執事との約束
ドラドーラ親子の相談を解決してから2週間が経過した頃。
魔王は玉座に座って相談者が訪れるのを待っていると、申し訳なさそうな顔を浮かべたセバスチャンが小走りでやって来た。
「申し訳ございません魔王様。少々仕事で急用ができてしまい、今から明日の昼頃まで出かけることになってしまいました」
「分かった。気を付けて行ってこい」
「ありがたきお言葉!」
セバスチャンはその場で片膝を着き、頭を垂れて礼の言葉を述べた。
相変わらずの大仰な態度に、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「それでは魔王様、私は行ってまいります」
セバスチャンは立ち上がって、もう一度魔王へと頭を下げた。
「私がいない間、相談事は頼みましたぞ」
セバスチャンから何気なく発された衝撃的な言葉。
そのまま身を翻して魔王城を出立しようとしているセバスチャンを、大慌てで引き留める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!いつも二人で相談を受けているから、てっきりお前が戻ってくるまで相談は受け付けないつもりだったのだが…そういう訳にはいかないか?」
セバスチャンは振り返ると、自分のことを不安そうに見つめてくる瞳をまっすぐに見つめ返す。
「いいですか魔王様。私の帰りを待っているたった一日の間にも、相談室を訪れる民の悩みは深刻になっていくのですぞ。その悩みを解決するのが、今のあなたの仕事です」
それに、とセバスチャンは魔王へと微笑みながら話を続ける。
「この二週間、魔王様はいくつもの相談を解決へと導かれたではありませんか」
「それはそうなのだが…」
魔王はそれでも不安を拭いきれない。
それもそのはずで、ここ二週間にあった相談というのが、野菜の収穫量を増やすにはどうしたら良いか?のような、お悩みと言うにはグレーゾーンの相談ばかりだったのだ。
このような相談に対して迂闊に答える訳にもいかず、普段はこういったものの改善策を考えているセバスチャンと相談しながら解決してきた。
そのため、セバスチャンがいない間に受ける相談が似たような系統だった場合。一人で解決できる自信が魔王には無かった。
セバスチャンは、まだまだ不安げな魔王を安心させるように優しく言い聞かせる。
「魔王様なら必ず解決して見せると、あなた様の事を誰よりも近くで見てきたセバスチャンが保証いたします。ですからどうか安心して、民の悩みを解決へと導いてくだされ」
セバスチャンの予期せぬ励ましに目を見張る。
だが、その言葉は不思議と体に温かく染み渡り、気が付けば今まで抱えていた不安が払拭されていた。
「分かった!お前がいない間に受けた相談は必ず解決する!だから安心して自分の仕事に専念してこい!」
「その意気ですぞ、魔王様!それでは行ってまいります」
セバスチャンは最後に満面の笑みを魔王へと向け、今度こそ魔王城を出立した。