手薄な本陣を一気に叩くのも悪くはなかろうかと・・」

飯富が静かに言った。

「・・今回は美濃攻めが本当の目標じゃ・・予定外の戦は許さん・・」

信玄が厳しい口調で言った。

「美濃の斉藤も同じくらい面倒ですぞ・・斉藤と政虎が組んだらもっと面倒ですぞ・・挟まれて身動きが取れなくなってしまいますな・・」

飯富が珍しく少し声を荒げたが信玄は目をつぶり聞いていない振りをした。

「父上は政虎を買い被り過ぎでは・・早めに手を打たないと・・」

義信が不満そうに言った。

「買い被ってはおらぬが過小評価も良くないぞ・・義信」

信玄が諭すように言った。

義信は不満そうな顔で口を閉じた。



10日ほどたったある日、横田城から再度信玄の元に情報が入ってきた。

相変わらず越後の荷駄隊は北国街道を南に北にとせわしく斎場山と善光寺の間を往復していたが普段より大量の荷駄と将校らしき人物複数が斎場山に向かったとの連絡が入ってきた。

忍の透破からの報告からもどうやら政虎自らが猛将柿崎景家をはじめとする重臣、親衛隊兵を連れて斎場山の新しい陣地に入った模様との連絡であった。

妻女山の麓には千曲川を渡るための仮の橋も完成し、おそらく越後の軍師宇佐美定満が作ったのであろうか越後兵は宇佐美橋と呼んでいると言う。


さらには時々誰かが陣中で琵琶を静かに奏でているとの報告も入ってきた。

「敵中で琵琶を奏でるとは・・おなごの考えそうなこった・・」

飯富が不愉快そうに言った。

「兵士から不満が出ていますぞ・・補給も北国街道が使えないので地蔵峠経由で入れていますが量が満足に入りませんからな・・」

義信も不満を言った。

甲斐軍は補給は本道の北国街道を普段は使っていたが妻女山に越後軍に篭られてからは妻女山近くを通る北国街道は通れなくなり海津城の後方の峠道で裏道とも言える地蔵峠を使っていた。

ただ峠道で狭く険しいので輸送力が不足していた。

北国街道が使用可能な時でも甲斐からの補給路が長いため補給が遅れる傾向があったが今回道が悪い地蔵峠経由になったため補給の遅れが決定的になり兵士の不満を買っていた。


しかし信玄の一言は意外であった。

「いや・・陣中で琵琶か・・風流じゃな・・」

飯富と義信は信玄の思わぬ一言にがくっと拍子抜けし顔をお互いに見合わせた。


悠々とした信玄に副将格の内藤昌豊が声をかけた。

「ただ・・もうそろそろ良いのでは・・」

信玄はちらりと内藤を見た。内藤も続けた。

「・・ここへ来てもう2週間経ちます・・我らの標的は別にあります・・そろそろ一旦甲斐へ帰るのも悪くはないでしょう・・氏康殿への様子見せも充分でしょう・・」

信玄も目を閉じしばらく黙った後

「・・そうじゃな・・もう頃合だろう・・」

そして命令を下した。

「・・替佐城の部隊は海津城に戻せ。」


斎場山の越後軍陣中で政虎は静かに琵琶を奏でていた。

本庄繁長が静かに足早に入って来て政虎の傍らに普段のように粗暴にどかりと腰掛けた。

政虎が一曲弾き終わると

「余裕ですな・・」

繁長が声をかけてきた。

「信玄にはこちらの気持ちは伝えた・・これで皆も安心であろう・・」

政虎は答えた。

「信玄が本当に撤兵するまでは安心できませぬな・・」

繁長はぶっきらぼうに答えた。

「確かに油断はまだならない・・その志で良し・・」

政虎は繁長に返答をするとまた静かに琵琶を弾き始めた。

しばらくすると別の若武者が陣地に入ってきた。甘粕長重である。甘粕は政虎が期待をかけ今回連れてきた若手の一人で妻女山布陣の部隊を任されていた。

政虎は琵琶を引く手を止めると甘粕が報告を上げてきた。


「替佐城の部隊が海津城に後退を始めたようです・・」

報告を聞いて繁長はちらりと政虎を見たが政虎は特に表情を変えることなく

「ご苦労・・」

と一言言うと再度静かに琵琶を弾き始めた。


その日の夜、夕食時、越後軍陣中ではなぜか盛大な食事が振るわれていた。

政虎は普段の食事は酒と少量の飯、一品程度の料理と質素なものが多かったが出陣前は普段とは別人のように豪勢でしっかりした量を食べるので取り巻きもそれで政虎が出陣するのかどうか判断出来るほどであった。


そのためまさか信玄と戦うのではと・・一同一瞬緊張が走ったが良く見ると豪勢なのは重臣向けの食事だけで政虎の物は普段通り質素な物であった。

一同席に座るのを確認すると政虎は声をかけた。

「今日はゆっくりしよう・・宴の用意を・・」

「敵中真っ只中ですぞ・・」

藤景が思わず声を出したが

「・・向こうも同じ事をやっているであろう・・」

政虎はにこりと笑うと藤景に返した。

「・・?」

不思議と不満が混じった表情を見せる藤景にお構い無しに政虎は続けた。

「甲斐軍が替佐城から撤退したようだ・・めでたいことだ・・我々もいったん葛山城まで後退しよう・・今日はその祝いである・・無礼講で良い・・気楽に・・」

「お待ちを!信玄が海津城を出るまでは油断なりませんぞ!」

繁長が物言いをしたが

「その心配は無用・・今日は甲斐軍もゆっくり休んでいる・・」

政虎は海津城を指差した。

「炊煙の量を見るが良い・・昨日に比べても多い・・甲斐軍は補給に苦しんでいるはずだが今日は盛大に振舞っているのを見ると近く撤退するに間違いない・・」

「フッ・・葛山城の丸腰の直江殿の荷駄隊を襲うために兵を腹一杯にしているだけかもしれませんぞ・・」

藤景が少し嫌味っぽく言うと

「・・もしそうならば・・直ぐにでも斎場山の全軍で八幡平まで下って直江隊と挟み込めば済む話であろう・・犀川を甲斐軍もそうやすやすと渡れないはず・・我々に背中を見せる危険を信玄が冒すとは思えない・・もしそうなったら最もそなたらの希望通りの本気の戦いになるだろうが・・」

政虎も少し意地悪く返した。

「信玄もそこまで危険な作戦を取るほど愚かではないわい・・」

宇佐美が諭すように言った。

藤景も繁長もようやく鞘を納めた。


しばらくの沈黙の後

「いやぁ~さすが越後の将校は歴戦の強者揃いじゃのう~こりゃいい勉強になるわい!越後に生まれてよかったよかった。」

誰かが妙な言い回しで大声を上げた。

水原親憲である。彼も今回政虎の期待の若手として連れてきたのであるがそれ以外にも彼は越後軍では有名人であった。

武勇に優れ茶や歌を好む風流人ではるが見た目が少々不男で行動も面白い男と評判であった。

酒宴の時も妙な格好をしたり、行軍中も大声で下人と世間話を平然とするなど越後軍でも話題の男であった。


政虎や一同は一瞬あっけに取られたが失礼ながら彼の顔を見て思わず政虎はくすりと笑ってしまった。

他の者も同様であった。大声で笑いが出て場の空気が和んだ。


この水原親憲だが外見に反して彼はこの後も越後軍で大活躍し、景勝の代も忠実に仕え、後年の北の関ヶ原の戦いとも言うべき長谷堂城の戦いではあの前田慶次と共に猛追してくる最上義光を追い払うべく殿しんがりを勤め、大阪冬の陣でも鴨野の戦いで活躍し徳川秀忠に感状を賜わったのだが謙信時代の戦に比べるとまるで子供の石合戦のようだと言ったと伝えられている。


場が和むのを確認すると

「ま、そうであればひとまず酒だ酒!乾杯じゃ!」

中条藤資が70の老人と思えぬ勢いで大声を出した。

「余計なお世話だろうが体にも気を付けた方が良いぞ。陣中の宴の最中に酒で死んだら後世の笑い草になるぞ・・」

北条高広が呆れ気味に言うと

「阿虎様にもちゃんと言っとけよ!」

中条が意地悪く高広に返した。

「・・阿虎様の酒がもっと回ってからな・・」

高広がぼそっと小声で言うと一同再度大笑いが起きた。


「いや~うれしいな やっとこさ越後へ帰れるわ」

一般の兵も大喜びであった。彼らにも酒が振舞われその日の晩は賑やかな夜になっていた。


甲斐軍でも替佐城の部隊が海津城に戻ると信玄自ら労いの言葉をかけ、将校や兵士達に今回の目標は達成されたので近く一度甲斐に撤退する旨を伝えた。

そして信玄は皆の労をねぎらうべく酒を振る舞い宴会を開かせた。


「斎場山も賑やかのようですな・・」

勘助が斎場山方面に目をやると静かに言った。

透破の報告では越後兵も近く撤退するようで派手に飲み食いしていると言う。


「あまり騒ぐと寝ている連中が目を覚ますぞと越後衆に伝えてやれ!」

馬場春信が冗談を言った。

斎場山はその名前どおり実は古墳や墓が多い土地であった。

「さいじょうやま(西条山 斎場山 妻女山) と同じような名前の山を何箇所も梯子して話をややこしくしおって・・」

諸角虎定も苦笑いしながら言った。

「いや、連中も実は何山に篭ったのか覚えていないに違いない」

普段は冗談を言わない真田幸隆までも悪乗りをしてきた。

甲斐の将兵も大笑いであった。

緊張の糸が切れたのか酒のせいか安堵からか甲斐軍陣内も空気が和んでいた。


「ま、これからが本番じゃがな・・」

信玄は独り言のように言うと、ふうっと溜息をつくと何事も起きなかったことに安堵しているようであった。

そして今後の交渉に備え色々考えを張り巡らしているようであった。

「兄上・・ひとまずは乾杯ですな・・」

信繁が信玄に酒を注いだ。

「信繁、今日は普段通り無礼講でよい」

信玄が言うと

「(信玄の息子の)義信殿や(後見人の)飯富殿が見ているからな・・粗相があっては後々まずいんで・・今日は遠慮しましょう・・」

信繁が茶目っ気たっぷりに言った。

信玄も思わず大笑いしてしまった。


そのころ、越後軍、甲斐軍が共にくつろいでいるときに一頭の早馬が海津城に向かって信濃国を北上していた。

美濃での重大な事件の第一報を伝えるために早馬は疾走していたのである。


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