感謝
「おい!大丈夫か!?」
シエラに抱きかかえられながら、淡く光り輝く華美へと駆け寄った魔王は、華美の姿を見て眼を見開いた。
「お前、指が…!」
シエラに握られている華美の指が、半透明に透けていたのだった。
心配そうな魔王とシエラとは対照的に、華美は何事も無いように二人へと微笑みかけた。
「心配しないで。あたしは消えるだけだから」
華美が放った消えるという言葉に、魔王とシエラは言葉を失う。シエラに至っては、涙が頬を伝ってしまっている。
「そんな悲しまないでよ。あたしは元々死人だよ」
「でも、マキナ様に生き返らせてもらったんじゃ……!」
「違うよ、シエラちゃん。あたしはたまたまマキナに気に入られて、あいつの娯楽の為に生かしてもらっただけなんだよ」
もうどうすることもできないという理不尽な現実に、全身の力が抜けていく。
「魔王様も、そんなこの世の終わりみたいな顔しないでよ」
自分は消えてしまうというのに、心配させまいとする優しさに、自然と涙が流れ出る。
そんな魔王とシエラを励ますように、華美は2人の手を力強く握った。
「あたしは2人に、これ以上無いぐらい感謝してる。だって、2人のおかげで記憶が戻ったし、それに、あたしにとって1番大切な弟を救うことができた」
「結果だけ見ればそうかもしれない…。だが、俺は最後までお前のことを救うことができなかった!」
魔王の言葉に目を見開いた華美は、少しして弱弱しく微笑んだ。
「あんたって、魔王なのに優しんだね。だけど、毎回そんなに苦しんでたら身が持たないよ。世の中は理不尽の連続なんだから」
「でも、消えちゃうなんてやだよ…!」
指先だけではなく、既に全身が半透明となってしまった華美へとシエラが抱き着く。
「マキナのことは好きじゃないけど、感謝しないとな…。自分の娯楽のためとはいえ、弟を救ってくれて、それに、最後にこんなにも良い人たちに巡り合わせてくれた」
華美を包んでいた光が輝きを強めていく。
華美自身も、もうすぐ自分が消えてしまうことを感じたのだろう。笑顔のまま、両目から涙が溢れ出していた。
「最後にこれだけは言っとかないと。魔王様、シエラちゃん、それからセバスチャンさんも、弟を救ってくれてありがとう…。それじゃあ、バイバイ」
別れの言葉を告げた瞬間、華美が一際強く輝いた。あまりの輝きの強さに、思わず目を瞑ってしまう魔王たち。
目を開けると、そこには華美の姿は無く、華美を抱いた形を残したシエラがいるだけだった。
「ううっ!」
「っ……!」
シエラの泣き叫ぶ声と魔王の啜り泣く音が、部屋中に響き続けた。




