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越後の虎  作者: 立道智之
21/77

武田菱

武田晴信率いる甲斐軍は川中島の南方の更科八幡に悠然と布陣して越後軍の到着を待ち構えていた。

晴信は越後軍のことはあまり気に留めていなかった。

初めての国外での戦で約5年近くまともな実戦経験が無いと。

更科八幡までおびき寄せ一網打尽にしてやろうと考えていた。

そして機会あれば春日山 府内に一気に押しかけてやろうぐらいに考えていた。


軍師の山本勘助は慎重だった。

忍びの報告では久々の戦にもかかわらず武装は末端まで行き届き士気も高いとの情報が入っていたからだ。

武田の天敵である村上義清や戦い慣れている信濃国人衆が先陣を買って出陣しているとの情報も気がかりだった。

しかし一番分からないのは越後軍の出兵理由だった。


越後に近い北信濃の高梨雅頼や信濃の守護の小笠原長時を助けるのは分かったが高梨と敵対していた村上義清を助けるのが分からなかった。

しかも村上の城は中部信濃の葛尾城で地理的には越後側が助ける理由がそれほど高くはなかった。

村上の武勇を買ったのだろうと勘助は言い聞かせたが。

景虎が無条件で兵を出しているという噂も信じ難かった。


「兄上・・・」

武田信繁が晴信に声をかけた。

「・・もしかしたら側室になっていたかもしれない大将で・・」

信繁が悪戯っ子のように言った。

信繁は晴信と同じ母の実の弟のせいもあるが晴信に可愛がられ、また忠臣として彼を支えた。

晴信が一度失敗しかけた信濃の運営を立て直したのが信繁で晴信の信頼も厚かった。

家臣団にもその気さくな人柄で人望があり晴信の実父の信虎も彼に後を継がせようとしたほどである。しかし晴信も彼をねたむことなく彼の実力を認め重宝していた。

「・・運命だな ハハハ・・」

晴信が笑った。

「捕らえたら もしや側室にいたしますか?」

滅多に悪乗りしない内藤昌豊まで話しに乗って来た。

「好みだったらな・・ハハハ・・」

晴信が豪快に再度笑った。

「なかなかの美女との噂ですが酒好きで若衆好きで癇癪持ちらしいですぞ」

馬場信春が続いた。

「ならば なおさら兄上におあつらえだ・・」

また信繁が悪戯っ子のように言った。

「まったくだ・・・ワハハ・・」

晴信は笑いが止まらなかった。

「それにしても・・越後は敵ながら大変ですな・・女子を大将に担ぎあげるとは・・」

飯富虎昌は呆れたように言った。

「しかし・・それで国がうまくいっているようですし・・一度も負け知らずの戦上手とのことです・・」

高坂弾正は慎重に言った。


「・・・ふむ・・・」

晴信は少し笑うのをやめた。

「勘助・・ おぬしはどうだ?」

晴信は勘助に聞いてみた。

「小笠原 高梨 村上たちを助けるために出陣したとの噂ですが・・何も要求していないとのことです・・何か他に狙いがあるのか・・?読めませんな・・まことに景虎とは変わった大将ですな・・」

勘助だけは視点が違った。

自国の領土を広げるために大名は戦をする。他国の領土を奪い取って部下に与える。

それが普通であった。他国のために出兵する、でも領土はいらぬ、これが理解できないのであった。

先程からずっと考え続けていたことではあるが北信濃の高梨を助ける理由は越後の地理的な安全の理由で分かったが中信濃の村上を助ける理由がやはり分からなかった。今回は村上の武功を買ったのだろうと考え勘助は自分を納得させてはいたが。


越後軍は信濃の白坂峠に差し迫った。峠から神代坂を下れば間もなく善光寺平に入る。

5月目前の信濃は風が爽やかだった。信濃と越後は思ったより近いと景虎は思った。

神代坂にさしかかると善光寺平が悠然と広まっていた。善光寺は子供のころ母親の虎御前に連れられて来たことがあった。女人にも解放されている古刹である。武田の手に落ちるのは越後の安全以外にも信心深い景虎はいやであった。

「行くか・・」

景虎はつぶやいた。

軒猿を中心とする先行偵察部隊に続き本体も神代坂を下りだした。

しかし意外な情報が入ってきた。


途中の支城はすべてもぬけの殻という。敵部隊がどこにもいないという。

まもなく甲斐軍は善光寺平最南方の更科八幡に大軍を集合させ待ち構えているとの情報が入って来た。

8000近い軍という。

こちらは5000、数の上では劣勢だったが景虎は進撃命令を出した。

初戦は絶対に落とせないとの信念だった。


今回は珍しく反対意見が出なかった。

越後軍と行動をともにしている信濃国人衆の闘志が極めて高かったのもあるがみな覚悟を決めていたからである。

最初の一戦は負けられないと。


越後軍は北国街道を南に進んでいった。

善光寺を通り過ぎかなり南に下ったところ

川中島の南端の千曲川の支流の湿地帯を挟んだ向こう側に甲斐軍は布陣していた。

8000の真っ赤な武田軍の具足を着た武者がずらりと待ち構えていた。

本陣を最後方にその前に壁のように部隊を展開して越後軍を待ち構えていた。

三列ほどで壁を作っていた。

武田菱が風に泳ぎ、風林火山の旗が無数になびいていた。

中国の軍法という 風のように速く攻め 林のように静かに潜み 火の如く激しく攻め 山のように動かない・・

今まで村上義清相手の二戦以外は負け知らずとの噂通り強そうに感じたが引けなかった。

景虎は怖さをすぐに断ち切る必要があった。


部隊を停止させると

「酒を・・」

景虎は酒を持ってこさせる枡一杯に注ぎ一気に飲んだ。

越後の上級米で作った酒で甘口の呑みやすい酒である。

「ワシらも今回はもらおうか・・」

珍しく他の者からも願いが出た、景虎はうなずいた。

金津新兵衛 本庄実乃 斉藤朝信 甘粕景持 千坂景親も緊張しているのだろう、一気に飲んで気を紛らわしているようだった。宇佐美定満や直江景綱 中条藤資 色部勝長ら40半ば以上の戦に慣れた連中は飲まなかったが表情を一切変えず悠然としていた。

他の足軽兵にも今回は酒を許可した。みな緊張しているようで意外と飲む者の方が多かった。


しばらくすると先陣の村上義清 柿崎景家の伝令の使者が飛んできた、

何を休んでらっしゃる 早く進撃 攻撃命令を 兵が興奮して騒いでいると。

景虎は思わず苦笑いしてしまった。

飲まなくても平気な者は平気なのだと。


再び前進命令を出した。

甲斐軍の陣取る更科八幡付近の名前の分からない小川の湿地帯を挟んで彼らの正面300m手前まで前進し再度停止した。


武田晴信は本陣の外に出て対岸にいる越後軍をじっくり見ていた。

初めて見る越後軍である。村上をはじめとする信濃国人衆が混じっているとはいえ久々の戦というのに高い士気が感じられた。装備も驚くほどしっかりしていた。

越後名産の青苧から出来た濃紺の直垂の上にみな真っ黒な当世具足や胴丸を着込んでいる。

末端の兵士を含め全軍装備はしっかり行き渡っているようだった。

越後軍は展開することなく春日山城出てきた状態で一直線の隊列でやって来ていた。


兵士は弱そうな相手にはみな挑発するが今日の甲斐軍は普段よりおとなしかった。

晴信は珍しくいやな予感がしていた。

しかも越後軍の先陣には武田の厄病神の村上義清がいた、もう一人は初めて見るが柿崎景家という越後では有名な武者とのことであった。背丈は村上より大きく熊のような恐ろしさがあった。


一方勘助の懸念は確信に変わっていた。これは面倒な相手だと・・


景虎は甲斐軍の配置を見てがら空きの後方本陣の遊撃による撹乱も考えたが今回は敵の胸を借りる気持ちで正攻法で思い切って真正面から進撃することにした。

晴信も名将として名高い、変に仕掛けると逆に仕掛けられる可能性も考えられたからである。


「荷駄行けるか?」

景虎が確認した。

荷駄隊は食料や炊事、武器修理補充を専門の補給部隊で戦闘では離れたところで移動基地として置いて行く事が多いが今回は敵の数が多いので危険を承知で同伴させることにした。

荷駄の責任者は直江だった。手助けもらえればこの程度の小川の湿地帯は渡川可能との回答であった。

荷駄隊は牛が食料 補充武器 その他荷物を大八車で牽引し、兵士も調理の女性や武器修理の高齢者が中心の部隊で戦闘に不慣れで足が遅いので殿しんがりの甘粕隊に手伝わせた。間もなく先行偵察部隊から前方の進路確認、着岸先も状況確認の連絡が入った。


「行きますか・・」

宇佐美が聞いてきた。

景虎はうなずいた。

戦では川や湿地 荒地を敵前で渡っている最中と渡り終え配列に着くときが一番危険であった。

しかも今回は敵の本陣の真正面に出る非常に危険な作戦をあえて取った。

甲斐軍に越後軍が一歩も引かないところを見せるためである。


「渡河開始!」

景虎が大声で命令を出した。

先陣の村上隊 柿崎隊が同時に並ぶようにして小川や湿地帯をずんずんと渡り始めた。あとの部隊も続く。

陣形は特に意識していなかったが実は越後軍は村上隊と柿崎隊だけで三分の一を今回占める鋒矢のような形になっていた。先陣で無理やり突破させる戦法である。逆に言えば彼らに全てを託していた。


本陣に戻った武田晴信の元に報告が入った。

越後軍が甲斐軍本陣手前に横渡る小川の湿地帯を渡りだしたと。

「・・荷駄を奪いますか?」

飯富虎昌が晴信に聞いてきた。

晴信もうなずいた。荷駄隊は置いていくだろうと思ったのである。

遊撃の騎馬隊で荷駄隊を密かに襲撃し越後軍がひるんだ隙に越後軍本隊に甲斐軍本隊で攻撃をかける手はずであった。

渡河中であるので動きも鈍い。


しかし次の瞬間甲斐軍は目を疑った。

荷駄隊まで越後軍本隊と一緒に湿地帯を渡り始めた。大きな大八車を牛が大変そうに引き荷駄の女老人兵が後方の殿部隊の手助けを受けながら必死で渡っているという。


「信じられんことをする・・」

飯富虎昌が思わず漏らした。

晴信が冷静に言った。

「連中は上陸後部隊を再編成するだろう・・その時を一気に襲え・・渡り切らせるなよ」


先頭の村上隊 柿崎隊は川を渡り終わり武田軍真正面の岸辺に上がり始めた。

甲斐軍の最前列部隊も機会を見計らい攻撃準備を始めているようであった。 

 

しかし甲斐軍にとっては予想外なことが起こった。

岸辺に上がった村上隊 柿崎隊の先陣部隊は渡河中の仲間の部隊を待つことなくそのまま 一直線に突然甲斐軍に襲い掛かってきたのである。

襲われたのは最前列 中央に陣取っていた真田幸隆 信綱親子の部隊であった。

勇猛果敢と評判であったが不意打ちのうえに二つの部隊に一気に襲われたらさすがにひとたまりもない。

村上軍にとって真田は仇だったのもあるが凄まじい攻撃で真田隊はあっさり打ち破られた、村上隊 柿崎隊はあっという間に二列目の原虎胤と横田康景親子の部隊にも襲い掛かった。原も老将ではあるが武勇の誉れが高い男であったがこちらも苦戦していた。

真田隊の両翼に展開していた秋山信友隊と小幡昌盛隊が慌てて村上隊 柿崎隊を左右から取り囲もうと前進を開始するが景虎の命令が先に立て続けに発令された。


「北条 左!色部 右!敵を展開させるな!足を止めよ!」

北条隊 色部隊が岸に上がるとそのまま一気に秋山隊 小幡隊に突撃して行った。

最前列の秋山隊と小幡隊ら左右の展開部隊も岸に上がった北条隊 色部隊に抑えられてなすすべもなく援護できず 二列目の原隊も村上隊 柿崎隊に中央突破されつつあった。二列目中央の原隊が崩れだすとの左右の両翼の山県昌景隊と馬場信房隊が中央の原隊の援軍に向かおうとしたが 越後軍の予想外の早い動きで情報伝達がうまくいかず自軍内で混乱し始めた。


「何をやっておるか・・!」

珍しく勘助が苛立っていた。

「勘助 怒るな・・」

晴信が逆になだめに入った。

こちらの方が兵力は上である。大丈夫と落ちついていた。


景虎の命令は続く、

二列目中央の原隊が崩れだしたのを確認すると

「中条隊 斉藤隊 本庄隊 前進! 村上隊 柿崎隊と交代準備!」

車懸けの陣で疲労してきた先陣の村上隊 柿崎隊と素早く入れ替わり 休ませたあと再度交代する戦術である。敵に休めさる隙を与えず連続して攻撃する方法で上杉軍の得意技であった。


甲斐軍も忙しい。

「三列両翼の内藤 山本の騎馬隊は一列両翼秋山と小幡の騎馬隊と一緒に越後軍の本隊真横を突け!槍隊は引き続き越後の両翼の相手をしろ!二列両翼の山県と馬場は中央の原隊を援護しろ!もっと中央厚くしろ!」

勘助が命令を出した。


一列の両翼秋山隊 小幡隊 三列の内藤隊 山本隊の槍部隊は越後軍の北条隊 色部隊を釘付けにして、手薄になった景虎本体親衛隊を 両翼の一列三列の合同騎馬隊で遊撃することにした。

大回りになるが軍を遊ばすわけには行かなかった。

しかし一列の騎馬隊は思いの他 北条隊 色部隊を抜くのに難儀して越後軍景虎親衛隊まで届く部隊は少なかった。


越後軍では荷駄隊がようやく岸に上がり甘粕隊が自由になった。

「荷駄は親衛隊真後ろに固定 甘粕隊は荷駄防衛をかねてしばし休憩せよ・・」

景虎は命令を出す。

越後軍の北条隊 色部隊を抜いてきた武田の赤い騎馬武者が景虎親衛隊目掛けて突撃してきた。

「親衛隊 近づけるなよ・・」

親衛隊長の千坂が命令を出した。千坂は実は今日が初陣だが落ち着き払っていた。

「荷駄守備隊は遠慮なく射よ」

直江が荷駄隊に命令を出す。荷駄隊の老齢な弓手や弓を使える女子兵が接近してくる赤備えの武者たちに次々と弓を射る。

親衛隊の槍隊長の弥太郎が許可を求めてきた。

「踏ん張りを効かすため部隊の一時停止許可を!」

「許可する・・」


甲斐軍の一列目の両翼の秋山隊 小幡隊の遊撃隊は思ったより少数しか突破できなかった。

接近してくる甲斐軍の赤い騎馬武者に荷駄隊の弓が浴びせられるがさすがに噂だけあって巧みに潜り抜けてすぐに景虎の親衛隊まで接近してきた。

「槍 構え!」

弥太郎が大声を出すとかんざしのように槍が騎馬武者を迎え入れた。

がしゃがしゃと不気味な音を立て甲斐軍を迎え入れる。

「ち・・長いか!」

春日槍の方が武田の槍より若干長い、武田の騎馬武者はすぐにそれに気づき無理な接近をあきらめた。

「もっと回せ!もっとだ!」

後方に下がった武田の騎馬武者が兵が足りないと怒号を上げている。


甲斐軍も積極的に動いていた。

三列の両翼内藤隊 山本隊の騎馬隊の部隊は一気に景虎親衛隊攻撃に回していた。

北条隊 色部隊を避けるよう大回りで行かせたので到着に時間がかかっていた。


中央では村上隊 柿崎隊に代わり 中条隊 斉藤隊 本庄隊が武田本陣直前の飯富虎昌隊 武田信繁隊 晴信本隊に迫ろうとしていた。

ただ甲斐軍の最終防衛隊だけで猛将ぞろいとあって守りが厚く 二列目の山県隊 馬場隊の横やりもあってかなり苦戦しているようだった。


「北条 色部は離れすぎないように 間に気をつけるように・・」

景虎は念入れした。


景虎の親衛隊近くまで接近した甲斐軍の一列目の秋山隊 小幡隊両翼騎馬部隊は増援を待っている間も越後軍の荷駄の弓で接近できず苦戦していたがようやく増援の三列の両翼の内藤隊 山本隊が到着すると両側から挟みこむように景虎の親衛隊に襲い掛かってきた。


赤備えの騎馬武者が恐ろしい形相で槍を持ち 景虎親衛隊を両側からすごい勢いで挟むように押しかけてきたが景虎の親衛隊は微動だにしない。

槍同士の激しい戦闘になった。

「クソ・・越後の槍は長いのか・・」

景虎親衛隊本体の周りに群がっていた甲斐軍は親衛隊の春日槍に阻まれて四苦八苦していた。

しかも景虎を見て甲斐軍の武者の中から驚きの声があがっていた。

「・・大将が最前線にいるなんて・・」

景虎の耳にも届いたが景虎は平然とし微動だにしなかった。

充分に彼らが接近したのを見て景虎が命令をまた出した。

「甘粕は左!宇佐美は右!こいつらの背に回れ!」

「何!」

甲斐軍の本隊襲撃隊は驚いた、まだ展開していない部隊がいて後ろに回られたら逆に挟まれてしまう、

「退却!」

甲斐軍の隊長が叫ぶと潮が引くように退却を始めた。

「さすがに早い・・!」

これには景虎も感心した。

「北条 色部と甘粕 宇佐美は交代!親衛隊前進!中条 斉藤 本庄援護!」

景虎直属の親衛隊も激戦になっていた3列目中央に押しかけてきた。

武田本陣前中央が激戦になりつつあった。


甲斐軍も反撃の準備に追われていた。

「真田親子 原親子は本陣後方で合流編隊直せ!再突撃準備!」

勘助が指示を飛ばす。

突破され後退してきた元中央一列真田隊 元中央二列原隊が再度編成のため集まり その動きで晴信本陣後方で大量の埃が舞った。

「越後本隊を襲撃した騎馬隊は左右に大きく円状に展開囲んで待機してろ。いつでも飛び出せるように。命令があるまで動くな」

繁信も指示を飛ばした。

真田隊 原隊合同部隊を本陣手前の飯富隊 繁信隊 晴信本隊と合流させて越後軍を押し返し、現在戦場を中心とした周りで囲むように待機している先ほど景虎の親衛隊を襲撃し損ね撤退してきた秋山隊 小幡隊 内藤隊 山本隊の騎馬隊で越後軍に再度押しかけ止めを刺す案である。


「兄上!突撃許可を! 」

準備が整ったようで信繁が晴信に許可を求めた。


晴信は許可を出そうかどうかと迷っていた、

越後軍の中央攻撃隊がそろそろまた村上と柿崎と交代するのも目に見えていた。

向こうも総力戦で来ている、勝てるかもしれないが味方の被害も大きい。


「・・待て・・待機だ・・」

晴信は命令した。越後軍との初戦で兵を消耗したくなかったのである。


晴信の意匠を組んだのか越後軍でも動きがあった。

「やめ!全軍一旦停止!」

突然景虎が停止指示を大声で出した。

晴信の本陣のすぐ後ろに砂煙が上がってそれを見ての判断だった。

景虎もさすがに総力で甲斐軍が当たって来られると危険と判断したのである。


「迎撃に切り替え!隊列替え!荷駄隊近く軸!後退!」


越後軍も潮が引くように荷駄隊を軸に後退し 魚燐を描くように隊列を変えて迎撃の準備に切り替えた。


甲斐軍の陣地は驚きの声が洩れていた。

「やりおるわ・・小娘が・・」

勘助がうなっていた。

以前会った時は大口を叩いているのかと思ったが予想以上であった。

「信じられんわ・・」

越後軍の予想外の戦慣れした動きに信繁 飯富も同じであった。


晴信はしばらく黙っていたが一言

「撤収」

とだけ命令した。

相手が予想以上に面倒なのがよくわかった。

「・・小娘の軍がなかなかやりおるわ・・しかし戦うだけが戦でないことを教えてやるわ・・」

先の村上との戦で兵を若干消耗していたので甲斐本国の補充部隊と合流編成後 万全を期そうと考えたのである。

甲斐軍はそのまま再度陣を整えると距離を取りながらじわじわ後退し一気に府内まで引き上げていった。


甲斐軍の思わぬ後退を確認すると景虎は懐の毘沙門天を取り出し静かになった戦場で横たわったまま残され二度と目覚めることの無い両軍の兵士に念仏を唱え丁寧に埋葬するよう指示を出した。


その後 越後軍は一気に村上義清の居城だった葛尾城まで押し寄せ奪取に成功したのであった。


「思ったよりもたいしたこと無いな・・」

北条がうれしそうに言った。

ただ景虎はそうは思っていなかった。

村上の言葉を思い出していた。

勝ったと思ったら負けていて取られていたと・・

晴信は三歩迫って二歩後退しながら来ると・・

引き際の良さにいやな感じを覚えていた。


村上の居城葛尾城を取り返したことに安堵し景虎は越後に帰っていった。

しかし晴信のすごさをこの後景虎はすぐに知ることになる。

いやな予感は的中したのであった。


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