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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
5章 ヒト族 その1
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変わらない日常

「ありがとうございました!」


 バタン。


 相談を終えたカーバンクルの少年が、相談室から退室していく。


「ふぅ」


 椅子に深く腰掛けた魔王は溜まった疲労を吐息と共に吐き出し、天井を仰ぎ見て瞼を閉じた。


 暗闇の中に淡い光の粒が映し出される。


 あの時、無理やりにでも止めればよかったのではないか。もっと別の選択肢があったのではないか。助けられたのではないか……。


 華美がいなくなってから一週間が経過した今も、時々どうしようもない感情が胸を刺す。


「考えても仕方がない、か…」


 頭にかかった(もや)を払うように軽く頭を振り、相談室を後にする。


「あ、魔王様。お疲れ様です」


 廊下に出ると、ちょうど雑巾で窓の掃除をしていたシエラとでくわした。


「ちょっと前に出てきたカーバンクルさん、とても嬉しそうでしたよ!やりましたね魔王様!」


 シエラはそう言って、自分の事のように嬉しそうに微笑んでいる。


 華美がいなくなって数日は元気がなかったシエラだが、今は元通り元気を取り戻していた。どうやらシエラなりに華美の死を受け入れたようだ。


「あの…魔王様?大丈夫ですか?」


「ああ、すまん。……強いんだな、お前は」


 魔王の言葉を聞いたシエラは、困ったようにはにかんだ。


「全然強くないですよ。でも、あの結果が華美が望んだものである以上、わたしたちがあれこれ考えるのも華美に対して失礼かなって…」


 そう言ってシエラは、精一杯笑って見せた。その笑みは、今にも泣き崩れそうなほど儚い。


「そっか。そうかもな」


 シエラに負けず劣らずの笑みを返した魔王は、掃除されたばかりで陽の光をキラキラと反射させている窓を開け放つ。


 ふわっ。


 開け放たれた窓から、魔王とシエラの頬をそっと撫でるように微風(そよかぜ)が吹きつけた。


 その瞬間。どうしてだか分からないが、胸のつっかえが軽くなったような気がした。


「なあ、シエラ」


 魔王は窓から見える街並みを眺めながら、シエラの名を呼んだ。


「なんですか?」


 シエラも魔王の隣に立って、同じように街並みを眺めながら優しく問い返した。


「昔は自分以外なんてどうでもよかったのに、どうしてだろうな、今はここから見える景色も、ここに住む者たちも、全部がどうしようもなく愛おしい」


 魔王は窓枠を強く握りしめる。


「決めた!俺は、この世界の全員を救えるような、そんな強い魔王になってやる!こんな魔王だけど、これからも着いてきてくれるか?」


「もちろんです!わたしが仕えるのは、魔王様以外にあり得ません!」


 即答だった。


 その一言が、胸に深く染み込んでいく。


「さて!それじゃあ、俺は久しぶりに街でも見てくるよ」


「いってらっしゃいませ!」


 シエラの声を背中に受けながら、魔王は意気揚々と窓から飛び出した。

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