全ては神の娯楽のため
「ゲームだと?」
「そうや。ほんま自分らにはえらい楽しませてもらったわ!特に、そこのオオカミのお嬢ちゃんが、分かるはずもないのに必死に聞き込む様なんか…!」
マキナは堪えきれずに、腹を抱えるようにケタケタと笑い始めた。
その様子に、魔王は頭に血が昇るのを自覚できるほどの、激しい怒りを感じていた。シエラや華美が、目に見えてバカにされていることにも腹が立つが、シエラが自分から大きな一歩を踏み出し、華美のために必死に頑張る姿をバカにされたことが、何よりも悔しかった。
魔王は怒りの形相を隠すこともなくマキナへ近づくと、その胸ぐらを力任せに両手で掴み、光で隠された顔を睨みつけた。
「神様だがなんだか知らねえが、俺の従者たちをバカにすんのも大概にしろ!!」
部屋が震えるほどの怒声が響き渡る。
だが、マキナは一切悪びれる様子もないどころか、魔王をおちょくるようにグイっと顔を近づけると、おちょくるような声音で話し始めた。
「おぉ、怖い怖い。そんなに怒ってたら、せっかくのイケメンが台無しやで~。それに~、うちはただ事実を述べただけやろ。ちゃうか?」
マキナのその一言に、魔王の理性はとうとう吹っ切れてしまった。
胸倉を掴んでいる右手だけを離すと、思いっきり振りかぶり、マキナの顔へと振り下ろした。
さすがに殴られることは無いだろうと踏んでいたのか、マキナはちょっ!?と焦りの声をあげてしまっている。
あと数センチで、魔王の拳がマキナへと届こうかという瞬間。
「やめて!!」
華美の叫び声が響き渡った。
その声を聞いた瞬間、魔王の体はピタリと止まり、自分の意志ではピクリとも動かすことができなくなってしまった。
「ごめん魔王様。だけど…」
どうやら、能力を使って動きを封じられてしまったようだ。
華美は安堵の溜息を漏らしているマキナの元へ、スタスタと歩いていくと。
パアアァン!!!
その顔を、思いっきりビンタしてしまった。
目を疑うような華美の行動に、ビンタをくらったマキナだけではなく、セバスチャンとシエラさえ驚いて動けないでいた。
「こんなやつ、あんたが殴るほどの価値なんかない」
時が止まったかのように、空気が凍りつく。そんな絶対零度の空気を切り裂いたのは、マキナの笑い声だった。
「ナッハッハッハ!やっぱハナちゃんは最高やな!」
その様子に、怒り狂って変なことをしでかすのではないかと心配していた魔王は、心の中で安堵の溜息を吐く。同時に、華美が能力を解いたのか効果時間が消えたのか分からないが、体がふっと軽くなり、動くようになった。
華美は凍り付くような冷たい目でマキナを見ながら、溜息を吐いた。
「あんたと話すのはこれで二度目だから、面白がって挑発してるだけなのは分かるけど、いくら何でも調子に乗りすぎ」
「すまんすまん、魔王たんの怒りっぷりがあまりにも面白くてな、ついからかってしもたわ」
マキナは魔王たちへもう一度謝罪の言葉を述べた後、華美へと話しかけた。
「それにしてもハナちゃん、そろそろ隠し事は辞めといた方が良いんとちゃう?」
マキナにそう言われた華美は、マキナから目を逸らして頷く。
「あんたに言われなくても分かってる。ただ、心の準備が整わなかっただけ」
「今さら結果が変わる訳でも無いのに」
マキナの小言を無視した華美は、魔王たちを見渡して、勢いよく深々と頭を下げた。
「みんなごめん!みんなに黙ってたことがあるんだ!」
顔を上げた華美は、今にも不安に押し潰されそうな顔をしている。
「でも、みんなを騙そうなんて気は一切なかったんだ!」
華美が騙そうという気が無かったことは、華美の表情と謝罪の態度からも一目瞭然だ。
「分かってる。ゆっくりでいいから、全部を話してくれないか?」
華美は一度頷くと、ゆっくりと口を開いた。
「さっきあたしは交通事故で死んだって言ったけど、実はあたしの弟も一緒に交通事故に遭ったんだ。あたしは即死だったけど、マキナが言うには弟はギリギリ生きているらしい。だけど、このままだと死んでしまうらしいんだ…。そんな時、マキナが提案してきたんだ。ゲームに勝ったら、弟を救ってあげるって」
「なるほど、そのゲームが華美殿の記憶喪失と関係があると」
「そう。あたしの記憶を消して、どれだけ早く記憶を取り戻すか。それが、マキナが提示してきたゲームの内容」
そして、と華美は重々しい声音で話を続ける。
「タイムリミットは、弟が死んでしまうまで」
あまりにも狂ったゲームの内容に、その場にいた全員が固唾を飲む。
「それで、ゲームの結果を聞く準備はできたんか?」
部屋に満ちた沈黙を、マキナの楽しげな声が引き裂いた。
マキナに問われた華美は、一度俯いてから、マキナの目をまっすぐ見据えて頷いた。
「オッケー!ゲームの結果は……」
ドュルルルルルルル、とドラムロールを奏でるマキナ。
このあと、1人の生死を聞くのかと思うと、緊張で全身から冷や汗が吹き出してくる。
「デン!!」
とうとうドラムロールが終わりを告げる。
「おめでとう!ほんまにギリギリやけど、弟くんはまだ生きてるよ。このゲーム、ハナちゃんの勝ちや!」
結果を聞くや否や、その場で崩れ落ちる華美。鼻を啜る音が聞こえてきた。
「良かった、良かった……!」
知らなかったとはいえ、1人の命を救えたことに、魔王はホッと胸を撫で下ろした。
「ほな、うちは弟くんを救うために働かなあかんから、帰るわ」
言うや否や、光の粒子が霧散していく。
「なかなか楽しめたわ。それじゃあ、さいなら」
「あ、おい!」
華美のことなど聞きたいことがあったのだが、聞くことができずに光は全て消えてしまった。
「まったく、なんなんだあいつは」
最後まで振り回されたことに溜息を吐いていると、「華美!!」とシエラの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
その声につられてシエラを見ると、シエラに抱きかかえられるようにいる華美が、淡く光輝いていた。




