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越後の虎  作者: 立道智之
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景虎一行は蔵田五郎左衛門と一緒に堺に向かっていた。

将軍足利義輝に三好長慶の時の気遣いにお礼を言った後京都を散策して

比叡山や平安神宮などの名所を巡ったあと都を離れたのである。

長慶が堺の商人ともめている青苧の件で何も言って来なかったのは五郎左衛門たちも正直意外と思っていたようであったが。


堺は京都からすぐであった。一日で到着した。大都会であった。

都より繁栄していたのには正直驚きであった。

しかも会合衆という自治組織で政治が動いているという。

三好長慶はあくまでも守護で余程でないと介入しないという。


摂津にはもうひとつ勢力、本願寺があった。

摂津の守護は三好長慶であるが構わずに大きい顔をしているとのことであった。

実は景虎 父為景が以前より敵対する越中の一向宗などの総本山である。

あの長慶も足利家も彼らには苦慮しているとのことであった。

もちろん景虎もしかり後の織田信長もしかりである。

今回は長慶のお墨付きを得ているとはいえ本願寺勢力から見れば敵である景虎に対して何をしてくるか分からないので外を歩くときはなるべく越後守護であることを悟られないように用心するようにとの助言が長慶からあった。

そのため今回は商人の町娘の格好で移動する羽目になってしまった。

景虎はこれはこれで気に入っていたが。


景虎一行は五郎左衛門の越後屋敷に入った。

五郎左衛門の所有物であるが安全のために越後屋敷という名前がついている。

裏に越後守護が付いていることを主張するためである。

天王寺苧座との交渉まではここでやっかいになることになった。

堺は商人の大屋敷が多いがその中でも格別に大きな屋敷であった。

五郎左衛門や越後商人の力を見せつけられた気がした。

屋敷はとにかく広く中で迷子になるほどであった。

景虎は初めて商売をしている風景を見たのだが堺は府内と違って人口が多いだけあって売り場も大きくいろんな商品が良く売れているようだった。

五郎左衛門に聞くと青苧その物も売っているが五郎左衛門が都周辺に所有している工場で加工された青苧で作られた衣料品が一番人気で良く売れるという。越後産の青苧が原料だと特に高く売れるとのだという。五郎左衛門たちは忙しそうであったのであまりそれ以上声をかけるのはやめた。さすが商人である。


広い店内ではあったが店員より客の方が多く店子待ちで暇そうに待たされていたり、いろいろ悩んでいる客もたくさんいた。景虎も面白そうだったので見よう見まねで接客してみた。

町娘の格好をしているのでまさか誰も景虎を守護とは思わないであろうし。


誰に声をかけようかと様子を見ていたところ 二人の侍と目が合ってしまい向こうから声を掛けてきた。

かわいいお姉ちゃんちょっと・・と俗的な言い方をされ景虎は正直戸惑ったが・・

客ではあるが実はこの侍のうちの一人があまりにも変わった格好をしていたので景虎は思わず彼に見入ってしまっていた。見たこともない変わった格好であった。女物の赤い小袖を着て水色の直垂 大太刀を二本差しぼさぼさのまげ。それで偶然と目が合ってしまったからでもある。

いつもの好みの物をじっと見る癖ではなく今回は物珍しさからじっと眺めてしまったのであった。


この侍二人は尾張から買出しに来たと言う。以前義輝から話が出た尾張の織田信長の家臣であった。偶然である。織田家の重臣で前田家の者だと言った。前田慶次とか名乗りもう一人は彼の付添い人と言う。慶次は景虎と年が近い若者で着ているものは変だが顔や口調はいたって普通の若者であった。景虎の好みというよりは武者らしい男であった。


景虎は思わずなんでそんな妙な格好をしているのか普段の口調で聞いてしまった。

景虎の馴れ馴れしい口調に一瞬慶次は驚いていたが景虎が化粧をしていなかったので越後の田舎娘はこんなんだろうと思ったのか気にせず答えてくれた。

尾張の織田信長は若い頃 大うつけ と言われ敵を油断させるため若い頃はわざと妙な格好で普段城下を歩いていたと言う。彼の甥の前田利家も信長に従い真似をして一緒に行動していたと言う。

堺にその格好で来たのは相手に油断させるためである。尾張の織田信長は今でも大したことないと。家臣もうつけであると。情報戦である。

「・・へぇ・・なるほど・・」

景虎は思わず感嘆の声を出してしまった。織田信長はなかなかの策略が使える人物と。

ただ慶次ははっきり言った。自分はこの格好あまり好きでないと。しかも堺には変な格好の人間がいて目立たないのでかえってこの衣装は面倒だと。なんでも実際に利家が使っていた衣装らしい。

確かに慶次の言うとおりだった。景虎も思っていた。堺は南蛮貿易港だけあった変わった格好の人が多いと。

慶次が意外に正直にぼやきながら話してくれたのが面白かった。

景虎は思わずくすりと笑ってしまった。


景虎は慶次が安心して喋れそうだったので少し聞いてみた。

越後をどう思うか。長尾景虎を知っているかと。

意外な返事が返ってきた。

越後はあまり知らない。

景虎っていう人物はあの武田とまともに戦っている戦上手で20代半ばの荒武者だろう、

と逆に景虎に聞いてきた。

景虎は返事に窮してしまった。甲斐軍、武田晴信に会ったとき少々酔っていたとはいえ、わざわざ出向いて顔見せしてやったのに荒武者扱いである。

家臣団から今後はあまりあのような目立つ行為は控えるようにと指摘はされていたが実は景虎はあのときの甲斐軍の反応を馬上から険しい顔をしながらも少し面白おかしく見ていた。

そのため姫若子ぐらいを期待していたがあまりに期待外れだったので少しむすっとしてしまった。甲斐軍の連中はどういう目をしているのかと。

慶次は景虎が何でふくれているのかさっぱり分からなかったが・・


無駄話もほどほどにいよいよ本題に入ることになった。信長から頼まれて買出しに来ているということだが、鉄砲隊と槍部隊用の直垂の袴を新調するというが色や柄で迷っていると言った。景虎は自軍の越後軍で正規採用している紺色の物を提案してみた。話題の越後軍同様強そうに見えるし吸汗性や風通しが良く丈夫と進めてみた。

二人は景虎が越後軍の衣装にやけに詳しかったので少し奇妙な顔をして驚いていたが真面目に話し槍部隊はこれで大丈夫とのことだったが鉄砲隊は火薬の火の粉がかかるので厚手の生地を要求していた。鉄砲を景虎は見たことなかったが意外と扱いが面倒のようだと感じたが。

鉄砲隊用ではないが冬季の厚めの物を見せるとこれで良いと買ってくれることになった。

ただ景虎が驚いたのは織田軍の鉄砲の数であった。

鉄砲はまだ普及が進んでおらず価格がかなり高く入手困難だったが500人規模既に持っているという。予備や今後の鉄砲の追加を兼ねて1000着以上買って行くと言い出した。

景虎は信長は尾張の半分の弱小大名と聞いていたのにこれほどの大量の最新兵器を持っていることが正直驚きであった。

聞くところによると信長はキリシタンを積極的に誘致しそれによりポルトガル商人を呼び寄せ鉄砲を大量に揃えていると言った。景虎は毘沙門天の信者だったので正直キリシタンにはあまり関心が無くまた貿易上有利であるが寺社を壊したりポルトガル商人が海外に人身売買しているという噂も聞いていたので迷っていた。府中の港にも金銀取引で来たいとの話も以前あったようだが直接来ることに関しても上記の理由から許可していなかった。

尾張の侍二人は景虎が妙なことを聞いてくるので不思議な顔をしていたが景虎は笑ってごまかした。

ともあれ商談成立で後の事務的な手続きは五郎左衛門に任せた。

景虎にとっては有意義な情報が入って何よりであった。


慶次からは後で茶店にでも行かないかとも誘われたが田舎物でお嬢様育ちの世間知らず景虎は意味が判らなかったのでその件は無視してしまったが。

慶次も話が合いそうだったのに思わず相手にされなかったのでそれ以上はやめたが・・


一方五郎左衛門は景虎が店の先に立っているのを見て腰を抜かしていたが。


景虎はそのあとも調子良く五郎左衛門が目を離した隙にご婦人に自分が愛用している純白の越後上布を売り込んでいた。

越後の景虎公は具足の肩に巻いたり行人包みのように顔に巻いて日よけや防寒 汗対策に使っていると。

ご婦人方は景虎公はお洒落な男性ね、見てみたいわと感心され景虎はまた返事に窮していたが。


その後は空き時間に堺市内をいろいろ見学してみた。

堺市内にはいろんな物資が溢れ海外からの南蛮船も出入りしていた。

景虎は港で南蛮船を初めて見たが見たこともない変わった形の大きな船であった。

なんでも何ヵ月もかけてはるばるイスパニアやらポルトガルから海を越えてやってくる高性能な船で北前船と違い向かい風でも走れるという。しかも大きく荷物も大量に積めそうであった。

船には巨大な火縄銃らしき鉄の筒が備えられ武装されているようだった。

景虎は強い興味を持った。

鼻の高い色白の独特の衣装を着た男たちや真っ黒な肌の屈強そうな男が忙しそうに動き回っていた。キリシタンの宣教師バテレンというものも初めて見た。

景虎は船を見ながら五郎左衛門との仕事が終わったら交渉して帰りに火縄銃とかと一緒に買って帰ろうと真剣に考えていた。



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