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越後の虎  作者: 立道智之
38/77

唐沢山城

「ふうっ・・」

唐沢山城に入って景虎は思わず安堵の声を出してしまった。

「やれやれ・・なんとかなったみたいだ・・」

弥太郎や戸倉与八郎たちも景虎と同じようにふぅっと安堵のため息をついていた。

彼らを見て景虎も思わずくすりと一人で苦笑いしてしまった。もっとも酒が入っているとはいえ自分の無謀ぶりにも半分呆れていたが。

「ご苦労であった・・」

景虎は迷惑をかけたとみなに礼を言った。

しかし安堵している暇はなかった。

「これからが肝心ですが・・どうします?」

秋山源蔵が景虎に聞いてきた。

どうやって北条軍を追い払うかである。相変わらずこちらが不利には違いなかった。

「うん・・少し考えよう・・」

景虎は静かに答えた。

そのとき突然であった。

「おお!関東管領殿!お待ちしておりましたぞ!」

大きな声とともに赤い派手な古風な甲冑に身を包んだ貴族趣味風の男が千坂景親の元に息を切らしながら走って駆け寄ってきた。

千坂の元に駆け寄ってきたのはおそらく彼を景虎と早とちりしたからである。

男は景虎と同じくらいの若い男であった。

目にうっすらと涙を浮かべ感極まっているようであった。千坂は少し引いていたが・・

「唐沢山城城主の佐野昌綱でございます!」

と勢い良く自己紹介すると

「我ら佐野一族は関東管領景虎様に忠節誓いまする!」

と大声でひれ伏せ地べたに頭をこすりつけた。

唐沢山城城主の佐野昌綱である。年は景虎より一つだけ上である。

千坂も慣れたものですぐに状況を把握すると景虎らしく振舞っていた。

景虎役の千坂は本気なのか楽しくやっていたのか分からなかったがとにかくよく合っていた。

昌綱を慌てて追いかけるように少し遅れてやって来た佐野家の武将たちも昌綱に続いて地べたに頭をこすりつけた。ただその中にいた山上氏秀だけはこの様子を当惑した顔で見ていた。山上が当惑していたのは山上は景虎の関東管領の就任の挨拶の時に越後まで来ており男装の景虎に一度会っていたからである。道服の景虎を見て当惑していたのである。しかもそのときの景虎と今回の景虎は別人になってしまっている。別人どころか別性にもなっていた。

当然であるが佐野昌綱は何も知らずに慌てて来たため千坂と景虎を勝手に勘違いしてしまったのであった。

しかも昌綱は感極まっており今更勘違いしていると言える雰囲気ではなかった。


ただこれは景虎にとっては好都合であった。千坂が景虎役をやってくれることで取り急ぎ鶴岡八幡宮での関東管領就任式での大衆の面前に姿を表す時までは千坂の景虎役で通すことができたからである。

 しかしこのような大事な情報を間違って通してしまえば山上の立場にもかかわる。彼はしばらくどうしようとおどおどしていたが意を決するとそうっと昌綱に近づき、今挨拶しているのは景虎ではなく別人と言おうとした時であった。

「昌綱殿・・この景虎とともに関東から魚燐の衆を追い払おうぞ!」

と景虎役の千坂が表情ひとつ変えずに答えたので

(えっ・・・??)

と驚きの顔を出しながらも何が何だかわからないと言った顔で彼は下がったのであった。

山上もすぐに頭を地面にこすり付けた。

しばらくして昌綱は顔を上げると

「ところで・・」

昌綱が千坂の景虎に声をかけた。

「差し支えなければ・・あちらの姫様・・失礼 女大将殿はいずこのお方で・・」

と聞いてきた。

「姫様・・女大将・・?」

千坂は思わず聞き直してしまった。そして景虎を見た。千坂は景虎を見てぎょっとした。そして目で景虎に必死になにか訴えていた。

景虎もようやく千坂の何か言いたげな視線に気が付いた。

そしてその千坂の視線の先をたどってみた。そして

(・・!しまった!)

景虎は到着して安堵のあまり烏帽子を脱いで髪をほどいてしまったのであった。女装に戻っていたのであった。

千坂も窮していた。景虎が油断して女装に戻っていたからである。

景虎は少し考えたあと少し歯切れが悪く

「平井城の千葉采女の伊勢姫と申します・・病弱な父の代わりに景虎様のお供をした次第で・・」

と苦しい言い訳をした。

「伊勢姫様が道服の格好で北条軍を欺いてくれたので今回うまく入れたのじゃ・・」

金津新兵衛が助け船を出してくれた。

「さようでございますか・・いやはや・・姫様の機知のお蔭とは・・姫様のおかげで我々は助けて頂いたようなもの・・これはもしや佐野家と千葉家のなんかの縁かもしれませんな・・景虎様に従い北条と闘う者同士頑張りましょう・・関東が景虎様の元、平穏になったら千葉様の元にお礼や今後のご挨拶に参らねばいけませぬな!がははは・・」

昌綱は感心しながら豪快に笑った。

景虎はにこにこと当惑しながら愛想笑いをしていたが。


「次の作戦指示まで待機しております!山上!景虎様一行を本丸へご案内せい!私は警護の兵に景虎様がいらっしゃったことを伝え兵の士気を上げてまいります!失礼!」

昌綱は山上に景虎の世話役を命じると下がっていった。

「・・お気に入られたようで・・」

弥太郎がにやにやしながら景虎に声をかけた。

「・・あまりにやにやして言っている状況ではないと思うが・・」

珍しく千坂が弥太郎に突っ込んだ。

「少しまずいのでは・・対応どうします・・?本当のこと昌綱殿に言ったほうが良いのでは?」

源蔵も景虎に聞いてきた。

「・・考える・・」

景虎は困りながら答えた。

景虎一行が昌綱の対応をどうしようかひそひそ話をしているそばに山上が千坂に近づくと

「景虎様・・本丸へご案内いたしまする・・」

と近寄ってきた。

山上は景虎役の千坂に声をかけた後ちらりちらりと何か納得行かない顔で伊勢姫役の景虎を見ていたが・・


しかし佐野軍は敵陣真っ只中やって来た景虎一行に大いに勇気付けられた。戦局は景虎優位に動き始めるのであった。


一方北条軍もこの件で大騒ぎであった。

景虎一行を安々と中に入れてしまったことに関してである。

見張りの番だった小次郎たちは氏政ら軍の首脳の前に呼び出されていた。小次郎は今回の件の責任を取っての厳罰も覚悟していた。

しかし氏政の対応は意外なものであった。

あまりにも意外、というか単純な方法に引っかかったため怒る気が起こらなかったのであった。

また景虎たちが唐沢山城に入城したことを彼は好都合にとらえていた。

佐野昌綱と一緒に一網打尽で景虎を討ち取れると喜んだのである。

たった10騎で落城寸前の城に入っていくら味方を鼓吹したところで何が出来ようかとタカをくぐったのであった。

そのため小次郎は特にお咎めもなかった。むしろ氏政から褒められた程であった。

このような甘い判断にしたのはひとえに氏政の判断でもあった。

事を荒げ大きくして味方を動揺させるのは得策ではないと氏政が判断したのである。

小次郎を部隊に戻すと

「そんなことより・・飯だ!飯!」

氏政は父氏康のように豪放に振舞ってみせて食事の支度を命じた。

「それにしても長尾景虎とは妙な人物ですな・・」

松田憲秀が呆れ気味に言った。松田氏は北条早雲時代から北条氏の重臣である。憲秀は今回は氏政の副官として随伴していたが実は氏政の監視も兼ねていた。氏康の命令である。

氏政は先ほどの判断では無いが政治家としては優秀だが武人としては正直疑問符が父氏康からもつけられていた。

氏政自身もそれを大いに気にしており今回大軍を率い必勝体制で乗り込んできたのもそのためであった。

氏康も氏政が景虎と戦うことに不安を感じてはいたがそのために憲秀ら重臣をつけてきたのであった。これであれば大丈夫であろうと。

氏政はどかりと腰を下ろすとさっさと食事の準備始めた。

「ワシに手柄をくれる気であろうか・・それにしても姫君を連れて包囲されている唐沢山城に自ら入るとは・・長尾景虎は本当に戦上手か?」」

氏政はご飯に何度か味噌汁をかけながら憲秀に冗談っぽく言った。ご飯に味噌汁を細かく何度もかけるのは氏政の癖であり趣味である。

ちなみに氏康は氏政のこの癖を大いに気にしていた。氏康が言うには何で一度で済ませられないのかと・・武将であれば一度でそのくらいの量の目測ぐらい立てろと言いたかったのであった。

(飯へ汁かけは一度で済ますようにと氏康様も・・)

と憲秀は危うく少し物言いしそうになったが今回は黙っておいた。

氏政と陣内で口論しても仕方がないからである。

憲秀は話を切り替えた。

「・・武田信玄公は随分景虎を褒めているらしいですが・・」

氏政は黙って汁飯をすすっていた。

信玄は氏政の婦人、黄梅院の父親だが正直苦手であった。なんか自分を小馬鹿にするような態度が苦手であった。

「むしろ・・同伴していたと言う姫が本物かもしれませんな・・」

清水康英は思わず本音を言った。清水も早雲時代からの重臣の一族で氏政と年が近く武人として氏政に仕えて行く男である。

景虎が女らしいとの噂話は北条でも話題になっていた。ただ誰もそれを信じてはいなかった。

女武将が武田信玄とまともに戦い関東管領の地位を得るなど信じられなかったからである。またもしそれが事実であっても軍の士気が下がるのでこの件は北条軍でも内緒であった。

「・・まぁ・・良いわ・・」

氏政は話を打ち切った。

「早いとこ唐沢山城を落として祝杯を挙げたいものだな・・昌綱、景虎を一網打尽にして小田原への手土産じゃ・・全軍に総攻撃の準備させておけよ・・」

氏政は勝利しか確信していなかったのである。


「ところでさっきの件ですが氏康様への報告はどうされます・・?」

憲秀が聞いてきた。氏政の顔が一瞬曇った。

(・・報告することもなかろうに・・)

と言おうと思ったが父氏康からのお目付け役の憲秀の前ではさすがに言えなかった。

政治に長けた氏政は文化人でこのような言い訳はお手のものであった。

「・・景虎の勢いは鬼神も顔を背ける勇猛ぶりで兵士たちはなす術を知らず、夜叉羅刹とは是なるべしと恐れて手を出せなかった・・ とでも言っておけ・・」

と報告しておくことにした。

氏政は汁かけ飯を一気に流し込んだ。


しかしこの適当な報告は後に現実になるとは氏政も憲秀たちも夢にも思って居なかった。


唐沢山城内は城内まで押しかけてきた北条軍と激しい交戦があったようで本丸近くの西城や三の丸まで近くまで侵入されたようでこの付近は既に焼け落ちていたが唐沢山城の険しい地形のおかげで何とか佐野軍がなんとか城の外まで追い返し持ちこたえている様子であった。佐野軍は良く我慢していたがもう余裕が残っている感じではなかった。

その日の夕方 他の者が体を休めている間に景虎は越後軍宛への命令書を一気に書くと佐野軍の伝令係に越後軍留守役の長尾政景にすぐに届けるように依頼した。

唐沢山城を北条軍は包囲してはいたが門等で入り口など要所中心でそれ以外は所々空きがあった。佐野軍の伝令は地の利に詳しくその間を練って越後軍に伝令を届けるなどなんら問題なかった。

佐野兵は伝令書を受け取ると日が落ちると同時に闇夜にまぎれて越後軍駐屯地に走っていった。


「どうするんです?」

千坂が景虎に聞いてきた。

「明日のお楽しみ・・今日は体を休めよう・・」

と景虎は涼しい顔で言うと静かに夕飯を食べ始めた。

みな一瞬顔を見合わせたが黙って食事を喉に通した。


翌朝佐野軍も北条軍も大騒ぎであった。

唐沢山城の西側に陣取っていた越後軍が突然姿を消したからである。


佐野軍は昌綱自ら景虎の元に飛び込んできて青い顔で報告した。

越後軍が逃げてしまったと思ったのであった。

しかし景虎役の千坂は落ち着き払っていた。

「大丈夫・・昌綱殿・・ちょっと食事に言っているだけでじゃ・・すぐに戻ってくる」

と昌綱にとっては意味不明な回答をした。

「食事・・でございますか??」

昌綱は唖然としていた。

伊勢姫も他の者を落ち着き払っていた。

昌綱は何がなんだか良くわからなかったが

「・・さ・・さようでございますか・・失礼いたしました・・」

となんとも言えない表情をしていたが。


北条軍も大騒ぎであった。越後軍が忽然と姿を消したからである。

氏政にもすぐに報告がすぐに入った。

「どこに行った・・?諦めて逃げたか・・?まさかな・・」

憲秀は怪訝そうな顔をした後大急ぎで忍びの風魔の部隊に情報収集を命じた。

「越後兵がいなくなったら好都合だ・・唐沢山城にすぐに総攻撃をかけろ!」

氏政はすぐに総攻撃命令を出そうとしたが

「お待ちください!妙です・・罠かもしれません・・慎重に!」

と憲秀の意見で命令を引っ込めた。

日も明るくなってくるといろいろな情報が北条軍本陣にもたらされてきた。

どうも越後兵が唐沢山城内に密かに入ったようで所々佐野軍の旗に混じって越後軍の旗も風になびいているとの情報が入ってきた。

「・・偽装じゃ・・!引っかかるか・・そんなんに!」

清水はすぐにぺっとつばを吐きながら言った。唐沢山城は出入り口らしい出入り口はすべて包囲している。少数の兵はともかく大軍が夜中に密かに秘密の入り口があろうとそこから城内に入るのは絶対無理と言ったのである。

憲秀も同意した。少数の兵士が入って旗だけ立て、兵士がいるように見せかけていると考えたのであろうと。物理的にも佐野軍と越後軍全軍と1万5千の兵の収容は無理と考えたのであった。

では越後軍がどこに行ったかであるが彼らも越後軍が逃げたとは絶対考えていなかった。何か企んでいるに違いないと考えた。

「考えていても仕方ない・・風魔の報告待ちじゃ・・兵を落ち着かせろ!飯だ 飯!」

氏政が声を出してみなを落ち着かせようとした。

そのとき憲秀の頭に嫌なものがよぎった。

(飯・・まさか・・)


氏政は相変わらず味噌汁を細かく何度もかけながら飯を食べていた。

憲秀は黙って飯を黙々と食べていた。その時であった。風魔の者が大慌てで飛び込んできた。

羽生城が越後軍に襲撃されているとの情報が入ってきたのである。羽生城だけではなく館林城 忍城 本庄城も襲われているとのことであった。唐沢山城の南側の手薄な北条側の城を片っ端から襲っているとのことであった。

「・・クソ・・補給を断ち切る気か・・」

憲秀は薄々感じてはいたが不安は的中した。3万5千の大軍だと食料の消耗は想像以上である。今回の食料は後方の本庄城などに置いてそこを駐屯基地として使っていた。そこを奪われたら食料不足でたちまち不利になる。

憲秀は決意した。

「殿!ご命令を!」

氏政もようやく悟った。長期になれば逆にこちらが不利である。

一気に汁飯を流し込むと

「攻め立てろ!出撃!」

総攻撃の命令を下した。

「越後軍が帰って来るまでが勝負だ・・」

氏政が独り言を言った。

「昌綱と景虎の首を取ったものには恩賞は好きなだけくれてやる!落とせ!」

氏政の掛け声と同時に北条軍は唐沢山城に四方八歩から襲い掛かってきた。


その日の昼であった。

「た・・大変です!」

佐野昌綱が再度慌てて景虎の元に駆け寄ってきた。

「ほ 北条軍が・・押し寄せてきました!」

昌綱の情報通り大手門と裏門から北条軍が押し寄せてきた。

しかし景虎役の千坂や伊勢姫役の景虎は落ち着いたものであった。

「心配無用・・」

景虎役の千坂は目を閉じながら茶を飲みながら言った。

「今までの戦いで佐野軍は充分にこの城を守ってきました・・大丈夫です・・」

伊勢姫も茶を飲みながら静かに言った。

しかし今回の北条軍は気迫が違うように感じた。食料不足になるので必死であった。

「すぐに越後軍も来ます・・ご安心を」

伊勢姫は静かに言った。

「兵が不安がっています・・お声だけでも・・」

昌綱は再度千坂の景虎に懇願した。

景虎役の千坂はうなずくとすぐに前線に向かうと言った。昌綱も少し安心すると慌てて指揮に前線に戻っていった。

「予想よりも早く動いてきましたな・・」

千坂が言った。景虎もうなずいた。

「氏政殿もなかなかやるじゃないか!」

弥太郎が冷やかし混じりで声をあげた。


景虎は山上に酒を密かに持ってきてもらいそれを一気に飲むと唐沢山城の従女から借りたちょうど良い大きさの単衣と甲冑を着込むとすぐに前線に出た。

大手門はすでに突破され三の丸は破られようとしており二の丸 本丸中心で佐野軍は必死に抵抗していた。

裏側も北城は落とされ金の丸まで後退していた。北条軍は全力で押してきていた。

新兵衛 千坂たちも大急ぎで準備していた。

「千坂殿・・早うせいよ・・本物に先を越されるぞ!」

与八郎が千坂をからかった。

「急いでおるって!・・よし!できた!」

千坂も甲冑を着終わるとすぐに二の丸に出た。

佐野軍は少し動揺していた。北条軍の気迫にである。北条軍も後方が襲われ挟まれたら危険なのは充分に認知していたので必死であった。

景虎役の千坂は落ち着き払い堂々と張り切って景虎として号令を飛ばそうとしたその時であった。

どよめきと同時に

「ひるむな!」

高い大きな声が突如割って入ってきた。

なんと伊勢姫役の景虎が馬にまたがり太刀を振り上げて

「我は毘沙門天の化身!勝利は我らにあり!恐れるな!」

大声で叫んだ。

振り上げた太刀がぎらりと陽光を浴びて光った。このようなときの景虎は非常に格好が良く兵を奮い立たせるのは得意であったが今回は少し反応が違った。

(また・・酔っぱらい運転か・・)

と新兵衛らは少し呆れていた・・

景虎役の千坂も大事な出番の出鼻をくじかれ唖然としていた・・

「・・お姫様が・・何ちゅうことを・・」

と佐野兵もあっけにとられ仰天していたが今回は思わぬ助け舟が出た。

「われらの城を守るために来てくれた伊勢姫様までも奮戦されておるのじゃ!者ども恐れるな!」

昌綱が助け舟を出してくれたのであった。

景虎役の千坂も気を取り直し黙って威厳ある雰囲気ですぐに一言

「・・魚燐どもを相模湾に追い返せ!」

と大声を出した。

「うおおお!」

何はともあれ佐野軍は再度士気を上げることに成功したのであった。

飲酒運転の景虎本人は空気を読まずにお構いなしであったが・・


北条軍首脳は戦況を見守っていたが

「少し・・手こずっているな・・」

氏政が少し苛立ち始めた。

「兵力はこちらが上だ!ひるむな!押しまくれ!」

憲秀は激を飛ばした。

「・・裏門の部隊で手の空いている者は越後軍の牽制に向かわせますか?」

清水が聞いてきた。

唐沢山城の進路が狭く大軍であっても手の空いているものが多くそれが余計に城攻めを難

行させていた。越後軍がこちらに来た場合の牽制を提案したのであった。

「・・いや・・城攻めに集中させろ・・」

氏政は命令した。

清水は軍事は多少自信があった。提案が思わず断られたので不服そうであったが従った。

氏政は名前ではないが政治は自身があった。ただ軍事は正直苦手であった。

昨日も思ったが弟や叔父を連れてくればよかったと内心後悔し始めていた。

武勇に優れた弟の北条氏照、氏邦や叔父の綱成である。

憲秀も同じことを考えていた。


唐沢山城攻めは相変わらず難行していた。

どうしても最後の本丸が落とせなかった。唐沢山城の山上の狭い地形で大軍が生かせず、また戦にあまり慣れていない北条軍部隊のせいもあった。

そのときであった。警備の者から南方から部隊が接近しているとの情報が入った。

「なに!?・・もう・・来たのか!?」

氏政は思わず声を出してしまった。

(ホレ・・言わんことない・・)

清水は内心呆れていた。

「本陣を安全な所に移動させましょう・・」

清水が提案したが氏政は断った。

兵士が動揺するからである。確かにそうであるが清水が一番恐れたのは佐野軍と越後軍にこのままでは挟まれることを恐れたのであった。越後軍に本陣が狙われたら総崩れである。越後兵は数が少ないが一騎当たりの強さは戦慣れしているので自軍より優位なのは清水もわかっていた。しかしもはやどうしようもないのも事実であった。越後兵が来たら全力で本陣を守り唐沢山城が落ちるまで持ちこたえるだけである。


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