記憶(中)
「あたしは小鳥遊華美。日本っていう、こことは違う世界からやってきた、えっと…異世界人?ってやつだ」
「異世界人だと!?」
「異世界人ですと!?」
アノ、もとい華美が何気なく放った『異世界人』という言葉は、魔王とセバスチャンを驚愕させるには十分は言葉だった。
ロベルナに生まれた育った者で、『異世界人』という言葉を知らぬ者は誰一人としていない。ロベルナに生を受けた者にとって『異世界人』とは、五百年前、魔族とヒト族の長きに渡る戦いを終わらせた英雄、勇者アキタカを指す言葉なのだ。現に、ロベルナに現存する多くの書物において、勇者アキタカが異世界人であったことが書き記されている。
「異世界人ってことは、お前は勇者……てことか?」
魔王が額に汗を浮かべながら質問すると、華美はアッハッハッハと豪快に笑いだした。
「あたしは勇者なんて大それた存在じゃない。…ううん、あたしが勇者であって良いはずがない」
「それはどういう…」
華美が小声で言った後半部分が気にかかり、話を掘り下げようとする魔王。だが、魔王が最後まで言い終わる前に、華美がパン!と勢いよく両手を合わせ、話を遮ってしまった。
「まあ、そんなことはどうでもいいこと。それよりも、なんでみんなが気絶したのか、今知りたいのはこっちじゃない?」
「そうだな」
「魔王様たちが今すぐにでも知りたいことは、重々承知してる。だけど、この話はシエラちゃんが目覚めてから話しても良いかな?シエラちゃんにはお世話になったから、あたしの正体とこれから話すことを聞いてほしいの」
「そうだ、シエラは無事なのか!?」
気絶するときに華美に一番近かった人物が、シエラだったことを思い出した魔王は、痛む左腕を無視して華美へと掴みかかった。
「そんなに心配しなくても大丈夫。あたしが目覚めた時、隣でぐっすり眠ってたから、もうすぐ目覚めるんじゃないかな?」
「良かった……!」
安心して力が抜けた魔王は、ベッドへ後ろから倒れるようにして寝転がった。
「それで、待ってもいいかな?」
「ああ、問題ない。その代わり、この部屋から1歩も出ないこと、これが条件だ」
「分かった」
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それから30分後。目覚めたシエラをセバスチャンに連れてきてもらい、今まで聞いた華美のことについて、華美自身がシエラへと打ち明けた。最初は驚いていたシエラだったが、華美に記憶が戻ったことがよほど嬉しいようで、涙を流しながら華美へと抱き着いた。また、抱き着かれた華美もシエラに感化されて、涙を流しシエラを強く抱き締め返すのだった。
「シエラちゃん、ありがとう…!記憶喪失になって不安だった時、あなたがいてくれたからあたしは今ここにいる。本当に心強かった…!」
「ううん…!わたしこそ華美がいてくれたから、頑張れたの!こちらこそありがとう」
二人は二日間の思いを伝え合い、そっと離れた。
華美は泣きはらした目で全員を見回した後、改めて頭を下げた。
「魔王様、セバス様、シエラちゃん、本当にありがとうございました!最初に出会ったのがあなたたちじゃなかったら、あたしはたぶんこの世界で、右も左も分からないまま死んでた。今はまだ何もできないけど、このご恩はいつか必ず返します」
ベッドから立ち上がった魔王は、華美の元へとゆっくりと歩いていく。
「華美」
「うん?」
そして、顔を上げた華美のでこ目掛け、軽くデコピンをくらわした。
「イタッ!」
「俺たちはそんな大それたことはしてない。ただ、困ってたやつに手を貸しただけだ」
「そんなこと…」
最後まで言い終わる前に、魔王は華美の頭をぐしゃぐしゃと撫で、優しく微笑んだ。
「だから、そんなにでかい恩なんか感じる必要なんて無い」
そんな魔王の行動に、セバスチャンはやれやれといった風に嬉しそうな苦笑を浮かべ、シエラは同意するように満面の笑みで頷いている。
「みなさん……!」
魔王たちを見回した華美は、泣きそうになるのを堪えて、笑顔でもう一度頭を下げた。
「まったく…」
照れくさそうにはにかんだ魔王は、バレないように華美に背を向けるように戻り、ベッドへと座り直す。そして、今度は真剣な表情で華美へと向かい合った。
「さて、それじゃあそろそろ、花火会場で一体何があったのか聞いても良いか?」
魔王の真剣さを悟った華美は、一度大きく深呼吸をして表情を引き締め直すと、魔王の眼をしっかりと見据えて頷いた。
「分かった。花火会場で一体何があって、どうしてみんな気絶したのか。そして、どうしてあたしは記憶を失っていたのか。その全てを今から話すよ」




